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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第五章 黒の帳編

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家族のもとへ

アルマズ隊が東の森から帰還して、四日が過ぎた。


その四日間、隊員たちは誰一人として訓練場へ足を踏み入れなかった。


ヤザンは肩の傷が安定し、長く立っているたびに襲ってきた目眩が収まるまで、治療棟に留められた。


シグランはその一日前に退室を許されたが、脇腹の傷が塞がるまで炎を使わないことが条件だった。


マヤは三人の中で最も負傷が軽かった。


それでも、ラカンは訓練への復帰を認めなかった。


肉体が知覚領域から抜け出したからといって、心まで同じ瞬間に戻ってくるとは限らない。


そう告げられたマヤは、反論しなかった。


五日目の朝、ラカンは彼女を自室へ呼び出した。


マヤが入った時、彼は窓辺に立っていた。


机の上には、タラインの印章が押された一通の書状が置かれている。


ラカンはそれを指した。


「一時間前に届いた」


マヤは机へ近づいたが、すぐには手を伸ばさなかった。


下に記された名を見るまでもなく、その印章を知っていた。


アリアン・タライン。


書状を開き、短い文面へ目を通す。


表情は変わらなかった。


だが、読み終えたあとも、指は紙の端を掴んだままだった。


ラカンが言う。


「お前の父親は、部隊の休暇中にタライン本邸へ戻るよう求めている」


マヤが顔を上げた。


「指揮部からの命令ですか?」


「違う」


ラカンはしばらく彼女を見た。


「お前は療養休暇中だ。俺には行くのを止める理由がない。だが、ここにいる誰にも、お前を無理に行かせる権利はない」


マヤの目が再び印章へ落ちる。


それを見ただけで、古い広間に満ちていた声が聞こえた。


声を張り上げる必要などない者たちの声。


――弱い。


――タラインの恥。


マヤは書状を閉じた。


「行きます」


ラカンは、本当にいいのかとは尋ねなかった。


机の引き出しを開け、外出許可証を取り出す。


「六日間だ。調査や任務への参加を求められた場合、動く前に命令書の写しを俺へ送らせろ」


マヤは少しためらってから尋ねた。


「何か起きると思っているんですか?」


「お前の父親は、戦闘報告を読んだあと、ただ夕食を共にするためだけにタライン本邸へ呼び戻すような男じゃない」


許可証へ署名し、彼女の前へ押し出す。


「だが、理由が分かるまでは、お前が向かうのは自分の家だ。戦場じゃない」


マヤは許可証を受け取った。


「時々、その違いはあまり大きくありません」


ラカンは彼女を見つめたままだった。


だが、マヤは見せたくないものまで見られる前に、背を向けた。


     *


タライン家の馬車は、学院の西門前で待っていた。


大きな旗は掲げられていない。


それでも、側面に刻まれた紋章だけで、学生や衛兵を道から退かせるには十分だった。


濃い青の円を囲む、交差した二つの波。


マヤは建物の階段に立っていた。


手にした鞄は、かつて暮らしていた家で六日を過ごすには小さすぎた。


隣にはヤザンがいる。


肩にはまだ包帯が巻かれ、顔色も完全には戻っていない。


治療官から毎朝少し歩くよう命じられた彼は、治療棟から歩くには長すぎる距離だと分かっていながら、マヤを門まで見送りに来た。


反対側にはシグランが立っている。


脇腹の包帯を外套で覆い、実際よりも軽傷に見せていた。


馬車を見て言う。


「迎えに馬車を一台寄越すとはな。タラインは、お前が道中で逃げ出すのを恐れているらしい」


マヤが答えた。


「前に一度、逃げたから」


ヤザンが彼女を見る。


冗談なのか判断できなかった。


シグランは尋ねようともしない。


「向こうがお前を帰さないつもりなら、戻る許可など待つな」


マヤが片方の眉を上げた。


「それが、私を寂しく思うっていうあなたなりの言い方?」


「この馬鹿を俺と二人きりにしたら、長くは生きられないと言っているだけだ」


ヤザンが彼を見る。


「逆だと思ってた」


「今のお前に、自分の状況について考える権利はない」


マヤの顔に、小さな笑みが浮かんだ。


だが、長くは続かなかった。


馬車が階段の下で止まり、扉が開く。


最初に降りてきたのはオスだった。


二十代半ば。


背が高く、姿勢はまっすぐで、衣服には本来あるべき場所以外に皺一つない。


人前へ出る前に、一歩ごとの動きを練習してきたかのように歩く男だった。


その目がマヤを捉える。


続いて、彼女の両側に立つ二人の少年へ移った。


表情に歓迎の色はない。


オスに続いて、アリアンが馬車を降りた。


将軍の鎧は身につけていない。


だが、長いタラインの外套には、指揮評議会の印章が肩元に留められていた。


足が地面へ触れた瞬間、西門の衛兵たちの背がさらに伸びる。


マヤが近づいた。


最初の数歩は速かった。


だが、周囲の視線を思い出すと、足を緩めた。


オスが言う。


「マヤ。ここは家の外だ」


マヤが止まる。


衣服の脇で、指がわずかに動いた。


続きを聞く前に、彼の意図を理解していた。


――将軍閣下。


だが、アリアンが片手を上げた。


「いい、オス」


娘を見る。


厳しさを帯びていた表情が、ほんのわずかに和らぐ。


「評議会の外でこの子の父親でいられないなら、その中で将軍でいる意味などない」


オスは答えなかった。


マヤは父親へ近づき、短く抱きついた。


そして、再会を喜ぶ気持ちが衛兵たちの見物する光景へ変わる前に離れる。


アリアンが言った。


「周囲の目を気にするほどには成長したが、私のもとへ走るのをやめられるほどには大人になっていないらしい」


「しばらく会ってなかったから」


「だから、私が自ら迎えに来た」


アリアンの目が、娘の後ろへ動く。


最初にシグランで止まった。


名を尋ねる必要はない。


続いてヤザンへ移る。


その視線は、わずかに長く留まった。


見覚えのない顔ではなかった。


アリアンの記憶が、二年前の入学試験の観客席へ戻る。


ケメンを持たない痩せた少年。


誰も勝者として出てくるとは思わなかった闘技場に、立っていた少年。


アリアンはマヤへ言った。


「二人を紹介してくれ」


マヤがシグランを示す。


「シグラン・ザラン」


シグランは、礼儀正しく一礼した。


「将軍閣下」


次に、マヤはヤザンへ向く。


「こちらは、ヤザン・ファドゥース」


アリアンが言った。


「覚えている。入学試験でザランの少年の前に立った者だ」


オスが短く鼻で笑った。


「前に立った? 棄権したのはザランの少年だ。こいつは訓練用の柱みたいに殴られていただけだろう」


マヤの笑みが消えた。


指が袖口を掴み、目が一瞬だけ下がる。


反論しようと口を開いた。


だが、言葉が出なかった。


ヤザンは、その指が震えたことに気づいた。


半歩進み、何も言わず、彼女を見もせず、その隣へ立つ。


シグランは顎を強張らせ、オスを睨んでいた。


アリアンが息子を見る。


「それでも、彼は立ち続けた」


オスは答えない。


アリアンが続けた。


「折れなかった者を笑うな」


沈黙が落ちた。


ヤザンはアリアンへ顔を上げた。


将軍の目に、同情はなかった。


過剰な賞賛もない。


そこにあったのは、起きたことへの単純な承認だけだった。


それが、嘲笑よりもヤザンを戸惑わせた。


「お会いできて光栄です、将軍閣下」


「再び立っている姿を見られて、私も嬉しい」


アリアンの目が肩の包帯へ落ち、再び顔へ戻る。


「ラカンの報告書は、短くなかった」


シグランが言う。


「ラカンは、短い報告書の書き方を知らない」


アリアンが彼を見る。


シグランは一瞬、その視線を受け止めた。


そして付け加える。


「――将軍閣下」


マヤは、また笑いそうになった。


アリアンが言う。


「どうやら、すべてを書いたわけでもなさそうだ」


オスが馬車の扉を開いた。


「出発するぞ」


マヤは二人の仲間へ振り返った。


ヤザンが言う。


「戻ってきた時、俺たちはここにいる」


遅れるなとは言わなかった。


本当に行きたいのかとも尋ねない。


ただ、彼女が必要としていた言葉だけを口にした。


シグランは言った。


「六日だ。七日目になれば、訓練から逃げたと見なす」


「私たち、訓練を禁じられてるでしょ」


「だから七日目を選んだ」


マヤは馬車へ乗り込んだ。


オスが扉を閉める直前、振り返る。


ヤザンとシグランは、まだ階段の前に立っていた。


同じ班にいる姿を想像することさえ難しいほど、異なる二人。


それでも今は、どちらも、もう一人がいなければどこか欠けて見えた。


扉が閉じる。


馬車が動き始めた。


     *


学院周辺の道は、馬車が内側の地区を抜けるまで混み合っていた。


マヤは父親の正面へ座っていた。


隣にはオスがいる。


顔を向けなくても、その背筋の伸び方が感じられるほど近い。


アリアンが言った。


「報告書は読んだ」


マヤは続きを待った。


「だが、ラカンが書かなかったことを聞きたい」


「ラカンは、すべて書きます」


「指揮官が必要とすることはな」


アリアンは少し身を乗り出した。


「私が聞いているのは、お前が何を見たかだ」


マヤは窓の外へ視線を向けた。


ゆっくりと話し始める。


部隊選抜試験のこと。


全員に、自らが隠していたものと向き合わせた封印のこと。


領域の中で現れたオスの顔が何を言ったのかは話さなかった。


だが、その瞬間へ近づくたび、膝の上に置いた手が動いた。


話は東の森へ移る。


洞窟。


カインの鎖。


イーラの恐怖。


ライの怒り。


そして、存在しなかったかのように距離を折り畳んだスカイ。


攻防を一撃ずつ語り直すことはしなかった。


すべてが変わった瞬間だけを話した。


アナスが、放たれる前に鎖の動きを見抜いたこと。


隊列が崩れかけた時、ラーイドが全員を支えたこと。


ワーイルが恐怖を抱えながら、自分の位置へ戻ったこと。


そしてアミールが、自分こそ最強だと証明しようとするのをやめた瞬間、正しい判断を下したこと。


アリアンは一度も遮らなかった。


やがて、シグランの話へ辿り着く。


「ザランの少年は?」


マヤが父を見る。


「シグランのこと?」


「ああ」


「とても強い」


答えは、彼女自身が思っていたより早く出た。


「炎が変わったの。以前は大きな力を放ってから、無理に抑え込もうとしてた。でも今は、外へ出す前に制御してる。周囲を全部焼かずに、青い炎を狭い範囲へ凝縮できる」


ライを捉えた拳を思い出す。


「本気で戦っている時は、近づくことさえ難しい」


アリアンは、その声に含まれたものを聞き逃さなかった。


「信頼しているのか?」


「戦場では? 命を預けられる」


少し間を置く。


「でも、時々、頭が岩より固い」


アリアンが眉を上げた。


「時々?」


マヤは思い浮かべた。


治療を拒むシグラン。


ヤザンを置き去りにしないよう、歩調を落とすシグラン。


心配していることを、侮辱へ変えなければ口にできないシグラン。


マヤは笑った。


「そうね……ほとんどいつも」


短い笑いだった。


だが、そのあともアリアンは娘を見ていた。


タライン家で暮らしていた頃、マヤはこれほど気楽には笑わなかった。


「いい言葉を口にすると、自分の評判が傷つくと思ってるの」


アリアンが言う。


「大きな家に生まれた者の中には、率直さを弱点として早くから学ぶ者もいる」


マヤはオスを見なかった。


だが、隣の沈黙が重くなった。


アリアンが再び尋ねる。


「もう一人の少年は?」


マヤが振り向く。


「ヤザン?」


「ああ」


マヤはしばらく黙った。


シグランについて話すのは難しくなかった。


彼の強さは目に見える。


炎も見える。


欠点さえ表面に立ち、隠れようとはしない。


だが、ヤザンが持つもののほとんどは、誰もが彼には何もないと思った瞬間に初めて現れる。


「今も、ケメンはない」


オスが反応した。


「今もケメンがないだと?」


鋭い目がマヤへ向く。


「それで、どうして帝国の特務部隊へ入れた?」


マヤは言葉を止めた。


膝の上で指を組み、幼い頃からアリアンが知っている小さな縮こまり方で、肩を狭める。


アリアンが片手を上げた。


「オス」


息子は黙った。


アリアンはマヤを見る。


「続けろ」


マヤはゆっくり息を吸う。


今度は目を上げた。


それでも、兄の顔は見なかった。


「どう説明すればいいか、分からない」


アリアンは待った。


「私たちが持っているものを、ヤザンは持ってない。でも、私たちに見えないものが見えてる。足や肩、視線の向きを見てるの。時には攻撃が始まる前から、どこから来るのか分かってる。それに、戦場にあるものを何でも使って、戦いの中に残ろうとする」


オスが言った。


「観察したところで、ケメンは止められない」


アリアンは息子を見ずに、一言だけ発した。


「オス」


オスは口を閉ざした。


マヤが続ける。


「ヤザンは強い……痛みを感じないからじゃない」


再び開いた肩の傷。


シグランの腕の中へ崩れ落ちた姿。


「痛くても、また立ち上がるから。私たちと同じように怖がる。たぶん、私たちよりずっと怖い。それでも、恐怖に自分の代わりを決めさせない」


組んでいた指が、ゆっくりとほどけた。


「それに、優しすぎるの。頼まれてもいないのに割って入って、誰かの代わりに攻撃を受ける。それから、自分がしたことなんて何でもないみたいな顔をする」


アリアンが尋ねた。


「それだけで、お前たちの一人になれるのか?」


マヤはまっすぐ父を見た。


「ヤザンがいるだけで、私たちは一つの班だと思える。三人がそれぞれ一人で生き残ろうとしているんじゃなくて」


車輪が石を擦る音だけが、馬車の中に響いた。


アリアンが尋ねる。


「彼を信頼しているか?」


今度は、迷わなかった。


「うん」


オスが妹を見る。


その目にあるのは、怒りだけではなかった。


理解できないという色が混じっていた。


以前なら自分の言葉一つで俯いていた少女が、今はケメンを持たない少年について、タラインの術では測れない力に等しいものとして語っている。


アリアンは窓の外へ目を戻した。


入学試験の円が、記憶に蘇る。


観客席から勝利を拒まれた少年。


その少年が今では、戦場で娘が信頼する存在になっている。


アリアンは小さく呟いた。


「ヤザン・ファドゥース……」


オスが尋ねる。


「何か知っているのですか?」


アリアンは外を見たまま答えた。


「入学試験で見たことは知っている」


そして続ける。


「今は、マヤが見たものも知った」


     *


夕暮れが近づく頃、タライン本邸が姿を現した。


地上へそびえる宮殿というより、水を中心に築かれた建物だった。


白い壁の間を水路が走り、澄んだ流れの上には細い石橋が架けられている。


水はそのまま、内側の中庭へ続いていた。


窓は高く、柱は淡い青。


どこへ立っても、止まることのない水の音が聞こえる。


場所は、ほとんど変わっていなかった。


マヤの目より先に、身体がそれを理解した。


馬車が外門を通過した瞬間、肩がまっすぐになる。


両手が膝の上へ揃えられ、道中で見せた笑みは消えていた。


アリアンは気づいた。


オスも気づいた。


だが、何も言わなかった。


馬車を降りると、入口の両側に並ぶ使用人たちが頭を下げた。


マヤの目が、その顔を追う。


知っている者もいる。


知らない者もいる。


だが、彼女を見る目は変わっていなかった。


家を出た将軍の娘。


オスの妹。


彼らが望んだ水とは違っていた少女。


アリアンが言う。


「母親が奥の居住棟で待っている」


マヤの胸に、温かいものが動いた。


だが、アリアンは家族の部屋へ続く階段には向かわなかった。


横の回廊へ進む。


「その前に、お前を呼んだ別の理由がある」


マヤとオスは、そのあとに続いた。


回廊の先にあったのは、水路記録室だった。


円形の部屋。


中央には石造りの卓があり、その表面には水路と港を結ぶ網が刻まれている。


壁には厚い記録簿が、封じられた窪みの中へ並べられていた。


二人のタライン家の担当官が、卓のそばに立っていた。


アリアンが入ると、二人は頭を下げる。


一人が言った。


「原本が三十分前に到着しました、閣下」


開かれた記録簿を、彼の前へ置く。


アリアンはマヤを見た。


「評議会が終わったあとに届いた報告だ。タラインの管理下にある小さな港が、昨夜、通行命令なしに使用された」


マヤが近づく。


担当官が、刻まれた線の一つを指した。


「真夜中を過ぎてから、一隻の船が内側の船溜まりへ入り、夜明け前に出ています。交易記録に船名はなく、通行料も積荷目録も残されていません」


オスが言う。


「港の責任者を拘束しろ」


「監視下に置いている」


アリアンが答えた。


「今拘束すれば、関わった者すべてに、経路の発覚を知らせることになる」


記録簿を見る。


「タラインの正式な帳簿には存在しない商会を通じて、金が動いている。港から未特定の地点へ、暗号化された書状も送られていた」


マヤが尋ねた。


「黒の帳と関係があると思ってるの?」


「誰かがタラインの水を使い、誰にも見られず移動したとは考えている」


別のページを示す。


「だが、問題はここだ」


マヤはさらに近づいた。


そこには内側の水門の記録が残されていた。


水圧の測定値。


水位が上昇し、下降した時刻。


そして、動きを記録せずには水門を開けられないようにする封印の状態。


担当官が言う。


「記録では、水門は一晩中閉じられていました」


オスが言った。


「なら、船はそこを通っていない」


アリアンが答える。


「内壁に残された水の痕跡が、通過したことを証明している」


沈黙が落ちる。


オスが記録簿を見直した。


「封印を破り、元に戻したのか」


担当官は首を横に振る。


「三度調べました。破壊された痕跡はありません」


オスの目が父へ向く。


「封印の専門家がいるはずです。なぜマヤを呼んだのですか?」


アリアンの表情は変わらなかった。


「専門家たちは、封印を見た」


そして娘を見る。


「この子は、術が通る道を見た」


マヤは、その意味を理解した。


アリアンが尋ねる。


「イーラの領域を止めた時、何をした?」


「領域そのものは壊さなかった」


水の線の一つへ指を置く。


「湿気と私たちの間にあった道を断った」


「測定値を見ろ」


マヤは記録簿へ身を屈めた。


一定の間隔で数字が並んでいる。


水路の圧力。


船溜まりの水位。


封印の反応。


一度、読む。


そして、もう一度読み直す。


指が四つの連続した行を移動した。


「この測定値、全部同じ」


担当官が言う。


「水門が動かなかったためです」


マヤは首を横に振った。


「動かなくても、水がこんなふうに同じ状態を保つことはない。流れはわずかでも変化する。ここで船溜まりの水位が上がってるのに、封印の内側の圧力は変わってない」


オスは、彼女が示す場所へ目を向けた。


マヤが続ける。


「封印は作動してた」


父へ目を上げる。


「でも、水門の水を見てなかった」


担当官の目が細くなる。


「どういう意味ですか?」


マヤは、主水路から離れて延びる細い線を指で辿った。


「封印が読み取る水を隔離して、脇の貯水槽から一定の流れを送り込んだとしたら、実際には水門が開いていても、封印は閉じたままだと記録し続ける」


オスが言う。


「この水路は、何年も前に閉鎖されている」


「地図の上ではね」


マヤは、記録の端にある二つの数値の小さな差を示した。


「でも、あの夜、ここから何かが水を引いてる。この低下は、主水路で起きたものじゃない」


二人の担当官は黙った。


アリアンがページを取り、二つの線を自ら比べる。


マヤが言った。


「封印を騙したんじゃない」


視線が、脇の水路へ止まる。


「間違った道を見させたの」


アリアンは娘を見た。


笑みは浮かばない。


だが、その顔にあった厳しさが変わっていた。


オスが言う。


「一つの推測だけでは、船がそこを通った証明にはならない」


マヤが彼を見る。


視線が重なった瞬間、指が縮こまった。


喉の中で、言葉が一瞬止まる。


また、あの声が聞こえるのを待ってしまった。


――弱い。


――タラインの恥。


だが、今度は頭の中の声ではない。


兄は現実に、目の前へ立っていた。


マヤはゆっくり息を吸う。


「壁に残った水の痕跡が、船の通過を証明してる」


記録簿を示した。


「これは、どうやって隠したのかを証明してる」


オスが言う。


「イーラと一度戦っただけで、タラインの専門家にも分からなかったものが、お前には分かると?」


水路を流れる音が低くなった。


あるいは、マヤにそう聞こえただけかもしれない。


それでも、俯かなかった。


「私のほうが、専門家より理解してるとは言ってない」


異なる数値の上へ指を置いた。


「専門家たちが、違う場所を見てたって言ったの」


オスの顔に、何かが動いた。


完全な怒りではない。


受け入れたわけでもない。


だが、初めて彼は、すぐに投げつけられる言葉を見つけられなかった。


アリアンが担当官へ尋ねる。


「脇の水路の存在を知る者は?」


男が小さな記録簿を開いた。


「現在の権限では、四名です」


「名前を」


担当官は一人ずつ読み上げた。


港の責任者。


封印管理官。


水路記録官。


そして、下層水路への立ち入り権限を今も持つ、かつての監督官。


アリアンが尋ねる。


「居場所は?」


「最初の三名は、報告が到着してから監視下にあります」


担当官は言葉を止めた。


アリアンは、その間を気に入らなかった。


「四人目は?」


担当官が目を伏せる。


「船が通過した夜に、姿を消しました」


誰も動かなかった。


オスが言う。


「今すぐ追うべきです」


「駄目だ」


アリアンの返答は断固としていた。


息子が彼を見る。


「逃げたのなら、金を払った者のもとへ向かうかもしれません」


「連れ去られたのなら、お前が追えば、連れ去った者が選んだ場所へ導かれる」


アリアンは記録簿を閉じた。


「港は閉鎖するな。衛兵の数も変えるな。証人を公然と呼び出すことも禁じる」


担当官たちへ向く。


「四人の家族と連絡相手を監視しろ。タラインの管轄から出ようとする者がいても止めるな。どこへ向かうのかだけ、私へ知らせろ」


二人は頭を下げた。


「承知しました」


オスが言う。


「港の調査は、私が指揮します」


「お前は私と来い」


アリアンはマヤを見る。


「お前もだ」


オスが異を唱えた。


「彼女は療養休暇中です。調査官ではありません」


「だから、ラカンの許可が届くまでは動かさない」


アリアンは記録簿へ手を置く。


「だが、報告が到着してから我々の者が見抜けなかったものを、この子は数分で見つけた」


オスは顎を強張らせたが、何も言わなかった。


マヤは、卓上に刻まれた地図を見つめた。


かつて出ていった家へ戻ると、水は今も同じ水路を流れていた。


だが、誰かが、その水へ別の方角を見せる方法を学んでいた。


アリアンが言う。


「明日、港へ向かう」


マヤは顔を上げた。


今、彼女が恐れているのは、タライン家の内側で待つものだけではなかった。


誰にも見られずに、そこから外へ出たものだった。


     *


帝都の反対側では、ヤザンとシグランが治療棟を出る頃、夜が下り始めていた。


治療官は二人の包帯を替え終えると、ヤザンへ学院の宿舎にまっすぐ戻るよう命じた。


シグランは途中まで同じ道を歩いた。


なぜ自分も同じ方向へ向かうのか説明しなかった。


ヤザンも尋ねない。


二人は、ほとんど言葉を交わさなかった。


ヤザンは肩をかばいながらゆっくり歩いている。


シグランは、彼のためにしているとは認めないまま、歩調を緩めていた。


やがて、シグランが突然立ち止まった。


ヤザンは二歩進んでから、それに気づく。


振り返った。


「どうして止まった?」


シグランは、何でもないことのように聞こえる声で答えた。


「家に着いた」


ヤザンは顔を上げた。


高い塀に囲まれた巨大な屋敷が、目の前にそびえている。


門の上には、ザラン家の旗が垂れていた。


皇宮ほどではない。


それでも、疲れていたヤザンが思わず姿勢を正すほどの威厳があった。


「ここが……お前の家?」


「小屋でも想像していたのか?」


「こんなに大きいとは思ってなかった」


シグランは門へ向かいかけた。


だが、足を止めてヤザンを振り返る。


「お前は、どこへ行く?」


「学院の宿舎」


シグランは、ヤザンの後ろへ延びる道を見た。


次に、肩へ巻かれた包帯へ視線を移す。


口を開く。


「お前も……」


言葉が止まった。


顔を門へ向ける。


「何でもない」


ヤザンは少し待った。


「またな」


数歩、遠ざかる。


その時、反対側の木々の向こうに、もう一つの館が見えた。


シグランの家と同じほど大きい。


だが、深い静寂に沈んでいた。


窓はすべて閉ざされ、庭は乾き、門の上に旗もない。


ヤザンは足を緩めた。


朽ち始めているにもかかわらず、そこへ残り続ける威厳を不思議に思い、しばらく見つめた。


だが、何も尋ねず、再び歩き出した。


シグランの目は、荒れた館へ止まっていた。


古い記憶が蘇る。


あの頃の彼は、リンに追いつけないほど幼かった。


庭の木々の間を走る姉のあとを追いながら、叫んでいた。


「姉上! 待って!」


リンが笑いながら振り返る。


「もっと速く走りなさい、シグラン!」


追いつこうとしたシグランは、その日初めて荒れた館を目にし、足を止めた。


「この家は、誰のもの?」


リンの笑みが消えた。


閉ざされた窓を見つめ、答える。


「アルマザの創設者、賢者ハルーンが建てた館よ。その後も、ザラン家の中に残された」


「誰が住んでたの?」


リンは少し黙った。


「私たちの叔父上。ライスよ」


シグランの目が大きく開く。


「叔父上がいたの?」


「お父様より前の、最高司令官だった」


幼いシグランは、館を見つめた。


「強かった?」


リンの目から、涙が一粒だけ落ちた。


見られる前に拭ったが、シグランは見ていた。


「アルマザが生んだ、最も強い人だった」


シグランは黙り込んだ。


父より強い男の存在を知ったのは、それが初めてだった。


「今はどこにいるの?」


リンは顔を逸らした。


「ずっと前に亡くなったわ」


「知ってたの?」


「ええ」


「どうして死んだの?」


リンはシグランの手を掴んだ。


「家へ戻りましょう、シグラン」


「でも――」


「戻ると言ったの」


シグランは現在へ戻った。


視線は、まだ館に向けられている。


ヤザンはすでに、学院へ続く道を遠ざかっていた。


シグランはその背中を見た。


それから、ライスの館の暗い窓へ目を戻す。


なぜその瞬間、二つを結びつけたのかは分からなかった。


ヤザンが歩みを進めるあいだ、館はその背後で沈黙を守っていた。


まるで、見知らぬはずの少年を知っていたかのように。

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