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ゴーゴーストーリー  作者: 女良息子
第二章 デュラハン騎士と狂信
26/193

26「むかしむかしのおはなし」

 それはむかしむかしのおはなし。


 世界にまだ大陸が横たわっていた時のこと。

 当時、世界中の国々が魔王軍の侵略による苦難を強いられていた。

 東に位置する小さな国、スピア国もそのひとつである。

 国の近辺に現れる魔物や襲い来る刺客を前に、国力がどんどん削がれていた。

 だが、国を脅かす存在は魔王軍だけではない。

 困窮していく景気や不安定な情勢を理由に悪事を働く人間は国内にも大勢いたし、その所為で元々よろしくなった状況は更に悪化の一途を辿るのであった。


 もうだめだ。このままでは滅びてしまう。……そんな絶望に国全体が染まりつつあった頃。

 ある朝、とある教会の前にひとりの赤ん坊が捨てられていた。当時は親が子を捨てることなんて別段珍しくもないことだった。なにせ右も左も敵だらけで安心できる場所などどこにもない時代である。いっそ生まれない方が幸せなくらいだ。


 教会の人間に拾われた赤ん坊はマリィと名付けられた。


 マリィは地獄のような時代にあってもすくすくと育った。それは肉体的な意味であり、精神的な意味でもある。

 彼女の性格は、当時のスピア国の悪辣な環境で育まれたとは思えないくらい優しいものだった。天性の明るさだ。周囲の人間の中には、そんな彼女の性格を、()()()()()()()()()()()()()に喩える者もいた。


 また、マリィには剣術の才能もあった。

 はじめは教会内で流行ったチャンバラ遊びから始まったが、やがて同年代の子どもを打ち負かせるようになり、十を過ぎた頃には模擬戦で大人を瞬殺できるほどにまでなっていた。瞠目すべき才能である。

 その凄まじい成長ぶりに一部の者は剣天使ヘレヴェルの寵愛を疑った。だが、それは違った。

 マリィの強さに理屈じみた原因はない。

『強いから強い』。

 それだけだ。


 それほどまでの腕前を持つマリィが剣を握る道に進み、やがて国の守護を務める騎士になるのは当然のことだった。

 そして、驚くべきことにマリィの強さは魔王軍にも通じるものだった。


 火を吐く巨竜ドラゴンが国の南西部に現れれば、硬い鱗で覆われた体を切り裂き。

 視認不可能な速度で飛行する魔物と対峙すれば、それを上回る速さで剣を振るい。

 死天使マベテルと同格の力を誇る魔王軍幹部との戦いでも、国に被害を出さないまま勝利した。


 マリィの活躍により、スピア国を毎日のように襲っていた荒波の如き災厄は消え去り、凪のような平穏が続いた。

 また、外敵による不安が無くなると、国の内政も段々と安定していくようになった。

 マリィが騎士の座に着いてからというものの、スピア国は瞬く間に平和になっていったのである。


 当時風の噂でエデンという冒険者の話がされていた。なんでも、彼は剣術に長けており、数多の天使から寵愛を受けているのだという。そんな強大な力だけでなく、世界中から仲間を集めて魔王を倒そうとしているというのだ。

 エデンの噂を知ったスピア国の民の中には『マリィもエデンの仲間に加わって、魔王を倒す旅に行くんじゃないか』と心配する者もいた。しかしそう問われるとマリィは、


「魔王を倒したいという思いがないと言えば嘘になりますけど……私のような未熟者がエデンという御方の旅に同行できるとは思えません。それに私には世界を救う前に、この国を守るという使命がありますから」 


 と、答えるだけだった。それを聞いた国民たちは、マリィの善性に深い感謝をするのであった。


 そして時は経ち。

 スピア国がマリィに抱いていた感謝は、やがて安心感へと変わり。

 安心感はやがて依存へと変わり。

 依存はやがて崇拝へと変わった。

 まるで神を信仰するように、ひとりの騎士の強さを信じるようになったのだ。


「彼女さえいれば大丈夫だ」


「何があってもマリィが何とかしてくれる」


 そう思っていた。

 『大いなる死』が訪れるまでは。


 『大いなる死』。

 それは歴史上類を見ない災害であり、多くの生命を奪っていった悲劇である。

 そんな大規模な天変地異を相手に、ちっぽけな人間に何が出来ようか。呆然と立ち尽くすことしかできまい。


 それはマリィも同じだった。


 崩壊していくスピア国を見て、彼女は何もできなかった。

 当たり前だ。 

 いくら守護騎士としての務めを果たし、英雄と讃えられ、神聖視されようと、マリィは結局のところ『剣が上手いだけの人間』である。

 大地の崩落を食い止めるだけの力はないし、冥府の底に落ちた命を拾い上げることなんて不可能だ。

 物を知らない赤ん坊でも理解できる話である。

 だが、当時のスピア国民たちは違った。


「守護騎士ともあろうものが、国の崩壊を前に何もできなかっただと?」


「そんなことが許されていいはずがない」


 破綻した理屈である。

 魔王にぶつけるべき怒りを一番手近なマリィに向けただけだ。

 あるいは、神のように崇めていた存在が所詮は人間であったことに対する失望もあったのかもしれない。

 いずれにせよ、理不尽で冷静さに欠けた暴論である。

 だが大災害を経験したばかりのスピア国民にその理屈を客観視する冷静さなどあるはずもなく、世論は激化するばかりだった。

 パニックは狂気へと変わり、やがてマリィは捕らえられた。

 マリィほどの猛者なら、たかが人間の群衆を相手にした所で逃げられるはずなのだが、彼女はそんな選択をせず、囚われの身となった。

 なぜなら、当の本人であるマリィすらも、『大いなる死』についての責任を感じていたのだから。

 『国を守る騎士』が『国』を守れなかった。

 その事実に言い訳をするなんて、彼女に出来るはずがなかった。


 こうなれば止める者など誰も居ない。

 最終的にマリィは断頭台へと上げられ。

 国民たちから『信じていたのに』という罵声を浴びながら処刑された。

 こうして彼女の一度目の生は終わりを迎えたのであった。


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