表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/12

01_再会した幼馴染に婚約者を奪われて


 聖公爵邸の世界樹の下で、十二歳のときにメイジーと婚約者ロインズと愛を誓った。


『僕には君だけだよ。――愛してる』

『私もロインズ様が大好きです』

『ああ。ずっと一緒にいよう』


 しかし、大好きな彼がメイジーにくれた甘い言葉も、優しさも、眩しい笑顔も、何もかも全部――


 ……――嘘だった。


 そう気づいたのは、ロインズが十年ぶりに再会したという幼馴染の令嬢を連れて、婚約解消を申し出てきたときだった。


「すまない。君を好きな気持ちは本物だったんだ。でも、本当の運命の相手はレディシカだったと気づいて……僕と別れてほしい」

「そんな……嫌です、こんな形での別れなんて、納得できません……!」

「本当にすまない、メイジー。頼む、分かってくれ」


 納得なんて、そう簡単にできるはずなかった。


 聖公爵令息ロインズ・メルシエと、公爵令嬢メイジー・ウェザーズが婚約したのは、ふたりが十二歳のときだった。

 親が決めた政略結婚だったけれど、メイジーは熱烈なアプローチを受けて次第に彼を好きになっていった。


 好青年に成長したロインズは、美しい容姿と優秀さから女性たちの憧れの的になっていき、そんな彼の婚約者であることを誇りに思っていた。

 メイジーの取り柄といったら家格と魔法だけだったけれど、自分も少しでもロインズにふさわしくあろうと、苦手な淑女教育も勉強も頑張って努力していたし、尽くしてきた。


 なのに、再会した幼馴染にあっけなく奪われてしまうなんて――認めたくない。


「私に悪いところがあったなら全部直すから教えて? 私にはロインズ様しかいないの……っ」


 力なく床にへたり込んだメイジーは、みっともなくロインズに懇願する。


「メイジー」


 彼に名前を呼ばれ、俯いていたメイジーは、目に涙を浮かべながら顔を上げる。

 考え直す、と言ってくれるのを期待して。けれど、返ってきた言葉はメイジーの期待とは違った。


「僕のことが好きなら、幸せを願ってくれないか」

「…………っ」


 そんな風にロインズを好きな気持ちを試されたら、食い下がれない。


(ロインズ様は、ずるい)


 なんて残酷な人なのだろう。つい昨日まではいつもと変わらない笑顔を向けてくれていたのに、今は困ったような顔して、メイジーにとって最も辛い選択を迫ってくるのだから。


(身を引くのがロインズ様のためだと分かってる。でも、でも……)

「私は、五年前からずっとロインズ様だけが好き……好きなの。お願い、もう一度私のところに戻ってきて。見捨てないで……っ」


 泣きながら縋る自分の姿は、彼の目にどんな風に映っているのだろうか。

 きっとさぞかし、惨めて情けなく見えているのだろう。


 彼に手を伸ばすと――パシンッ、と冷たく弾かれ、その拍子にメイジーは倒れ込んでしまう。


「きゃっ……」

「もうやめてくれ。僕の気持ちは変わらない。レディシカを愛しているんだ」


 ロインズの隣で、静かに様子を見ていたレディシカが、片手で可憐に髪を耳にかけながら、もう片手をメイジーに差し伸べた。


「大丈夫?」


 奪い取った側のくせに無関係な顔をして、加害者としての自覚を感じさせない心配ぶった態度に、胸がぎゅっと締め付けられた。

 誰のせいでこんなに傷ついていると思っているのだろう。


(悔しい、悔しい、悔しい……)


 メイジーはその手を取らず、胃が焼けるような怒りに下唇を噛み締めた。

 そして、「婚約解消を受け入れます」と告げ、逃げるように部屋を出た。


 部屋を出た扉の外で、メイジーは身体の力が抜けてしまい、両手を床についたまま立ち上がれなくなってしまった。すると、扉の隙間から、くすくすとふたりの笑い声が聞こえてきて。


「まさか、あそこまで縋られるとは思わなかった」

「ええ、いつも余裕のあるメイジー様が、あんな風になるなんて、びっくりだわ。よっぽどロインズ様のことが好きだったのね」

「正直……迷惑なだけだったけどね」


 冷笑するロインズの声に、メイジーはぴくりと反応する。


「メイジーと結婚したら、ウェザーズ家にうちの借金を返済してもらう予定だったから、契約が反故にならないようにメイジーの気を引いていただけだ。安心しろ、レディシカ。彼女を好きだったことは一度もなかった」

「ええ。分かっているわ。全部、()()()()()ってこと」


 淡々と語られた内容に、頭を殴られたような衝撃を受ける。

 メイジーが盗み聞きをしているとも知らずに、ふたりは話を続ける。


「低迷気味だったうちの事業も持ち直して借金も返済できたし。これで、メイジーと結婚する理由はなくなったというわけだ」

「これでようやく、ふたりで幸せになれるのね」

「そうだな。これからは嘘をつかなくて済む。家格と才能だけのメイジーより君の方がはるかに魅力的だ。レディシカ、愛している」


 大好きな人に、家格と才能だけだと思われていた。

 扉の隙間から、口付けを交わすふたりを見た瞬間、メイジーの中で何かが崩壊した。



 ◇◇◇



 そして気がつくと、メルシエ聖公爵家の敷地の最奥にある、世界樹のもとにいた。

 メルシエ聖公爵家はオスニエル王国で、世界樹の管理を任されている。

 

 幼いころから類まれな魔力量を有し、魔法の逸材と呼ばれてきたメイジー。

 本来は世界樹を守っていくために使うはずだった力だったが、見張りの騎士たちを睡眠魔法で眠らせたあと、結界に手をかざす。


 空中に無数の槍が現れて、結界に刺さった瞬間に爆発する。

 バキッ、バリンッ、とガラスが砕け散る音が響き渡り、結界が壊れた破片が飛び散るが、防御魔法で防ぎながら世界樹に近づく。


 各国に一本ずつある世界樹は、世界の魔力量を一定に保ち、環境を整えてくれる存在だ。


(世界樹に何かあれば、メルシエ家が責任を問われる。ロインズ様もきっと困るわね)


 メイジーの唇に、歪んだ笑みが浮かぶ。

 これは、ただの腹いせだ。

 自分がとんでもない大罪を犯そうとしていることは分かっている。けれど、裏切られた怒りが治まらないのだ。


(私と婚約したのは、私の才能と経済援助のため。彼はそれしか見ていなかった。私にくれた言葉が全部、嘘だった……なんて)


 メイジーを散々もてあそんでおいて、自分たちだけ幸せになろうなど虫が良すぎる。


「ふざけないで」


 気づくと手をかざし、魔法で自分ごと世界樹に火を放っていた。


「ふ……ふふっ、あははっ、ふふ……いい気味ね。あなたたちだけ幸せになんかさせないんだから!! ざまぁみなさい……っ」


 燃え盛る炎の中で肩を震わせ、大笑いした直後。


(うそ、なんで)


 サァァァ……と、頭の中に前世の記憶が流れ、ここが小説『世界樹の守護者』の世界であり、自分は悪役令嬢だと気づいた。


「なんで、このタイミング…………」


 さすがに、そうツッコミを入れずにはいられなかった。こんな命尽きる直前に思い出したところで何もかも遅すぎると、真っ青になる。

 炎の中で絶望したあと、意識を手放した――。



ハッピーエンド完結保証です。元サヤではありません。

もしよろしければブックマークや☆評価で応援をお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ