勢力図
最高評議会の扉が閉ざされると、外から届いていた宮殿の物音が、最後の一つまで途絶えた。
扉の向こうでは、二列の帝国近衛兵が回廊に沿って並んでいる。
全身を戦装束で固め、誰一人として表情を動かさない。
その数だけで、宮殿の一棟を守り切れるほどだった。
だが、議場の中に衛兵は必要なかった。
長い卓を囲む男たちは、誰もが一人で戦局を変え得る力を持っていた。
壁には祝典の旗も、宮廷が外国の使節へ見せつけるために掲げる古い征服地図もない。
これは、アルマザの力を誇示するための会議ではなかった。
敵がどのようにして誰にも気づかれず、その国境内を動いたのか。
それを突き止めるための会議だった。
議場の上座には、皇帝アル・デズィリが座っていた。
身にまとった暗色の衣に飾りはなく、肩に留められた帝国の印章だけが、その身分を示している。
その右隣には、ハーマンがいた。
最高司令官は武器を持たず、鎧も身につけていない。
両手を卓上へ置き、椅子に静かに座っていた。
議場を満たす緊張さえ、彼の前で足を止め、それ以上近づけずにいるかのようだった。
将軍たちは、それぞれの氏族に割り当てられた席へ着いていた。
アクバ・オーラスン。
アリアン・タライン。
イーディル・ザファラン。
ガルス・ジャルジャルン。
ズィアン・サーラン。
アクセル・イヴァルセン。
ナイル・ディヤーラン。
そして、グスカンの席にはカーヒルが座っていた。
その席だけが、どこか違って見えた。
座っている男のせいではない。
もう、そこにいない男のせいだった。
シャミルは自らその席を手放し、光の向きが変わった時に消える影のように、評議会から離れていった。
それ以来、シャミルほどの力を持つ男が、他の者たちが競って手に入れようとする地位をなぜ捨てたのか、ハーマンへ公然と尋ねる者はいなかった。
監察官ダリウスは、長卓の反対側に立っていた。
その前には東部国境の大きな地図が広げられ、四隅を黒い重石で押さえられている。
深い森の中央には、赤い印が一つだけ置かれていた。
洞窟。
皇帝はしばらく、その印を見つめていた。
やがて口を開く。
「始めろ」
ダリウスは、目の前に積まれた書類を開く必要さえなかった。
「アルマズ隊は、報告書に記された地点へ到着しました。洞窟は到着直前に放棄されており、アズロンとスカイの姿はありませんでした。しかし現地で、ティズーラおよび東部国境の記録に残る手配犯の特徴と一致する三名に遭遇しています」
赤い印のそばへ、三枚の小さな札を置く。
「ライ。カイン・グリーン。そして、イーラ・グリーンです」
ガルス・ジャルジャルンが顔を上げた。
「グリーン兄妹か?」
「はい」
ダリウスの指が地図の上を動く。
「カインは鎖のケメンを使って部隊を分断し、各隊員を孤立させました。イーラは周囲の湿気を媒介とする知覚領域を展開し、標的の内側にある恐怖を引き出して、精神と肉体を縛る力へ変えています」
アリアンの目がイーラの名で止まった。
だが、何も言わない。
ダリウスは続けた。
「領域は複数の隊員を一時的に拘束しましたが、部隊の崩壊には至りませんでした。ラカンが隊列を立て直し、学生のマヤ・タラインが術の媒介を見抜いて、効果を運ぶ湿気の流れを断っています」
ナイル・ディヤーランが地図から目を上げた。
「術中にいながら、その仕組みを見抜いたのか?」
「はい」
ナイルの表情は変わらなかった。
だが、その視線が一瞬だけアリアンへ向けられた。
アリアンは報告書を見つめたまま、誰もが待っている反応を見せなかった。
ダリウスが続ける。
「ライはシグランを狙って攻撃を集中させました。戦況がこちらへ傾き始めた時点でスカイが介入し、空間を折り畳む術によって三名を現場から離脱させています」
皇帝が尋ねた。
「移動先を追跡したか?」
「試みました。しかしスカイは方向も、持続する歪みも、追跡可能なケメンの痕跡も残していません」
沈黙が落ちた。
アクバ・オーラスンが、地図の上にある石片を一つ動かす。
「では、任務は失敗したということか」
ダリウスは否定しなかった。
だが、ハーマンが答えた。
「捕縛という目標には失敗した」
全員の視線が、最高司令官へ向く。
声は低く、静かだった。
それでも、議場の隅まで明瞭に届いた。
「部隊は敵が選んだ土地へ入り、足止めのために配置された三人の犯罪者と交戦し、彼らを逃がすためにスカイ本人を引きずり出した」
ハーマンがアクバを見る。
「目標を達成できなかったことを、勝利とは呼ばない」
そして続けた。
「だが、それだけが今回起きたことではない」
アクセル・イヴァルセンが言う。
「ラカンが率いる実戦部隊とはいえ、構成員の大半は学生だ。その部隊が黒の帳の創設者の一人を直接介入させた。この結果は無視できない」
ガルスが指先で卓を一度叩いた。
「奴が我々の作戦圏へ入り、帝国部隊の手から三人の手配犯を奪い、そのまま消えたことも無視できん」
カーヒルが静かに言った。
「問題は、三人を連れ出せたことではない」
ガルスが彼を見る。
カーヒルは続けた。
「いつ連れ出す必要があるか、あらかじめ知っていたことだ」
その言葉が卓上へ沈んだ。
皇帝は再び赤い印へ目を向けた。
「洞窟が放棄されてから、部隊が到着するまでの時間は?」
ダリウスが答える。
「正確には特定できません。最も近い推定では、二時間未満です」
「作戦情報を知っていた者は?」
「指揮部、部隊長としてのラカン、そして特別任務局に限られています」
イーディル・ザファランが言った。
「東部の街道に監視役を置いていた可能性は?」
「ラカンは経路を二度変更しています。各監視所からも、追跡者や遠距離の合図は確認されていません」
ガルスが言う。
「ならば部隊が動き出す前から、情報は洞窟へ届いていた」
誰も答えなかった。
この場に、「内部侵入」という言葉を聞かなければ意味を理解できない者はいなかった。
皇帝が背もたれへ身体を預ける。
「アズロンとは何者だ?」
ダリウスの指が書類の上で止まった。
将軍たちの何人かが、報告を待って彼へ視線を向ける。
だが、答えたのはハーマンだった。
「アズロン・アル=マーヒ」
一瞬、誰も動かなかった。
やがてアクバの目が細くなり、イーディルが椅子の上で身を起こす。
ガルスは、忘れていた記憶を呼び覚まされたように顔を上げた。
アクセルが言う。
「アル=マーヒ?」
アリアンの声は、それよりも静かだった。
「スティランの反逆者か?」
ハーマンは地図を見たまま答えた。
「その男だ」
ガルスが言う。
「死んだと聞いていた」
ハーマンが彼を見る。
「消えたと記録されていた」
短い沈黙のあと、続ける。
「死には死体が必要だ」
その声に脅しも皮肉もなかった。
長年積み上げられた憶測を閉じる、ただの事実だった。
ハーマンがダリウスへ合図する。
監察官は地図の横に置かれていた革布を取り払い、二枚の薄い板を露わにした。
一枚目には、火災の煙から抜け出してきたような鋭い顔つきの男が描かれていた。
二枚目には、目まで届かない小さな笑みを浮かべた、より穏やかな顔がある。
アズロン。
スカイ。
ハーマンが言った。
「アズロンは、スティランの記録に残る反逆者の中でも最も危険な一人だった。反乱組織が崩壊したあと、記録から姿を消し、その後は複数の国で起きた無関係に見える事件に痕跡を残している」
地図の端に点在する地点へ、指を置いていく。
「内側から開かれた牢獄。刑の執行直前に消えた犯罪者。使い手ごと奪われた希少な術。そのたびに、事件は個別のものとして処理された」
アクバが身を乗り出した。
「お前は、それらを結びつけた」
「スカイがラカンの部隊の前へ姿を現してからだ」
ハーマンの目が、二枚目の肖像へ移る。
「ここ数か月で、アズロンの動きは加速している。勧誘活動は倍増し、希少な術の使い手が複数姿を消した。さらに、いくつもの国境付近で部下の痕跡が確認されている」
ナイルが言う。
「つまり、黒の帳が活動を始めたのは今ではない」
「違う」
ハーマンが答えた。
「今始まったのは、影の中で集めた力を実際に使う段階への移行だ」
誰も動かなかった。
最高司令官は続ける。
「アズロンは、スカイと共に黒の帳を作った。スカイはただの部下でも、移動のための道具でもない。奴は最初の協力者であり、組織を複数の国へ広げることを可能にした男だ」
イーディルが尋ねる。
「出自は? 我々の記録には該当する名がない」
「お前たちが調べたのは、現在の記録だからだ」
ハーマンが彼を見る。
「スカイはティズーラの出身だ」
今度は、驚きが完全な沈黙には収まらなかった。
複数の声が同時に上がりかける。
だが、皇帝が指を一本上げただけで、囁きは消えた。
アリアンが言う。
「ティズーラは、空間を折り畳める使い手の存在を否定している」
「現在も存在していることは否定した」
ハーマンの目は、描かれたスカイの顔へ向けられていた。
「だが、古い記録では別の名で知られていた」
全員が次の言葉を待つ。
ハーマンが告げた。
「予言の少年」
暖炉の中で薪が弾けた。
小さな音だった。
だが、その呼び名のあとに訪れた沈黙の中では、ひどく大きく響いた。
やがてアクセルが口を開く。
「何の予言だ?」
ハーマンはためらわず答えた。
「分からない」
「ならば、ティズーラが消した名を、なぜアルマザが知っている?」
ハーマンの目が彼へ向く。
「ティズーラは自国の記録を消した」
一度、言葉を切る。
「だが、封鎖される前に国外へ出た写しまで消せたわけではない」
それ以上の説明は必要なかった。
アリアンが尋ねる。
「我々の手元に残った記録には、何が書かれている?」
「監視下に置かれた子供についての記述。そして、ティズーラの最高権力者の命令によって封印された事件。そのあと、子供の名は消され、呼び名だけが残った」
ガルスが言う。
「そして、アズロンの隣に現れた」
「あるいは、アズロンが奴の隣に現れた」
ハーマンは、それ以上説明しなかった。
だが、彼が残した沈黙は、どんな説明よりも不穏だった。
ズィアン・サーランは身じろぎもせず、皇帝の右側に座る男を見つめていた。
彼を不快にさせたのは、情報そのものだけではない。
ハーマンが、それを彼らの前へ並べていく方法だった。
埋もれたと思われていた名。
一国の歴史から消された協力者。
国境を越えて動きながら、その犯罪を各国に別々の事件として処理させていた組織。
――厄介だ。
それこそが、この男を恐ろしくしている。
ハーマンは、声を張り上げたり力を見せつけたりするから、この議場で最も強い男なのではない。
他の者たちが疑問の存在に気づく前から、答えを握っているからだ。
皇帝が尋ねた。
「黒の帳の目的は?」
「力です」
ハーマンが答えた。
アクバが眉を寄せる。
「反逆者は誰もが力を求める」
「アズロンが集めているのは、領土でも金でもない」
ハーマンは地図上の離れた地点へ指を置いた。
東部国境。
スティラン。
ティズーラ。
そして、アルマザ。
「希少な術の使い手。自国に居場所を失った犯罪者。従来の防衛を越えられるケメンの使い手。そして、訓練では作り出せない何かを血に宿す一族だ」
カーヒルが言う。
「軍を作っているわけではない」
ハーマンが彼を見る。
「鍵を集めている」
皇帝が尋ねた。
「何の扉を開く鍵だ?」
「それは、まだ分かっていません」
ハーマンは情報の空白を隠そうとしなかった。
危険を小さく見せるための偽りの名を与えることもしない。
アリアンが言った。
「では、シグランを狙ったのは復讐ではない」
ダリウスが答える。
「ライは復讐に突き動かされていました。しかし、作戦を立てたのは彼ではありません」
アリアンが続けた。
「アズロンは、別の理由でシグランを選んだ」
全員の視線がハーマンへ集まる。
その表情は変わらない。
皇帝が言った。
「ザラン家の血か」
ハーマンはすぐには答えなかった。
やがて口を開く。
「奴らは、そう考えている可能性が高い」
ズィアンは、その短い間を見逃さなかった。
だが、ハーマンが何を隠しているのかまでは読めなかった。
アクバが言う。
「黒の帳が希少な血統を集めているのなら、シグランを実戦部隊の中へ置くことは、奴らに二度目の機会を与えることになる」
ガルスが続ける。
「アルマズ隊から外し、敵の狙いが判明するまで宮殿内へ置くべきだ」
ハーマンが彼を見る。
「宮殿は檻ではない」
「守れる場所ではある」
「監視もしやすい場所だ」
ガルスの声に鋭さが混じった。
「お前の息子だぞ」
ハーマンは動かなかった。
答える声も大きくはない。
だが、そのあとガルスが言葉を挟むことはなかった。
「この議場にいる間、シグランは帝国部隊の一員だ」
ハーマンは皇帝へ向き直る。
「敵は彼を囮として選んだ。今ここで前線から外せば、標的が正しかったと敵へ教えることになる。さらに、守るためのすべての動きが、読み取れる合図に変わる」
皇帝が尋ねた。
「無防備のまま置くつもりか?」
「いいえ」
断ち切るような一言だった。
「本人にも部隊にも詳細を知らせていない護衛を置いてあります。その護衛は同じ経路を通らず、同じ系統から命令も受けません」
ハーマンの手が地図の上に置かれる。
「ですが、敵に見られるたびに隠れることが生存だと、息子へ教えるつもりもありません」
皇帝は長いあいだ彼を見つめた。
そして告げる。
「シグランはアルマズ隊に残す」
異を唱える者はいなかった。
ダリウスが小箱から黒い駒を取り出し、東の森から延びる街道へ配置した。
「黒の帳の構成員が通常の手段で地域を離れる場合、最も使用する可能性が高いのはこの三経路です。一方、ティズーラとスティランへ通じる経路は、目立つ規模の兵力を動かさずに封鎖できる数ではありません」
ズィアンが自分の席の前に置かれた駒へ手を伸ばした。
サーランの紋章が刻まれた一つを東部街道へ置く。
「高速展開部隊を二隊送る。一隊はスティランへ続く道を断ち、もう一隊はティズーラ方面の経路へ向かわせる」
さらに二つの駒を置いた。
「両隊の報告は俺へ直接届かせる。標的が現れた場合、指揮部の手続きを一巡するのを待たず追跡命令を出す」
ガルスが、ズィアンの置いた駒を見る。
「一つ目の街道は、俺の軍が防衛を担う地域を通る」
ズィアンが答えた。
「だからこそ、俺の兵ならお前の兵より早く通過できる」
ガルスは声を荒らげなかった。
だが、ジャルジャルンの紋章が刻まれた駒を握り、サーランの駒の上へ置いた。
道からわずかに押し退ける。
「速さは、俺の作戦圏で命令する権限を与えない。その地域へ入る部隊は、現地指揮系統に従う」
ズィアンの目が細くなった。
「街道を通るたびに新しい許可が必要なら、お前が指揮権の境界を守り終える前に、アズロンはアルマザから消える」
アクバが言う。
「サーランに追跡と逮捕、報告のすべてを握らせれば安全になるとでも?」
オーラスンの紋章が刻まれた駒を、補給路の近くへ置く。
「複数の部隊を動かすなら、補給と包囲は俺の兵が担う。安定した補給線なしに続く追跡などない」
イーディルが言った。
「閉じる場所が分からなければ、包囲に意味はない」
ザファランの駒を森の北端へ置く。
「偵察が先だ。俺の兵が外側から街道を監視し、すべての現地報告は配布前に俺の指揮所を通す」
アクセル・イヴァルセンが、自分の前にある駒を持ち上げた。
「報告がお前へ届く頃には、スカイが全員を北へ運んでいるかもしれん」
遠方の経路へ駒を置く。
「北部の通行路を直ちに封鎖し、現地の兵を一つの指揮系統へまとめる」
イーディルが言う。
「お前の指揮下へか?」
アクセルは冷たく答えた。
「地域を知る者の指揮下へだ」
ナイルも沈黙を破った。
ディヤーランの紋章が刻まれた駒を、帝都へ続く街道の近くへ置く。
「内部から情報が漏れているのなら、作戦終了まで、アルマザへ入る命令書と報告書はすべて検査する。帝都周辺の街道と通信の警備は、俺の兵へ移すべきだ」
ズィアンが言った。
「将軍たちの書簡を、お前が握るつもりか?」
「アズロンへ届くのを防ぐつもりだ」
「その二つの違いを決めるのは、手紙を開く者だろう?」
ナイルは視線を逸らさなかった。
「誰かに命令書を読まれることを、敵に読まれることより恐れているのなら、問題は俺の提案にはない」
議場の空気が変わった。
誰も叫ばない。
席を立つ者もいない。
だが、駒は動き続けた。
東部街道にはサーラン。
内側の経路にはジャルジャルン。
補給線にはオーラスン。
偵察地点にはザファラン。
北部の通行路にはイヴァルセン。
そして、帝都の周囲にはディヤーラン。
始まりは、洞窟を示す赤い印一つだった。
今や、氏族の紋章がその印を覆い隠そうとしている。
どの提案にも、軍事的な根拠があった。
そして、どの提案も、その提案者へより多くの土地と情報、権限を与えるものだった。
駒へ手を伸ばさなかったのは、アリアン・タラインとカーヒル・グスカンだけだった。
アリアンは静かに座り、地図上の印よりも、それを動かす手を見ていた。
カーヒルは椅子へ深く身を沈めたまま、背後に落ちる影だけが、この議場で地図の一部を欲しがっていないもののように見えた。
皇帝は議論を止めなかった。
ハーマンも介入しない。
目の前で起きていることさえ、報告の一部であるかのように、積み重なる駒を見つめていた。
ガルスが言う。
「俺の兵を立ち会わせずに、サーランの部隊がジャルジャルンの地域で逮捕を行うことは認めん」
ズィアンが返す。
「お前が自分の所有物だと思っている街道に俺の旗が立つのを恐れたせいで、黒の帳を逃がすつもりはない」
ガルスの視線が動く。
「アルマザの街道は、俺の所有物ではない」
そこで初めて、アリアンが口を開いた。
「だが、許可なく他の者が通ることは望んでいない」
駒を動かしていた手が止まった。
水の将軍は声を張っていない。
その必要もなかった。
全員の視線が彼へ向く。
アリアンは地図の中央を示した。
「始まりは、敵を示す印一つだった」
氏族の駒で覆われた道を目で追う。
「今では、いずれかの氏族の紋章が置かれていない場所を探すほうが難しい」
ズィアンが言う。
「責任を分担しているだけだ」
アリアンは彼を見る。
「責任だけなら、なぜ全員が自分の境界から始まり、自分の兵を通り、自分のもとへ最初に報告が届く形にこだわる?」
ズィアンは答えなかった。
アリアンは、重なり合う駒へ視線を戻す。
「ここで出された提案には、すべて軍事的な価値がある」
将軍たちを順に見た。
「そしてすべて、追跡が終わったあとにも残る権限を、提案者へ与える」
アクバが言う。
「権限の配分が気に入らないという理由で、街道を開けたままにしろと?」
「防衛計画と呼ぶ前に、自分たちが何をしているか認めろと言っている」
短い沈黙が落ちた。
そこへ、カーヒルの声が響く。
「これは追跡の地図ではない」
椅子から身を起こすことも、特定の将軍を見ることもしなかった。
「勢力図だ」
誰も否定しなかった。
地図そのものが、彼の言葉を証明していた。
カーヒルは、わずかに首を傾ける。
「敵は、お前たちの権限の隙間から入り込んだ。この評議会が、その隙間へさらに新しい境界を加えるだけで終わるなら、次は何かを破る必要すらない」
ズィアンの目が細くなる。
「兵を一人も地図へ置かない者なら、批判は簡単だ」
カーヒルが彼を見る。
「欲しいのが地図の上の土地なら、兵を置くのも簡単だ」
ズィアンの目が凍りつく。
彼が答える前に、ハーマンが動いた。
最高司令官は、ズィアンが最初に置いた駒へ手を伸ばした。
地図から持ち上げる。
続いて、ガルスの駒。
アクバ。
イーディル。
アクセル。
ナイル。
一つずつ、氏族の紋章が街道の上から消えていった。
止めようとする将軍はいない。
すべてを取り除いたあと、地図に残ったのは洞窟を示す赤い印と、ダリウスが置いた黒い駒だけだった。
ハーマンが言う。
「黒の帳は、お前たちの間にある隙間から入った」
静かで、重い声が議場を進む。
「その追跡を権力争いへ変えれば、お前たちは奴らのために新しい隙間を作ることになる」
将軍たちを一人ずつ見据えた。
「この作戦を、一つの氏族には任せない」
ズィアンを見る。
「情報、追跡、逮捕のすべてを、一つの組織へ与えることもない」
次にガルスへ向く。
「現地の指揮権は尊重する。だが、それを帝国部隊の前に閉ざされた扉にはさせない」
そして、アクバ、イーディル、アクセル、ナイルへ視線を移した。
「各部隊は、作戦の一部だけを担う。誰にも地図の全体像は渡さない」
皇帝が尋ねた。
「誰が全体を調整する?」
ハーマンが答える。
「ダリウスです」
監察官は彼を見たが、驚きを表には出さなかった。
ハーマンが続ける。
「報告は異なる経路を通す。偵察部隊には逮捕計画を知らせない。包囲部隊には情報源を知らせない。標的へ向かう部隊が位置を受け取るのは、任務開始の瞬間だけだ」
ズィアンが言う。
「情報を分ければ、判断が遅れる」
「そして、裏切り者が一つの完成した決定を売ることを防げる」
その言葉が、議場へ沈んだ。
イーディルが尋ねる。
「内部に裏切り者がいると、すでに確信しているのか?」
「いいや」
ハーマンが答えた。
「だが、今回のことが起きたあとで、いないものとして行動するのは愚かだ」
皇帝は地図を見たあと、将軍たちの席へ視線を向けた。
「アルマザの道を氏族の所有物だと思う者は、自分がその席へ座れているのは、アルマザが許したからだということを思い出せ」
将軍たちの視線が下がる。
皇帝は声を荒らげなかった。
だが、その言葉の意味を取り違える者はいなかった。
皇帝は赤い印を示した。
「黒の帳は、お前たちが国家よりも先に自分の席を守ることへ賭けている」
一度、言葉を切る。
「この議場で、奴らへ最初の勝利を与えるな」
ズィアンが言う。
「高速展開部隊二隊を、共同作戦の指揮下へ置く許可を求めます」
もはや、報告を直接自分へ送れとは言わなかった。
ガルスが続ける。
「私の部隊は、命令を妨げも変更もせず、内側の街道を通る彼らの安全を確保します」
アクバが言う。
「補給はこちらで整える。記録は部隊の行き先と切り離して管理する」
イーディルが言った。
「偵察隊を送り、結果はダリウスへ届けさせる」
アクセルが続ける。
「北部の通行路は封鎖せずに監視する。そこを通る者には、見られていると気づかせない」
ナイルが言う。
「帝都へ届く通信の検査を担当する。ただし、独立した部署の監督下で行う」
ハーマンはアリアンとカーヒルを見る。
アリアンが答えた。
「河川や水路に残るケメンの痕跡を追える者を出す。彼らには標的の正体を知らせない」
カーヒルが言う。
「俺の者たちは、地図に描かれない道を追う」
それ以上は説明しなかった。
説明を求める者もいない。
皇帝が告げた。
「承認する」
ダリウスが新しい書類を開く。
「アルマズ隊の帰還後、同隊の行動に関する情報は分割して管理しています。各部署には、時刻、経路、細部の異なる情報を与えます。いずれかの情報をもとに黒の帳が動けば、情報が通った道を特定できます」
イーディルが尋ねた。
「部隊の指揮官たちは、自分たちが試験の一部だと知っているのか?」
「知らない」
ハーマンが答える。
「監視されていると知る者は、監視者に見せたい動きをする」
皇帝がダリウスを見る。
「アルマズ隊は?」
「他の部隊とは切り離された命令で動かします。囮には使わず、根拠のない地点へ送ることもありません」
ハーマンが付け加える。
「引き続き、ラカンの直接指揮下へ置きます。この議場からの命令なしに、いかなる将軍も介入させません」
ズィアンが尋ねた。
「アズロンが、いずれかの氏族の領域へ現れた場合もか?」
ハーマンの目が彼へ止まる。
「その場合は、なおさらだ」
ズィアンは納得したようには見えなかった。
だが、頷いた。
紙の上を、ペンが走り始める。
ダリウスは再び駒を配置した。
だが、今度は氏族の紋章を使わなかった。
数分後、東の森は、赤い印を囲むだけの緑の領域ではなくなっていた。
監視経路。
通行地点。
情報の流れ。
そして、スカイが利用できる空白。
将軍たちが奪い合うための地図ではない。
アルマザが、自分自身の姿を見るための地図へ変わっていた。
だが、新たな線が一本引かれるたび、一つの事実がより鮮明になった。
黒の帳は、もはや遠い場所にある脅威ではない。
アルマザが自分自身についてどれだけ理解しているのか。
そして、その内部にいる者たちが互いに何を隠せるのか。
すでに、それを試し始めている。
皇帝が目の前の書類を閉じた。
「この場の情報は、議場の外へ出すな。アズロンの名を一般部隊へ知らせることも、公開報告書にスカイの呼び名を記すことも禁じる」
将軍たちを順に見る。
「この戦いを国境紛争として扱う者は、始まる前に敗北する」
皇帝が立ち上がった。
全員がそれに続く。
「黒の帳を探せ」
一度、足を止める。
そして、続けた。
「同時に、奴らに我々の姿を見せている者も探し出せ」
皇帝は二人の近衛兵を伴い、奥の扉から退室した。
将軍たちはそれぞれの書類を集め始めたが、声を上げて話す者はいなかった。
会議が終わったあとも、アズロン・アル=マーヒという名だけが、空席に座る本人のように卓上へ残っていた。
カーヒルはハーマンのそばを通り過ぎかけ、足を止めた。
「シャミルがここにいたなら、話しすぎだと言っただろうな」
ハーマンは彼を見なかった。
「シャミルは、この議場で言葉を測らずに済むよう、その席を捨てた」
カーヒルが尋ねる。
「今も、あの男を信じているのか?」
ハーマンが顔を上げた。
「評議会の議題ではない」
答えにはなっていない。
だが、カーヒルはそれ以上のものを得られないと分かっていた。
何も言わずに立ち去る。
ダリウスは、地図上の小さな札を集めていた。
スカイの肖像へ手を伸ばした時、呟く。
「予言の少年……」
ハーマンには聞こえていないようだった。
彼の目は、アルマザそのものを示す場所へ向けられている。
ダリウスが尋ねた。
「情報を漏らした者は、議場の席にいるとお考えですか?」
「部隊が到着する前に、誰かが目的地を知っていたとは考えている」
「答えになっていません」
「まだ答えを持っていないからだ」
ハーマンが彼を見る。
「答えがない時に、自分たちの恐怖へ都合のいい裏切り者を作るな。本物が動かざるを得ない試験を作れ」
ダリウスが書類を閉じる。
「アズロンについては?」
ハーマンが答えた。
「部下をアルマズ隊と戦わせ、倒される前に引き上げさせた」
「彼らを試した」
「違う」
ダリウスの手が止まる。
ハーマンが言った。
「奴が試していたのは、我々だ」
ハーマンは議場を出た。
その足音だけが、空になった席の間に響き続けた。
*
アリアン・タラインは、すぐには宮殿を出なかった。
評議会の報告書を確認するために用意された小部屋へ移り、中庭を見下ろす高い窓の前へ座った。
目の前には、アルマズ隊の報告書が開かれている。
鎖についての記述を読み飛ばす。
ラカン、シグラン、ヤザンの負傷についても読み飛ばした。
そして、イーラ・グリーンについて記された一節で目を止める。
一度読む。
それから、ゆっくりと読み直した。
『学生マヤは、知覚領域が用いる媒介を特定。力ずくで領域を破壊しようとはせず、術の経路から湿気を奪った――』
扉を叩いたあと、ダリウスが入ってきた。
別の書類を卓上へ置き、アリアンの前に開かれたページを見る。
「気になりましたか」
アリアンはすぐには答えなかった。
視線は、マヤの名に止まったままだった。
ダリウスが続ける。
「医療報告では、完全な知覚崩壊には至らなかったとあります。術に抵抗しながら、領域の内側で効果が伝わる仕組みを見抜いたようです」
「抵抗しただけではない」
アリアンの指が、報告書の一行をなぞる。
「戦場そのものを変え、術が他の者へ届かないようにした」
ダリウスが言った。
「この水準の制御は、学院の授業だけで身につくものではありません」
アリアンは報告書を閉じた。
「いや」
ダリウスは、その言葉が自分の指摘を否定したものではないと理解した。
むしろ、認めたのだ。
「報告書の写しを、タライン家へ送りますか?」
アリアンが顔を上げる。
表情は静かなままだった。
だが、その静けさの奥で、古い何かが動いていた。
「いや」
「では、どうしますか?」
アリアンは閉じた報告書の上へ手を置いた。
「報告書ではなく、本人を寄越せ」
ダリウスの目がわずかに動く。
「マヤ・タラインを?」
「ああ。アルマズ隊の治療が終わり次第、タライン家へ戻るよう伝えろ」
「召喚の理由は?」
アリアンは高い窓の向こうへ目を向けた。
中庭では、水路を流れる水が夕暮れの光を細く反射している。
「理由は、あの子自身が知るべきだ」
短い沈黙のあと、続けた。
「自分の力がどこから来たのか。それを知らないまま、次の戦場へ送り出すつもりはない」
ダリウスは報告書を手に取った。
「承知しました」
扉へ向かう彼の背後で、アリアンが最後に言った。
「もう、外で学ぶだけでは足りない」
ダリウスが足を止める。
アリアンの目は、閉ざされた扉ではなく、その向こうにいる娘を見ているかのようだった。
「彼女が出ていった家へ戻る時が来た」




