⑤ 地味令嬢ですが、暴君陛下が私の(小説の)ファンらしいです。 の感想
媒体:なろう
書籍化しているそうなので「一円以上のお金を稼いでいる人」の作品とみなします。
こちらも意図せず出会った作品(ほとんどそう。筆者の検索スキルはポンコツで運頼み)。
個人の評価としては――「粗があっても高い」です。
あらすじ割愛。
「ギャグ」のタグが付いていたので、一々粗を気にしなくて済みそうだな、という安直な安心感と共に読み進める事が出来ました。
世界観やテーマにもよりますが筆者は基本、退屈になりがちな動きの無い地味系ヒロインの作品を進んで読む事はほぼありません。ただしこのヒロインのように知能(脳力)高い系のご令嬢がヒロインである場合は別です。
しかも本作品のヒロインは、現代知識などに頼らなくても問題に取り組む事が出来るという大変筆者好みの少女です。
物語序盤はほぼ室内から出ませんので、案の定の「動きの無さ」です。ヒロインは執筆活動をしていますからこれは仕方がありません。
ヒロインの代わりにヒーローが(心身共に)動き回っています。そわそわしながらそこら辺をうろちょろしています。
先にヒーローの話からします。
暴君ハバネロの設定であるヒーローは事あるごとに首を撥ねたがります。皇帝ネロというかハートのクイーンですね。
色々な面が心配になってしまう彼。年齢は分かりませんが一人称「俺」にまず引っ掛かります。まあこんなものは些細な粗に過ぎません。
また、彼の戦力は勿論のこと有能ぶりを示すエピソードは一つもなく、かといって彼を諫められる家臣すら皆無なので、こちらのお国ではハラハラドキドキの国政が行われていそうです――が、心配は無用です。
ヒーローを超える知能指数と常識を持つヒロインが嫁に来てくれます。
なにより本作品で大事なのはそこであってそこでは無いのです。
ここは「ギャグ」の舞台です。
いくら首を撥ねたところで死人は出ません(きっとね)。トムジェと同じく「今のは絶対死ぬだろう!」という展開であっても誰も死なない、危険かつ安全な世界なのです。
この筆者の認識が最後の大盛り上がり、暗殺未遂事件で足を引っ張る枷にもなりますが、それでも尚「些細」に留まる粗に過ぎませんでした。
ヒロインの話、行きます。
藪から棒にすみません。筆者だけかもしれませんが、眼鏡を取ると実は~という設定を相当久しぶりに見ました。百周回って新しいファッションみたいです。
それはさておき。
美しいものが小説のインスピレーションになる女流作家、斬新です。視覚情報がキモになってくる詩や絵なら分かるんですけどね。確か、詩集も出してるよという記載がどこかにあったので頑張って納得しておきたいと思います。
更に出だしから、果たしてロマンス小説で暴君ハバネロのアンガーコントロールが可能なのかという疑問にもぶつかりますが、ここはギャグの世界ですから疑問の余地はありません。納得しますとも。
更に更に、前回書いた「ヒロインを好き過ぎる精霊の謎」とよく似た疑問に思考が飛びます。
ヒーローは他の作家作品を読んでいないのでしょうか。世界に小説家はヒロインただ一人――な訳はありません。ヒロインが読んできた参考文献が存在している筈です(その描写は無いですが)。
地味系ヒロインですからヒーローに負けず劣らず恋愛偏差値は底辺です。そんな彼女が執筆(妄想)するには参考書の読み漁りと人間観察が必須です(その描写も無いですが)。
因みにこちらの異世界でも、テクノロジーの偏りは目に留まり「あれ」「なんで」と所々で戸惑ってしまいました(都合のいい技術力のムラっけが乙女ゲームっぽい)。
何であれ些細な粗です。そもそもギャグです。
ヒロインが何を持ち何をやらかすのかはとても大事な事ですが、キャラクターよりも大事な要素などこの世のどこにもありません。
地味系ヒロインを避け気味な筆者からすると、こちらのヒロインはフレッシュであり妙にクールでもありました。教室の隅で大人しく座っている転校生に思い切って声掛けしてみたら思った以上に好きなタイプだったって感じです。
最後の最後で大胆行動を取ったヒロインはとても賢かったです。
前半の(作者が意図的にした)動きの無さが彼女の行動力を際立たせ、場面を盛り上げるのに大いに活かされていました。
長ったらしく話を引っ張らなかったのも効果絶大でしたね。ギャグは概ね長く続けられませんし(いや好きですけどねボーボボとかね)。
余談ですが。
この最後の最後の上手さを『ハズレ職農民』に期待していました。奇抜行動の乱発は伏線で、それ以上の最終奥義があるに違いないとギリギリまで信じてましたからね。無かったですけど。
やってること自体はあの農民の方がこの非力なヒロインより遥かに派手です。なのに最終農民の方がパワー負けした感が否めません(なんでこの二人を戦わせているのか自分で自分に困惑中)。
溜めて溜めて最後にドカンと持って来る。
オチこそ全て。終わり良ければすべて良しです。
良い感じに纏まってしまいましたがもう少し続けます。
『老後に~』でも書きましたが心理戦の無さに少々物足りなさを感じてしまいました。
はちゃめちゃが許されるのがギャグですけど、副作用でどうしても緊張の糸がゆるんでしまいます。作品全体が幼稚な印象にもなりかねません。
シリアス要素をギャグ作品に求めるのは筋違いですが、ある程度知略が絡む展開では絶妙なバランス感覚が作者に求められるでしょう。真面目過ぎてもいけないしハメを外し過ぎてもいけない。上手い作者と下手な作者とで素人目にもはっきりと分かる程力の差がモロに出てしまう。ケロロとか凄いなって思いますよホント。
作風の話をしますが、本作品はシーンのあちこちで綱渡り多しと感じました。
少しでも踏み外せば古臭くなる危うさです。久々に来たおばあちゃんの家みたいな空気が作中薄っすらと漂っていました。不快とは真逆の感覚ですがこれは作者の意図とは違う筈です(いやどうですかね。地味系ヒロインの為に敢えてそうしていた可能性も)。
眼鏡を外すと実は、とかカビどころか化石のネタです。
ギリギリのところでフレッシュを維持出来ていたのは、切り口の目新しさにあったと思います。後はやはりオチの強さでしょうか。
加減が上手い作者の作戦勝ちのようです。
ともあれ思いがけず魅力的なヒロインと出会えて楽しい時間を過ごせました。
その代わりヒーローがちょっぴり――なんでもありません。
地味系ヒロインの可能性を見せてくれた作品への感謝と共に話を終わりたいと思います。




