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第18話 王宮で、すべてが変わる

# 第18話 王宮で、すべてが変わる


 王宮の夜会当日。


 エレノアは鏡の前に立っていた。


「……少し派手ではありませんか?」


 侍女が首を横に振る。


「いいえ。とてもお似合いです」


 淡い青のドレス。


 胸元には、小さな宝石がいくつかあしらわれている。


 そして。


 左手の薬指には。


 レオンハルトから贈られた指輪。


 それを見つめると。


 自然と胸が温かくなった。


「奥様」


「はい?」


「旦那様がお待ちです」


「分かりました」


 エレノアは立ち上がった。


 扉を開ける。


 そこには、正装したレオンハルトが立っていた。


「……」


 レオンハルトは一瞬、言葉を失った。


「旦那様?」


「……綺麗だ」


 あまりにも真っ直ぐな言葉に。


 エレノアの頬が赤くなる。


「ありがとうございます」


「その……」


 レオンハルトは彼女の左手を見る。


「指輪も」


「はい」


「似合っている」


「ありがとうございます」


 レオンハルトは嬉しそうに笑った。


「行こうか」


「はい」


 二人は並んで馬車へ向かった。


     ◇


 王宮に到着すると。


 二人を迎えたのは、多くの貴族たちだった。


「グランヴィル公爵夫妻だ」


「久しぶりだな」


「最近、随分と仲が良いらしい」


 そんな声が聞こえてくる。


 以前なら。


 エレノアは周囲の視線を気にしていた。


 今は。


 隣にレオンハルトがいる。


 それだけで、不思議と落ち着いていた。


「緊張しているか?」


 レオンハルトが小声で尋ねる。


「少しだけ」


「私の手を握っていていい」


「……会場ですよ?」


「構わない」


 エレノアは少し迷って。


 そっと彼の腕に手を添えた。


「これなら?」


「十分だ」


 レオンハルトが笑う。


 二人が会場へ入ると。


 周囲から視線が集まった。


 その中に。


 見覚えのある人物がいた。


「……あ」


 エレノアの表情が固まる。


「どうした?」


「いえ……」


 視線の先。


 ローディア侯爵令息、アーネストが立っていた。


 エレノアと目が合う。


 アーネストは微笑み。


 静かに頭を下げた。


 エレノアも礼を返す。


 それだけだった。


 けれど。


 レオンハルトは、その様子を見ていた。


「……大丈夫だ」


「え?」


「何もしない」


「旦那様?」


「君が選んだのは私だ」


 レオンハルトは穏やかに笑った。


「だから、信じている」


 エレノアの胸が熱くなる。


「ありがとうございます」


     ◇


 夜会が始まってしばらくすると。


 国王夫妻が会場へ姿を現した。


 貴族たちが一斉に礼をする。


 国王が壇上へ立つ。


「本日は皆、よく集まってくれた」


 簡単な挨拶が続く。


 そして。


「もう一つ、皆に知らせておきたいことがある」


 会場が静まり返る。


 国王はレオンハルトを見た。


「グランヴィル公爵」


「はい」


「前へ」


 レオンハルトが進み出る。


 エレノアも戸惑いながら後に続いた。


「そなたたちの領地で行われている織物事業について、報告を受けている」


「ありがとうございます」


「領民の生活向上にも大きく貢献しているそうだな」


「妻のエレノアが中心となって進めております」


 突然名前を出され。


 エレノアは驚いた。


「彼女の功績も大きいと聞いている」


 国王が微笑む。


「グランヴィル公爵夫人」


「はい」


「今後も領地の発展に尽力してくれることを期待している」


「身に余るお言葉、ありがとうございます」


 エレノアは深く頭を下げた。


 会場から拍手が起こる。


 レオンハルトも。


 誰より嬉しそうな顔をしていた。


     ◇


 その後。


 二人は会場の隅で休んでいた。


「驚きました」


「私もだ」


「国王陛下が、あの事業を知っていらっしゃったなんて」


「王都でも評判になっているらしい」


「そうだったんですね」


 エレノアは嬉しそうに笑う。


「頑張ってよかったです」


「ああ」


 レオンハルトも微笑む。


「君が頑張ったからだ」


「二人で、でしょう?」


「……そうだな」


 そのとき。


「エレノア嬢」


 声をかけられる。


 振り返ると。


 アーネストだった。


「侯爵令息……」


「お久しぶりです」


「お久しぶりです」


 アーネストはレオンハルトへ一礼した。


「公爵閣下」


「侯爵令息」


 短い挨拶。


 以前なら。


 緊張した空気になっていたかもしれない。


 だが。


 レオンハルトは穏やかだった。


「エレノア嬢に、一言だけ」


「どうぞ」


 アーネストはエレノアを見る。


「先日の返事、ありがとうございました」


「こちらこそ」


「あなたが選んだ道が幸せであることを願っています」


「ありがとうございます」


「では、失礼します」


 アーネストが去っていく。


 エレノアは、その背中を少しだけ見つめた。


「いい人でしたね」


「ああ」


 レオンハルトは頷いた。


「だからこそ」


「はい?」


「君が私を選んでくれたことを、改めて嬉しく思う」


「……旦那様」


「何だ?」


「今、嫉妬しました?」


「少しだけ」


「ふふ」


「だが」


 レオンハルトは彼女を見る。


「もう、君を疑うことはしない」


 エレノアは微笑んだ。


「私も、もう逃げません」


 二人の手が重なる。


     ◇


 その夜会が終わる直前。


 一人の貴族がレオンハルトへ近づいてきた。


「公爵閣下」


「何でしょう?」


「少し、お話が」


「今ですか?」


「はい」


 男の表情は硬い。


「実は……領地の織物事業について、少々気になる報告がありまして」


 レオンハルトの表情が変わる。


「気になる報告?」


「はい」


 男は声を潜めた。


「王都へ出荷された商品の一部に、不正な取引があった可能性があります」


「……何だと?」


「しかも」


 男は周囲を確認してから続ける。


「その取引記録には、公爵夫人の名前が関係しているという話まで出ています」


「……」


 レオンハルトの顔から笑みが消えた。


「証拠は?」


「まだ確認中です」


「なら、憶測で話すな」


「申し訳ありません」


「この件は私が調べる」


「承知しました」


 男が去っていく。


 レオンハルトはその場に立ち尽くした。


 視線の先には。


 何も知らずに笑っているエレノア。


 ほんの少し前まで。


 二人の未来を信じていた。


 それなのに。


 また。


 何かが起ころうとしている。


「……エレノア」


 レオンハルトは彼女を見る。


 今度こそ。


 絶対に。


 彼女を一人で戦わせない。


 たとえ。


 相手が誰であろうと。


 そして。


 もしこの不正が本当にエレノアを陥れるためのものなら。


 レオンハルトは。


 公爵としてではなく。


 夫として。


 彼女を守ると決めた。

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