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ゴーゴーストーリー  作者: 女良息子
第三章 腕無しと理想郷の継承者
55/193

55「潜り沈むスカイマントル号」

 『理解室』に所属している少女、レンズは、タコ足が生えたその見た目の所為で、初対面時にロータローからファンタジー世界におけるスキュラだと思われていたが、それは違う。

 彼女はザナドゥが三年前に人とクラーケンの異種交配の実験をおこなっていた際、偶然に誕生したハイブリッド生命体だ。

 人としての知能と器用さに加え、クラーケンとしての成長速度と海中での能力の高さを持つレンズは、海中にいる期間が長い潜水艦での生活において、『異種交配実験の成功例』以外の理由でも重要なポジションについていた。

 それは、探知役。

 クラーケンの特性を持ち、海中において周囲の状況を探知する能力がソナーやレーダー以上に優れている彼女は、これまでいくつもの外敵や島を探り当て、『フールブック号』を助けてきた。『大いなる死』により地図が一変したことで多くの船乗りが右も左も分からない航海を強いられている世界において、そんな能力はチートである。

 そして今回、いつも通りに『フールブック号』の周囲の海中をパトロールしながら耳を澄ませていたレンズは、ある存在を探知した。

 彼女は最初、それを魚かと思った。だって、あまりにも小さかったから。

 しかし、それが明確な意志を感じさせる速度でこちらに向かってきていることを知ると、流石に何かがおかしいと思うようになる。

 そちらに目を凝らしたレンズはぎょっとした。何故なら、そこにいたのは明らかに魚ではなかったからだ。


「『潜水艦』!? どうしてこんな所に!?」


 その潜水艦は十人も乗れないくらいのコンパクトサイズだ。研究施設も兼ねている巨大潜水艦『フールブック号』と比べれば月とすっぽんである。

 しかし、そのぶん進行速度は凄まじく、発見したレンズが驚いている間に、『フールブック号』との距離をぐんぐんと縮めていた。

 すぐにレンズは潜水艦の正体を察した。この時期に『フールブック号』目掛けてまっすぐにやって来る相手なんて、たったひとつしか思いつかない。


「『シットローズ号』の奴らめ……、ザナドゥさんとの約束を待たずに潜水艦で来るなんて卑怯だぞ!」


 探知役であるレンズには、外敵を発見した際に取るふたつの行動があった。ひとつは『フールブック号』への報告。そしてもうひとつはひとりでの迎撃だ。彼女が今回選択したのは後者だった。なぜなら、高速で接近してくる潜水艦を見て、報告している暇がないと判断したからである。

 下半身の八本の触手を揺らめかせる。それぞれが鈍器を一本ずつ握っていた。長いメイスに大きなハンマー、重量感のある棍棒に大の大人でも持てなさそうな金槌など、小型の潜水艦が相手なら一撃で沈められそうな代物ばかりだ。

 海中でそんな物を持てば、普通は重さで水底に真っ逆さまになったり、そうならずとも水の抵抗がある所為でマトモに振り回せなかったりするものだが、水中がホームグラウンドであるレンズにとって、そんな普通は無いも同然であった。


「海中でわたくしを相手に接近戦をすることが、どれだけの愚行なのか教えてやる。授業料は潜水艦のスクラップだ。……あ、でももしシャングリラが乗っているのに沈めたらザナドゥさんから叱られちゃうから、ある程度ボコボコにした後で中身を確認しないといけな」 潜水艦から魚雷が高速で射出され、レンズに命中すると、轟音と共に爆発した。


 ◆


「いま何を撃ったんですか?」


「人の船に穴を開けるシロアリみたいな害獣だ。気にしなくていい」


 マリィからの質問にそう答えた機関長は、相変わらずむすっとした表情をしているが、いつもに比べればほんの僅かにすっきりした雰囲気があった。

 荷物だった魚雷を放ったことで、潜水艦は身軽になり、更にその速度を上げていく。


「現在、僕たちが乗る急襲用小型潜水艦『潜り沈むスカイマントル号』は『フールブック号』に近づきつつある。接触するまで数分もない。この後の計画は覚えているか?」


「向こうとこちらのハッチを強制的にドッキングさせるんだろう?」 サスライが答える。 「で、扉をこちらから無理矢理開けて、突入するってわけだ」


「『スカイマントル号』が出来るのはドッキングまでだけどな。こじ開けるのはあんたらの仕事だ。そのくらいできるだろ?」


「いけるっすよ!」


「任せておけ!」


 と元気一杯な声で返事をしたのはリルとヨルだった。


「ジブンは機関長くんみたいに物作りの才能は無いっすけど、破壊活動なら大の得意っすからね!」


「とりあえずぶん殴ってぶっ壊してぶっ殺せばいいんだろ!? 簡単だ! なんなら今ここでその実力をみせてやってもいいぞ?」


「わぁーっ!? ちょっ、ヨルさん! ストップ! ストップっす! ステイステイ!」


 リルは拳を振りかぶろうとするヨルを慌てて制止した。


「たしかにジブンたちの仕事は暴れることっすけど、無闇矢鱈にするのはNGっすよ。そんなことして、『フールブック号』のどこかにいるロータローくんが巻き込まれたら大変っすからね」


「ロー……タ、ロー? なんだそれは?」


「この前会ったばかりなのに忘れたんすか……」


「はあ? 儂を舐めるなよ? もちろん覚えているぞ! 人間だった頃はよく食ったものだ!」


「食べ物じゃないんすけど」


 いや、ある意味では食べ物なのか? と思いながら、リルは後ろの座席を振り返る。

 そこにはクサリが座っていた。は虫類じみたぎょろついた目で、窓から見える海中の景色を眺めている。

 普段からロータローに噛み付いている彼女は、『シットローズ号』の乗員の中で二番目にロータローと交流が深い人物と言えるだろう。そんな彼女ならきっと、右も左も分からない『フールブック号』の中で、真っ先にロータローを見つけられるかもしれない。リルはそのような考えから、クサリをこの作戦のメンバーに推薦したのだ。

 ちなみにロータローとの交流が一番深いのは言うまでもなくキロリッターなのだが、彼女はこの作戦に参加できなかった。

 しなかった、ではなく、できなかった、だ。

 その理由は、作戦の立案者がキロリッターを嫌う機関長だからという複雑な人間関係(人外関係?)でなければ、四方八方を水で囲まれた潜水艦に突撃するのは流水が弱点の吸血鬼では難しいという体質でもない。

 じゃあ何が理由かというと、キロリッターの参加を誰かが提案する前の時点で却下したサスライ曰く、「アイツが暴れたら、一発で私たちごと潜水艦が沈没するから」だ。その言葉にはその場にいた全員が納得した。

 というわけで、こうして『フールブック号』急襲作戦かつロータロー奪還作戦の参加者は、機関長とサスライに加えて、マリィ、リル、ヨル、クサリと戦闘斑のメンバーが参加したのである。

 そうなると……


「無理です無理です無理ですぅぅう~! 帰らせてくださいぃぃぃ~!」


 ヘルの加入も決定するのは当然のことだった。もっとも、彼女自身はその決定に納得していないようだが。

 隅で縮こまっているヘルは、艦内を涙で満たしそうな勢いで泣いている。


「落ち着いてヘルちゃん。あんまり泣きすぎると、疲れて戦えなくなるっすよ」


「落ち着けるわけないじゃないですかっ! 私、行きたくないって言ったのに! 言ったのにぃぃぃい!」


 金切り声が響く。音響兵器に転用できそうな音量だ。


「こんな私を連れて行ったところで役に立ちませんよぅ」


「いや、潜入向きの方法で寵愛を応用しているヘルちゃんを連れて行かない手はないっすよ。それに、いざとなれば寵愛を『本来の用途』で使えばいいじゃないっすか」


 仲間を元気づけようとするリルの姿は、この場にいる誰よりも疲れているように見えた。

 しかし、ヘルの耳にその言葉は届いていないらしく、


「どうせ私なんて、ここで死んで、海底に沈んで、お魚さんの餌になるのがオチです……パクパクされちゃうんだ……」


 と、虚空を見つめてぶつぶつと独り言を呟いている。励まし甲斐のない女だ。

 なんだかぐだぐだな雰囲気だが、これが『シットローズ号』の精鋭メンバーである。

 その中でも特に上位の実力を持つ剣士、マリィは進む先にある『フールブック号』を見つめていた。その目に宿るのは、使命感と決意。囚われのロータローを確実に救うという、強い思いが顕れている。


「……あれ?」


 その時、マリィは気が付いた。

 『フールブック号』の一部分が、まるで中で爆発が起きたかのように震えたことに。


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