第12話 連邦の思惑を暴け
「それでメントスの砦に王国の主力を釘付けには出来そうなのか?」
「アルフォード副団長以下精鋭10数名がギーレルを出ました。それによりギー
レルに残る騎士団員は半数となりその上、エルフの里に数名駆り出されればギー
レルの守備など取るに足りません」
「そうすると後はシフォナとマドラの動きだな。奴らさえ抑えられれば今度こそ
王国を我が手中に収められる」
「ヒヒヒ。そうなればイヴァン様の覚醒が成り、晴れて魔王討伐の軍が起せる訳
ですね」
「そうだ。10年前王国の勇者候補クラウスを葬ったが、あのばあさんとその一
味にしてやられたからな。特にガーウィッシュとかいうメイジには左腕をやられ
やっと再生が終わったからな」
「そのガーウィッシュ奴も今では只の腑抜けになっているようで、女湯を覗きに
行く毎日ですからな」
「ふん。私がその様な腑抜けに不覚を取ったと思うと腹が立つが、そのザマでは
2度と私の前には立てまい」
「その通りでございます。引き続きシフォナとマドラについては調査を続けさせ
ます。議長殿は次の作戦の指揮をお願い致します」
「分かった。ではお主もリザードマンの件は宜しく頼む」
「かしこまりました」
連邦は大陸の西側に位置しており、海側には小さな島々の列島、東側には山脈
が走り平地が少なく人が住むには少し過酷な国である。その山脈の裾野を縫うよ
うに南北に街道が走っており交易の一つの要衝となっている。住民は主に水棲の
獣人やヒューマンが半々ずつであった。
元々は王国の属国地であったが10年前自治国宣言をし連邦国家として成立を
した。それを成し遂げたのが、かの勇者候補イヴァン・ブリエラであった。
「あの男サリエルと言ったか。帝国も使える奴を送ってきたものだな」
「しかし、大丈夫なので有りますか?あの男を信用してしまって」
「別に信用している訳では無い。だからあの男にはゲオルグを付けて有るのだ」
「そうで御座いましたね。ゲオルグならば必ずやあの男の本心を暴くでしょう」
「ではボリス将軍、騎士団の方は頼むぞ。出来るだけ時間を稼ぎ、兵を疲弊させ
戦力を削ぐ事に集中してくれ給え」
「お任せあれ。我が勇者よ」
連邦の将軍ボリスはイヴァンに膝まづき一礼をした後に颯爽と部屋を出て行っ
た。
◇ ◇ ◇
明くる朝、京矢達は再び王国騎士団の応接室に居た。しかし前日と違って多
くのメンツが集まっていた。
「声を掛けたのはこれで全員かの、ミリンダよ」
ミリンダと呼ばれたのは魔導騎士副団長ミリンダ・フォーサイスだ。
「はい。ご指示頂いた者は全てここに揃っております」
「そうかご苦労であったな。ミリンダよ」
「何の。シフォナ様の頼みとあらば何なりと、このミリンダ命に代えましても」
ミリンダはシフォナに褒めて貰えてとても嬉しそうだった。
「勝手に人の部下を動かしおってこのババアが」
自分の部下を勝手に使われた魔導騎士団長マドラ・グレシアは不満顔で呪詛の
言葉を吐いた。
「まあ良いではないか。ほれ、あの通り本人も喜んでおるしの」
「それでは本日はお集まり頂き有難うございました。これより騎士団緊急会議を
始めたいと思います」
恭しくミリンダが開会宣言を行った。
「王国周辺の状況については各自報告を受けていると思うが、昨日エルフの里よ
り使者が来てラーディッシュの森の状況を報告してきた。今日はその事について
の対応を検討したいと思う」
昨日とは打って変わって真剣な口調でシフォナが議題について語った。
「それではエルフの里の状況を報告して貰おうか。スレイン頼む」
「はい。それではこれまでの経緯を順を追って報告致します」
スレインはこれまでの経緯をかいつまんで説明した。
「リザードマンがそれ程までに変わってしまったか。リザードマン1に対し2人
以上で対応しなければ成らなかったが、これからは戦団戦や強襲の備え等も考え
に入れねばならぬな」
マドラは余りのリザードマンの変貌ぶりに困惑した。
「奴らを分断しつつ確固撃破が有効かと思うが、しかしイヴァンはリザードマン
を本気で戦力と見ているのか。妾には他に目的がある様に見えるが」
「その通りじゃ。多分リザードマンの件はイヴァンからしたら練習に過ぎぬじゃ
ろ。問題はどこが本命になのかじゃ」
ここまで話を黙って聞いていた京矢が口を開いた。
「ここまでの状況を考えてみたんだが、今俺たちの敵はリザードマンと襲撃者で
それを後ろで糸を引いているのは連邦なんだよな。それでさ連邦っていうかその
イヴァンって奴がエルフと王国を相手にケンカ売って何の利益が有るんだ?」
「連邦はな元々多種族の連合体である為、常に火種を抱えておってな。常に外敵
を作って国民の意識を外に向けさせる為、絶えず近隣と小競り合いをして来たの
じゃ」
「国を維持するために戦争仕掛けているんじゃ本末転倒だな」
「そうじゃな。イヴァンは国威向上の為、近隣に進出し領土を奪い金品を強奪し
てきた10年前に王国に侵攻した時も同じ考えじゃったと思う」
「という事は、今回の奴の目的は王国の領土の一部の獲得もしくは王国そのも
の」
「なんじゃと!」
一同は京矢の一言にざわついた。
「それは有り得ないでしょう。連邦は部族が各々動いているからゲリラ戦は得意
ですが攻城戦なんて無理です」
ミランダは興奮して机を叩いて反論した。
「落ち着けミランダよ。確かに王国の領土や城は無理だが国体が揺らぐとなる
と」
「そうさ。俺が言いたいのは全面戦争をやるって事じゃなく。国盗りするなら国
王殺して跡目争いさせれば良い訳で、ましてや現国王は若くして未婚。兄弟もい
ないとなれば内紛を起こすなど容易いって事」
「成程な。それで全てが繋がったわ。まずは北の帝国と東の共和国との小競り合
いから始まって中央のエルフ襲撃、西から謎の襲撃者集団これで王国は大陸中に
騎士団を派遣しなければならなくなり首都の防衛が手薄になる。すると警備も緩
慢になるから暗殺者を送り込み易くなる訳じゃな」
「そうか。全ては陽動っていう事なんですね。シフォナ先生」
ミランダはついうっかり昔の癖を出してしまった。
「コホン、その通りじゃミランダ」
「やっと連邦の狙いが分かった訳だが、どうするんだ?」
「イヴァンの狙いが王だとするとリザードマンは陽動じゃから本気では攻めて来
んじゃろな。王国としてはエルフの救援に行くと見せかけて本国の守りを固めた
方が良いと思うのじゃが」
「そうだな。本国への侵入が無理と分かれば作戦を変えるかもしれないから時間
稼ぎにはなるな。しかしシフォナさんよ、逆にさこちらからリザードマン壊滅さ
せて連邦に乗り込んだら奴ら泡喰うんじゃね?」
「なんじゃと!」
シフォナは思わず立ち上がり叫んでしまった。だがすぐに平静を取り戻して続
けた。
「さすが勇者じゃな。誰もが思いついても言えぬ事を言いよる」
「だから俺は勇者じゃねえ」
「でもよこれ面白そうじゃねバア様よ。昔あんたがやった事と同じやり方じゃね
えか」
ガーウィッシュが食いついて来た。
「ここにも酔狂がおったか。それにあの時はあの作戦しか無かったのじゃ」
「分かってるさ。でも今度はキョーヤがいる。イヴァンの野郎に一泡吹かせてや
ろうぜ。
「良いんじゃないの。妾もかの時は北で釘付けだった故に参加出来なかったから
な」
「分かった分かった。1日だけ考えさせてくれないか。すぐには結論は出せぬ」
シフォナが検討するという事で、会議はお開きになった。




