16.姫、ガンバる
文音さん視点です。
ちょっと文音さんがお父さんに無自覚に酷い・・・。
――side 文音
護衛と共に自宅に戻ってから先ほどの放課後デートを思い出しますと、すっかり弱りきってしまった弓弦さんが目にうかび・・・。
「今日の弓弦さん・・・美麗さの中にも可愛らしさがありましたわ・・・」
どうしましょう。以前よりもずっとずっと弓弦さんを愛してしまっておりますの。もう、弓弦さん無しではいられませんわ。
これはもう、お父様にも素直に認めていただくほかありませんわ!私はそう決めて、お父様の書斎へと向かいました。
ドアをノックして、私は返事を待たずに開けます。ええ、いつものことですから、注意されることはありませんわ。←
「お父様、お話が―――あら、あなたは」
部屋に入って真っ先に目に入ったのはお父様の姿ではなく―――。
「あ、お邪魔してまーす、姫せーんせ」
ひらりひらりと手を振るのは、カロリー学院とヘルシー女学園の理事長を務める正神宗兵理事長の甥御さんの、正神結人君でしたわ。
許嫁である青葉さんの影響か、私のことを姫先生と呼んでくれるのですが、そもそもどうして“姫”なのでしょうか。(こっちも無自覚!)
そして、彼もまた暗黒同好会の一員であり、高等部1年生ながら随一の発案力を持つといいます。その彼が我が家に何の用で来たのか―――なんて、考えなくてもわかりますわね。
「いらっしゃい、正神君。私の父にご用ですのね?」
「そーなんですよー。いやぁ、最初はね融通の利かない頑固親父っぽいかなーなんて思ったんですけど。話していくうちにすっかり打ち解けちゃいましてー。いいお父さんですね」
にっこりと笑ってそう言う正神君。・・・ええと。打ち解けた割に、お父様が固まっているのですけれど・・・。
「そうでしたの・・・父もこういう人ですし、お手柔らかにお願いしますわね?」
一応、くぎを刺しておくことにしますが・・・はたして聞き届けてくれるのでしょうか?
「はーい。ま、これからもよろしくお願いしますねー?姫パパサン♪」
正神君が声をかけると、大袈裟なまでに飛び上がって震えるお父様。・・・これは、もう・・・手遅れというやつなのでしょうか?
ですが、五色君や千田君が動くと決めたのは今日だと弓弦さんもおっしゃっていたのに。
そんな私の不思議そうな顔を見て内心を読んだのか、正神君がにやりと笑いました。
「最首先生を一番困らせている人に接触するのは当然でしょー?・・・もっと“お話”も聞きたいし?・・・今日は“この辺”でサヨナラしますね」
「五色君や千田君にも・・・お手柔らかにと伝えてくださいませ」
「はーい!わかりました」
素直に返事をしてくれていますが・・・“あの”正神君ですから期待しない方が良い気がしてきましたわ。
暗黒同好会は自分達が面白いと感じることが最優先ですし、犯罪は絶対にやりませんから、その面では安心できますし。
「お父様、覚悟をなさった方がよろしいですわ・・・弓弦さんをいじめるから、こんなことになるのです。弓弦さんは生徒にとっても好かれているのですもの」
それが、弓弦さんのストレスの元であっても、ですけど。
ストレスで弱りきった弓弦さん、本当に可愛らしかったですわ・・・。また、弓弦さんが疲れてしまっていたら癒して差し上げるのが、婚約者の務めだと思いますの。
すっかり目の前で疲弊しているお父様のことをシャットアウトして、私は弓弦さんとの逢瀬を思いうかべる。
「あ、文音・・・カロリー学院とはあんな生徒達ばかりなのか・・・?」
あら、お父様が復活なさいましたわ。意外と早かったですわね・・・正神君も今日は小手調べというところだったのでしょうか。
「正神君“達”は特別ですわ。ですけど、確実にお父様が連れていらしたあのお三方よりも優秀な生徒が集まる場所ではあると思いますわ。
卒業生の進路は多岐にわたりますから紹介するだけでも時間がかかりますのよ?それもこれも、正神理事長がご自分の目ですべての生徒や教職員を確認してらっしゃるからですわ」
「―――そ、そうなのか・・・」
「お父様、彼等に目をつけられてしまわれたからには、しばらくは逃げられないと思った方がよろしいですわ。・・・もう、素直に弓弦さんとのことを認めてくださっていたら、今頃はこんな面倒なことになっていませんでしたのに」
ついつい愚痴も漏れてしまうというものですわ。
「し、しかしな・・・彼は、あんまりにも飛び抜け過ぎやしてないか?その、容姿が」
「まぁ!人は見た目ではありませんわ!・・・まぁ、確かにとても美麗な方ではありますけど、内面もとてもしっかりとしている方なのですよ」
「それは、まぁ・・・話の受け答えでわかったが・・・」
もう!でしたら、どこに文句があるのですか!!
「お父様!特に理由もなく反対なさっているのでしたら、私、正神君達をもっと煽って嗾けますわよ!」
「~~~~~~!!!!!」
あら、面白いくらいに真っ青になりましたわ・・・。もう、このまま話していても平行線は確実ですわね・・・仕方ありませんわ。ここは正神君達に任せることにしましょう。
あのお三方も諦めていただかなくてはなりませんし・・・どうやら千田君に怯えてしまっているようですから、弓弦さんの方に行くことはないでしょうし、私からしっかりとその気はないということをお伝えしなくては!
弓弦さんとの未来のため、明日からしっかりと頑張りますわ!!




