第三の流路
一行が動き出した頃には、夜明けの光がアイン・アルワルの外れまで広がっていた。
だが、太陽はまだ砂丘の向こうに姿を隠したままだった。
禁じられたナツメヤシ園までの道のりは長くない。
それでも、一歩進むごとに背後の村は小さくなり、前方の静けさは大きくなっていった。
村の外れでは、石膏の壁に掛けられた松明がまだ残っていた。
風に揺れる炎は、家々を離れ、誰も近づかない場所へ向かう一行を見送る小さな目のようだった。
先頭にはサーリムとラカン。
その後ろを、黒い道具袋と丸めた水路図を持つアシールとヌーリヤが歩く。
第三班は隊列の中央にいた。
右側を歩くシグランは、片手を身体の脇に下ろしていた。
時折、指の周囲に淡い炎が揺らめき、すぐに消えた。
力を見せつけているわけではない。
必要になる前に、炎が応じるかを確かめているのだ。
反対側にはマヤがいた。
腰に下げた水袋の中では、水が落ち着きなく動いていた。訓練のときのように身体の周囲へ浮かんではいなかったが、小さな円を描きながら命令を待っていた。
ヤザンは二人の間を歩いていた。
第三班の中では先頭に近く、いつもよりラカンとの距離も近い。
肩には包帯が巻かれ、身体には水路の縁へ叩きつけられた痛みが残っている。
それでも、休みたいとは言わなかった。
黙って歩き、ナツメヤシ園ではなく道を見ていた。
最後尾では、ジャラールが二人の村の守り手とともに、背後の細い道へ目を配っていた。
水路に新たな出口が開けば、そこから怪物が現れる可能性があった。
ラカンが振り返らずに尋ねる。
「ここからか?」
ヤザンは半拍遅れて、二列のナツメヤシの間にある細い道を指した。
「本道は左へ回り込みます。でも、開けすぎている。この道なら、古い水路の裏側へ出られます」
サーリムが言う。
「もう誰も使っていない道だ」
「知ってる」
サーリムはヤザンを見てから、ラカンへ目を向けた。
ラカンが尋ねる。
「なぜ使われなくなった?」
ヤザンは前方の黒い木々を見ずに答えた。
「ナツメヤシ園に近いからです」
アシールが静かに言う。
「だからこそ、今はこの道が必要なのよ」
ヤザンは何も言わなかった。
一行は細い道へ入った。
この辺りのナツメヤシは、村のものより古かった。
幹は太く、葉は乾き、何本かは道の上へ傾いて、崩れかけた屋根のようになっている。
足元では、薄い砂の下に古くひび割れた土が広がっていた。
誰かが踏むたびに乾いた音が鳴る。
まるで、大地が内側にある亀裂を覚えているかのように。
ヌーリヤが幹を見ながら言った。
「昔は、この辺りにも水が流れていました。土に跡が残っています」
アシールが尋ねる。
「どこまで続いていたの?」
ヌーリヤが前方を指した。
「あそこです。ナツメヤシ園の近くまで」
弱い風が吹いた。
頭上で乾いた葉が揺れ、長い囁きのような音を立てる。
ヤザンの足が一瞬止まった。
知らない音ではない。
幼い頃の夜にも、同じ音を聞いていた。
日が沈む前にマルワンが小さな家の扉を閉め、何を聞いても外へ出るなと言っていた。
何を聞いても。
後ろからシグランの声がした。
「止まるな」
ヤザンが振り返る。
シグランはヤザンではなく、前方を見ていた。
「道が狭い」
実用的な注意をしただけのような、冷たい口調だった。
だが、ヤザンには分かった。
礼は言わなかった。
ただ、再び歩き始めた。
*
淡い光がナツメヤシの間へ差し込む頃、一行は禁じられたナツメヤシ園の境へ辿り着いた。
そこに柵はなかった。
門もない。
立ち入りを禁じる印さえなかった。
境界は、人の手で作られるものよりも古かった。
ねじれたナツメヤシが一列に並び、幹の多くは黒く変色している。乾いた葉は骨のように見えた。
その列が、普通のオアシスと、その先にある別の土地を隔てている。
木々の下には、古い水路が干からびた血管のように伸びていた。
口を開けたままのもの。
砂に埋もれたもの。
小さな石で覆われたもの。
村人たちは塞ごうとしたのだろう。
だが、恐怖に押され、途中で手を止めたのだ。
木々の向こうにあるナツメヤシ園は、動かなかった。
鳥はいない。
虫もいない。
風の音さえ、はっきりとは聞こえなかった。
最後尾から、ジャラールが言う。
「この静けさは気に入らないな」
シグランが返した。
「普段から気に入るものがあるのか?」
ジャラールが彼を見る。
「俺を食おうとしないものだ」
マヤが小さな声で言う。
「それなら、ここには何もないわね」
誰も笑わなかった。
それでも、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ。
アシールが一歩進み、手を上げる。
「私より前へ出ないで」
全員が止まった。
アシールは道具袋から細い黒糸を取り出した。
編み込んだ影で作られているかのような糸だった。
片端を小さな杭に結び、水路の縁へ打ち込む。
それから、斜めに傾いた小石まで、糸を真っすぐに伸ばした。
ヌーリヤを見る。
「昔の水の流れを特定して」
ヌーリヤは片膝をつき、地面へ手を置いた。
目を閉じる。
しばらくして、口を開いた。
「水はここを通って……あの木で二つに分かれていました」
老人の背中のように幹が曲がったナツメヤシを指す。
「一つは村へ。もう一つはナツメヤシ園の中へ続いています」
アシールが尋ねる。
「今は?」
ヌーリヤはゆっくり目を開いた。
「村へ続く方は、地表では干上がっています。でも、深いところまでは乾いていない」
サーリムが尋ねる。
「どういう意味だ?」
「地下で何かが動いているということです」
アシールは黒糸のそばに身を屈め、二本の指で触れた。
糸が震えた。
目に見えない何かを感じ取ったかのように。
「地図につけた印の一つと重なるわね」
シグランが黒糸へ目を向ける。
「それで、何が分かった?」
「ここに反応があることだけよ。流路がどこへ繋がっているかは、封印を読まなければ分からない」
アシールは黒糸を外し、杭だけを残した。
ラカンは目立たないよう半歩動き、ヤザンとナツメヤシ園の境との間に立った。
「続けるぞ」
*
封印石は、ナツメヤシ園の奥、干上がった水路と、周囲の木々よりひときわ大きな古いナツメヤシのそばにあった。
シグランが想像していたほど巨大ではない。
美しくもなかった。
黒みがかった灰色の石。
半分は地面に埋まり、表面には亀裂が走っていた。
そこに刻まれたかすれた文様は、この場所へ命令する術を知りながら、その意味を伝える前に死んだ者の筆跡のようだった。
周囲の土は暗い。
遥か昔から、影がこびりついているかのように。
アシールは封印石から七歩離れた場所で止まった。
それ以上は近づかない。
シグランが尋ねる。
「これか?」
「ええ」
「もっと大きいものだと思っていた」
「危険なものが、あなたを満足させるために大きくなることはないわ」
サーリムが右側の水路のそばへ膝をついた。
「最初に亀裂を見つけたのは、ここです」
ヌーリヤが頷く。
「この辺りから、空気も重くなっていました」
マヤが一歩進み、すぐに止まった。
「水を感じる……でも、普通じゃない」
アシールが彼女を見る。
「どう違うの?」
マヤが片手をわずかに上げる。
水袋から細い水の筋が伸びたが、滑らかには流れなかった。
空中で震えている。
不快な音を聞いているかのように。
「地下へ引かれているのに、同時に拒まれているような感じです」
ヌーリヤが言う。
「水路でも同じものを感じました」
アシールは足元へ黒い杭を打った。
「誰も封印石へケメンを流さないで。水も、炎も、光も。何も使ってはいけない」
シグランが彼女を見る。
「何かが出てきてもか?」
「出てきたものは、石から離れた場所で倒して。英雄のつもりで封印石まで攻撃すれば、目の前にいるものではなく、その向こう側にいるものと戦うことになる」
ラカンが言う。
「聞いたな」
ヤザンが答えた。
「はい」
声は、マヤが予想したよりも落ち着いていた。
彼女はヤザンを見る。
顔は少し青ざめている。
それでも、立っていた。
視線は封印石ではなく、自分と古いナツメヤシの間にある地面へ向いている。
記憶の中にある、別の場所に近い地点。
血が残った場所。
ラカンが低い声で呼ぶ。
「ヤザン」
ヤザンは振り返らずに答えた。
「ついています」
ラカンは彼の近くに立ったまま、それ以上何も言わなかった。
*
アシールが作業を始めた。
道具袋から三つの小さな巻物を取り出し、自分を囲む三角形になるよう地面へ置く。
次に石の箱を開いた。
中には、細かく砕いた灰のような黒い粉が入っている。
指先で少し取り、地面へ短い線を引いた。
二本目。
そして、三本目。
円を描いているのではない。
方向を示していた。
作業を見ていたヌーリヤが言う。
「閉鎖の封印ではありませんね」
「まだ閉じる段階ではないから。今は流れの向きを読んでいるの」
サーリムが尋ねる。
「封印石には触れないのか?」
「繋がりが分からないうちに触れれば、どこへ圧力が逃げるか分からないわ」
アシールは線の上へ掌を置き、目を閉じた。
静寂が落ちる。
風がナツメヤシの間を通り抜けた。
だが、すべての葉が動いたわけではない。
一本の木だけが揺れた。
封印石の近くにある、あの古いナツメヤシ。
アシールが目を開き、地図につけた印を見る。
「この三つの印は、調査を始めるための基準点にすぎない。実際の繋がりを示しているのは封印の方よ」
水路図の上へ指を置く。
「第一の流路は、怪物が現れた水路の下」
ヌーリヤが頷く。
「はい」
「第二の流路は、封印石の真下」
アシールの指が地図の上を滑る。
「そして、第三は……」
言葉が止まった。
全員が彼女を見る。
ラカンが尋ねる。
「どこだ?」
アシールはすぐには答えなかった。
ヤザンへ目を向け、その背後にある、ここまで通ってきた道を見る。
「村の方へ伸びている」
サーリムの目つきが変わる。
「すべての入口を見張っていた」
「あなたたちが見張っていたのは、目に見える道だけよ」
ヌーリヤが掠れた声を漏らす。
「古い水路が、家々の下まで……」
アシールが頷く。
「村の外れの下まで続いている。第三の流路を閉じずに封印石へ触れれば、村そのものが出口になるかもしれない」
誰も口を開かなかった。
シグランが言う。
「なら、先にそこを閉じる」
「ええ。でも、まだ正確な位置を特定できていない」
ヤザンが口を開いた。
「場所なら知っています」
全員が彼を見る。
ラカンが尋ねる。
「何を知っている?」
ヤザンは村の方角を指した。
「石膏造りの古い家々の裏に、埋もれた水路があります。地表は乾いているのに、冬になると下から水の音が聞こえることがあった。子供たちは、ジンが棲んでいると思っていました」
サーリムが言う。
「その水路は知らない」
「誰も使わない道の下にあります。古い鍛冶小屋の裏です」
サーリムがヌーリヤを見る。
彼女は迷うように言った。
「聞いたことはあります。でも、ずっと前に崩れたと思っていました」
アシールが言う。
「地表が崩れても、地下の流れまで消えたとは限らないわ」
ラカンがヤザンを見る。
「案内できるか?」
ヤザンが頷く。
「はい」
「俺の後ろにいろ」
「離れません」
*
ナツメヤシ園は、それ以上の時間を与えなかった。
一行が動き出す前に、封印石の近くにある水路から音がした。
何かが擦れるような、小さな音。
続いて、呼吸音。
亀裂から、黒く長い腕が現れた。
細い指。
骨のように白い鉤爪。
アシールが素早く言う。
「封印石から引き離して!」
最初に動いたのはシグランだった。
掌を青い炎が覆う。
だが、亀裂へ向けて放ちはしなかった。
横へ一歩移動し、掌を振り抜く。
斜めに走った炎の波が、石ではなく怪物の前方にある地面を焼いた。
進路を断ち、別の方向へ追い込む。
アシールが声を張らずに言った。
「いい判断よ」
シグランが聞いたのか、聞こえないふりをしたのかは分からなかった。
怪物が全身を現した。
水路で見た小型の怪物よりも背が高い。
だが、その身体はさらに細く、皮膚には亀裂が走っていた。二つの目は、黄色い穴のように見える。
怪物は一行ではなく、封印石へ向かって突進した。
マヤが叫ぶ。
「石へ行こうとしてる!」
水を持ち上げ、低い位置から鞭のように伸ばす。
水が怪物の脚へ巻きついた。
力任せには引かない。
計算した角度から張り、怪物を封印石とは別の方向へ逸らした。
ヌーリヤが驚いたように言う。
「引き倒すんじゃない。進む方向だけを変えている」
その瞬間、怪物が狙いを変え、マヤへ跳んだ。
ヤザンが横から動く。
最も近くにいたわけではない。
最も強いわけでもない。
だが、怪物が跳ぶより先に、その肩が沈むのを見ていた。
「マヤ、伏せろ!」
マヤは迷わず身を低くした。
鉤爪が頭上を通り過ぎる。
ヤザンは地面から平たい石を拾っていた。
怪物の頭ではなく、左目へ投げる。
大きな傷にはならない。
だが、その目が閉じた。
一瞬。
シグランは、その一瞬を逃さなかった。
横から踏み込み、青い炎を細い線へ絞る。
剥き出しになった首の関節を打った。
怪物が地面へ倒れ、身をよじった。
ジャラールの槍が、その動きの先を塞いだ。
必要な瞬間にだけケメンを刃へ流し、怪物の首へ深く突き入れる。
怪物の身体が一度大きく震え、動かなくなった。
短い沈黙が訪れた。
三人を見ながら、サーリムが言う。
「何度も一緒に戦ってきたように見える」
息を整えながら、マヤが答えた。
「いつも、ここまでまとまっているわけではありません」
シグランが言う。
「印象を壊すな」
ヤザンが返す。
「怪物に食われかけた時点で、もう壊れたと思う」
封印石のそばから、アシールが言った。
「いいえ。今のは悪くなかったわ」
全員が彼女を見る。
アシールは三人へ順に目を向けた。
「力だけなら封印石を壊していた。慎重なだけなら、怪物を石へ近づけていた。でも、あなたたちはその間にある答えを選んだ」
少し間を置く。
「この先も生き残れれば、いずれ大きな存在になるでしょうね」
奇妙な沈黙が落ちた。
シグランでさえ、すぐには言葉を返せなかった。
ジャラールがサーリムへ小声で尋ねる。
「今のは褒めたんだよな?」
サーリムが答える。
「アシール・ガスカンにしては、長い演説だったと思う」
緊張の中で、ヌーリヤが笑みを浮かべた。
だが、ラカンは笑わなかった。
いつもより長く三人へ目を留め、それからナツメヤシ園へ視線を戻す。
アシールが彼らの先に大きな未来を見た一方で、ラカンには、そこへ至る道が決して優しくないことも見えていた。
*
アシールは別の杭で亀裂を一時的に閉じ、立ち上がった。
「今は封印石の作業を続けられない」
シグランが言う。
「ここまで来て、戻るのか?」
「順序を変えるだけよ。第三の流路を閉じずに石へ触れれば、村そのものが危険に晒される」
ラカンが言った。
「なら、一度戻る」
その声に迷いはなかった。
撤退を命じたのではない。
先に閉じるべき道を選んだのだ。
アシールが頷く。
「ヤザンが話した、埋もれた水路から始めるわ」
サーリムがヤザンを見る。
その目に疑いはなかった。
代わりに、慎重ながらもヤザンを認める色が浮かんでいた。
「今の姿からは想像できないほど、アイン・アルワルをよく知っているようだな」
ヤザンが答える。
「もっと背が低かった頃に覚えた」
ジャラールが言う。
「転んでも壊れない身体になる前か?」
「それはアルマザで覚えた」
シグランが口を挟む。
「見ている方が恥ずかしくなるほど転んだあとにな」
ヤザンが彼を見る。
「数えてたのか?」
「無視する方が難しかった」
ラカンが言う。
「話は終わりだ。動くぞ」
三人はすぐに歩き始めた。
道具を片づけながら、アシールが言う。
「訓練の成果は、はっきり出ているわね」
ラカンが答えた。
「まだ終わっていない」
一行はナツメヤシ園の境へ向かった。
立ち去る前に、ヤザンは一度だけ振り返った。
封印石。
古いナツメヤシ。
干上がった水路。
触れてもいないのに、胸を圧迫してくる場所。
そして、記憶の中でマルワンの声を聞いた。
死の間際の声ではない。
穏やかな夜に聞いた声だった。
――入る覚悟がないなら、扉の前に立つな、ヤザン。扉は、いつまでもそこにある。
ヤザンは唾を飲み込んだ。
前方から、ラカンが呼ぶ。
「ヤザン」
ヤザンが振り返った。
「はい」
そして、すぐに一行へ追いついた。
一行は足を速めることなく、禁じられたナツメヤシ園をあとにした。
だが、その背後でナツメヤシ園は沈黙したままだった。
まるで、ヤザンという存在を、まだ思い出しきれずにいるかのように。




