彼を忘れた村
サーリムがその名を口にしてから、誰も何も言わなかった。
アイン・アルワル。
その名は、馬たちが巻き上げる砂埃よりも重く、一行の頭上に残った。
村は眼下にあった。
マヤが想像していたより小さく、シグランが予想していたより静かだった。ナツメヤシの列が低い家々を囲み、細い水路が影の間で光っている。白みがかった丸屋根は、砂からそのまま盛り上がったように見えた。
だが、サーリムは家々を見ていなかった。
視線の先にあるのは、オアシスの端から立ち昇る細い煙だった。
ヌーリヤが馬を少し前へ出し、煙の上がり方を確かめる。
「警戒煙よ」
ラカンが彼女を見る。
「一本なら、見張りが怪しい動きを見た合図。何かが現れて襲撃が始まれば、警鐘が鳴るわ」
ラカンが尋ねた。
「どの方角だ」
サーリムは煙から目を離さない。
「干上がった水路です」
ヤザンの手が、手綱を強く握った。
誰も彼を振り返らなかった。
ラカンが続ける。
「道は」
「村の中を通ります。向かう途中で、見張りから報告を受けます」
「急げ」
馬たちはオアシスへ向けて坂を下り始めた。
蹄の下の砂は、ナツメヤシへ近づくほど固くなる。
空気の匂いも変わった。
開けた砂漠の匂いに、乾いたナツメヤシの実、焼きたてのパン、一日中陽光を浴びた葉の匂いが混じる。
アイン・アルワルの家々が、はっきり見えてきた。
壁は、この土地で採れる石膏を使って造られていた。
淡い砂色をした厚い壁。その上には、小さな丸屋根や低いヴォールト屋根が連なっている。路地に面した外壁にはほとんど窓がなく、見えるのはナツメヤシ材の扉と、室内の冷気を逃がさないための小さな開口部だけだった。
扉の向こうには、空へ開かれた中庭――ホーシュがある。
その周囲を部屋が囲み、広い場所にはナツメヤシの幹と葉で造られた日除け屋根が伸びていた。敷物や仕事道具が、その下の長い影に置かれている。
マヤは、目に入るものを一つずつ追っていた。
遠くからは何もないように見えた砂漠が、ここでは人の暮らす土地になっている。
パンを焼き、水を蓄え、何も差し出さない大地で作物を育てる人々の場所だった。
シグランは、家々と細い道を黙って見渡していた。
アルマザへ助けを求めるほどの危険を抱えているにしては、小さすぎる村だった。
そして、ヤザンの中にこれほど重い沈黙を残すにしても。
最初の家並みとナツメヤシの間に入ったところで、ヤザンの馬が速度を落とした。
彼が命じたのではない。
手が、無意識に手綱を引いていた。
道を塞ぐものはない。
誰かが立ちはだかっているわけでもない。
細い水路と低い石膏の壁に挟まれた、ただの砂道だった。乾いた葉が上から垂れ、その向こうには村の丸屋根が見える。
だが、ヤザンが見ていたのは、今の道だけではなかった。
俯いたまま、そこを歩く小さな子供。
肩へ置かれた、祖父マルワンの手。
道端に落ちた藁の人形。
そして、遠い女の声。
――近づいてはだめ。
馬が止まった。
最初に気づいたのはマヤだった。
「ヤザン?」
返事はない。
村の入口を見ている。
だが、その目に映っているのは今ではなかった。
先頭のラカンが振り返る。
大丈夫かとは聞かなかった。
ただ、名前を呼んだ。
「ヤザン」
ヤザンがゆっくりと目を上げる。
「一歩でいい」
ヤザンは足をわずかに動かした。
馬が応じる。
一歩。
そして、もう一歩。
ヤザンはアイン・アルワルへ入った。
先頭の騎士たちが通ると、村は一瞬、静まり返った。
一人の男がホーシュから出てくる。
家の扉で女が足を止め、小さな開口部の奥にも顔が現れた。
最初に動いたのは、子供たちだった。
低い丸屋根の陰から少年が顔を出し、サーリムを見つけると目を輝かせた。
「サーリムが帰ってきた!」
少年は道へ飛び出した。
二人目、三人目と続き、やがて小さな子供たちの集まりが、路地や扉の向こうから姿を現す。
サーリムたちを知っている者もいれば、隊商が運んでくる絵や物語の中でしか、アルマザの騎士を見たことがない者もいた。
一人の少年が、シグランの胸元にある紋章を指さす。
「ザランの印だ!」
別の少女は、マヤの服に刻まれた水の文様を見つめた。
「水の騎士なの?」
子供たちは裸足や薄い履物のまま、馬の横を走った。
アルマザの階級章や衣装を、遠い物語の一部が突然村へ入ってきたかのように見つめている。
ホーシュの中から、母親たちの声が飛んだ。
「蹄に近づかないで!」
「手綱に触らないの!」
「騎士たちの道を空けなさい!」
注意されても、子供たちはついてくるのをやめなかった。
ただ、馬から少し離れただけだった。
ヤザンは、村人たちの顔を見た。
誰も、それがかつて村にいた少年だとは気づかなかった。
馬のそばを走る子供たちも。
扉に立つ女たちも。
仕事の手を止め、隊列を見送る男たちも。
彼らにとって、ヤザンはアルマザから来た少年だった。
第三班の一人にすぎない。
かつて村にいた子供が、騎士の階級章を身につけ、二年の訓練で変わった身体と伸びた背を持って戻るなど、誰も考えていなかった。
安心するはずだった。
だが、ヤザンの視線は馬の首へ落ちた。
シグランが馬を寄せ、隣へ並ぶ。
顔は向けなかった。
「誰にも気づかれなかったのか?」
「うん」
シグランは、ヤザンの伏せられた目を横目で見た。
「なら顔を上げろ。忘れたのはあいつらだ。お前の問題じゃない」
ヤザンが彼を見る。
「あの人たちのために戻ったんじゃない」
シグランは、わずかに顎を上げた。
「なら、そう見える顔をするな」
それだけ言うと、何事もなかったように馬を前へ進めた。
ヤザンは、その背中をしばらく見た。
それから顔を上げた。
隊列を見守る人々の中に、一人だけ動かない若い娘がいた。
石膏造りの家の入口に立ち、小さな籠を両手で抱えている。
シグランの紋章にも、マヤの衣装にも目を向けていなかった。
子供たちが名を呼ぶサーリムさえ見ていない。
彼女が見ていたのは、ヤザンだけだった。
若い騎士の顔に、覚えはない。
それでも、馬上の姿に何かがあった。
騎士の傲慢さとは違う静けさ。
村へ入る直前のためらい。
初めて見る場所ではないかのように、壁の一つ一つを追う視線。
ホーシュの中から、女の声がした。
「アマニ、こっちを手伝って」
ヤザンの胸が、半拍だけ止まった。
声のほうへ顔を向ける。
その娘と目が合った。
アマニはしばらくその場に立っていた。
やがて籠を胸元へ寄せ、何も言わずにホーシュの中へ戻っていった。
ヤザンは、彼女の顔をはっきりとは思い出せなかった。
だが、その名は記憶の古い場所へ入り込み、まだ眠っている何かを揺らした。
隊列は先へ進む。
アマニは、すぐには母親のもとへ戻らなかった。
ホーシュの反対側にある小さな部屋へ入り、扉を半分だけ閉じる。
石膏の壁に作られた狭い窪みへ向かい、丁寧に畳まれた布を退けた。
その下から、古い藁人形が現れた。
片方の腕が傾き、首には色の褪せた赤い糸が巻かれている。
アマニは、それを取り出さなかった。
ただ、赤い糸へ指を置く。
壁の向こうで遠ざかっていく蹄の音を、黙って聞いていた。
隊列は村の中央へ到着した。
広場は小さく、何度も踏み固められた砂に覆われていた。
中央には古い井戸がある。石と石膏で造られた縁は、長い年月、村人たちの手に触れ続けて滑らかになっていた。
広場の端には、二本の高いナツメヤシが立つ。
その間には、夕方になると老人たちが座る長い石の腰掛けがあった。
今日は、誰もいない。
恐怖のほうが、騎士たちより先に広場へ着いていた。
井戸のそばには、五十代の終わりほどの男が立っている。
砂色の薄いバーヌースをまとい、日に焼けた顔には、危険の姿を見るより先にその知らせを聞いてきた者の警戒が刻まれていた。
背後には、三人の村の守り手がいる。
二人は短槍を持ち、もう一人は煙の方角から目を離さなかった。
最初に馬を降りたのはサーリムだった。
「マスウード長老。アルマザの派遣隊が到着しました」
長老は落ち着いた足取りで前へ出る。
まずサーリム、ヌーリヤ、ジャラールを見た。
ビスカラの若者たちが無事に戻ったことを確かめるように。
それから視線をラカン、アシール、第三班へ移した。
短く頭を下げる。
「アイン・アルワルへ、ようこそ。ふさわしい歓迎を用意する時間がないことを、お許しいただきたい」
ラカンも馬を降りた。
「任務に来た。歓迎のためではない。俺はラカン。第三班の指揮官で、この派遣隊の現場責任者だ」
隣のアシールを示す。
「アシール・ガスカン。古代封印と結界の専門家だ」
ガスカンの名を聞き、マスウードの眉がわずかに上がった。
恐れではない。
慎重な敬意だった。
「ならば、我々が相手にしているものを知る方が来られたのですな」
アシールが答える。
「まだ分かりません。封印を見る前に、約束はできないわ」
長老はゆっくり頷いた。
「夜を越えられない約束より、そのほうがいい」
視線が、第三班へ移る。
ラカンが紹介した。
「シグラン・ザラン。マヤ・タライン。そして、ヤザン・ファドゥース」
シグランの名が出た瞬間、広場を囲む人々の視線が止まった。
遠い村であっても、ザランの名は何の反応もなく通り過ぎるほど軽くはない。
だが、ヤザン・ファドゥースという名は、何も呼び起こさなかった。
村で彼をその名で呼んだ者は、もともとほとんどいなかった。
長老の顔も変わらない。
守り手たちが囁くこともない。
誰一人、彼へ近づかなかった。
その名は、閉ざされた壁の上を通る風のように、広場を抜けていった。
それでもヤザンは、まだ一つだけ、自分へ向けられた視線を感じていた。
横の路地を見る。
アマニの姿はなかった。
すでに家の奥へ消えていた。
アシールが尋ねる。
「下りてくる途中で見えた煙は、何があったの?」
マスウードは、背後の守り手へ目を向けた。
男が答える。
「干上がった水路のそばで、砂が動くのを見張りが確認しました。まだ何も出ていなかったため、警戒煙だけを上げ、鐘は鳴らしていません」
ラカンが尋ねる。
「いつだ」
「少し前です。皆様が丘の上に姿を見せた頃かと」
サーリムが続ける。
「持ち場を離れた者は?」
「いません。命令どおり、二人が遠くから水路を監視しています」
サーリムは頷いた。
アシールが一歩前へ出る。
「最初から報告して」
マスウードは、広場のそばにある大きな家を示した。
「客人用の家で話しましょう」
「その前に、ここで。封印から何が出たの?」
長老は、ゆっくりと息を吸った。
「最初に現れたのは、五体です。小柄でしたが、素早く、獰猛だった」
サーリムが引き継ぐ。
「三体は倒しました。二体は、家々へ続く道を閉じる前に、ナツメヤシの間へ逃げました」
ラカンが尋ねる。
「負傷者は」
「守り手が二人。一人は腕、もう一人は脚を負傷しました。家畜も数頭やられましたが、村人に死者は出ていません」
マスウードは一度、言葉を切った。
「今のところは」
その最後の言葉に、誰も何も返さなかった。
マヤが尋ねる。
「水には、何が起きたんですか?」
ヌーリヤは、禁じられたナツメヤシ園の方角を見る。
「近くを流れていた水路が、数日のうちに干上がったの。水が少しずつ減ったわけじゃない。何かに道を断たれたように、突然止まった」
マスウードが言う。
「古い区域のナツメヤシも、一部が黒ずみ始めました。枯れてはいません。しかし、もうオアシスの木には見えない」
アシールはヌーリヤへ目を向けた。
「封印石へ近づいた?」
「見えるところまでは。下の部分に亀裂がありました」
「何を感じたの?」
ヌーリヤは一瞬、言葉を探した。
「空気が普通ではありませんでした。近づくほど、息が重くなった」
足元の砂を見る。
「石だけに拒まれている感じじゃなかった。あの場所全体が、私たちを押し返しているようでした」
アシールはしばらく黙った。
マスウードが尋ねる。
「それが何を意味するか、分かりますか?」
「いいえ」
答えは即座だった。
「実物を見る前から、分かったふりをするつもりもないわ」
禁じられたナツメヤシ園の方角へ目を向ける。
「日が落ちてから封印には触れない。まず、村の地図が必要よ。井戸と水路の位置、水に変化が起きた場所、ナツメヤシが黒ずんだ区域。ナツメヤシ園を回り込む道と、見張りの配置も全部」
サーリムが答える。
「道は俺が描きます」
ジャラールが続く。
「見張りの位置と、逃げた二体の足跡が最後に見つかった場所は、俺が示す」
ヌーリヤが言う。
「水の変化は私が記すわ」
アシールが頷いた。
「それでいい」
ラカンは第三班へ向き直る。
「次の指示があるまで、単独で動くな。村の中でも、水路のそばでも、ナツメヤシ園でもだ。分かったな」
マヤが答える。
「分かりました」
シグランも続く。
「分かった」
ヤザンの返事だけが、半拍遅れた。
「分かりました」
迷ったわけではない。
頭の中に、一つの言葉が残っていた。
干上がった水路。
ヤザンは、その場所を知っている。
傾いた石。
道の上へ幹を傾けるナツメヤシ。
そして、そこから禁じられたナツメヤシ園の端へ続く細い道も。
マスウードの案内で、一行は客人用の家へ向かった。
路地の両側には、高い石膏の壁が続いている。
外から見えるのは扉だけだった。
だが、扉が開くたび、その向こうのホーシュがわずかに見えた。
日除けの下でパンをこねる女。
壁際で道具を直す男。
屋根を支えるナツメヤシの幹の陰から、騎士たちを見守る子供たち。
丸屋根の窯のそばを通ると、焼きたてのパンの匂いが漂った。
さらに進むと、陽光と風に表面をひび割れさせた石膏の壁が現れる。
その先の細い脇道を見た瞬間、ヤザンの身体が、頭より先に思い出した。
息が一度、止まった。
あの道は、かつての家へ続いている。
ラヒールが暮らし、その後はヤザンと祖父マルワンの家になった場所。
家そのものは見えない。
建物の向こうに、低い石膏の丸屋根の一部と、ナツメヤシ材の扉の端だけが見えた。
その前には、マルワンが幹と葉で造った小さな日除けがある。
ホーシュの入口には、古い縄が今も下がっていた。
幼い自分が、両腕には大きすぎるナツメヤシの葉の束を抱えている姿が見えた。
祖父マルワンの荒れた手が、それを取り上げる。
記憶は、すぐに消えた。
今は、そのときではない。
だが、記憶は時を選ばなかった。
後ろから、ラカンの声がした。
「離れるな」
ヤザンは頷く。
「はい」
ラカンは家のことを尋ねなかった。
長くヤザンを見ることもない。
そのまま歩き続けた。
客人用の家は、アイン・アルワルの他の家より大きかった。
ナツメヤシ材の扉をくぐる。
その上には石膏のアーチが組まれていた。
短い通路を抜けると、空へ開かれた広いホーシュが現れた。
周囲には、厚い壁と低い丸屋根を持つ部屋が並ぶ。
一方には、ナツメヤシの幹と葉で造られた日除けが伸び、敷物と水袋に涼しい影を落としていた。
中央には、焼きたてのパン、ナツメヤシの実、乾燥させた薬草が置かれている。
簡素な場所だった。
だが、足りないものはなかった。
すべてが必要な場所に置かれ、必要以上のものは何一つない。
マヤの視線に気づき、ヌーリヤが言った。
「オアシスでは、豊かさはどれだけ持っているかではなく、どれだけ無駄にしないかで決まるの」
マヤがわずかに笑う。
「きれいな言葉ね」
ヌーリヤは日除けの下へ座った。
「きれいなんじゃない。必要なだけよ」
すぐに作業が始まった。
サーリムは一枚の大きな革を敷物の上に広げ、木炭で道を描く。
ジャラールは見張りの位置へ小さな印をつけ、ヌーリヤは井戸と水路、水に変化が起きた場所を示した。
アシールは地図の前へ座り、言葉よりも距離と方角を見ている。
ラカンは立ったまま、怪物が家々へ近づける道を一つずつ尋ねた。
ヤザンは石膏の壁際へ座った。
ナツメヤシの実を一つ取り、指の間でゆっくり回す。
アイン・アルワルの実。
祖父マルワンは、何度小さな皿を自分の前へ置いただろう。
甘いものは好きではないと言いながら、いつも多いほうをヤザンへ残した。
ヤザンは食べなかった。
やがてシグランが隣へ座る。
ナツメヤシの実とヤザンの顔を交互に見た。
「食べるのか。それとも、睨んで怖がらせるつもりか?」
ヤザンが目を上げる。
その言葉は予想していなかった。
だからこそ、口元に小さな笑みが浮かんだ。
「まだ決めてない」
シグランは別の実を一つ取り上げた。
「実を一つ食べるのに、重大な決断はいらない」
そう言って口へ運ぶと、何事もなかったように地図へ目を戻した。
ヤザンは手の中の実を見る。
それから食べた。
記憶の中と、まったく同じ味ではなかった。
あるいは、変わったのは自分のほうなのかもしれない。
その短い笑みを見たマヤの表情から、わずかに緊張が消えた。
だが、その静けさは長く続かなかった。
家の外から叫び声が上がる。
「干上がった水路だ!」
サーリムの手が、地図の上で止まった。
ジャラールが立ち上がる。
同時に、一人の守り手がホーシュへ駆け込んできた。顔は青ざめ、息を切らしている。
「水路のそばで、砂の下から何かが出ました!」
ヌーリヤが立つ。
「二人の見張りは?」
「道へ退いています! ですが、あれが追ってきています!」
アシールは道具袋を掴んだ。
ラカンも立ち上がる。
その表情は、一瞬で教師の静けさから騎士の警戒へ変わった。
「シグラン、マヤ、ヤザン。俺の後ろだ。先に出るな」
シグランはすぐに立った。
皮膚の下を赤い炎が走り、その奥では、ごく淡い青が揺れている。
マヤが手を伸ばす。
一つの水袋から細い水の筋が浮かび、彼女の手首へ巻きついた。
ヤザンだけが、半拍その場に残った。
干上がった水路。
傾いた石。
幹を傾けたナツメヤシ。
そして、禁じられたナツメヤシ園の端で終わる道。
二度目の叫びが、先ほどより近くで上がった。
「一体じゃない!」
ホーシュの空気が、一瞬止まった。
次の瞬間、アイン・アルワルの路地を、逃げる人々の足音が満たした。




