氏族なき徽章
ヤザンは、自分がどうやって闘技場を出たのか分からなかった。
背後では、まだ声が上がっていた。
だが、もう一つ一つの言葉としては聞き取れなかった。
頭の中で混ざり合い、ただ一つの騒音になっていた。
勝者。
審判は、自分が勝ったと言った。
だが治療棟へ続く道は、勝者が歩く道には見えなかった。
係員の後ろを進む。
上衣の端は焼け焦げ、真っすぐ立とうとするたび、肋骨の痛みが呼吸を締めつけた。
係員が言う。
「こちらだ」
ヤザンは顔を上げなかった。
身体は、今にも倒れたがっていた。
それでも歩き続けた。
強さを感じていたからではない。
あの場所に立ち続けることさえ自分に許そうとしなかった者たちに、自分が闘技場から担ぎ出される姿を見られたくなかったからだ。
狭い石造りの廊下へ入った。
観客席の声は壁の向こうで弱まり、遠い耳鳴りのように残った。
その時、係員が突然足を止めた。
ヤザンが顔を上げる。
廊下の奥に、シグランが立っていた。
傷を負っているようには見えない。
だが片手を壁につき、顔色は闘技場にいた時よりも青白かった。
その隣には、暗色の制式外套をまとった長身の男が立っていた。
男は、動く必要も、言葉を発する必要もなかった。
そこにいるだけで、廊下そのものが狭くなったように感じられた。
オーラを解き放っている様子はない。
それでも周囲の空気は、見えない力で押し固められたように重かった。
近くに立つ二人の兵士は、必要以上に背筋を伸ばしている。
呼吸さえ、浅くしているように見えた。
ヤザンの足が止まった。
胸を締めつけたのは、傷んだ肋骨だけではない。
目に見えない重みが、肩から全身へ静かにのしかかっていた。
息を吸おうとしても、喉が狭まる。
指先が冷たくなった。
逃げろと命じる本能さえ、沈黙していた。
身体は、逃げるという選択そのものを忘れていた。
黒きナツメヤシの園の怪物たちに抱いた恐怖とは違う。
怪物たちは、飢えだった。
自分を喰らおうとする、生き物の飢え。
だが、この男の前では、自分が獲物ですらないように感じた。
刃を振るう必要もない。
声を荒らげる必要もない。
ただ一言で、相手の生死を決める。
そんな裁きが、人の姿をして立っているようだった。
ヤザンは、顔を上げたことを後悔した。
視線を逸らしたかった。
だが、首が動かなかった。
男が目を上げた。
その視線が、ヤザンを捉えた。
その瞬間、心臓が一度だけ鼓動を忘れた。
焼けた上衣。
包帯。
徽章のない胸。
男は、ほんのわずかな間、ヤザンを見つめた。
だが、その表情には何の変化もなかった。
やがて男は視線を外した。
何も尋ねることなく、シグランへ言う。
「歩け」
シグランはすぐに動いた。
反論しない。
ヤザンの横を通る時も、彼を見ることはなかった。
だが、その顔には闘技場で見せなかった緊張があった。
あの場所では、観客の前で棄権しても気にする様子はなかった。
今は、裁きを無視できない男の前で、その棄権の代償を払わされようとしているように見えた。
二人は廊下から去った。
ヤザンは、しばらくその場に立っていた。
係員が緊張した声で言う。
「行くぞ」
ヤザンは小さく尋ねた。
「今の人は?」
係員は男が消えた方向を見る。
それから答えた。
「最高司令官、ハーマン・ザランだ」
ヤザンの目がわずかに見開かれた。
その時のヤザンにとって、その名はまだ多くを意味しなかった。
だが、係員がその名を口にした時の響きだけで十分だった。
係員は早口で続けた。
「あの方が去った先を、いつまでも見つめるな」
そして再び歩き始めた。
ヤザンは、それ以上尋ねなかった。
◆
治療棟では、年老いた治療師が石の椅子を指した。
「座りなさい」
彼女は向かいへ座り、試合について尋ねることも、結果を祝うこともなく傷を洗い始めた。
冷たい軟膏を肩へ塗る。
肋骨の周りに幅広い布を巻く。
そして、焼けた上衣の部分を切り取った。
炎を受けた箇所に差しかかると、手を止めた。
皮膚を見る。
次に、焼け焦げた布を見る。
赤みははっきりと残っている。
だが火傷は、あの攻撃を受けたにしてはあまりにも軽かった。
皮膚に触れないまま、痕のすぐそばへ指を近づける。
「炎が当たった時、何か感じたかい?」
ヤザンは考えた。
熱。
身体の周囲で起きた、奇妙な震え。
だが、何が起きたのかは分からなかった。
「分かりません」
老女はしばらく彼を見る。
そして、再び腕へ布を巻き始めた。
「今日は、あまり動かないことだね」
少し間を置き、付け加える。
「できるなら」
しばらくして、別の係員が入ってきた。
「試験はまだ続いています。合格者の発表まで待たせなければなりません」
治療師が言う。
「この子の身体は、そうは言っていないよ」
立ち上がろうとするヤザンを見る。
「もっとも、自分の身体の意見には興味がないようだけどね」
ヤザンは苦労しながら立った。
係員に連れられ、闘技場の一角を見下ろせる脇の通路へ向かった。
◆
マヤの試合が始まっていた。
彼女は円の中に静かに立ち、両手を下ろしていた。
対戦相手が、真っすぐに突進する。
マヤは片手を上げただけだった。
闘技場の端に置かれた水甕から、細い水の糸が伸びる。
相手の足に絡みつき、その体勢を崩す。
立て直すよりも先に、水の糸は弧を描いた。
手首を打ち、次に肩を打つ。
そのまま、相手を円の外へ押し出した。
激しく倒すことはしなかった。
打ち砕く必要もなかった。
審判の手が彼女の勝利を示す。
「勝者、マヤ・タライン!」
ヤザンは彼女を見続けた。
シグランは、目の前のすべてへ自分の力を押しつける炎だった。
だがマヤは――
壊さずに勝つ術を知る水だった。
気づけば、思っていたよりも長く彼女を見つめていた。
来賓席では、アリアン・タラインが変わらぬ静けさで座っていた。
だが表情が、わずかに和らいだ。
隣のオースが言う。
「相手が遅かった」
アリアンは答えなかった。
◆
試合は続いた。
ライド・オーラセンは静かな自信と共に闘技場へ入り、見せつけるような動きもなく、わずかな手数で相手を退けた。
アナス・ガスカンの静けさは、また違っていた。
相手に、自分の動きを読んだと思わせた。
そして、誰も予想しなかった角度から動いた。
ワイル・イヴェルセンは、観客から笑いが起こるほど怯えた様子で入場した。
だが相手が攻撃した瞬間、その力が予想外の激しさで噴き出した。
対戦相手を円の外へ吹き飛ばす。
ワイルは観客以上に驚いた顔で、自分の両手を見つめていた。
ヤザンは笑わなかった。
勇気よりも先に、恐怖が動くこともあるのだと知っていたからだ。
アミール・サーランは、明らかな勢いと共に戦った。
だが、決めるべき瞬間を見失うことはなかった。
ナダ・ディヤーランは素早く、軽やかに動いた。
アスマー・ザファランは声を上げることもなく、静かに、確実に試験を終えた。
ヤザンは彼らを見ていた。
全員が、自分の知らない何かを知っている。
どう殴るのか。
どう動くのか。
どうすればケメンが応えるのか。
自分は――
ただ、立ち続けただけだった。
◆
すべての試合が終わると、合格者たちは、闘技場よりも小さな、儀式用の広場へ集められた。
正面には石造りの壇があった。
その上に学院長が立ち、隣にはアマルと数人の教師が並んでいる。
合格者たちは壇の前へ整列した。
傷が目立つ者もいた。
小さな笑みの裏に疲れを隠す者もいた。
マヤは、変わらぬ静けさで立っていた。
シグランは列の端におり、表情を閉ざしていた。
ヤザンが入ってくると、いくつかの顔が振り返った。
再び囁きが起きる。
だが、そこにあったのは先ほどまでの嘲笑だけではなかった。
好奇心も混じっていた。
ヤザンは列の最後に立った。
学院長が記録簿を開く。
「入学試験は終了した」
静寂が広がる。
「審査を通過した者は、アルマザ・ケメン学院へ入学し、この瞬間から学院の制度と規則に従うことになる」
一人の生徒が小声で言った。
「でも、シグランは棄権した……」
その囁きは、周囲へ広がった。
学院長が顔を上げる。
「試合の結果だけが、評価のすべてではない」
広場が静まった。
「我々が見るのは、能力、制御、対応力、そして成長の可能性だ。勝利だけで学生になれるわけではない。敗北だけで失格になるわけでもない」
学院長の視線がシグランへ向けられる。
「だが、自分自身を制御できない者は、敵に折られるより先に、自らの力に折られるだろう」
シグランは動かなかった。
ただ、指先がわずかに握り込まれた。
学院長は、正面に置かれた金属製の箱へ手を向けた。
アマルが蓋を開ける。
中には、アルマザの徽章が並んでいた。
氏族の徽章に代わるものではない。
その者が学院の一員になったことを示す印だった。
名前が呼ばれ始める。
「マヤ・タライン」
マヤが前へ出た。
アルマザの徽章を受け取り、青いタラインの徽章の隣へつける。
列へ戻る途中、マヤは一瞬だけヤザンへ視線を向けた。
笑わなかった。
だが、彼を何かの間違いであるかのようには見なかった。
「ライド・オーラセン」
ライドが進み出る。
アルマザの徽章を受け取り、炎の徽章の隣につけた。
「アミール・サーラン」
明らかな自信と共に前へ出た。
続いて、アナス・ガスカン。
ナダ・ディヤーラン。
ワイル・イヴェルセン。
アスマー・ザファラン。
全員が壇から戻る時、二つの徽章を胸につけていた。
一つは、どこから来たのかを示すもの。
もう一つは、どこへ入ったのかを示すもの。
やがて学院長が呼んだ。
「シグラン・ザラン」
再び囁きが走った。
シグランは、それを気にすることなく前へ進む。
彼の家の徽章は、そこにいる誰もが知っていた。
アルマザの徽章を受け取る。
そして、その隣へつけた。
所属。
そして、合格。
列へ戻った。
残る名前は、一つだけだった。
ヤザンは、呼ばれるより先にそれを感じていた。
学院長が記録簿を見る。
「ヤザン」
そして続ける。
「登録姓、ファドゥース」
ヤザンは前へ出た。
一歩進むたびに、胸の空白がより目立つように感じられた。
囁きが聞こえる。
「氏族の徽章がない」
「ファドゥースなんて氏族は存在しない」
「何を渡すつもりだ?」
学院長の前で止まる。
男は記録簿を見た。
名前――ヤザン。
登録姓――ファドゥース。
氏族――審査中。
学院長の手が、箱の上で一瞬止まった。
それから、一つの徽章を取り出した。
灰色の金属で作られた円盤。
中央には核を思わせる彫刻があり、その周囲には八本の細い線が、特定の紋章を形作ることなく交差していた。
学院長が言う。
「入学審査を通過した以上、お前はこの学院の学生だ。ただし、氏族への所属については、引き続き審査中となる」
徽章を掲げる。
「これはアルマザの徽章だ。血統も、氏族も与えない。だが、お前がこの学院の学生であることを認める印となる。氏族への所属が決まるまでは、これ一つがお前の徽章だ」
ヤザンへ差し出した。
ゆっくりと受け取る。
冷たかった。
ヤザンは、胸に残されていた空白を埋めるように、徽章をつけた。
拍手は起こらなかった。
代わりに、囁きが戻ってくる。
「一つだけ?」
「氏族なしで合格したのか?」
「影の将軍が入れたのか?」
ほかの学生にとって、アルマザの徽章は一つの追加だった。
だがヤザンにとっては――
それが、彼の持つすべてだった。
学院長が彼を見る。
「合格者の中に、お前の場所はある。だが、そこで認められることまで保証されたわけではない」
それが受け入れの言葉なのか、警告なのか。
ヤザンには分からなかった。
列へ戻る。
マヤはヤザンの胸にある一つだけの徽章を見てから、彼の顔へ視線を上げた。
シグランも、一瞬だけ彼を見た。
その瞳には、試合前と同じ侮蔑はなかった。
代わりに鋭い苛立ちがあった。
ヤザンが一つだけの徽章をつけ、自分たちの中に立っていることが、闘技場の結果以上に気に入らないかのようだった。
学院長が声を上げる。
「式は以上だ。明日、所属する組が発表される」
そして続けた。
「徽章さえあれば十分だと思っている者は、すぐに知ることになるだろう」
視線が列を通る。
「それが、見た目よりも重いものだということを」
生徒たちは動き始めた。
同じ氏族の徽章を持つ者たちは、すぐに互いを見つけた。
ヤザンだけが、しばらく一人で立っていた。
胸にあるアルマザの徽章を見る。
それは氏族を与えるものではなかった。
人々に受け入れられた証でもなかった。
それでも、一つだけを告げていた。
この都市は、どれほど拒絶の目を向けようとも――
まだ彼を追い出すことはできなかった。
まだ。
ヤザンは、ほかの生徒たちの後を歩き始めた。
近くから囁きが聞こえる。
「ファドゥース……」
そして、その呼び名が続いた。
「氏族なき徽章」
ヤザンは振り返らなかった。
だが、その言葉は胸の奥へ入り込んだ。
アイン・アルワールでは、呪われた女の息子だった。
アルマザでは――
氏族なき徽章になった。
言葉は変わった。
だが、その痛みは、まだ変わっていなかった。




