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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第一章 アルマザ学院編

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拒まれた勝利


イザンは闘技場の円の中に立っていた。


反対側には、シグラン・ザラン。


観客席から響く歓声は、彼の名だけを呼んでいた。


「シグラン!」


「ザランの継承者!」


「早く終わらせろ!」


イザンには、その叫びが持つ意味のすべては分からなかった。


だが、一つだけ理解できた。


誰も、自分が勝つことを期待していない。


おそらく、抵抗することさえ期待されていなかった。


審判が二人の間に立つ。


最初にシグランを見て、次にイザンへ視線を移した。


「規則は明確だ。武器の使用は禁止。降参、続行不能、あるいは審判が重大な危険を認めた時点で試合を終了する」


その視線は、シグランの上でわずかに長く止まった。


「カマンの使用は認める。ただし、相手の命を脅かす力は禁止だ」


シグランの表情は変わらなかった。


一方、イザンは両手をどう構えればいいのかさえ分からなかった。


片方を少し上げる。


だが、すぐに下ろした。


戦いの構えなど教わっていない。


シャーミルから道中で学んだのは、疲れても身体を支えること。


痛みが胸を押し潰そうとした時、呼吸を続けること。


だが、それは戦いではなかった。


審判が手を上げる。


「構えろ」


短い静寂。


その手が振り下ろされた。


「始め!」


シグランの姿が消えた。


イザンが何が起きたのか理解した時には、拳が胸へ叩き込まれていた。


息が止まる。


両足が地面から浮き、そのまま背中から激しく倒れた。


肺の中の空気が、一気に吐き出される。


観客席から、まばらな笑い声が聞こえた。


シグランが言った。


「立て」


励ましではなかった。


あまりにも早く倒れた相手では、退屈を消すことさえできない。


そう告げるような、冷たい命令だった。


イザンは息を吸おうとした。


初め、胸が拒んだ。


次の瞬間、鋭い痛みと共に空気が入ってきた。


片手を地面へつく。


片膝を立てる。


そして、立ち上がった。


観客の間に小さなざわめきが走る。


感心したのではない。


試合がまだ終わっていないことへの驚きだった。


シグランが言う。


「いい」


そして、再び殴った。


     ◆


来賓席の最前列には、アリアン・タラインが座っていた。


その佇まいは静かだった。


だが肩にある水の徽章が、周囲の者たちに礼儀正しい距離を取らせていた。


隣では、息子のオースが、父よりも隠すことなく試合を見つめている。


「差がありすぎる」


アリアンはすぐには答えなかった。


二度目に倒されたイザンが、再び起き上がろうとする姿を見ていた。


やがて言う。


「差は、始まる前から明らかだった」


「なら、なぜ審判は止めない?」


「まだ立っているからだ」


オースは地面に倒れている少年を見る。


「かろうじて、だけど」


アリアンが答える。


「試験では、『かろうじて』も、まだ完全には倒れていないという意味だ」


二人の背後。


ほかの席よりも高い位置に、光から離れて一人の男が座っていた。


話さない。


動かない。


暗い外套には、目立つ徽章もなかった。


それでも、その近くに立つ兵士たちは、ほかの兵士よりも背筋を伸ばしていた。


男の視線は闘技場へ向けられている。


シグランではない。


何度倒されても立ち上がる少年へ。


     ◆


マヤは、少し前に自分の試験を終えていた。


先ほどの対戦相手が闘技場の外で治療を受ける中、彼女は参加者用の通路のそばに残り、次の試合を見ていた。


最初に目が向いたのは、シグランだった。


短い訓練で見せていた時よりも、速く、強い。


無駄な動きがない。


普通の打撃でさえ、最初から自分が優位だと知る者の確信に満ちていた。


マヤの内側に、静かな感嘆が生まれた。


シグランは、彼女が予想していた通りだった。


強い。


自信に満ちている。


そして、誰かの目の前に立っていても、他者から遠く離れている。


次に、イザンへ視線を移す。


三度目の転倒。


顔の片側は土に汚れ、唇から血が流れていた。


それでも、また身体を起こそうとしている。


マヤは眉を寄せた。


防ぎ方を知らない。


攻撃の仕方も知らない。


それなのに――


なぜ降参しないのだろう。


     ◆


イザンは、勝つことなど考えていなかった。


シグランへ届く道すら、見えない。


考えていたのは、地面のことだけだった。


手のひらの下にある感触。


そして、その上に留まれと命じる声。


だが、目を閉じるたび、別の光景が蘇った。


黒きナツメヤシの園で倒れるマルワン。


土を染める血。


何もできず、ただ立ち尽くしていた自分。


次に、アイン・アルワールが戻ってきた。


母親に人形を奪われた少女。


後ろから追いかけてきた囁き。


呪われた女の息子。


そして学院長の部屋。


シャーミルの声。


失敗すれば、俺の手で外へ出す。


戻りたくなかった。


村へも。


道へも。


マルワンの死を前にして、何もできなかったあの日へも。


手を地面へ伸ばす。


立とうとする。


審判が言った。


「降参してもいい」


イザンは顔を上げた。


答えない。


立ち上がった。


完全な勇気ではなかった。


恐怖だった。


ここで倒れれば、自分のために開かれた唯一の扉が閉じてしまう。


その恐怖。


シグランが苛立ったように見る。


「なぜ続ける?」


イザンには、どう答えればいいのか分からなかった。


おそらく、自分でも答えを持っていなかった。


途切れる声で言う。


「分から……ない」


シグランの顔に浮かぶ苛立ちが濃くなった。


「なら、倒れたままでいろ」


動いた。


     ◆


今度の拳は横から飛んできた。


イザンは遅れて腕を上げる。


シグランの拳がそこへぶつかり、肩が激しくねじれた。


両膝から落ちる。


体勢を戻すより先に、シグランの足が腹へ突き刺さった。


イザンは土の上を転がった。


観客席の一部から、低い抗議の声が上がる。


イザンを庇ったのではない。


試合が面白いものではなく、ただ一方的な辱めへ変わり始めたからだ。


審判の近くにいた係員が言う。


「少年には、ついていけていません」


審判が答える。


「分かっている」


「止めるべきです」


審判は、イザンの手が動くのを見ていた。


「まだ続行不能ではない」


「本当に負傷します」


だが、イザンは再び起き上がった。


先ほどより遅い。


姿勢も崩れている。


それでも立った。


観客席の一部を、奇妙な静けさが覆った。


笑い声が消えていく。


オースが言う。


「これは普通じゃない」


アリアンはイザンの呼吸と足の位置を見ていた。


「耐久力だけではない」


「どういうこと?」


「まだ分からない」


高い席にいる男は動かなかった。


だが、椅子の肘掛けを叩いていた指が止まった。


     ◆


シグランは長いあいだ、イザンを見つめた。


泣くと思っていた。


止めてくれと頼むか。


怒りに任せて、愚かな攻撃へ出るか。


だが、そのどれもなかった。


見えたのは、明らかな恐怖。


それでも立っている少年。


その姿が、シグランを苛立たせた。


イザンが強いからではない。


弱い。


それなのに、終わることを拒んでいる。


シグランが言った。


「退屈だ」


片手を上げる。


指の周囲へ、微かな熱が集まり始めた。


観客がすぐに反応する。


「炎を使うぞ!」


「終わった!」


シグランの掌に、小さな炎が生まれた。


大きくはない。


だが、内側へ圧縮されていくにつれ、輝きと密度を増していった。


審判の顔が変わる。


「シグラン!」


シグランは見向きもしなかった。


「抑えている」


審判が厳しい声で言う。


「圧縮しすぎだ。解け」


シグランは答える。


「死にはしない」


「それを決めるのはお前ではない」


それでも、炎は掌に残った。


イザンは後ろへ下がろうとした。


足がまともに動かない。


シグランが動くよりも先に、熱が届いた。


黒きナツメヤシの園が、再び目の前へ現れる。


怪物の口。


自分の前に立つマルワン。


そして、あの時と同じ無力感が身体を閉ざす。


動け。


足は動かない。


動け!


シグランが踏み込んだ。


審判が叫ぶ。


「止まれ!」


だが、攻撃はすでに放たれていた。


     ◆


イザンは両腕を顔の前へ上げた。


正しい防御ではない。


カマンの障壁を作る力もない。


逃げ方も知らない。


炎が迫る。


熱が身体へ触れた――


その瞬間。


何かが起きた。


炎ではない。


水でもない。


光でも、闇でもなかった。


一瞬だけ、イザンの周囲の空気が震えた。


目で捉えきれないほど薄い透明な層が、皮膚へ密着する。


そして、危険を押し返すように外側へ広がった。


炎が衝突した。


熱はイザンの身体へすべて入ることなく、周囲へ弾け飛んだ。


土煙が舞い上がる。


審判が半歩下がった。


マヤが息を呑んだ。


何かを見た。


色は分からない。


完全な気配と呼べるものでもない。


それでも、確かに存在した。


ほんの一瞬。


そして消えた。


イザンは地面へ倒れた。


静寂が広がる。


シグランでさえ、その場に立ったまま、倒れた少年を見ていた。


掌の炎が消えていく。


審判がすぐに叫ぶ。


「救護班!」


だが、誰かが到着するより先に――


イザンの指が動いた。


咳き込む。


そして顔を上げた。


上衣の端は焼けている。


両腕には赤みが広がっていた。


だが、あの攻撃なら残るはずの火傷は、身体のどこにもなかった。


オースが言う。


「どうして……?」


アリアンは答えなかった。


イザンの皮膚を見つめ、目を細める。


マヤが小さく言った。


「何かが、彼を覆った」


近くの参加者が振り返る。


「何だって?」


だがマヤは答えなかった。


自分が何を見たのか、確信できていなかった。


高い席では、謎の男がわずかに身を前へ傾けた。


試合が始まって以来、初めて見せた明らかな動きだった。


     ◆


イザンは地面へ手をつき、身体を押し上げた。


両腕が震える。


一度目は失敗した。


もう一度試す。


膝をついた姿勢まで起きる。


そして、立とうとした。


シグランはその姿を見ていた。


顔に恐れはない。


不安もない。


浮かんでいるのは、退屈。


あるいは、退屈に見せようとしている何か。


「もういい」


審判は試合を止めるため、手を上げた。


だが、シグランは背を向ける。


審判が言う。


「どこへ行く?」


「棄権する」


観客席に激しいざわめきが走った。


審判が言う。


「試合はまだ終わっていない」


「もう興味がない」


シグランは背後のイザンを見る。


少年は、まだ両足を安定させようとしていた。


「俺は戦士と試されるために来た。地面に転がることを拒むだけの訓練袋を殴るためじゃない」


審判が言う。


「棄権すれば、規則上はお前の敗北になる」


シグランは一瞬、足を止めた。


振り返ることなく答える。


「好きに呼べ」


そして闘技場を出ていった。


     ◆


観客は、初め何が起きたのか理解できなかった。


やがて、ざわめきは抗議へ変わった。


審判は闘技場の中央に立つ。


遠ざかるシグランを見る。


次に、ついに立ち上がったイザンを見た。


身体はわずかに曲がっている。


呼吸も途切れていた。


それでも、円の中に立っていた。


審判が手を上げる。


「シグラン・ザランの棄権により――」


騒音の中で、声がわずかに揺れた。


そして宣言する。


「勝者、イザン・ファドゥース!」


拍手は届かなかった。


代わりに、拒絶が押し寄せた。


「そんなものは勝利じゃない!」


「シグランは負けていない!」


「一度も攻撃していない奴が、なぜ勝者なんだ!」


「試合をやり直せ!」


「そいつを闘技場から出せ!」


その声は、シグランの拳よりも強くイザンを打った。


円の中央に、一人で立っていた。


審判は勝ったと言った。


だが、誰一人として勝者を見る目を向けなかった。


規則の間違いを見るように。


ふさわしくない結果を奪った異物を見るように。


アイン・アルワールが戻ってきた。


砂漠の中ではない。


呪われた女の息子という言葉も聞こえない。


だが、視線は同じだった。


言葉だけが変わった。


ファドゥース。


余所者。


弱者。


勝っていない勝者。


イザンは顔を伏せた。


嬉しくなかった。


勝ったとも思えなかった。


ただ感じた。


自分がたどり着いた、この大きな世界も――


自分を拒む方法を知っているのだと。


高い来賓席では、謎の男がイザンを見続けていた。


拍手もしない。


抗議もしない。


そして、誰にも気づかれないうちに立ち上がり、立ち去った。


マヤだけは、その場に残ってイザンを見ていた。


審判が勝者と宣言した少年を見ていたのではない。


炎に焼かれるはずだったのに――


焼かれなかった少年を見ていた。

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