扉の向こうはカオス
数年前――
俺はいわゆる、芸能界のエリートだ。
そりゃ、赤ちゃんモデルから始まり、子役をして、アイドルもして、俳優もして。
今まで大きくつまずくこともないまま、17年生きてきた。
なんでもできる。
なんでもそれなり以上にこなせる。
でも、そんな俺にも一つだけ気になることがある。
なんでもできるようになればなるほど、なぜか一緒に走ってくれる奴はいなくなった。
だからある日、俺は社長に提案した。
「アイドルグループを作りたい」
「あら? プロデュースするの?」
「違う。俺が入るやつを作りたい」
「え? ……いいわよ。誰か友達で誘いたい子がいるの?」
「…………オーディションで募集する」
「あらあら。じゃあ、せっかくだから番組にしよう! お父さんにも相談してみるわね! パパ〜〜!」
そう言って、母さんは社長室を飛び出していった。
そう。
俺は、大手芸能事務所の息子。
そして、有名プロデューサーの息子でもある。
なぜ俺が赤ちゃんの頃からモデルをやっているのかというと、親に聞いたところ、
「そりゃ、こんなにいい素材なんだから、自慢したいわよね〜」
とのことだった。
そんな両親が芸能界に詳しいこともあって、俺は今まで結構のびのびと仕事をしてきた。
――そして。
「アイドルグループを作りたい」と言ってから、三ヶ月。
未だに親から返事はない。
きっとダメだったんだろうなぁ。
そう思いながら、俺は高校の廊下を歩いていた。
今日は演劇部の打ち合わせがある。
放課後の学校は、大きなミュージックボックスみたいだ。
吹奏楽部の楽器の音。
運動部の掛け声。
教室から聞こえてくる笑い声。
いろんな音が混ざり合うこの環境が、俺は結構好きだった。
「〜♪」
……ん?
なんだ?
廊下を進むにつれて、どこからか歌声が聞こえてくる。
ん?
これ、俺の歌か?
「〜〜♪」
お〜、やっぱりそうだ。
まぁ、結構人気の出た曲だしなぁ。
にしても――
上手いな。
ピロン。
突然、携帯が鳴った。
俺はポケットから携帯を取り出す。
「はい。新城です」
「あっ、皇ちゃん? 前に言ってたアイドルグループの話なんだけど」
母さんだ。
「話が盛り上がっちゃってね。いろいろやってたら、規模が大きくなっちゃって」
嫌な予感がする。
「明日からオーディションと一緒に、生放送で番組をやることになったのよ」
「え?」
俺は思わず足を止めた。
待て。
話が進みすぎじゃないか?
「それでね、応募してくれた人も多くて。最終候補に選んだ十人と、皇ちゃんの学校の芸能科の子たちにもチャンスがあった方がいいと思って」
「うん?」
「明日、学校でやることに決まったから。よろしくね〜」
「ちょっ――」
プツッ。
母さんは一方的に電話を切った。
…………。
待って待って。
急すぎないか!?
明日!?
俺、何も聞いてないんだけど!?
気持ちの整理もつかないまま廊下で立ち尽くしていると、再び耳に飛び込んできた。
「〜〜♪」
さっきの歌声。
俺の歌だ。
……いや、待て。
改めて聴くと、この声――。
音域、広すぎないか?
しかもここ。
俺でも結構苦労したところだぞ。
それを難なく歌ってる。
誰だ!?
気づいたときには、俺は走り出していた。
声のする方へ。
どんどん近づいていく歌声を追いかけて、廊下を駆け抜ける。
そして――
一つの教室の前で足を止めた。
そこに掲げられていたプレートを見上げる。
『カメラ部』
…………カメラ部?
なんでカメラ部から歌が聞こえるんだ?
まあ、いい。
本人に聞けば分かる。
俺は勢いよく扉を開けた。
「失礼しま――」
…………。
扉を開くと、
そこはカオスだった。




