23.負け犬の遠吠え
言葉でフルボッコ。
今日は文音さんとの放課後デートは無し。何があるかわからないから、日本文化部が終わったら先に帰ってもらうことにした。
家庭部は御門先生に見てもらっている。少し前から家庭部に来るようになった御門先生は残念ながら指導ができるまではいっていない。
まぁ、個人的に友人を呼んで振る舞えるレベルだから、そこは問題ない。
だが、教師がいれば火を使ってもいいことにしてあるから、自由に生徒達が活動できる。快く引き受けてくれた御門先生に感謝だ。
と、いうわけで。俺は今カロリー学院の校門前でいちゃもんをつけに来た御曹司共と向かい合っていた。
「・・・おい、どういうことだよ?3ヶ月って約束だったろうが」
俺様な東横院にはこの決定は不服のようだ。まぁ、そこは良いとして。新瓜も眉間にしわを寄せて東横院に追従して頷いている。
「白遠のを見ただろう?」
「・・・あいつはあいつ、俺達は別だろうが」
ほほー、そう来ますか。
「目的は一緒だろ?・・・文音さん、いや、宗島家の資産が目的」
「「!」」
ほんの一瞬、2人の目が見開かれる。が、すぐに表情を取り繕った。うん、さすがは今をトキメク~とか言われている連中だけはある。
「あー、とぼけるのは無しな?もう、お前ら2人の身辺調査は終わってるから。えーと、東横院は一部のホテルの赤字補てんのために金策に走っている最中で、宗島家の莫大な資産は魅力的。
新瓜は落下傘候補になる予定だから地元に人脈がなくて?その地域に親戚を持つ宗島家と縁繋ぎになるのはとても有利、と―――なんか、違うか?」
「っ・・・」
「そ、れは!」
ほーら、みろ。ここで詰まった時点で図星だろうが。即答で文音さんを愛してる、ぐらい言いやがれ。
あー、俺、どんどんガラが悪くなってる気がするんだが・・・まぁ、いいか。今更だし。
「あのさぁ、文音さんが純粋に好きなら、そこは即答で否定しとけよな」
「お、お前こそ!・・・お前こそ、何の後ろ盾もなく、宗島家に取り入ろうとしてんじゃないのかよ!」
東横院がわめく。あーもう。お前らがそうだからって俺まで一緒のレベルにオトすなよ。
「ないね。文音さんが、そう、例え勘当されたとしても添い遂げるくらいの覚悟はあるし。・・・っていうかさ、文音さんの暴走を抑えられるのは俺だけだと思うんだよね。
お前ら知ってる?あの人暴走するととんでもない方向に思考がいっちゃって、手が付けられなくなりそうになるんだぞ?」
もう2度とあんな暴走は見たくない。一歩間違えればストーカーだからな。
「暴走って・・・」
「文音さんが良妻賢母よろしくお前らのサポートができるとでも思ってるのか?純粋培養のお嬢様だ、手がかかるに決まってるだろうが。
文音さんに合わそうともせずに強引に引っ張るだけじゃ、あの人は暴走するだけだ。ちゃんと話を聞いて、彼女がやりたいことをやらせてあげられるだけの度量がお前らにあるかって聞いてるんだ」
ないよなー。だってわがままいっぱいに育てられた俺様と、順風満帆に人生を突き進んできたエリートだ。
手を引くことぐらいはできるかもしれないが、歩調を合わせたり、転ばないか後ろを振り返ったりなんてことはしないはずだ。
すっかり無言になってしまった2人に、俺はさらに続けた。
「人一人の人生を抱えるんだぞ、一時的な欲望のために文音さんを欲してるならやめておけ。愛のない結婚なんて時代錯誤だ」
政略結婚とか?今時無いだろうよ、そんなのは。あったとしても、それは人権の侵害だと言っても過言ではないと思う。
「――ああ、ついでに」
ビク、と東横院と新瓜が震える。ビビってんのか?あちゃー、打たれ弱いね、御曹司。
「最初から俺と文音さんは結婚を前提にしたお付き合いをしていて、今では宗島家のご両親も納得済みだ。・・・お前らにはお義父さんから連絡が行ったはずだぞ?
つまり、身内の中で了解を得ている話に、なんで赤の他人のお前らがいちゃもんをつけるんだろうな?」
答えてみろよ、あ゛ぁ゛ん゛?
「―――バカバカしい!もう付き合ってられるか!・・・もう、宗島家と関わることもないだろう!」
くるりとこちらに背中を向けて歩き出した新瓜。あっそ、事実上の敗北宣言してんのに、どこまでも自分の負けは認めないというわけね。
っていうか、宗島家にも政治家の身内いるんですけどねー・・・絶対関わると思うんだけど・・・ま、本人が気付いてないなら別にいいけどー。忠告してやるほど親切じゃないし。
「で、まだ反論はあるか?東横院」
「・・・ねぇよ。それに、あの女は俺のタイプじゃねぇのは確かだからな」
フイ、と顔を逸らしてそう言った後、東横院はこちらを一睨みしてから立ち去った。
タイプじゃないなら婚約者に立候補すんな!!
あー、許されるならボッコボコにしてやりたかったんだけど。そこはまぁ、ダメだよな。教育者としても社会人としても・・・。
それにしても、ご立派な負け犬の遠吠えだったこと。“覚えてろ!”とかじゃないだけマシか?
でもなー。白遠が“ただで済むと思うなよ!”だったからなー。ちょっと期待してたのに。アホっぽい負け犬の遠吠え。
ま、これで晴れて俺と文音さんは婚約者騒動から解放されたわけだ。よかったよかった。さーて、帰るかー。
なんて振り返ったら、そこには理事長がいて。
「一方的にフルボッコ・・・つまらん」
「いや、理事長。つまる、つまらないの話じゃないんですよ」
「これじゃ、白遠に賭けた暗黒同好会の1人勝ちじゃないか!」
「賭けの話かいっ!!・・・って、ちなみに理事長は誰に賭けたんです?」
「東横院。あまりの俺様っぷりにキレて胸倉掴むくらいはやるかと思った」
「・・・・・・あのですねぇ・・・」
ピクピクと口元がひきつる。何言ってんだ、このオッサン。
「大丈夫だ。そのくらいでクビにはしないから!だから、ヤって来い!」
「公然と暴力をすすめるな!!アホか!!」
「えー・・・」
えー・・・って、ったく、ちょっとは見直したと思ったのに、この理事長は・・・!




