この村の子
一行が宿舎へ戻る頃には、朝の光がアイン・アルワルの家々の間へ差し込み始めていた。
小さな家からの道のりは長くなかった。
それでもヤザンには、村の外れよりもずっと遠い場所から戻ってきたように感じられた。
一歩進むたび、肩が痛んだ。
掌には、マルワンの墓の土がわずかに残っている。
ヤザンは、それを払い落とさなかった。
ラヒールの墓が残した重さは、それとは違っていた。
その声も、匂いも、初めて自分を抱いた手がどんなものだったのかも知らない。
ヤザンが母について知っているのは、小さな墓標へ刻まれた名前と、誰も最後まで語ろうとしなかった欠けた物語だけだった。
それでも、墓の前で口にした言葉が、まだ胸の奥に残っている。
――俺は、ここにいる。
宿舎の中庭は、今も慌ただしさに包まれていた。
ヌーリヤは地図の前へ座り、古い水路の位置を確かめている。
ジャラールは中庭の入口近くに座り、路地へ目を配っていた。
アシールは地図の上に三つの小さな印を置き、見失ってはならない地点を固定している。
ラカンが入ってくると、アシールが顔を上げた。
「遅かったわね」
「見つけるべきものは見つけた」
アシールは皆の前で、それ以上尋ねなかった。
だが、その目はいつもより長くラカンへ留まった。
彼のことをよく知っているからこそ、その沈黙の中で何かが変わったと分かったのだ。
そして、ヤザンへ目を移す。
二つの墓を訪ねた直後にしては、静かすぎた。
アシールには、その静けさが涙よりも危うく見えた。
「もう少し明るくなったら、ナツメヤシ園へ向かうわ。それまでは全員、宿舎の近くにいて」
「分かった」
ヤザンは先ほどと同じ壁際へ座った。
食事に手をつけようともせず、水も求めない。
傷ついた腕をわずかに伸ばし、掌を開く。
そこには、まだ土が付いていた。
マヤはそれに気づいた。
近くへ腰を下ろしたが、マルワンのことも、ラヒールのことも尋ねなかった。
ただ、こう言った。
「肩の包帯、替える?」
ヤザンはマヤを見てから、自分の肩へ目を落とした。
「あとで」
「それは、替えてほしいけど今じゃないって意味ね」
ヤザンの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
「俺のことを理解するのが早くなったな」
「あなたが思っているほど複雑じゃないもの。ただ、黙っている時間が長いだけ」
返す言葉が見つからなかった。
反対側では、シグランが入口近くに立っていた。
ヤザンを正面から見ようとはしない。
それでも、完全に目を逸らすこともできずにいた。
水路のそばでアマニの母親が口にした言葉が、今も胸の中へ引っかかっている。
――何者でもなかった、あの子?
あの言葉を、炎で消してしまいたかった。
だが、村へ入ったときのヤザンの言葉を思い出す。
――あの人たちのために戻ったんじゃない。
だから、シグランは黙っていた。
しばらくして、ジャラールとともに宿舎の周囲を確認するため、中庭を出た。
*
近くにある小さな家では、アマニが内側の扉のそばに座っていた。
膝の上には、藁の人形が置かれている。
母親は落ち着かない様子で室内を歩き回っていた。
覆いを持ち上げては戻し、窓へ近づいては離れる。
目の前の危険は去った。
それでも、そのあとに残った恐怖をどうすればいいのか分からなかった。
戻ってから、アマニは一度も口を開いていない。
だが、その沈黙は従順さではなかった。
母親がアマニを見ないまま、ようやく言った。
「騎士たちが村を出るまで、家から出てはいけません」
アマニが顔を上げる。
「どうして?」
「お母さんがそう言ったからよ」
「それは答えじゃない」
母親が足を止めた。
「外はまだ危険なの。昨日、何が起きたか見たでしょう」
「見たよ」
アマニは藁の人形を胸へ抱き寄せた。
「ヤザンが私を助けてくれたところも見た」
母親の表情が強張る。
その名を否定することは、もうできなかった。
娘も、自分も、あの騎士が誰なのか知っている。
それでも、名前を聞くたび、二年前に閉じ込めたはずの恐怖が胸の奥で動いた。
「だからこそ、近づかないでほしいの」
「どうして?」
母親は答えようとした。
だが、口から出かかった言葉を呑み込んだ。
昨日と同じ言葉を繰り返せば、今度こそ娘の目から何かが消えると分かっていた。
アマニは膝の上の人形へ目を落とした。
片方の腕が傾き、首には色褪せた赤い糸が巻かれている。
「お母さんが怖がっているのは、今のヤザンじゃない」
母親の指が動く。
「昔、みんなで怖がっていたものを、今も怖がってるだけ」
「あなたには分からないわ」
「分からないこともあるよ」
アマニは静かに立ち上がった。
藁の人形を両手で抱き、母親を真っすぐ見る。
「でも、私が見たことは分かる」
母親は何も言わなかった。
「子供の頃、ヤザンはこの人形を返してくれた」
赤い糸へ指を添える。
「昨日は、私を母さんのところへ返してくれた」
母親の視線が人形へ落ちた。
アマニは声を荒らげなかった。
責めるためではなく、忘れられない事実を一つずつ置くように言った。
「あの人だって、この村の子だよ」
母親の唇が動く。
だが、言葉は出なかった。
アマニは人形を胸に抱いたまま、扉へ目を向けた。
「出発する前に、見送りたい」
母親の手がわずかに持ち上がる。
止めようとしたのかもしれない。
だが、その手は娘へ届く前に下がった。
アマニは何も言わず、扉が開く時を待った。
*
シグランが宿舎へ戻ると、ヤザンが入口近くに立ち、遠くの水路を見つめていた。
シグランは足を止める。
「道には何もいなかった」
「そうか」
短い沈黙が落ちた。
シグランはアマニの家がある方角を見た。
「あいつは強い」
ヤザンが彼を見る。
「あいつ?」
「アマニだ」
ヤザンの目に、わずかな驚きが浮かぶ。
「どうして急にそんなことを言う?」
「見れば分かる」
答えにはなっていなかった。
それでも、ヤザンは追及しなかった。
シグランも、それ以上は話さない。
しばらくして、ヤザンが小さく言った。
「昔から、そうだったのかもしれない」
シグランは彼を見る。
ヤザンの視線は、アマニの家ではなく、その向こうにある村全体へ向けられていた。
「俺が気づかなかっただけで」
シグランは何も返さなかった。
だが、その沈黙は否定ではなかった。
ラカンが中から出てくる。
二人を見て告げた。
「休めるうちに休め。もう少し明るくなったら動く」
シグランは壁際へ向かった。
ヤザンは古いナツメヤシの方角へ目を向ける。
ナツメヤシ園。
その名を思うだけで、肩の痛みが強くなった。
だが今度は、その入口へ一人で立つわけではなかった。
*
村の広場では、サーリムがマスウード長老への報告を終えていた。
アイン・アルワルの人々は眠っていなかった。
それでも、ほとんどの者が家から出ようとはしない。
小さな窓からいくつもの顔が外を窺い、淡い朝の光が差し始めた今も、壁には松明が残されていた。
恐怖だけが、これから起こることを待っていた。
宿舎へ戻ったサーリムが言う。
「守り手たちの準備はできています。村人たちは内側の家々へ移しました。古い区画までの道も開けてあります」
アシールは地図の前に立っていた。
干上がった水路の位置へ黒い印を置く。
次に、ナツメヤシ園近くの古い流れへもう一つ。
最後の印は、村人しか知らない地点に置かれた。
「ナツメヤシ園の石だけが問題ではないわ。石は結び目の中心で、水路はそこから伸びる糸よ」
ヌーリヤが言う。
「石を閉じても、水路をそのままにすれば……」
「地下で圧力が閉じ込められる。そして、私たちには見えない場所から噴き出す」
サーリムが尋ねる。
「では、どうしますか?」
アシールは三つの印の間へ指を滑らせた。
「石まで辿り着き、封印の向きを読む。それから中心へ触れる前に、最も近い二つの流れを閉じる」
ジャラールが外の暗がりを見る。
「怪物は?」
ラカンが答えた。
「アシールへ届く前に止める」
アシールは第三班へ目を向けた。
「私の周囲を空けておくこと。封印の読み取りを中断すれば、さらに圧力が増した状態で、最初からやり直すことになるわ」
マヤが頷く。
「分かりました」
シグランが言った。
「石の前でもたつくなよ」
アシールが彼を見る。
「燃える手で封印へ触れてはいけない理由を知っている相手に、命令しないで」
ヤザンが小さな声で言う。
「今のは、お前に向けた言葉だな」
シグランが振り向く。
「分かっている」
その声は、ほとんどいつもどおりだった。
それでも、目の奥には何かが残っている。
ヤザンは追及しなかった。
ラカンが言う。
「ヤザン、知っている道はお前が示せ。ただし、位置は隊列の中だ」
「分かりました」
「中で何を見ても、一人では動くな」
「動きません」
ラカンは静かな確信を込めて告げた。
「よし。今度は班とともに入り、班とともに出る」
ヤザンは少し黙った。
「分かりました」
一行が外へ向かう。
宿舎を出る直前、ヤザンはアマニの姿に気づいた。
家の扉の前に立ち、胸には藁の人形を抱いている。
呼びかけることも、笑うこともしない。
ただヤザンを見つめ、小さな手を自分の胸へ重ねた。
母親の前では口にできない何かを、伝えようとしているかのように。
ヤザンは足を止めた。
その仕草の意味をすべて理解できたわけではない。
それでも、胸の中にあった何かが、わずかに静まった。
その少し後ろには、アマニの母親が立っていた。
娘を止めようとはしなかった。
だが、自分からヤザンへ声をかけることもできなかった。
謝罪には届かない。
それでも、昨日よりは一歩近かった。
背後から、シグランが低い声で言う。
「気を取られるな」
ヤザンが振り返った。
「もう少し優しく言えないのか?」
「言えない」
シグランはヤザンの横を通り過ぎ、先に道へ出た。
ヤザンは疲れの中でわずかに笑い、そのあとを追った。
前方では、禁じられたナツメヤシ園が古いナツメヤシの列の間に沈んでいた。
何年ものあいだ秘密を閉じ込めてきた口のように、沈黙したまま。




