閑話「とある一族の報告記録①」
それはまだ、レンがリンドベルにいた頃。
とある場所で、密かに集まる者たちがいた。
――リンドベルに、二体目が現れた。
不定期に行われるその会での報告に、一瞬でざわめきが消えた。
「はっ? んな馬鹿な! 里は監視してたんだろ? 外に出たなんて話は」
「それこそ無茶言うな。監視はしてても、奴らを完全に監視するなんて出来るわけないだろうが」
「いえ、それより……何が目的なの?」
一人の言葉により、誰もがハッとする。
そう。問題はそれだ。二体目の目的。
「あの水よりも年長者っぽくは見えたが、まだ詳細は分からん」
「人の世界には不慣れなのは間違いない」
「レングラント期の貨幣で買い物しようとしてたからな」
「レングラントだって? 一万年前の失敗王朝のかよ」
「まったくあいつを皇帝にしたのは失態だった。為政者が賢すぎるのも面倒だ。やはりほどよく愚かなのを王にするのがいい」
「ほんとだぜ。
けど、馬鹿すぎるのも困る……んっ? まてよ。
当時の貨幣を持っているということは、土か?」
「そうですわね。風なら数千年で置き忘れるでしょうし、火なら数百年で溶かす。水は……興味を持てば研究するくらいでしょうか」
「ああ。土の可能性が高そうだ」
「土なら……まぁ、余程のことがなければ問題ないだろうが」
そこで一度、皆、長い息を吐き出した。
一人がワインのグラスを揺らしながら言う。
「しかし、油断はできんな。人というのは、どれだけ管理しても、気づけば奴らの地雷を踏んでいく」
「ええ。以前もおろかな一人のせいで、わたくしが育てた地域が火山になってしまいましたもの」
「火山なんて活用しにくいからな……ああ、温泉には使えるか?」
「まだ風や水を怒らせた方が、土地の活用は効きますからねぇ」
「まぁ、火でも使えなくもねーしな。死に絶えることは滅多にねーから」
「だが、万が一にでも、土が怒れば――」
ごくり、とつばを飲み込む音がした。それは決して、一人だけのものではなかった。
「俺達ですら、逃げられるか分からんぞ」
しばらくの間、誰も何も言わなかった。
だが、そんな沈黙に耐えかねたように一人が発した言葉は、全員の気持ちを代弁していた。
「頼むから、帝国には来ないでほしいもんだぜ」
【おばちゃん竜人族の、人の世体験日記】
閑話「とある一族の報告記録①」完




