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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第三章 任務始動編

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統一祭

数日後、アルマザは訓練場では決して見せない顔をまとっていた。


家々の張り出し窓を、金の糸のような灯りが結んでいる。


高い窓からは旗が垂れ、路地に響く太鼓の音は、石畳まで街とともに呼吸しているように震わせた。


その夜のアルマザは、静かではなかった。


厳格でもなかった。


見知らぬ影を見つけた瞬間、門を閉ざす街でもなかった。


笑っていた。


少なくとも、笑おうとしていた。


今夜は統一祭。


八つの旗が一つの旗の下へ集められてから、三十年が過ぎたことを祝う夜だった。


人々が知っているのは、祝歌が伝える歴史だけだ。


多くの旗が、一つになった。


氏族の名を越え、一つの誓いが立てられた。


そのために支払われた代償を、祝歌は語らない。


学院に近い通りでは、子供たちが木の棒に取りつけられた小さな布旗を手に走り回っていた。


炎を示す赤。


水の青。


風の緑。


大地を思わせる土色。


その間を、雷の輝き、氷の白、闇の黒、光の金がひらめいていく。


屋根の上からは、長い祝祭用の外套をまとった騎士の行列が通るたび、女たちの甲高い祝い声が降り注いだ。


露店の商人たちは、蜂蜜を詰めた棗椰子の実や焼きたてのパン、甘菓子の名を声高に叫んでいる。


蜂蜜の香りが、松明の煙と混ざり合っていた。


古い宮殿の上では、統一旗が他のどの旗よりも高く掲げられている。


最も大きな旗ではない。


それでも、街の誰もが、その旗をどこに見つければいいのか知っていた。


日が沈む前、学院の中央広場に生徒たちが集められた。


一番上等な服に着替えてきた者。


嬉しさを隠し、大人びて見せようとする者。


長い籠城の末に出口が開いたかのように、門ばかり見ている者。


ラカンは腕を組み、自分の班の前に立っていた。


ヤザンは外出できる程度まで回復していたが、服の下にはまだ包帯が巻かれている。動きも、完全な速さには戻っていなかった。


マヤは初めて両手首の包帯を外していた。


だが、気を抜くと指がそこへ伸びてしまう。


シグランは、事情を知らない者の目には、もう治っているように見えた。


ラカンが言う。


「今夜は祭りだ。試験ではない」


ヤザンの顔に安堵が浮かんだ。


「だからといって、急に俺の知らない一般人になったわけではない」


安堵が消えた。


ラカンは三人を順に見る。


「人混みでケメンを使うな。喧嘩をするな。怪しい影を追うな。英雄ごっこも禁止だ。勇気を言い訳にした馬鹿な判断もするな」


ヤザンが眉を上げる。


「最後のだけ、僕に向けて言ってませんか?」


「自覚が残っている証拠だ」


マヤが小さく笑った。


シグランは黙ったままだ。


「最後の鐘が鳴る前に戻れ。遅れた者は、統一祭も旗も太鼓も、この街で光るものすべてが嫌いになるまで広場を走らせる」


「分かりました」


マヤが答える。


ヤザンも続いた。


「ものすごくよく分かりました」


ラカンがシグランを見る。


シグランは目を上げずに答えた。


「聞こえた」


ラカンは、それ以上何も言わなかった。


街道での一件以来、人の心には、押しても開かない扉があると知っていた。


片手を振る。


「行ってこい」


生徒たちは一斉に広場へ散った。


笑い声が上がり、足音が速まり、門で落ち合う約束や、友人を呼ぶ声が飛び交う。


だが、ラカンの班は一緒には動かなかった。


マヤは着替えるために一度部屋へ戻ると言った。


ヤザンも同じようにした。


シグランだけは何も告げず、宿舎へ歩いていった。


祭りの気配が、広場全体を満たしている。


それでも、彼には何も見えていないようだった。


日が沈む頃、マヤは学院の門近くに立っていた。


豪華な衣装ではない。


普段の訓練着を、落ち着いた青い服に替えただけだ。


それでも、いつもより柔らかい印象を与えていた。髪も少しだけ違う形に整えられている。


両手首は包帯に隠されていなかった。


時折、片方へ指が触れる。


気づくたび、すぐに手を下ろした。


マヤは男子生徒の部屋がある階へ顔を上げた。


一度。


そして、もう一度。


上階では、ヤザンが自室の窓際に立っていた。


彼女を見つける。


カーテンへ伸ばしていた手が止まった。


マヤは道も、門の向こうに広がる飾りも見ていない。


上を見ていた。


自分とシグランの部屋が並ぶ方向を。


ヤザンの心臓が、居心地の悪いほど強く肋骨を打った。


「誰かを待ってるのかな……」


しばらく見つめる。


「待ってるに決まってる。問題は、誰を……」


マヤがもう一度、顔を上げる。


ここから見ると、まっすぐ自分の窓を見ているように思えた。


窓から離れる。


また戻る。


「馬鹿になるな」


だが、すでに十分すぎるほど馬鹿な行動を始めていた。


小さな衣装箱を開き、きれいな上着を取り出す。


急いで羽織った。


腰紐を結び、ほどき、もう一度結び直す。


手櫛で髪を整え、止まり、反対側からやり直した。


扉の前へ立つ。


何と言えばいい。


――僕を待ってたの?


無理だ。


――一緒に行く?


もっと無理だ。


――今夜の祭り、きれいだね。


目を閉じる。


「門へ着く前に死ぬ……」


取っ手へ手を伸ばした。


その瞬間、廊下で別の扉が開いた。


身体が固まる。


落ち着いた足音。


自信に満ち、急ぐことを知らない歩き方。


姿を見るより先に、誰なのか分かった。


ヤザンは気づかれない程度に扉を開いた。


シグランが暗い色の簡素な服で廊下を歩いていた。


祭りのために着飾ったようには見えない。


そもそも彼は、何か特別なことをしなくても、人の視線を集める。


階段を下りていく。


門の近くにいたマヤが、彼の姿を見つけた。


その目に、小さな光が灯った。


すべての窓を見上げていたときにはなかったもの。


シグラン一人を見つけた瞬間にだけ、現れた光。


部屋の空気が、すべて抜けていったようだった。


ヤザンは取っ手に手を置いたまま動けない。


シグランがマヤの前で止まった。


「ここで何をしてる?」


「出てこないと思ってた」


シグランは彼女の後ろに広がる街の灯りを見た。


「どのみち、少し歩くつもりだった」


温かな返事ではない。


いつから待っていたのかとも尋ねなかった。


彼女が待っていた理由すら、理解した様子はない。


それでも、マヤは笑った。


彼が部屋へ戻らなかった。


それだけで十分だった。


「じゃあ、行こう」


シグランが門へ向かう。


マヤも隣を歩いた。


シグランは彼女を見なかった。


視線は遠くの旗へ向けられていた。


ヤザンは上階から二人を見送った。


一歩。


もう一歩。


やがて、街の光が二人を飲み込んだ。


ヤザンは静かに扉を閉めた。


叫び声はない。


涙もない。


壁の向こうまで届くようなものは、何もなかった。


ただ一人の少年が、自分の心だけ先に、招かれてもいない場所へ踏み込んでいたことに気づいただけだ。


寝台の端へ腰を下ろす。


必要以上に整えた服を見た。


口元に浮かんだ短い笑みは、しかめ面よりも痛かった。


「本気にしてたんだ……」


外から太鼓の音が響いてくる。


ヤザンは胸へ手を当てた。


街道で受けた傷と同じ痛みではない。


だが、あまりにも近い場所にあり、混ざりそうだった。


訓練で聞いたラカンの声が蘇る。


――後ろが常に安全とは限らない。相手がお前を追い込みたい場所かもしれない。


ヤザンは扉を見た。


ここには残らない。


痛みが落ちてくる場所に座り続け、自分の考えに飲み込まれたりはしない。


立ち上がり、最後に一度だけ上着を整えた。


そして、一人で部屋を出た。


アルマザの通りは、窓から見たときよりも広く感じられた。


子供たちが人々の間を駆け、商人たちが声を上げ、小さな行列が氏族の旗を運んでいる。


笛の音と太鼓、祝い声が重なり合った。


その夜、人々は簡単に笑っていた。


ヤザンには、その喜びが、言葉だけは知っているのに、会話へ加わる方法の分からない言語のように思えた。


人とぶつからないよう、できるだけ肩を避けて進む。


押し合う群衆から胸を庇った。


足取りはまだ少し遅い。


それでもラカンとの訓練のおかげで、人を正面から受け止めるのではなく、隙間を選んで歩けるようになっていた。


小さな広場の端にある石柱の近くで足を止める。


「一人?」


振り返った。


アナスが石柱の影に立っていた。


今来たのではない。


まるで、その石が建てられたときから、ずっとそこにいたような姿だった。


簡素な暗色の上着を着て、片手を懐へ入れている。


その目は、飾りではなく群衆を見ていた。


ヤザンは笑おうとした。


「そうみたい」


アナスは一瞬だけ彼を見る。


理由は尋ねなかった。


ただ言った。


「歩く?」


ヤザンが頷く。


「うん」


二人は並んで歩き始めた。


会話は少ない。


それでよかった。


蜂蜜をかけた菓子を並べる露店の前を通る。


アナスが止まり、硬貨を一枚置いた。


一つ受け取り、そのままヤザンへ差し出す。


ヤザンは菓子を見た。


「どうして?」


「苦い顔してる」


少し迷ってから受け取った。


「慰め?」


アナスが肩をわずかに上げる。


「たぶん」


一口食べる。


思っていたよりずっと甘く、ヤザンの眉が寄った。


アナスが見る。


「まずい?」


「いや……すごくおいしい」


アナスは何も言わず、再び歩き始めた。


ヤザンは部屋の扉を閉めてから初めて、心から少し笑った。


人の流れは、二人を中央大広場へ運んでいった。


そこでは統一祭が、ただの祝祭というより、アルマザという国そのものを映す一枚の絵のように見えた。


広場の上段には高い式台が設けられ、その周囲を、氏族の家々と軍の上層部に割り当てられた石造りの観覧席が囲んでいる。


その下には騎士や役人、名の知られた家の者たちが並んでいた。


一般の民衆はさらに下。


低い木柵の後ろへ集められ、子供を肩へ乗せ、どうにか上の儀式を見ようとしている。


祭りから締め出されているわけではない。


ただ、同じ高さの石へ立つことを許されていないだけだ。


ヤザンは、観覧席へ続く広い通路へ目を向けた。


反対側から、マヤとシグランが現れる。


二人を見た衛兵は軽く頭を下げ、すぐに道を開いた。


名を尋ねる必要はない。


シグランの顔と、マヤの肩に留められた小さなタラインの徽章だけで十分だった。


シグランはためらわず、上へ向かう。


後に続いたマヤが、群衆の中にヤザンを見つけた。


その足が遅くなる。


離れた場所で視線が重なった。


ヤザンは小さく笑い、手に持った菓子を少し上げた。


大丈夫だと言うように。


本当は、完全に大丈夫ではない。


それでもマヤは淡く微笑み返した。


次の瞬間、人の流れが二人の間へ入り、彼女は石の仕切りの向こうへ消えた。


ヤザンはアナスとともに下段へ残った。


頭上では、氏族の旗が翻っている。


アルマザは一つになった日を祝っていた。


だが、その子らが立つ石の高さは、同じではなかった。


太鼓が三度、深く鳴らされた。


広場が静まる。


八氏族の将軍たちが、式台の左右から姿を現した。


名を読み上げるまでもない。


人々は、その旗を見れば誰なのか分かった。


炎の紋章を掲げた、オラセンの赤。


深い海のように静かな、タラインの青。


それにザファランの緑が続き、ジャルジャランの土色、稲妻のように裂けたサーランの輝き、イヴェルセンの冷たい白、灯りの縁さえ飲み込むガスカンの黒。


最後に、ディヤランの金が高く掲げられた。


八つの旗。


八つの血の鍵。


その八つの力が、アルマザを支えている。


マヤは中段の観覧席、その縁に立っていた。


水の旗の下に父、アリアン・タラインの姿を見つける。


無意識に背筋が伸びた。


アリアンは娘の方を見ない。


一国の民を前にした将軍らしく、正面だけを見据えていた。


マヤの隣で、シグランは八つの旗すべてを見ていたわけではなかった。


一人の男を待っている。


将軍たちに続き、ハーマンが現れた。


旗は持っていない。


自らの存在を示す色も必要なかった。


最高司令官が姿を見せただけで、広場の沈黙が変わった。


ハーマンは将軍たちの間を進み、式台中央にある石の柱の前で止まった。


シグランの指が観覧席の縁を強く掴む。


アルマザを揺るがす名を持つ将軍たち。


そのさらに上に立つハーマン。


それを見ながら、シグランの目には別の光景が蘇っていた。


〈黒の帳〉の首領に首を掴まれた自分。


振りほどくこともできない。


炎が消える。


身体が地面へ落ちる。


マヤが小さく呼んだ。


「シグラン」


彼は彼女を見なかった。


「何だ」


「手に力が入ってる」


シグランは自分の指を見る。


観覧席の縁から手を離し、再びハーマンへ目を戻した。


なぜマヤが自分を見ていたのか、尋ねなかった。


手が離れた後も、彼女の目が自分へ残っていたことにも気づかない。


彼が見ているものは、式台の上にしかなかった。


力。


式典の呼び声が高く響く。


「アルマザの君主――スレイマン・アル=ジーリ陛下!」


スレイマン・アル=ジーリが静かな足取りで姿を現した。


周囲の護衛は少ない。


彼の前に開かれる道と、将軍たちのわずかな礼だけで、その地位を示すには十分だった。


両手には、畳まれた旗を抱えている。


旗竿は式台よりも古く、布は他の旗よりも重く見えた。


どの氏族の色でもない。


八本の線が一つの輪を囲む、簡素な紋様だけが刻まれている。


古き統一旗。


スレイマンはハーマンの前で止まった。


子供たちの声さえ小さくなる。


君主が口を開く。


「旗が分かれて掲げられていたあの日から、三十年が過ぎた。そして、いずれの旗も他の旗に踏みにじられることはないと、誓いが立てられた」


将軍たちへ目を向ける。


次に、民衆へ。


「血によって集められたものを、血だけで守ることはできない。守るのは、誓いだ」


統一旗をハーマンへ差し出した。


最高司令官は、両手で受け取る。


指が古い旗竿へ触れた瞬間、ハーマンの目の中を何かがよぎった。


目の前の式台が消える。


ほんの一拍の間だけ、彼は別の空の下に立っていた。


隣にいるのは、記憶に残る姿よりもさらに若い少年。


顔は光の外にある。


まだ一つになっていない旗へ、片手を伸ばしている。


短い笑い声が風にさらわれ、記憶がその顔を形に留めるより先に消えた。


ハーマンの唇が動いた。


小さな笑み。


あまりにも静かで、ほとんどの者は気づかなかった。


ハーマンが前へ進み、中央の石柱へ統一旗を立てる。


同時に、八人の将軍がそれぞれの旗竿へ手を置いた。


血の鍵が応えた。


炎の旗から、赤い一筋が石の溝へ流れる。


続いて青。


緑と土色。


雷の輝き。


氷の白。


闇の黒。


光の金。


八つの色が、式台に刻まれた線を走った。


最初は分かれている。


やがて、中央へ近づいていく。


マヤがシグランを見上げた。


この光景の美しさが、少しでも彼へ届いているか確かめたかった。


だが、シグランは彼女を見ていない。


八つの力を、一つの旗の周囲へ集めるハーマンだけを見ていた。


その下で、ヤザンはマヤを見ていた。


三つの視線が広場を横切る。


だが、二つとして交わらなかった。


八つのケメンが、統一旗の根元で重なる。


空気が震えた。


広場の下段で、ヤザンの胸の奥に何かが脈打った。


オーラではない。


自ら呼び出したケメンでもない。


傷よりも深い場所から生まれた、ただ一度の鼓動。


周囲の空気が、一瞬だけ止まった。


近くにいた子供の小さな布旗が震え、その端が風とは逆の方向へ翻る。


ヤザンは息を呑み、胸へ手を当てた。


「どうした?」


アナスの静かな声がした。


「傷が……少し」


アナスは一瞬だけ彼を見る。


それから式台へ視線を戻した。


上段では、ハーマンの笑みが消えていた。


その目が、ごくわずかに見開かれる。


勢いよく、広場の下へ振り返った。


今の感覚――


旗から生まれたものではない。


八氏族のどの力とも違う。


記憶が名を与えるよりも先に、身体が知っていた。


古い圧力。


静かでありながら、周囲のすべてを退かせるために、何一つ誇示する必要のない気配。


ハーマンは群衆を探した。


幾千もの顔。


男、女、子供。


色と旗。


高く上げられた無数の手。


彼が見下ろした先では、ヤザンがアナスの隣に立ち、胸へ手を当てていた。


だが、その瞬間、一般の民衆が掲げる大きな旗が式台と二人の間を横切った。


ヤザンの姿が布の向こうへ消える。


旗が通り過ぎたときには、あの感覚も消えていた。


何も残っていない。


オーラも。


ケメンの痕跡も。


追うべき方向さえも。


スレイマン・アル=ジーリが、二人にしか聞こえない声で尋ねた。


「何かあったのか」


ハーマンは、まだ下段を見ていた。


やがて答える。


「いいえ」


広場へ向き直った。


だが、笑みが戻ることはなかった。


統一旗が高く掲げられる。


人々の歓声が石の観覧席を震わせた。


上段では、八氏族の色が一つの旗を囲んで翻っている。


下段では、ヤザンが胸を押さえたまま、自分の古傷が疼いただけだと思っていた。


なぜハーマンが振り返ったのか、知るはずもない。


自分の中にある何かが、最高司令官に祭りのことを一瞬忘れさせたことも。


儀式が終わると、音が一斉に広場へ戻った。


群衆が動き、色が混ざり合い、露店への道も再び開かれる。


ヤザンとアナスは、最も混み合う場所から離れた。


反対側では、マヤとシグランが観覧席から下りてくる。


マヤは旗のことや、八氏族のケメンが式台で一つになった光景について話していた。


シグランは隣を歩きながら、その半分しか聞いていなかった。


石柱の近くで足を止め、ハーマンが立っていた場所を見る。


マヤが言った。


「ここにいないでしょう?」


シグランが彼女を見る。


「いる」


「身体だけ」


答えなかった。


マヤは少し間を置いて続ける。


「明日には、あの人みたいにならなくてもいいのよ」


ハーマンのことだと分かった。


「そんなことは言ってない」


「言わなくても分かる」


シグランは目を逸らした。


「話したくない」


マヤは黙った。


無理に扉を開こうとはしない。


ただ隣を歩いた。


遠くから、ヤザンが二人を見た。


マヤの目はシグランへ向いている。


シグランの目は、誰もいなくなった式台から離れない。


ヤザンは近づかなかった。


逃げもしなかった。


アナスと歩き続けた。


静けさは長く続かなかった。


「アナス?」


二人が止まる。


数歩先に、アミールが立っていた。


祝祭に合わせた整った服を着ている。隣にはナダと、何人かの学院生がいた。


アミールの目が、アナスからヤザンへ移る。


口元に皮肉な笑みが浮かんだ。


「珍しいな。統一祭を、そいつと過ごしてるのか?」


アナスは答えない。


アミールが続ける。


「オーラすら作れない奴より、もう少しましな連れを選ぶと思ってた」


菓子を持つヤザンの手が止まった。


つい先ほどまで、彼は氏族の子らを見上げていた。


誰もが、自分の名を知る旗の下に立っていた。


そして今、この言葉が、他の生徒なら誰でもまとえる光さえ自分にはないと突きつけてくる。


ヤザンが静かに言った。


「行こう、アナス」


アナスは動かなかった。


目はアミールへ向いたままだ。


低い声で言う。


「自分の言葉で、人の価値が上がったり下がったりすると思ってる方がおかしい」


アミールの笑みが消えた。


「何だと?」


アナスは同じ言葉を繰り返さない。


半歩だけ前へ出た。


「二度と言うな」


アミールが片眉を上げる。


「どうしてだ? オーラなしが、お前の庇護にでも入ったのか?」


ヤザンが言う。


「アナス、もういい」


アナスは彼を見なかった。


「よくない」


声は静かなままだ。


だが、アミールの後ろで上がりかけた笑いは、誰の口からも出なかった。


アナスは手を上げない。


ケメンも見せない。


二度目の警告さえ必要なかった。


ナダが間へ入った。


「アミール、もうやめて」


アミールが彼女を見る。


ナダは強い口調で続けた。


「今日くらいは」


アミールは顎へ力を入れ、アナスとヤザンを順に睨んだ。


「好きにしろ」


背を向ける。


他の生徒たちも後に続いた。


ヤザンは、彼らが離れるまで黙っていた。


やがて言う。


「そこまでしなくてもよかったのに」


アナスは歩き始めた。


「分かってる」


ヤザンも後を追う。


二歩進んでから尋ねた。


「じゃあ、どうして?」


アナスはすぐには答えなかった。


前を見たまま歩く。


やがて、短く言った。


「あいつが間違ってた」


それ以上は何も言わない。


ヤザンにも、それ以上は必要なかった。


最後の鐘が近づくにつれ、通りから少しずつ人が減り始めた。


太鼓の音は遠ざかる。


張り出し窓の灯りはまだ残っていたが、子供たちが広場を去った後、その光も静かになったように見えた。


ヤザンとアナスは学院へ戻る道を歩いた。


長い沈黙の後、ヤザンが言う。


「アナスって、あまり質問しないよね」


「しない」


「どうして?」


アナスは道を見たまま答えた。


「話したいなら、人は話す」


短い返事。


そして、いかにも彼らしい、どこか掴みどころのない返事だった。


学院の門へ着くと、反対側からマヤとシグランが現れた。


マヤは静かに歩いている。


シグランは何も話さず、その目には式台の何かを持ち帰ったような色が残っていた。


マヤがヤザンを見つける。


次に、隣のアナスへ目を向けた。


ヤザンへ小さく微笑む。


胸の痛みが一度止まり、少しだけ軽くなって戻ってきた。


ヤザンも、それより小さな笑みを返した。


勝った者の笑みではない。


忘れた者の笑みでもない。


まだ立っていられると、自分へ認めさせるだけの笑みだった。


オーラでは守れない場所でさえ。


シグランが二人の横を通り過ぎる。


一瞬だけヤザンを見て、その手に半分残った菓子へ視線を落とした。


嘲笑わない。


何も言わない。


そのまま宿舎へ向かう。


マヤは背中を目で追ったが、今度はついていかなかった。


最後の鐘が学院に響いた。


生徒たちが次々に門をくぐる。


蜂蜜の香り。


途切れ途切れの笑い声。


窓辺に飾られるか、机の上に忘れられる小さな旗。


広場では、ラカンが待っていた。


ヤザンとアナスを見る。


次にマヤとシグラン。


そして他の生徒たちへ目を向ける。


「よし。誰も死んでない。進歩だな」


ヤザンが答える。


「先生の成功基準、怖すぎませんか?」


「それでも時々、達成できない者がいる」


マヤが笑いを隠すように口元へ手を当てた。


アナスも唇の端をわずかに動かしたが、顔を覆う影がすぐにそれを隠した。


シグランは黙って宿舎へ向かう。


ラカンはその背を見送ったが、呼び止めなかった。


門の近くで、ヤザンは地面に落ちた小さな統一旗を見つけた。


子供が落としたのだろう。


人々がそばを通り過ぎ、布の端には土がついていた。


ヤザンは屈んで拾い上げる。


親指で汚れを払い、踏まれたままにせず、近くの窓枠へ置いた。


なぜそうしたのか、自分でも分からない。


地面に置き去りにされたものは、ときどき人に似ているからかもしれない。


あるいは、その夜、門で自分を待っていると想像した手を得られなかったからかもしれない。


だが、別のものを得た。


もっと素朴で。


思っていたよりも、ずっと得難いもの。


八つの旗が一つの旗の下に集う祭りの夜。


ヤザンは、どの旗に属するのかと問う前に、隣を歩いてくれる者を見つけた。

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