表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/136

第七話 報酬の分配


 あっさりと依頼を片付けて、一行はオークの解体作業をしていた。


 かすり傷すら負わない完全勝利だ。

 しかし周囲には、重苦しい雰囲気が立ち込めていた。


 どんよりとした空気の発生源は、ルーシェとリリーアだ。帳簿の管理はベアトリーゼの担当だが、報酬に関しては、まずこの二人が交渉することになっている。


「ライナーさん。報酬の取り分ですが……」

「あの、少し手心を加えていただけると助かりますわ……」

「報酬?」


 釣り出されたオークたちは戦う前から瀕死だったので、ライナーへの歩合(ぶあい)も弾まなければいけない。


 しかし、財政は厳しい状態にあるので――ライナーはいくら要求してくるのだろうと――不安と苦難が垣間見られた。


「事前に取り決めをしていたはず」

「で、では⋯⋯」


 苦い顔をしているリリーアとルーシェに対し、ライナーは軽い声色で言う。


「銀貨20枚と、使った薬の実費で構わない」

「え?」

「それだけで⋯⋯よろしいので?」

「いいも何も、そういう契約だ」


 気まずそうな顔で分け前の話を始めた二人を前に、ライナーはあっさりと追加報酬を断っていく。

 すると何故か、二人の顔が強張った。


「慣習として、いくらかお包みするべきかと」

「楽な依頼だったし、こっちの事情もあるからな⋯⋯。事前の取り決め通りで構わない」


 ライナーの言葉を聞いた二人は、引き攣った笑みを浮かべると、凄まじい速さで契約書を取り出した。


「嬉しいはずだろ? どうしてそんな顔を」

「何と申しますか⋯⋯」

「新手の詐欺ではないかと」


 ルーシェの鞄に入っていたライナーの雇用契約書を、二人は穴が開くほど見つめている。


「用心深いな」

「騙されません……もう騙されませんことよ」

「甘い話には裏があるものです。どこかに落とし穴が……」


 過去に契約書の不備を突かれたり、詐欺に遭ったりしてきたのだろう。


 世間知らずのお坊ちゃんやお嬢様が、一度は通る道か。

 と、思いながら、ライナーは昼食の干し肉を頬張る。


「……大丈夫なのか、君らのパーティ」


 今日の食事当番はベアトリーゼだが、使っている食材も調理方法も昨日と一緒だ。

 別段変わらない食事風景の中、ライナーは淡々と食事を済ませる。


 一方、元気が有り余っているということで、魔物の解体はセリアとララの手で行われていた。


「よし、解体終わりっと。オークの肉って美味いんだけどな……これは食えんわ」

「……ん」

「素材をいくつかダメにしてしまうから、それも込みでの価格だよ」


 神経毒の通った豚肉を食べるなど、フグを丸かじりするのと大差は無い。

 特に内臓は駄目になっているので、薬の原料として売れる(キモ)なども、捨てることになってしまう。


 その損害分を差し引いた報酬が、銀貨20枚だ――と、ライナーは考えていた。


「よろしいのですね? 報酬は銀貨20枚だけでよろしいのですのね?」

「さり気なく、実費の道具代まで抜くんじゃない」


 リリーアは両手を胸の前で組み、可愛らしい仕草をしている。

 だが、さらっと報酬が減りそうになったライナーは、きっちりと言う。


「実費も銀貨20枚で、俺への報酬は銀貨40枚だ。今回はお試しだから、素材の売却益があれば、そちらで全部分配していい」


 そう聞いたリリーアは、ほっとしたような表情をしてから微笑んだ。


 オーク退治の報酬は、金貨6枚になっている。

 金貨1枚につき銀貨が30枚になるので、銀貨180枚の仕事だ。


 ライナーに銀貨40枚を支払ったとして、残るのは銀貨140枚。これを5人で分けると、基本報酬は銀貨28枚になる。


「売却益までいただけるのでしたら、予定よりも稼げそうです。この分なら本当にお買い得でしたわね」


 食費と雑費もパーティ持ちだが、各自の消耗品すら使っていない。黒字は確実だ。


 ちなみに郵便配達を4時間やった報酬が銀貨3枚。

 今回の依頼では、丸3日拘束されて銀貨28枚だ。


 この時点では普通の仕事よりも多少、割がいいくらいだ。

 ――だがそこに、素材の売却益などが入ってくると、また話が変わってくる。


「計算しましょう。肉は使えませんが、魔石は取れました」

「12個だな。全部で銀貨130ってところか?」

「いえ、上位種の成りかけがいました。多分、150枚ほどですね」


 魔物の心臓から取れる魔石。この赤黒い石は、燃料の代わりになる。

 魔法の威力を増幅させる触媒に使う、などの用途もあり、大きい物ほど高値が付くので、これの売却益もバカにはできない。


 今回はありふれたオーク退治だったが、人類の生息圏には滅多に現れない希少種の魔物を狩れば、毛皮の売却益だけで屋敷が立つこともある。


 冒険者は一攫千金も夢ではないのだ。

 まあ大抵は、夢で終わるのだが。


 と、ライナーは一人、遠い目をして干し肉をかじる。


「他には目ぼしい素材も無いので、締めて一人当たり58枚。端数の8枚を共有財産にして、銀貨50枚の報酬になりますね」

「ん? 睾丸(こうがん)はどうしたんだ? 毒抜きすれば使えるだろうし、そこが一番高値だろ」


 オークの睾丸は、他の薬草と混ぜることで薬の原料となる。

 レバーなどと違い、きちんと処理をすれば問題なく使用できる部位だ。


 貴族から一般市民まで。夜の生活に悩む男女の頼れる強壮薬になるが。

 需要が高いこともあり、二つにつき(・・・・・)金貨1枚ほどで取引されている。


「早く処理しないと、腐ってダメになるぞ」

「ええっと」


 つまり、オーク12体×銀貨30枚で、銀貨360枚。

 ライナーを除いて分ければ、これだけで一人当たり銀貨72枚の計算だ。


 彼女たちの報酬は倍以上に跳ね上がる――はずなのだが、全員が渋い顔をしていた。


「乙女として、それは……」

「そこまで恥を捨てきれませんわ……」

「豚のタマ(・・)なんて、触りたくないよな」


 確かに男でも普通に嫌がる仕事だ。元貴族のお嬢様たちならば、まあ無理もないだろうと理解したライナーは、干し肉を口に放り込んでから尋ねる。


「内臓の処理と、そう変わらないと思うけど……そうだな。解体と毒抜きの手間賃、金貨3枚でどうだろう?」


 干し肉を咀嚼し終わってから、彼女たちにそう提案する。

 もちろん手間賃としては高すぎるので、これは半ば冗談。交渉が前提だったのだが。


「捨てるよりは万倍マシですわね」

「……異議なし」

「……見てないところでやってよね」


 ライナーが吹っ掛けたところ、言い値で通ってしまった。


 オークを解体して薬液に漬けるだけなら、30分ほどで終わる。

 この作業で金貨3枚など、法外な値段だ。


「次からは、もう少し手加減しないとな……」


 自分から値下げ交渉をするのも変だし、今回は貰っておこう。

 そう考えたライナーは、解体用のナイフを片手に、オークの死体へ歩み寄っていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 素材ダメにしちゃうのは確かにマイナスやな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ