15.癒し
いつもありがとうございます!
弓弦さん、限界だったようです。
というわけで放課後。
非常事態ということで暗黒同好会の秘密の通路を使わせてもらえることになった俺と文音さん。
互いの職場を行ったり来たりするだけだというのに過保護なことだ。誰がって?暗黒同好会が、だ。あの。暗黒同好会が過保護!――大事なことなので2回言ったぞ。
まぁ、現リーダーの五色が言うには、ああいう下等な連中はキレると何をするかわからない。で、油断して俺達が襲われたりしたら自分達が手加減できる――ここ重要――わけがないので、とりあえずおとなしく護られていろ、ということだった。
「いや、ホントすみませんね・・・琴瀬先生・・・」
暗黒同好会の秘密の通路、ということでかなり入り組んだ構造をしているので、俺達だけで入ったらまず迷う。
だから案内役がいるわけなのだが、俺の場合、暗黒同好会顧問の鴻崎琴瀬先生が担当になった。・・・なぜだ。
「別に構わないけど・・・まぁ、普段は使わせてないわけだし、余計なところに入られても困るし・・・ね?」
ニヤリ、と笑う琴瀬先生、マジ怖っ!!・・・これで、あのほんわかしている宝香先生の実姉だというのだから、信じられん。
あぁ、冬芽が宝香先生と結婚したら・・・一生この人と付き合っていくのか。大丈夫か?あいつ・・・。
「えと、まぁ、迷う自信はありますけどね」
「暗黒同好会のメンバーならこの通路がどこからどこに通じているのか全部把握してるわよ。そういう点では最首先生は暗黒同好会にはなれないわね」
ふぅ、とバカにした様子で肩を竦める琴瀬先生。・・・いや、暗黒同好会になれなくていいですから、ほんとに。
っていうか、地下の秘密基地とかどこぞのヒーローか悪役みたいな――この場合って暗黒同好会は悪役なのか?――ことをしてるっていうのにびっくりだわ!!
「・・・琴瀬先生、で、俺は今、どこに連れて行かれているんでしょうか・・・」
「着いてのお楽しみ。まぁ、ヘルシー女学園の構内ではあるわね」
「はぁ」
「宗島先生のことを心配しているなら問題ないわよ?・・・あっちは岸さんが案内してるだろうし」
「まぁ、そうですね。そこは心配してません」
「・・・じゃあ何を心配してるのよ」
岸が悪い子じゃないということはわかっている。それに、文音さんだって体力面がどうかはわからないが、暴漢の1人や2人や3人や4人・・・言ってて空しくなるからやめるけど、とにかく返り討ちにできるくらい強い。
俺が心配しているのはそうじゃないんだ。これ以上暗黒同好会に関わったら、文音さんが、文音さんが・・・っ!
「―――暗黒に影響されやしないかと!!!」
「・・・おい、失礼な奴だな」
だってそうだろう。それでなくてもあの人は変な所で純粋すぎて影響受けやすいんだ。なのに、こんなに濃いメンバーに囲まれたら・・・ぞっとしない話だ。
「だって、あの文音さんですよ!」
「―――ごめん。私が悪かった」
おお、通じたよ。暗黒同好会ですら認めたよ・・・。まさかの文音さん最強説か・・・?そういえば、五色ですら手に負えないって感じでどん引いてたもんな。
そんな文音さんを恋人にしてる俺って・・・。
つらつらと考えていると、ピタリと琴瀬先生が歩みを止めた。
「琴瀬先生?着いたんですか?」
「着いたわよー・・・じゃ、存分にいちゃついていいから」
「い、いちゃ・・・!」
「照れない照れない。存分に尻に敷かれてくればいいさ~。数多くの女を泣かせてきた、最首先生~?」
「な、泣かせてって・・・!」
あはは!と笑う琴瀬先生が恨めしい・・・。やっぱりこの人も暗黒なんだ・・・さすが、理事長に望まれて暗黒同好会の顧問になるために呼ばれた人だ・・・。
っていうか、俺は女性を泣かせてない!そういうこと言うと、俺がプレイボーイみたいじゃないか!結局のところ、捨てられてるのは俺の方なんだぞ!向こうが勝手に自信を無くして!!
料理がうまいからとか、裁縫ができるからとか・・・良いことじゃないか。なんで責められるのが俺の方なんだ?!別に女性の方が出来なくたって、俺は別にいいのに。
ぶつぶつと言いながら俺は目の前のドアをくぐる。
ドアをくぐった先は・・・・・・南国パラダイスでした。って、は!?南国!?
「あ、弓弦さん!」
「―――っ、文音さん」
パタパタと駆け寄ってくる文音さんは、今日は部活動がなかったのか、和装じゃなく洋装だ。
っていうか、なんか涙出そうなほどホッとしたんだけど。ここ、黒いオーラ感じない。・・・暗黒怖い。
思わず文音さんを抱き締めてしまう。思いの外、暗黒オーラのせいで疲弊していたようだ。ああ、癒される・・・。
「ゆっ、ゆゆ、弓弦さん!?」
「すみません・・・なんか、もう、五色とか千田とか琴瀬先生とか・・・暗黒に堪えきれなくて」
いや、これ、ホント・・・。
「・・・そうでしたの・・・お疲れ様でした」
背に回った文音さんの手が、俺の背を撫でる。・・・あー、ほんと・・・疲れた。なんか疲れた。・・・ん?あれ?なんか忘れてるような・・・。
「あ」
「弓弦さん?」
ガバリと突然離れた俺に、文音さんが首を傾げる。
「すみません、なんか、暗黒同好会が次のターゲットに宗島さんを・・・」
「まぁ・・・そうですのね」
あれ?あんまり慌ててないのはなんでだ?
「あの、もしかして知っていました?」
「いえ・・・でも、いずれはターゲットになるだろうとは聞いてましたの。岸さんから」
「あ・・・なるほど」
そもそも遅かれ早かれあの御曹司共に飽きて、元凶を叩くって結論になるのはわかりきってたことだった。
「まぁ、そんなに酷いことはしないと思いますわ。それは、弓弦さんもわかってらっしゃるでしょう?」
「まぁ、そうですね」
だから、本気になって止めようとはしてない。あー、文音さんに言われて気づくとか・・・俺、どんだけテンパってるんだか。
「ところで、弓弦さん・・・ここ、驚きませんでした?」
文音さんが話題を変えて、周りを見るように促してくる。ああ、確かに入ってきた瞬間にびっくりしたよ。うん。
「・・・え、ええ。いきなり南国に迷い込んでしまったのかと」
「私も驚きましたわ・・・ここ、ヘルシー女学園の温室ですのよ」
「お、温室!?・・・あれ、だって、温室って・・・バラを植えていたんじゃなかったですか?」
「そうなんですけれど・・・温室の管理をしていた桐生院さんが南国の植物を輸入したとかで・・・」
・・・ブルジョワめ。
「じゃあ、ここは桐生院の趣味で?」
「ええ、今は南国な気分なのですって」
「はぁ・・・なるほど・・・」
つくづく、金持ちの考えはよくわからん・・・。まぁ、でも南国デートっぽくていいな・・・ここ。
「弓弦さん・・・私、弓弦さんじゃないと嫌ですわ」
突然、文音さんから手を重ねてくる。俺は、どぎまぎしながら手をひっくり返して文音さんの手と恋人つなぎをする。
「・・・文音さん・・・俺も、です」
どこかで“あっま!”なんて叫び声が聞こえたけど、知らん。俺は何も聞いてない。
こうして珍しく甘ったるい空気のまま、放課後デートを終えることができた。
―――暗黒の反動?いや、違うから。




