第19話 逆襲、これが京矢の戦い方だ
京矢とカタリナはミランダのいる作戦司令所の天幕に着いた。奥に進むとミラ
ンダと従者らしき人影が見えた。
「これはキョーヤ殿、お待ちしておりました。スレイン殿の所はもう良いのです
か?」
「俺がいてもどうしようも無いからな。それで何が有ったんだ?」
「こちらに着いてからまだ落ち着いて居られないでしょうから、まずはお茶でも
如何ですか?」
そういうとミランダは京矢とカタリナを席に案内し、従者にティーセットを持
って来させた。
「こちらのお茶は私の故郷、エンダーランドの特産でマオリ茶というお茶なんで
す。私はいつも心を落ち着ける時、このお茶を飲んで心を安らかにするんです」
「とっても美味しいわ。それにしてもミランダ様がエンダーランドの生まれとは
知りませんでしたわ」
「生まれはハースなのですが、私が生まれてすぐエンダーランドに引っ越したの
でフォーサイスの所領には住んだ事無いんです」
「ウマいしなんか落ち着くなこれ。俺のいた世界じゃジャスミンティーっていう
お茶に味が似ていて、なんか懐かしいよ」
「お口に合って良かったですわ。それに故郷を感じて頂いたなんて光栄ですわ」
「しかし戦場にティーセットなんて最も似合わない組み合わせだろ」
「これはマドラ様からのお下がりなんです」
「嘘だろ。マドラっていつも酒飲んでいてお茶を飲むなんてイメージ無かった
ぞ」
「マドラ様は私の副官就任祝いにこのティーセットを下さりました。とても大切
にしてた物らしいのですが」
ミランダは京矢とカタリナのカップにお茶をつぎ足しながら続けた。
「昔の話です。ここからは現在の話を致しましょう。スレイン殿が倒された時の
状況についてでしたわね」
ミランダは当時の状況をお茶を飲みながら話し始めた。
当時、戦況はエルフ連合が押しており、そろそろリザードマンが撤退するので
はないかという雰囲気になっていたという。しかしリザードマンの中からヒュー
マンらしき人影が現れたかと思うと、倒れていたリザードマンが再び立ち上がり
攻撃を始めたという。生き返ったリザードマンは魔法を受けても切り刻まれても
止まらず、不気味な状況にエルフ連合は一気に恐慌に陥ったという。
「スレイン殿は前線で見方を鼓舞されてましたが、敵のヒューマンがスレイン殿
に何かの魔法をかけた途端、倒れられたのです。私はすぐさまその場に割って入
りました」
「それで相手はどうなったんだ」
「私が振り返って相手を見た時にはリザードマンは撤退を開始しており、その者
は見当たりませんでした」
「という事は魔法がかかっていてあの状態なんだな」
「そうだと思います。ミドラ様であればお判りになると思うのですが」
「ああ、ミドラも今晩はちょっと無理だと思う。命には別に問題は無いがな」
「リザードマンが生き返ったのは土魔法のネクロマンシーでしょうね。スレイン
にかかった魔法は分からないけど。それにしてもやっぱり向こうには連邦がつい
ていたのね」
「今まではインプやフォキシスといった下級の魔術師は見かけたがまさかヒュー
マン出てが出て来るとは思わ無かった」
冷めたお茶を一口飲み、京矢はミランダに問いかけた。
「ミランダさんは明日以降リザードマンがどう出て来るって考えてんの?」
「これまでリザードマンは陽動に終始してきましたが状況が変わったらしく、今
後の状況が読めなくなりました。それでメントスの状況を知りたくて本国に問い
合わせをしている状態なんです」
「今回の侵攻は陽動で本腰入れて攻めるとは思っていなかったからな。シフ ォナ
の婆さん読みが外れたってところか」
「そ、そんな事有りませんわ。シフォナ様が仰られた通り昨日までは読み通りだ
ったんです。ですが、今日は違かっただけです」
「ふ~ん。計画通りに事は進めていたが、今日は計画には従わなかったっていう
事か」
「そういう事になるわね。という事は敵の内部で何か問題が起きていると?」
「例えば現地の指揮官が連邦の指示に反して強硬策を行ったと考えれば、突然の
作戦変更とヒューマンの魔導士の出現は納得出来ると思うんだ。前回の夜襲で味
をしめたリザードマンが連日の作戦で業を煮やして強硬策を行ったと考えれば合
点がいかないか?」
「確かにね。それで途中で引いて行ったと・・・」
京矢の推理はほぼ的を射ていた。今回の強硬策は隊長のグンナーが副長のゲオ
ルグを騙して前線に引き出して行ったものであった。やがて戦場の状況を知った
サリエルがゲオルグを後方に戻してリザードマンは撤退させた。怒ったサリエル
はグンナーに抗議したがグンナーは知らぬ存ぜぬを決め込んだ。
「リザードマンが内部的に問題を抱えているのであれば話は簡単だ」
「どうするの?」
「夜襲を仕掛けるんだよ」
「夜襲って・・・」
「なに夜襲といってもそんなに人数はいらないよ。ここに居る4人でいい。行き
はあんたの移動魔法で行って帰りは俺の転移魔法で帰ってくればいい」
「さすが勇者って突拍子も無い事考えるわね。まあいいわその案に乗りましょ」
「じゃあ今から行こうか」
「え?今!?」
京谷に促されてカタリナとミランダ、それにミランダの従者メロスは急遽リザ
ードマンの野営地に飛び込んだ。
「ここからは二手に別れよう。話した通りミランダと従者さんは食糧庫を焼いて
くれ。俺とカタリナは奴らの本部で暴れて来るから、終わったらあそこの丘の上
で待っててくれ」
「分かったわ」
4人は分かれて各々の目的地に走り出した。
そこから京谷は隠れながら士官が出入りしている幕舎を探した。リザードマン
はよほど嬉しかったのか、宴会をしており酔った者が多くいた。
「今夜は祝勝会でもやってたのか全く不用心だぜ」
「そうよね。もっと警戒してると思ったけど心配して損したわ」
「おっと、あそこじゃねえか士官の幕舎は」
京谷は周りとは一段高い所に豪華に装飾された幕舎を発見した。
「じゃあ手筈通り行くぜ、カタリナ」
「いつでもいいわよ」
京谷はまず周囲に魔法キャンセルを設置して士官の幕舎に向けてプラズマ魔法
を撃った。するとプラズマは幕舎に落ちた瞬間炎が四散し辺りが火に包まれた。
「オッケー!」
火に包まれた幕舎の中からリザードマンの士官達がわらわらと出てくる。そこ
に足止めの魔法をかけられリザードマンが足を止めた。そこにカタリナが氷魔法
を撃つとたちまちリザードマンが倒れていく。
「何事だ?ヒューマンの襲撃か」
「分かりません。何分にも火が激しくて何も見えないもので」
幕舎から他のリザードマンとは明らかに別格の士官が怒りを顕わにして出て来
た。京矢はカタリナから離れてそのリザードマンの隊長グンナーの前に姿を現し
た。
「貴様何者だ?エルフ?違うなヒューマンか」
「へへっどっちでもいいじゃねえか。昼は楽しく暴れ回ったんだ、今晩も楽しく
俺と遊ぼうぜ」
「ヒューマン風情が!」
グンナーは怒りに任せて槍を突き出す。それを京矢は無造作に躱しプラズマを
背中に叩きこむ
「グワーッ。な、何を」
するとリザードマンの隊長の体が炎で包まれのたうち回る。
「ヒューマン如きがこんな魔法を使えるとは」
「ちょっと聞きたいんだが、あんたらの所にもヒューマンいるだろ?どこ行った
んだ?」
「ヒューマン?ああゲオルグか。奴は夕方帰って行ったよ。残念だったな」
「そうか、じゃああんたには用は無いや」
そう言うと京矢はグンナーに雷魔法で止めを刺した。
「奴がいないんじゃしょうがないな。帰ろうかカタリナ」
「はい、帰りましょう」
カタリナは満面の笑みで返事した。
それからミランダと合流した京矢は方々で燃え盛るリザードマンの野営地を眺
めながら転移魔法を詠唱を始めた。




