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ゴーゴーストーリー  作者: 女良息子
第三章 腕無しと理想郷の継承者
50/193

50「奪還作戦」

 ザナドゥの手によりロータローが攫われてしまった。

 しかし、今の『シットローズ号』にはそれ以上の問題が起きていた。

 超巨大イカである。

 『シットローズ号』に復讐をすべくこの場に現れたそれは、『フールブック号』がいなくなった後も関係なく居座っていた。

 何本かの触手を横薙ぎに振るい、『シットローズ号』の各部位に叩きつけようとする。一本一本が巨竜ドラゴンほどの大きさがある触手だ。こんなものたった一本でも食らえば、容易く木っ端みじんになってしまうだろう。船員たちは迫りくる暴威に慄いた。

 そんな中、飛び出す影が三つ。


「うおおおおおおおおおおお!」


 半透明の体に龍の模様を刻んでいる男が、威勢のいい叫び声と共に拳を突き出し。


「いくっすよ!」


 ゾンビの獣人ファングが飄々とした態度で鋭い爪を走らせ。


「せえええええええええええい!」


 デュラハンの騎士が凛とした掛け声を上げながら剣を振った。


 その瞬間、突風の如き速度で動いていた三本の触手が吹き飛び、細切れになり、両断される。

 これぞ『シットローズ号』が誇る最大戦力、戦闘班の実力である。その勇姿を見た船員たちは歓声を上げた。

 しかし、すぐに彼らは気付く。戦闘班の迎撃を逃れた触手が一本だけ残っていることに。


「クサリちゃんとヘルちゃんはどこで何やってるんすかーっ⁉」


 リルがそう叫ぶ間も、触手はぐんぐんと迫って来ている。

 あわや、と誰もが思った。その時だった。

 船から何かが投げられたのは。

 それは金属製の小さな箱だった。もしロータローがこの場に残っていて、この物体を目にしていれば、ぎょっとしただろう。

 何故なら、彼はこれと似たようなものを見たことがあるからだ……次の瞬間、箱は空中で爆発した。

 爆発と共に発生した極光が昼間の世界を更に白く染め上げる。直撃を受けた触手は弾け飛び、ぐずぐずに潰れた断面と焼け焦げた肉という、見るも無惨な姿を晒していた。

 こんな殺戮兵器を投擲した人物は誰か? 船員たちの目は、船の一点に集中する。

 そこには頭上に歯車型の輪を浮かべた水色髪の少年が立っていた。機関長だ。


「ふん、子を奪われた復讐か。単純シンプルな分、生物にしてはまだ分かりやすい思考だな。だからといって、これ以上暴れるなら邪魔だ……殺すぞ」


 そう語る機関長の口調は腹立たし気だ。いや、生物嫌いである彼が生物を相手に話す際は不機嫌が基本のスタンスになるのだけど、それにしても今日はいつもより怒りの色が濃い。

 殺意を身に浴びた超巨大イカは慌てて逃げて行った。なんだか可哀そうな気もするが、同情すれば死ぬのはこちらである。

 元機天使(ブルーセル)の気迫を目にした船員たちは呆然としていた。そもそも、普段は機関室に籠りっぱなしの機関長がこうして表に出てくる時点で珍しいことなのである。更に自ら外敵の対処をしたというのだから驚きだ。

 機関長は船員たちの方を向いた。


「『フールブック号』とかいうバカ共を追うぞ」


 次の進路が決定される。船のエンジンである機関室を統べる彼が告げた進路は、船長であるサスライと同等、あるいはそれ以上の決定力を有していた。


「へえ」 


 そんな声を上げたのは、リルだった。 


「意外っすね。まさか天使君が真っ先にロータローくんの奪還に乗り出すなんて」「別にロータローのことなんてどうでもいい」


 やけに食い気味に否定する。


「あいつが消えたところで全然困らないからな。せいぜい、僕の高尚な工学理論を聞く相手が居なくなって、日々の生活がほんのちょっぴりつまらなくなるだけさ」


 ただ、と続ける。


「あの『進み行くフールブック号』とかいうふざけた奴らは、僕の船である『シットローズ号』に穴を開けやがった。それだけは絶対に許さない。死ぬほど後悔させてやる」


 機関長は怒りで握り拳を震わせていた。

 どうやらザナドゥたちは彼の逆鱗に触れてしまったようだ。たったひとりで動力源を運営している機関長は、船に対し並々ならぬ愛着があるのだろう。

 怒りの原因である船の傷は現在、キロリッターの『物質創造』スキルによって綺麗さっぱり修復されたのだが、彼女のことをあまり好ましく思っていない機関長にとって、その事実は火に油を注ぐようなものなのかもしれない。『嫌いな奴が自分の愛機に手を加えた』みたいな感覚だ。


「それで、だ。奴らを追いかけるメンバーを集めたい。なるべく少数精鋭が良いんだが」


「行きます!」


 と手を上げたのはマリィだった。


「攫われたロータローさんを見捨てるなんて、できるわけがありませんから!」


「少数精鋭っていわれたら、まさにそれがコンセプトである戦闘班に所属するジブン的には、手を上げざるを得ないっすよねー」


「戦いか⁉ ならば儂も行くぞ! 血祭りの時間だ! がははははっ!」


 続けて、リルとヨルも参加を表明した。他の班員であるクサリは話の意味を理解していないし、ヘルに至っては相変わらず姿を見せていない。


「でも、わざわざメンバーを選ぶのはなんでっすか? そんなことしなくても、三日くらい進んだ先にある島で、奴らは待ち構えているんすよね? そしたら全員で戦えるっすよね?」


「お前は馬鹿か」


 リルが投げかけた疑問を機関長は、罵倒と共に一蹴した。


「向こうが指定した場所に指定されたタイミング通りに向かうなんて、どうぞ罠や不利な環境に嵌めてくださいと言っているようなものだろう」


「それは分かるっすけど……じゃあ他にどうすればいいんすか」


「三日経つよりも前に奴らに接触して、叩きのめせばいい話だ」


 随分簡単に言うが、『フールブック号』は潜水艦である。海上を進み、潜水機能を有していない『シットローズ号』では、航行中のそれに接触することなんて、できるはずがない。


「だったら作ればいいだろう。奴らと同じく、海の中を自由に動き回る潜水艦を」


「作るって。そんなものを三日以内に……」


「できる。僕を誰だと思ってる」


 力強く断言する。


「『フールブック号』みたいに巨大な艦ならともかく、少人数のチームで向かう為の小さなものなら、明日の朝までには完成するはずだ」


『空を飛べる』と自称する鳥や、『光り輝ける』と自慢する星のように豪語する。

 かつては機天使ブルーセルとしてモノづくりの技術や理論や概念を司っていた男が言うと、虚言やハッタリとは思えない説得力があった。


「そういうわけだが」 今後のプランを述べた機関長が、次に目を向けたのは 「キャプテン・サスライ。どうだ? 何か異論でもあるか?」


「……ないよ」


 答えるサスライの様子は、いつもと違っている。

 なんというか、覇気がない。

 そもそも今この場を仕切っているのが、船長である彼女ではなく、機関長というのが一種の異常事態なのである。

 彼女の半顔には、船長としての顔とは別の側面が浮かんでいるようだった。


「あと、その作戦にはアタシも同行する。別に船を壊されたからだとか、ロータローが攫われたからじゃあない。この騒動の原因がアタシにあるようなものだからだ。自分のケジメは自分でつけるさ」


「たしか、『フールブック号』の船長はザナドゥって名乗ってたっすよね。何者なんすか?」


「亡霊」


 リルの問いに、サスライは一言で答えた。


「くだらない過去から湧いて出た、亡霊みたいな人間さ。この船に乗っているどんなゴーストよりもタチの悪い悪霊だよ」


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