1話『出会い』
──最近、婚約破棄をされた聖女様がいたらしい。
その女は、公爵家の令嬢である。
家柄も、その美しい容姿も、どれを取っても完璧な女。
底辺である俺の様な傭兵には、一生の人生を使ったて関わり合うこともないのだろう。
──とある、噂を聞いた。
──聖女様は、脳に障害がある。
まぁ、そんなものはデマだろう。
本当にそんなものがあるのなら、聖女なんてやっていられる訳がない。
ただの権利争いでその聖女を蹴落とす罠。
そんなところだろうさ。
他人ごとであるから、俺自身はどうでもよい話し。
毎日を平穏に暮らせればそれで良かった。
そうしたかったのに……。
「──ご依頼がありますの」
例の噂になっている聖女様が、汚い古民家風の我が家へやって来やがった。
ご依頼なんて言われたら、つまりそういうことだ。
俺は傭兵なんだから、仕事の依頼。
いつもなら泣いて喜ぶところだ。
現在、一文無しで明日のことさえ先が見えないからな。
だが、俺の出す答えは違う。
「──その依頼は受けられない」
聖女の依頼を一蹴した。
理由は、単純ゆえに明快。
めんどくさいからだ。
公爵家の令嬢なんだから、自分の屋敷の騎士でも何でも使い倒して、勝手にやればよい話し。
わざわざ、得体の知れない傭兵を頼るなんて、無駄だろうし、馬鹿げているだろう。
そして、貴族と一悶着を起こすのはごめんだ。
ここは、貧民街だぞ。
上級貴族が立ち入ってはいけない領域だ。
だからこそ、俺は聖女様の依頼を断った。
「嫌……でしたか?」
「嫌だね。他を当たれよ」
「でも私……あなたを雇いたいのです!」
「なんで俺なんだよ」
「あなたが傭兵の中で一番腕が立つのでしょ?」
「お前それ……どこで聞いたよ……」
たまにいるんだよな。
強いから雇いたいとかって言ってしまう、変態的な趣味を持った貴族がよ。
別に俺は特別に強い訳じゃない。
依頼通りに仕事をしているだけだ。
この女も結局そうだ。
ただの物好きのバカ女。
相手をする気力も無くなった。
会話するだけ無駄なんだろう。
「私は聖女アリシア。あなたの力がどうしても欲しいのです!」
「貴族なんかに手ェ貸すかよ」
「なんでそんなに意固地なんですか!」
「──二度と俺の前に現れるな。消え失せろ!」
「──ひっ──」
激しい憎悪を聖女にぶつけた。
それなりには、応えただろう。
少し怯んで涙ぐんでいた。
泣くのは勝手だが、他所でやって貰いたいものだ。
あまりにしつこいから、仕方なく脅しただけ。
俺が悪者みたいになるだろう。
これ以上の会話は必要ない。
俺は聖女を家から叩き出した。
これだけ厳しく当たれば今後も大丈夫だろう。
もう二度と出会うことがないように。
そう願いながら、出ていく聖女を自室の窓ガラス越しで見つめていた。
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