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ゴーゴーストーリー  作者: 女良息子
第二章 デュラハン騎士と狂信
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28「これからのおはなし」

 以上がスピア国とマリィの間で起きた一連の出来事である。

 部外者であるロータローは、その殆どを知らない。

 彼が知っているのは、『国を守る騎士』であろうとし続けたマリィが国から捨てられたという顛末だけだ。

 たった、それだけである。

 ロータローが怒るには、それで十分だった。


「ふざけるなよ!」


 怒鳴り声と共に、目の前の男の胸倉を掴む。


「『捨てた』だと? 笑いながら言うんじゃねえよ。アイツがどれだけお前らのことを心配していたか、知らないのか?」


「な、なに急にキレてるんだよ。まるで『首だけマリィ』を知っているみたいに……」


 さっきまでヘラヘラと笑いながらマリィを侮辱する言葉を吐いていた男の表情は、驚愕と困惑で凍り付いていた。ロータローの激昂に周囲が騒めく。彼の頭は怒りで真っ白になっていた。このまま目の前の顔面に一発お見舞いしそうなくらいである。


「なんだ、喧嘩か⁉」


 群衆の誰かの叫び声を聞いて、ロータローは我に返った。

 マリィの体を探すのが最優先事項である今、ここで騒ぎになり、海上憲兵を呼ばれたら面倒な事態になることくらい、今の彼でも想像できることである。

 ロータローは舌打ちを鳴らすと掴んでいた胸倉を突き放した。彼の行動を責め立てる声を背に、その場から走り去る。

 逃げるロータローの背中から、マリィの声がした。


「ろ、ロータローさん、急にどうしたんですか⁉ あんな目立つことをするなんて……」


「俺も悪かったと思っているよ。迂闊な行動だった。だけど、あんなことを言われて、我慢できるわけがないだろ!」


 走りながらロータローは叫んだ。


「逆に聞かせてもらうけどさ、どうしてお前は平気なんだ? あれだけ守ろうと頑張っていた国から捨てられたんだぞ?」


「それは……だって、私は『国を守る騎士』ですから」


 マリィはこれまで何度も口にした単語を再び言った。


「その能力が不十分と判断されて捨てられたからって、文句を言えるはずがありません。むしろ、私なんかより優秀なカイジョーケンペーという騎士? が見つかったようでなによりです。だって、それでこの国はもっと平和になるんですから!」


 マリィが語るのは嘘偽りのない本心だった。

 彼女は現状に怒りや悲しみを抱いていない。仮に抱くとしても、その対象はスピア国ではなく、捨てられる程度の存在だった自分自身に対してだ。


「ですからロータローさん。一度助けを求めた身でこんなことを言うのは我儘ですけど、私の依頼はなかったことにしてください。もう私には、体を取り戻す理由はありませんから」


 マリィは天性の英雄である。人を守ることが宿命づけられたかのような存在だ。つまるところ、国を維持するうえでの消耗品である。

 スピア国はそんなマリィを消費し、新たな消耗品である海上憲兵に鞍替えした。それだけだ。

 国が決め、当の本人であるマリィが受け入れた以上、納得しない者は誰もいない。

 ……はずなのだが、違った。

 ここにひとり、納得していない人物がいる。


「イヤだね」


 砂塔蝋太郎だった。


「……俺の努力が報われないのはいい。俺は怠け者のクズだからな。だけど、お前みたいな良い奴の努力が、こんな形で裏切られるのは絶対に間違っている!」


 ロータローが抱えるちっぽけな信念は、マリィがこのまま首だけで放っておかれることを良しとしなかった。

 彼の主張は、事情を知らない人間が外野から感情論で踏み込んでいるようなものだ。

 どれだけ怒り狂ったところで、彼にスピア国の決定を覆せる力はないし、なにより彼の怒りの理由であるマリィ自身がそんな展開を望んでいない。どこまでも空回りするエゴである。


「エゴで結構。生憎こちとら、これまで我儘ばかり言って生きてきた引きこもりなんでね。周りに逆張りするのは慣れているのさ。だから、マリィ。ここでお前が自分を見捨てるように頼んだって、俺は絶対に首を縦に振らねえぞ」


「それに」と、ロータローは話を続ける。


「お前が『やっぱり自分の勘違いだったので、依頼は中止させてもらいます。ここまで運んでもらった分の代金は払えません』なんて言えば、あの守銭奴サスライがどんな反応をすると思う? 想像するだけで背筋が凍るぜ」


「そ、それはそうかもしれませんけど……。今更体を取り戻したところで、私にはもうやることがありませんし」


「そこでいい案がある」


 すっかり人気の無い路地裏に辿り着いていたロータローは、そこで足を止めると、右手で作った握り拳を天に向かって突き上げた。


「サスライに頼んで、マリィを戦闘班に入れて貰うんだ!」


「せ、セントーハン……?」


 それは『彷徨えるシットローズ号』の中にあるいくつかのグループの内のひとつである。


「聞いた話じゃ、あそこは強者揃いらしいが、こんな広い国をたったひとりで守り続けてきたお前なら、実力的に十分だろ。戦闘班の構成員としての働きでこれまでの運賃を返すって言うなら、きっとサスライだって文句を言わないはずだ。……だから、マリィ」


 ロータローは強い決意と共に言った。


「俺にお前を拾わせてくれないか?」


 ロータローがそう決めたのは、一度頼まれたからではない。

 マリィに救われて欲しいと思ったから

 救われるべきだと思ったから。

 彼は彼女を助けることに決めたのだ。


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