↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
数十万年生きた竜人族のおばちゃんが、人の世を体験するようです  作者: 染舞
アウレリア帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/38

第十話「おばちゃん、自慢話を得る」


 空気がピンと張り詰める、とはこういうことを言うのだろう。

 余り経験したことのない雰囲気に、柄にもなく少し緊張する。


(音を立てて他の子たちを邪魔してはならないからな)

 静かにペンを取り、用紙に書き込んでいく。


問題:以下はレングラント王朝の歴代コインである。これを古い順に並べよ


 見てみると、何やら見覚えのある金貨の絵が描かれてある。昔もらったことのある金貨だ。

 私が金貨の絵を気に入ったからか。あの国の人の子達は、金貨の絵が変わるたびに新しいものを持ってきてくれていた。


(えーっと、たしか……最初はリリーという女性が届けてくれたな。それがたしかこれだ)

 記憶を辿っていく。

 まだ数万年前の話なので記憶は鮮明だ。


 昼寝から目覚めると、目の前にはたくさんの野菜や穀物、そして金貨が置かれていた。

 寝ている間に置かれていたらしい。

 少し驚いたが、初めてのことではないのでまたかと思っただけだったのだが。


『現人神様。我らはレングラント王国より参りました。どうか我らがこの地に住まうことをお許しください』

 その後でやってきた女性たちが、私が目覚めていることに気づくと頭を下げてそう言ったのだ。


 たった数百年昼寝していただけなのだが、人の子達はそうやってよく私達を神と呼ぶ。

 私達は神とやらではないし、神という存在も私達は見たことない。しかしよく神と呼ばれることがあるので、そんなに私達と神様とやらは似ているのだろうか。


(と、そんなことより今は試験に集中せねばな。

 だから……これが最古……いやまてよ。たしかリリーに聞いた時、こっちのほうがさらに古いと言っていたな)

 リリーとの会話を思い出しながら、古い順番にコインの番号を書いていく。


問題:レングラント王朝は竜神を崇めていたが、その竜神の属性は以下のどれか


(む? 地水火風しか選択肢がないな。私は土と風なのだが、どう答えればいいのだろう)


 悩んだ末に、二つ書いておいた。


問題:コーレニ湖ができた自然現象のことをなんというか。


 ペンが止まる。


(自然現象……うむ。まぁ、喧嘩も自然に起きるから自然現象か)

 納得してペンを動かす。――火のヴァルヴァロッサと水のウォータニアが喧嘩したから。


(よし。調子がいいな。このまま頑張るとするか)


 他にも計算問題もあったが、そんなに複雑でもなかったので解いていく。


(うむうむ。試験というのは、楽しいな)

 フィンから帝国アカデミーの試験は難しいと聞いていたが、今のところそんなに難しいと感じるものはない。

 あえて言うなら、私の属性が選択肢になかったあの問題くらいだろうか。

 試験が終わったら、ちゃんと伝えておこう。


(私は風と土だから、片方だけと言われるのは少し悲しいしな)

 父と母から受け継いだものだ。


(……む? いや待てよ。そもそも私達は人の子達と違って属性そのものは持っておらんな。

 あくまでも、魔力の質がどの属性に変換しやすいかの違いであって……むむっ、困ったぞ)

 ということは、あの問題の答えは無属性、というひっかけなのかもしれない。

 こういった問題には、そういう意地悪な問題がある、とレイヴンからも聞いた。

 なるほどと納得して、無属性と書き直した。


問題:以下の言語を読み解き、設問に答えよ


 進めていくと、今度は言語の問題が出てきた。見慣れぬ文字だが、似た文字を知っていた。それに当てはめていくと、すぐに理解できた。


(ほほお? ヒンダガ語というのか。大陸南部の方の少数民族の言語だと……興味深いな)

 試験というのは、学びの場でもあるらしい。新しい発見に楽しくなる。


 私達からすると、紙に情報を書いていても、紙の方が先に壊れてしまう。だから、文字で残そうとする発想がない。文字というものを残す意味が薄い。

 しかしこうして人の子達が文字として単なる情報を残す以外にも、文学というものにまで発展させているのを見ると、竜人族はなかなか不便なものだなと思った。

 私達ではできない発想。里内で、文字による芸術作品があまり普及しない原因なのだろう。


(音楽はある。弾き語りや物語ることはあるが、絵本なるものを使うことはないし……そういえば、絵本とやらは楽しかったな。

 あとで帝国の絵本も買いに行くか)

 リンドベルで買った絵本の存在を思い出し、試験後の楽しみが増える。


 そんな風に、試験の時間は過ぎていった。

 最後まで書き終わり、周囲を見渡す。


 自信満々そうな者。顔面蒼白な者。まだ真剣に解いている者。寝ている者まで様々だ。


(ふむふむ。街中では余り見かけなかったが、ここにはいろんな種族がいるようだな)

 帝国は、エルフを皇帝とし、人口の多くは人間族で残りはほとんどエルフだと聞いていた。

 実際、ここに来るまでの道中や街中では他の種族は殆ど見なかった。

 帝国のアカデミーは大陸でも屈指の学び場だと聞いているので、おかしくはないのだろうが。


(それにしても、街中でもう少し見かけても良さそうだが……ふむ?

 あとでヴァレリオに聞いてみるか)


 などと考えていると「ゴォーン」という鐘の音が聞こえ、背中がびびびっとした。

 試験の開始時にも鳴ったが、聞き慣れない音だ。


「はい。ペンを置いてください。解答用紙を回収します」

 試験を見守る番人が、受験者たちの紙を集めてまわり始めた。

 順番が近づくと、年甲斐もなく興奮した。


「回収しま……っ!」

「うむ。持っていってくれ」

 堂々と差し出すが、試験の番人は私の顔を見て何やら途端に汗を書き始めた。


「? どうした?」

「い、ぃえっ? ななっ、なんでもございません」

 声を裏返し、慌てた様子で私の用紙を受け取るとすぐに次へと移っていった。


(ふむ……教室内は人の子密集率もあって、すこし気温が高いから、そのせいか)

 人の子は気温の変化に弱いと聞くから、きっとそうなのだろう。

 風を操って涼しい空気を送ってあげることにした。


「ひぃっ」

 ぶるぶるっと体を震わせていた。どうやら涼しくなったらしい。


 そのあと、番人はすべて回収を終えると、


「このあとは実技試験になります。受験番号を確認し、各自それぞれの会場に向かってください」

 やや早口でそう言うと教室を出ていった。

 番人は忙しいらしい。かなりの人数が受験すると聞いたから、大変なのだろう。


 立ち上がる。

 どうやら問題用紙は持ち帰っていいそうなので、記念に宝物袋に入れておく。


「ふふっ……受験生を経験したなどと言ったら、きっと皆羨ましがるぞ」

 里でもそんな経験したことのある者は、ほとんどいないだろう。

 なにせ、金の瞳は人の世界では目立つ。


「試験、楽しかったなぁ」

 しみじみと試験のことを反芻していると、「師匠!」ヴァレリオの声がした。

 ヴァレリオは別の教室で試験を受けていた。


「おおっヴァレリオ! 試験は楽しめたか? 私は……楽しかったぞ!」

「大丈夫でし……楽しっ?」

 赤い瞳が丸くなった。とても驚いている様子に、少し照れくさく思いながら笑った。


「うむ。

 歴史の問題では中々懐かしい話もあったしな。私の話が出た時は、少々気恥ずかしかったが、ちゃんとひっかけ問題も見抜いて回答したぞ」

「懐かし……自分の話……は、えと……ひっかけ?」

 どこか呆然としている様子のヴァレリオに、説明した。


「ああ、ほら。レングラント王国の話があっただろう?

 当時、なんど違うと言っても彼らは私を『竜神』と呼ぶものでなぁ」

「……は?」

「竜神の属性とやらは、最初は私も風と土かと思った。

 しかし……考えてみれば、選択肢にはなかったが私の魔力はそもそも無属性だ。

 だから、選択肢に惑わされず、ちゃんと無属性と書いたぞ!」


 両手を腰に当てて胸を張る。


「……それは、すごいですね。さすがです、師匠」

「そうだろうっ?」




【おばちゃん竜人族の、人の世体験日記】

第十話「おばちゃん、自慢話を得る」完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。