第21話 メントスの砦
メントス砦は王国の西の重要拠点である。連邦が出来るまではただの関所の一
つであったが、王国の貴族エーシャン公が西の海洋民族と結託して王国からの独
立を宣言してから、ここに砦が作られる事となった。今そのメントス砦が連邦か
らの攻撃を受けており京矢達は砦の守備をする為ここに来ていた。
「結構暑いわね。シャンシャンの山並みが懐かしいわ」
「ピッポはシャンシャンの出身だったのね。それじゃあこの辺りの乾燥した台地
はちょっと苦手かもね。もう少し西に行って海に近くなると多少は涼しくなるん
だけど」
「あたし達は緑と水が豊富な土地育ちだからこんなに乾燥しているとお肌に影響
が出るの」
「ピッポも大変そうだな。この辺りの土地については分かったが、それで連邦っ
てどんな国なの?」
京矢は砦の監視所の中から周辺を見回しながら質問をした。
「連邦は10年前に王国から独立した国なんだ。とは言っても王国と共和国は正
式には認めてないんだがな」
「10年前。それはカタリナの親父さんが・・・」
「元々連邦の大陸側の殆どは国王の弟君エーシャン公の領地だったんだ。エーシ
ャン公は生涯未婚だったので子は無かったはずなんだがそれがエーシャン公が亡
くなった時に息子を名乗る者が現れて領地を治めた。それが現連邦議長アイヴァ
ンだ。奴はそれから領地の東西に住んでいる少数獣族を引き入れて、ある日連邦
という国の成立を宣言したんだ」
「という事は奴は王族って事になるのか・」
「事実がどうかは分からんが、王室はアイヴァンを認めなかったし突然の国家独
立宣言なんぞ相手にしなかったんだが、奴は当時あったここの関所を攻めて王国
内部に進軍した」
「それがシフォナが言っていた連邦が攻めて来たってやつね」
「そうだ。何とか撃退してその後、ここに砦を作って維持してるって訳だが、さ
すがに10年も経つと随分痛んでるよな」
「そんな事言わないで下さいよガーウィッシュさん。俺達はそんな砦で今日まで
必死に守って来たのに」
そこに現れたのは以前ガーウィッシュとカタリナとPTを組んでいた騎士のデ
ービッドだった。
「デービッドか、ご苦労だったな」
「ご苦労ってもんじゃ無かったですよ。副団長が来るまで何度死にかけた事か」
「確かにデービッドは今回の功労者だったかもしれないですね」
「アルフォード様良い所に、そうですよ言ってやってくださいよ」
振り向くと副団長のアルフォードもやって来た。アルフォードはガーウィッ
シュと力強く握手した。
「分かった分かった。お前の親父には良く言ってやるよ」
「やったぜ。じゃあそれではお願いしますよ。行くぞ、サムソン」
そう言うとデービッドは足早に去って行った。すぐ後ろをサムソンが急いでつ
いて行った。
「まさかガーウィッシュ様自らが来られるとは、ジューヌ戦線の方は良いのです
か?」
「ああ、こいつがリザードマンの隊長倒しちまったからな。当分奴らは出て来れ
ないだろうぜ」
「な、何とキョーヤ殿がリザードマンを・・・」
感嘆と脅威の混じった表情でアルフォードは京矢を見た。
「それで今はどういう状態なんだ?」
「それは・・・」
アルフォードはガーウィッシュにここまでの経過を話し始めた。
10日前、アルフォード以下補充部隊はメントス砦に着いた。その日は何事もな
く過ぎたが2日目、3日目と苛烈な攻撃が続き、約3分の1の戦力が削られてし
まった。4日目以降は継続的な攻撃は行われるものの死者が出るまででは無く、
消耗戦を行ってきた。
「砦の戦力は3分の2はいるんだな。ではアルフォードこの砦に10名ほど残
して王都に戻ってくれないか」
「10名ですか?さすがのガーウィッシュ様でもその人数では守れませんよ」
「良いんだ、それだけいれば守れるよ。俺一人でもいい位だ」
「せめて20は残して行かせて下さい」
「連邦と本腰入れて戦うには軍の再編を行わなきゃならんのだ。だから一度戦力
を戻して訓練を行い、一刻も早く戻ってきて欲しいのだ」
「アルフォードさんよ、守るだけならここは俺達だけでもいいんだけど俺達が打
って出た時の守りがいなくなるので10人は残して欲しいんだ」
「打って出るですと!?」
「この京矢は勇者の資格を得る為、試練を乗り越えなきゃなんねえんだ。それも
簡単な試練なんかじゃねぇ。だからちょっとここで修行をしなければならんので
な」
「それならば尚更私がいなくてはなりませんでしょう」
「シフォナの婆さんが待っているんだ、行ってあげろアルよ」
「分かりました、ガーウィッシュ様それにキョーヤ殿」
アルフォンソは守備兵10名だけを砦に残して次の日王国目指して帰って行っ
た。それを見ながら京矢は少し考えながらガーウィッシュに質問した。
「なあガーウィッシュさんよ、敵さんはどこから来てんだ?」
「さあな、あの軽装では向こうの山の麓辺りだと思うが、なんとも言えんな」
「そうねえ、でも逆の海岸線の崖の下に陣取っているかも」
「山の麓か海岸の崖の下か・・・斥候は出せないのか?」
「手練れがいるらしくてな、出してはいるんだが途中で戻ってきちまう」
「ちょっと見行って見ないか?」
「また行く気なのか?まったく」
ガーウィッシュはやれやれと言った表情で頷いた。
「そうと決まったら行くとするか」
「じゃあピッポ行く!」
「私も行きますわ」
「待て待て、カタリナは今回留守番だ」
「何でですか?お師匠様」
カタリナはガーウィッシュに不満げに聞いた。
「今回は威力偵察だ。敵との交戦が前提に有るからお前は連れて行けない」
「またそう言って子供扱いするんでしょ」
「子供扱いはして無いが今回はカタリナ我慢してくれよ」
「そうよカタリナはこの間、キョーヤと2人でデートして来たんでしょ。今
日はあたしの番よ」
「ピッポ・・・デートじゃないって」
「さっさと行こうぜ」
3人は敵の拠点偵察に飛び出した。手始めに海岸線の崖に飛び降りる。
「そう言えばピッポ、お前の新しい魔法ってどんなの?」
「ひみつー!」
「秘密って何だよ。別に隠さなくて良いじゃねえか」
「秘密は秘密。ガーウィッシュに口止めされてるんだ」
「ガーウィッシュてめえ!」
京矢はガーウィッシュに掴みかかろうとするが、簡単に躱される。
「まだ完成してないんだよ。出来てもねえものを話し出来るかよ」
「そういう事か。ちぇ、心配して損したよ」
「そういう事。でもキョーヤ期待してね、出来るようになったら凄いから」
「ハイハイ期待しないで待ってるよ」
「ちょっと待て」
ガーウィッシュが2人を制する。崖の下に人の気配がするが辺りを見回して
も誰も見えない。
「幻術系の魔法だな。こんな高等な魔法を使う奴がいるなんて」
「是非見させてもらいたいな」
「冗談言ってる場合じゃねえぞ、こいつは下手に解いたりすると術者にバレるん
だ」
「じゃあどうすんだよ」
敵地同然の場所で相手が見えない魔法に遭遇し困惑する京矢達。
彼らはどのようにしてこの窮地に立ち向かうのだろうか。




