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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第五章 黒の帳編

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グリーン兄妹

帝国の封印試験から、四日が過ぎていた。


浅い傷が塞がり、身体に必要なだけの休息を取り、焼けつくようだった痛みが、耐えられる重さへ変わるまでの四日間だった。


そして五日目の朝、帝国特務部隊『アルマズ』の隊員たちは、試験場の外で初めて一堂に会した。


説明に使われたのは、アルマザ学院に付属する軍用施設の一室だった。


広い窓も、式典用の旗もない。


あるのは長い机と、壁に留められた大きな地図。そして、九人の顔へ黄色い光を落とす二つのランプだけだった。


ラカンは地図の前に立っていた。


生徒たちは普段の野外服を身につけ、机を囲んでいる。


全員の左肩には炭色の短い肩帯が掛けられ、その上には試験後に渡された金属製の徽章が留められていた。


肩帯は鎧ではない。


ケメンの力も宿していない。


それでも、彼らがアルマズの隊員であることを示すには十分だった。


今日から公式任務において、彼らが三つの別々の班として扱われることはない。


彼らはアルマズだった。


ワーイルは肩の徽章を見つめてから、ラカンの近くにある二つの空席へ目を向けた。


アミールが言う。


「ほかの二人の教官は、俺たちをラカン教官に任せたらしいな」


ラカンの表情は変わらなかった。


「アルダとアドナンは、それぞれ別の任務に就いている。今回の作戦では、全員が俺の指揮下だ」


アミールがラーイドを見る。


「なら、お前も気分に合わなくても命令には従えよ」


ラーイドが静かに答えた。


「普段からそうしている」


アスマーが短く笑い、アミールは顔を逸らした。


シグランは会話に加わらなかった。


机の右側に立ち、腕を組んだまま地図を見ている。


その隣では、マヤが背筋を伸ばしていた。


アイン・アルワルで負った傷の名残は、手首に巻かれた細い包帯だけになっている。その包帯も、袖の下に半ば隠れていた。


ヤザンの肩も、動かせる程度には回復していた。


厚い包帯はほとんど外され、衣服の下にきつく巻かれた固定帯だけが残っている。


腕を必要以上に上げるたび、まだ痛みは忘れるなと告げてきた。


ラカンは地図の東側を指した。


「三日前、国境警備隊がこの周辺で夜間の動きを確認した」


指先が、アルマザ東部の国境沿いに広がる深い森をなぞる。


「東の森だ。木々が密集し、昼間でも視界が悪い。森の中には、かつて猟師たちが物置として使っていた古い洞窟がある。今は放棄されている」


アナスが尋ねた。


「どのような動きですか?」


声はいつもどおり静かだった。


だが、ラカンが待っていた問いを最初に口にしたのは彼だった。


「一か所に留まらない灯り。洞窟の近くに現れ、途中で途切れる足跡。それに、周辺に住民はいないにもかかわらず、二晩続けて煙が目撃されている」


ナーダが聞く。


「警備隊は洞窟へ入りましたか?」


「いや。一人が必要以上に近づき、不自然な痕跡を見つけた時点で引き返して報告した」


ワーイルが顔を上げた。


「どんな痕跡ですか?」


ラカンが彼を見る。


「およそ九フィートにわたって、落ち葉も泥も完全に消えていた。地面の一部を切り取り、元の場所へ戻したようにな」


沈黙が落ちた。


マヤとシグランが短く視線を交わす。


最初の任務で折り畳まれた道。


距離そのものが、一人の男の意思に従った瞬間を思い出していた。


マヤが言う。


「スカイ」


「可能性はある」


ラカンは、確証のないことを断言しなかった。


「任務は洞窟へ向かい、中にいる者たちの正体を確認し、可能な限り証拠を集めることだ。必要にならない限り、交戦は避ける」


シグランが片眉を上げた。


「黒の帳なら、証拠だけ集めて帰らせてはくれないだろう」


「だから、必要にならない限りと言った」


ラカンの目がシグランの目を捉える。


「何があっても戦うなとは言っていない」


ラカンは地図から手を下ろした。


「森の中では、この人数で一列になって進むことはできない。三つの平行した経路から接近する」


南側の道を指す。


「ラーイド、ワーイル、アスマー。右側だ。退路を確保し、背後へ回り込もうとする者がいないか監視しろ」


ラーイドが頷いた。


ラカンの指が北側の経路へ移る。


「アミール、アナス、ナーダ。左側。脇道と、主要な道には残らない痕跡を探せ」


アミールが言う。


「それで、ラカン教官は運のいい連中を連れていくのか?」


シグランが冷ややかに彼を見る。


「俺に運があれば、お前と同じ部隊には入っていない」


アミールが言い返しかけたが、ラカンの手が地図の中央に置かれた。


「シグラン、マヤ、ヤザン。俺と中央を進む」


ヤザンは木々の間に引かれた線から顔を上げた。


異議を唱える者はいなかった。


ラカンが続ける。


「各班は、互いに目視で合図を確認できる距離を保て。単独で追跡するな。合図なしに経路を変えるな。何かを見つけても、報告する前に触れるな」


視線が九人の顔を巡る。


「中に何人いるのかも、洞窟が本当の拠点なのか、誘い込むための餌なのかも分かっていない。そのつもりで動け」


アナスが言う。


「餌なら、相手は僕たちが来ることを知っています」


「だから今日、こちらへ届いた報告より先に、情報が相手へ届いていたかどうかを確かめる」


それ以上、言葉はなかった。


彼らは順に部屋を出ていった。


一つの部隊として踏み出す最初の歩みに合わせ、左肩の炭色の帯が揺れた。


     *


東の森の奥深くまで、風は届かなかった。


絡み合った枝が光の大半を遮り、長い幹の根元には夜の湿気が残っている。


鳥の声さえ遠く、森が内側で生まれたあらゆる音を呑み込んでいるようだった。


アズロンは、洞窟の奥にある石造りの机の前へ座っていた。


机には小さな地図と、簡潔な記号が記された紙が広げられている。


壁際には、内容を示す印のない箱が積み重ねられていた。


スカイは奥の入口付近に立ち、空中に走る細い裂け目へ片手を向けている。


完全な扉ではない。


辛うじて見える程度の歪んだ線だった。


森の離れた地点に何かが近づくたび、僅かに震えている。


不意に、その線が内側へ折れ曲がった。


スカイが顔を上げる。


「第一の印を越えた」


アズロンは彼を見なかった。


「数は?」


スカイは一瞬目を閉じた。


自分にしか見えない壁の向こうで動く何かへ、耳を澄ませるように。


「六人以上。三つの経路に分かれているが、互いの距離は近いままだ」


僅かに間を置く。


「遠くからでも見間違えようのない炎を持つ者がいる」


アズロンの手が、一枚の地図の上で止まった。


「ザランの少年か」


スカイが目を開く。


「中央には男が一人いる。ほかの者より、痕跡が安定している」


アズロンがようやく顔を上げた。


「ラカン」


その声に苛立ちはなかった。


立ち上がり、机に広げられた紙を集め始める。


「封印を施した箱を移せ。運べないものは燃やせ」


スカイが尋ねる。


「撤退するのか?」


「この場所は役目を終えた」


アズロンは紙を一枚手に取り、内容を読んでからランプの火へ近づけた。


炎が端を食い、文字はたちまち捻れた黒へ変わっていく。


「ラカンの指揮下で新しい部隊が動き、こちらが残した最初の痕跡へ送られてくる。連中が匂いを追うだけなのか、それとも、その匂いを残した手まで見抜けるようになったのかを知りたい」


スカイは箱と、その背後に開いた暗い裂け目との間にある距離を折り畳み始めた。


彼が空中へ手を滑らせるたび、箱が一つずつ音もなく消えていく。


まるで洞窟そのものが、少しずつ一部を失っているようだった。


アズロンは石造りの部屋を出て、洞窟の入口へ続く通路へ進んだ。


そこではカインが壁際に立って待っていた。


二本の太い鉄鎖が、腕と腰へ巻きついている。


その背後では、妹のイーラが低い岩へ腰を下ろし、岩肌を覆う薄い水の層へ指先を滑らせていた。


アズロンが告げる。


「カインはラカンを生徒たちから引き離せ」


カインは動かなかった。


だが、前腕に巻かれた鉄輪の一つが滑り、低い金属音を立てた。


「イーラは残った者たちの傷を開け」


イーラが顔を上げた。


暗い通路の中で両目が光り、すぐに岩の上へ溜まった水へ戻る。


スカイが周囲を見回した。


「ライは?」


アズロンは彼らの横を通り過ぎ、外へ向かった。


「ライは、自分が何を望んでいるか分かっている」


     *


二つの墓が並んでいた。


どちらも地面から僅かに盛り上がっているだけで、頭側には装飾も肩書もない暗い墓石が立てられていた。


一方には、ハルの名。


もう一方には、キオの名が刻まれている。


ライは二つの墓の間に膝をつき、小さな陶器の器を手にしていた。


最初の墓の土へゆっくりと水を注ぎ、次にもう一方へ同じ量を与える。


泣かなかった。


謝りもしない。


死者に言葉が届くかのように、語りかけることもなかった。


ただ、水が土へ吸い込まれていくのを見つめていた。


アズロンが背後で足を止める。


ライは振り返らなかった。


アズロンが言う。


「器はそこへ置いていけ」


二つ目の墓に伸ばしたライの手が止まった。


「こいつらに墓を見つけさせるつもりか」


「墓が誰のものか知った時、連中がどう動くのか見たい」


ライは器に残っていた水を、キオの墓へすべて注いだ。


「そのあとで、俺も見つかる」


問いではなかった。


アズロンが言う。


「私が何を求めているのか分かるまで、ザランの少年を殺すな」


ライが僅かに顔を上げる。


「あいつが二人を殺したのなら、生かして帰さない」


スカイが木々の近くへ進み出た。


「青い炎が中央の経路を進んでいる」


ライの手が止まった。


試験の日が蘇る。


自分が目にした記憶ではない。


それでも、何百回も組み立て直してきた光景だった。


任務の標的は、ザランの血を引く少年。


現場は炎に包まれた。


ハルとキオは戻らなかった。


あの場にいた者たちの中で、シグラン以上に疑わしい名はなかった。


最も強い少年。


ほかのどんな炎とも違う火を持つ者。


ケメンを持たない少年が、黒の帳の二人を倒したなど、誰の頭にも浮かばなかった。


ライは器を墓の間へ置き、立ち上がった。


「今度は逃がさない」


アズロンはしばらく彼を見た。


「勝利は求めていない」


最後の痕跡を失いつつある洞窟へ目を向ける。


「隊列を崩された時、連中がどう動くのかを知りたい」


スカイのもとへ歩き始める。


空中に黒い裂け目が開いた。


向こう側の木々が縮み、森そのものが二つ折りにされたように見える。


アズロンが先に渡った。


あとに続く前に、スカイがライを見た。


「ラカンは、簡単には生徒を死なせない」


ライが答える。


「許可を求めるつもりはない」


スカイが消え、そのあとで裂け目が閉じた。


ライだけが墓の前へ残された。


背負った剣の柄へ手を伸ばし、二つの名を最後に見つめる。


「次にここへ来る時は、あいつもここに眠る」


器を二つの墓石の間に残し、木々の奥へ入っていった。


     *


帝国特務部隊『アルマズ』が東の森の境へ到着したのは、正午前だった。


開けた道が途切れる地点で足を止め、木々の近くへ馬を繋ぐ。


そこから先は徒歩で進んだ。


森に呑み込まれた途端、空気の温度が下がった。


足元は泥と濡れた落ち葉が混じり合い、視界は数十歩先までしか届かない。


ラカンが手を上げた。


言葉を交わすことなく、部隊が分かれる。


ラーイド、ワーイル、アスマーが右へ。


アミール、アナス、ナーダは左へ向かった。


ラカンは中央の経路を進み、その後ろにシグラン、マヤ、ヤザンが続く。


森の静けさは、自然なものではなかった。


最初に気づいたのはアナスだった。


左の経路で足を止め、二本の指を上げる。


アミールは乾いた枝を踏む直前で足を止めた。


ナーダが囁く。


「何?」


アナスはすぐには答えなかった。


耳を澄ませる。


羽ばたきがない。


淀んだ水の上を飛ぶ虫もいない。


頭上の葉さえ、ほとんど動いていなかった。


「何かがここを通って、森を黙らせた」


ナーダが木の幹へ近づいた。


樹皮へ手を滑らせ、苔に食い込んだ細い痕跡を見る。


「重い箱。奥へ運ばれている」


アミールが言う。


「だが、この木の先には跡がない」


ナーダが二歩進んだ。


足跡は、岩も崖もない開けた場所の前で途切れている。


膝をつき、触れないまま泥を調べた。


「箱を運んだ足は、ここへ入っている」


アナスが続ける。


「でも、出ていない」


アミールが木々の間へ目を上げた。


顔から皮肉が消える。


決められていた合図を中央へ送った。


右側では、ワーイルがゆっくりと呼吸していた。


視界に入る影のすべてを敵に変えないよう、必死に抑えている。


茂みの間で小さなものが動き、ワーイルは素早く振り向いた。


彼らを見た途端に逃げ出した、小さな野生動物にすぎなかった。


ラーイドはその動きを見たが、何も言わない。


数歩進んだところで、ワーイルが突然拳を上げた。


ラーイドとアスマーが止まる。


ワーイルは傾いた幹の下にある暗い一角を指した。


アスマーが慎重に近づく。


二本の木の間に、足首ほどの高さで張られた細い糸があった。


糸は、落ち葉の下に埋められた金属片へ繋がっている。


「警報装置ね」


ワーイルが唾を呑む。


「切れば、音が出ていた」


ラーイドは洞窟へ続く道を見る。


「あるいは、俺たちが来た方向を知らせる」


アスマーは正確な動きで糸を無力化し、ラカンへ合図を送った。


中央では、ヤザンがマヤの後ろを進んでいた。


視線は道だけに向けられていない。


ラカンの歩みは一定だった。


シグランはもっと速く動けたが、集団から離れないよう速度を抑えている。


炎は出していない。


この森では、計算を外れた火花一つで位置を晒し、周囲の木々へ火を移しかねなかった。


マヤが、道を横切る細い流れのそばへ身を屈めた。


水へ二本の指を入れ、すぐに引き上げる。


「少し前に、誰かがここを通った」


ヤザンが尋ねる。


「どうして分かる?」


「乱れた水はすぐ静かになる。でも、その下の泥は違う」


水面の下で崩れた筋を示す。


「少なくとも三人。一人は重いものを運んでいた」


左側からの合図が届き、続いて右側からも送られてきた。


ラカンは二つを読み取ったが、進路を変えなかった。


「こちらが近づいていると知られている」


シグランが前方を見る。


「逃げたのか」


「そう思わせたい可能性もある」


彼らは進み続けた。


しばらくして、木々の間に洞窟が見えた。


入口は男が三人並んで入れるほど広く、苔に覆われた岩に囲まれている。


天井からは、一定の間隔でゆっくりと水が落ちていた。


三つの班が入口の前で合流する。


ラカンは停止を命じ、地面を観察した。


多くの足跡。


新しいものもある。


だが、洞窟から外へ向かう跡はなかった。


ラーイドがラカンと並んで最初に入り、残りの者たちは密集した陣形を保ったまま続いた。


抵抗はない。


物音もなかった。


主となる部屋へ入ると、石造りの炉にまだ温かい灰が残っていた。


床の埃には四角い部分だけが綺麗に残り、そこにあった箱が少し前に運び出されたことを示している。


ナーダが壁へ近づいた。


小さな釘は残っていたが、そこに掛けられていた地図や紙はすべて剥がされている。


アミールが言った。


「慌てて片づけたらしいな」


アナスが部屋を見回す。


「慌ててはいない」


アミールが彼を見る。


アナスは炉を示した。


「いらない紙を焼き、箱を運び、壁の印まで消している。目につくものは何一つ忘れていない」


アスマーが言う。


「なら、私たちが到着するまでの時間を知っていた」


ナーダが、床の綺麗な一角へ身を屈めた。


箱があった位置から部屋の中央まで足跡が続き、そこで唐突に消えている。


「入口から運び出してはいない」


全員が彼女を見る。


ナーダが続けた。


「三人分の足跡がここまで来ている。その先には何もない」


マヤが言う。


「空間を折り畳んだのね」


ラカンは、何もない地点を見つめた。


スカイが接近を感知する仕組みを置いていたのなら、撤退した理由は分かる。


それでも、時間が正確すぎた。


警備隊が洞窟を発見したのは、わずか三日前。


アルマズへの任務を知っていた者も、上層部の限られた人間だけだった。


黒の帳が、アルマザにはまだ理解できない方法で森を監視していたのか。


それとも、隊員たちが学院の門を出るより先に、任務の情報が相手へ届いていたのか。


ラカンは、頭に浮かんだ疑念を口にしなかった。


「灰にも壁にも触れるな。見つけたものはすべて記録しろ」


部隊は部屋の調査を始めた。


ラーイドは、最近崩されたらしい岩壁で塞がれた細い通路を見つけた。


アスマーは、床の近くにある釘へ引っかかった布切れを発見した。


アナスは石造りの机の下で平行に並ぶ三本の傷を見つけたが、その意味までは分からなかった。


ヤザンは洞窟の入口近くに立っていた。


この場所が放棄されているとは思えなかった。


確かに空だった。


だが、その空白は、持ち主がつい先ほど立ち上がり、身体の温もりだけを残した椅子に似ていた。


マヤが外へ出た。


数歩進んだところで立ち止まる。


洞窟の北側にある木々へ顔を向け、空中へ手を伸ばした。


指先に小さな水滴が集まる。


「ついさっき注がれた水の気配がある」


ラカンも外へ出た。


「小川のものか?」


マヤは首を横へ振った。


「違う。地面を流れた水じゃない。器から注がれた水よ」


茂みの間にある細い道を指す。


ラカンが先頭に立ち、ほかの者たちへ陣形を崩さないよう命じた。


少し進むと、木々の間に開けた場所が現れた。


その中央に、二つの墓が並んでいる。


部隊は、その場所の縁で足を止めた。


シグランが、墓石に刻まれた名を読む。


「ハル……キオ」


ヤザンの身体が固まった。


表情は変わらなかった。


だが、呼吸が一瞬だけ途切れた。


あの日が一度に蘇る。


ハルの素早い動き。


キオの荒々しい力。


胸を押し潰した恐怖。


そして、ほかに道が残されていない中で下した決断。


湿った墓土へ目を向けた。


二人は、本当に死んでいた。


残ったのは二つの名と、二つの暗い石だけだった。


マヤは墓地へ踏み込まず、その縁へ膝をついた。


「ついさっき、水を注がれたばかりよ」


ヤザンが、土に残る僅かなへこみを指す。


「誰かがここに膝をついていた」


それから、木々のそばにある別の場所を見る。


つま先側だけが深く沈んだ一つの足跡。


そこにいた者が、身体を前へ押し出すように立ち上がった跡だった。


「洞窟から消えた連中とは、一緒に行っていない」


ラカンの表情が険しくなる。


「墓から離れろ」


生徒たちが一歩下がる。


持ち主が姿を現すより先に、木々の間から声が届いた。


「遅かったな」


ライが開けた場所へゆっくりと出てきた。


背が高く、表情は静かだった。


暗い色の剣を背負っていた。


ラカンも、ほかの生徒たちも見なかった。


目はシグランだけに向けられていた。


ラーイドが半歩動いたが、ラカンが手を上げて制した。


シグランはその場から動かない。


ライが問う。


「ハルとキオを覚えているか?」


シグランは墓を見てから、ライへ視線を戻した。


「覚えていない」


ライの顔が冷えた。


「嘘をつけ」


シグランは瞬きもしなかった。


「俺が殺したのなら、覚えている」


その言葉を聞いた瞬間、ヤザンの腹の底へ重いものが落ちた。


ライは知らない。


青い炎とザランの名。


誰の目にも最も強く見え、疑いようがないと思われる人物へ目を向けている。


ケメンを持たず、シグランの背後に立つ少年が、二人と戦ったなどとは考えていない。


ヤザンは口を開いた。


だが、言葉は出なかった。


シグランへの疑いを否定すれば、なぜ知っているのかと問われる。


真実を話したところで、あの日に二人の男が死んだ事実は変わらない。


マヤは、ヤザンの表情が変わったことに気づいた。


何も尋ねず、僅かに近くへ移動する。


ラカンが言う。


「黒の帳の一員だな」


ライの目が、初めて彼へ向いた。


「お前がラカンか」


「アズロンはどこだ?」


「十分に遠い場所だ」


答えが僅かに早すぎた。


ラカンが短く手を上げる。


部隊が距離を詰めた。


ラーイド、ワーイル、アスマーが右へ。


アミール、アナス、ナーダが左へ。


シグラン、マヤ、ヤザンは、ラカンの背後に残った。


ライは陣形を見たあと、再びシグランへ目を戻す。


「二人を葬った炎を、長い間探していた」


ゆっくりと剣を抜く。


金属が鞘を擦る音が、森の中に低く響いた。


「それが自分から俺の前へ来た」


背後の落ち葉の下で、何かが動いた。


ワーイルが振り返る。


地面が金属音とともに弾けた。


巨大な鉄鎖が木々の間を走り、向かい合う二本の幹へ巻きついた。


彼らが通ってきた道が塞がれる。


二本目の鎖がラカンの前へ落ち、最後の瞬間に軌道を変えて脇腹を狙った。


ラカンは生徒たちを後ろへ押し、身を傾けて避ける。


鎖が岩へ激突し、その端を砕いた。


小石が地面へ飛び散る。


カインが木々の間から姿を現した。


鎖が身体の一部であるかのように両腕へ巻きついている。


その目には、ラカン以外の誰も映っていなかった。


低い声で言う。


「お前の相手は俺だ」


同時に、イーラが洞窟の入口近くにある岩の上へ立った。


露に濡れた幹へ手のひらを置く。


滴り落ちていた水滴が止まった。


葉と岩から一滴ずつ浮き上がり、透明な目のように空中へ留まる。


ラカンの目が見開かれた。


イーラを見て、次に鎖を持つ男へ視線を移す。


「グリーン兄妹……」


カインの鎖が一本、泥を引き裂きながら彼へ向かって走る。


ラカンが呟いた。


「カイン・グリーンとイーラ・グリーン。ティゾラ出身の殺し屋……何年も前から指名手配されている」


イーラが僅かに首を傾ける。


否定はしなかった。


マヤが言う。


「普通の水の術じゃない」


空中に浮かぶ水滴が、イーラの周囲をゆっくりと回り始めた。


イーラが目を開く。


囁きが生まれた。


彼女の口からではない。


木々の間からでもなかった。


それぞれの頭の中で生まれていた。


ワーイルの呼吸が乱れ、自分にしか聞こえない声の方角へ顔を向ける。


アミールの目から皮肉が消えた。


アスマーの指が一瞬止まり、アナスは枝の間にある何もない空間へ顔を上げた。


誰も倒れてはいない。


だが、周囲の森だけが一歩遠ざかり、目に見えない何かが一人ずつ別の場所へ引き込もうとしているようだった。


ラカンが声を上げる。


「声を聞くな!」


三本目の鎖が迫る。


通過する直前に、ラカンは身を傾けてその場から外れた。


「イーラの術は、新しい恐怖を生み出すものじゃない! お前たちが埋めたものを掘り起こし、声を与える!」


鎖が背後の幹を打ち、砕けた木片が宙へ散る。


ラカンは生徒たちから離されながらも続けた。


「実在するものから目を離すな! 聞こえる声に答えるな!」


それこそ、カインが狙っていたものだった。


指揮官を部隊から引き離す。


ワーイルの呼吸が再び乱れた。


それでも、ラーイドの肩に掛けられた炭色の帯へ視線を固定する。


アミールは泥の中へ両足を踏み込み、ここにいる自分を忘れないようアルマズの徽章を握った。


アナスは一瞬目を閉じる。


偽りの声と、本物の沈黙を聞き分けようとするように。


術は、まだ彼らを壊してはいなかった。


だが、扉は見つけていた。


ヤザンは、冷気が手足の先から這い上がってくるのを感じた。


自分が立つ場所を思い出すため、両足へ力を込める。


森。


洞窟。


左側にマヤ。


前方にシグラン。


だが、イーラの周囲を巡る水滴が、木々のものではない光景を映し始めた。


閉ざされた古い扉。


暗い壁。


その向こうで泣く、小さな子供。


ヤザンの呼吸が止まった。


扉の向こうから、自分の知る声が呼んでいる。


置いていかないで。


爪が手のひらへ食い込むほど、強く拳を握った。


本物ではない。


それでも身体が信じることまでは止められなかった。


マヤが僅かに近づいた。


ヤザンを見ない。


何が聞こえているのかも尋ねない。


ただ、自分の肩をヤザンの視界に残した。


実在するものとして。


反対側で、ライがシグランへ剣を向けた。


シグランの手の中に淡い青の光が灯り、指先の内側で止まる。


森の中へ炎を放たなかった。


怒りに選択を委ねることもしない。


ライが言う。


「二人がどう死んだか、お前にも見せてやる」


シグランが答えた。


「やってみろ」


最初の鎖がラカンの背後で持ち上がった。


ライの剣が動く。


イーラが、幹に当てた掌をいっぱいに開いた。


ヤザンは二つの墓を見る。


だが、イーラの術によって、その間にある土が広がっていった。


三つ目の場所が現れる。


名のない墓。


待ち伏せが一行を包囲したその瞬間、ヤザンは悟った。


これは、もはやアズロンが仕組んだ罠だけではない。


ひとつの誤解が、別の戦いを始めようとしていた。


その真相を知るのは、ヤザンただ一人だった。

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