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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第一章 アルマザ学院編

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 門をくぐった名


アルマザへ近づくほど、道は広くなっていった。


もう岩の間を縫う細い道でもなければ、砂の上に残された隊商の跡でもない。


幾度となく荷車の車輪が通り、場所によっては滑らかに、別の場所ではひび割れた、幅広い石畳の道だった。


道の両側には畑が広がった。


やがて木々が現れた。


点々と建つ小さな家。


そして、アイン・アルワールとはまるで違う村々。


イザンはシャーミルの後ろを歩いていた。


だが、その目はもう一つの場所に留まっていられなかった。


何もかもが新しかった。


木々はナツメヤシではない。


水も、小さな井戸や細い水路ではなかった。


道も、一時間だけ足跡を残し、やがて風に消される砂ではない。


ここでは、世界そのものが、残ることを恐れていないように見えた。


広い畑で働く農民たち。


野菜や穀物を積んだ荷車を引く男たち。


ビスカラの人々よりも落ち着いた色の服を着た女たち。


石で作られた水路のそばを走る子供たち。


馬に乗って道を横切り、誰の前でも長く足を止めない兵士たち。


何もかもが、アイン・アルワールより大きかった。


沈黙さえも、大きく感じられた。


そして、アルマザの城壁がその全貌を現した時。


イザンは、自分でも気づかぬうちに足を止めていた。


白く高い城壁の向こうに、都市が広がっていた。


まるで冷たい光から削り出されたかのような壁。


門の上には高い塔がそびえ、見たことのない紋章を掲げた長い旗が垂れている。


城壁の向こうには、丸い屋根や石造りの建物、高く架けられた通路が見えた。


さらに遠く。


高い丘の上では、巨大な宮殿が光を受けていた。


都市のすべてを見下ろす眼のように。


だが、イザンの注意を引いたものは、ほかにもあった。


空気に混じる、見知らぬ匂い。


ナツメヤシの実ではない。


砂でもない。


井戸の水でもない。


イザンは顔を上げ、尋ねた。


「この匂い、何?」


シャーミルは足を止めなかった。


「海だ」


イザンは黙った。


海。


その言葉は聞いたことがある。


だが、本当の意味を理解したことはなかった。


アイン・アルワールでは、水は苦労して地中から汲み上げるものだった。


大切に守り。


分け合い。


失うことを恐れるもの。


だがここには、壺には収まらず、井戸の底にも眠らない、巨大な水があるらしい。


想像しようとした。


だが、できなかった。


     ◆


門へ続く坂道のふもとで、シャーミルが突然足を止めた。


イザンは顔を向ける。


「どうして止まったの?」


シャーミルはアルマザの門を見た。


それから、少年を見る。


「これからは、誰の前でも本当の姓を口にするな」


イザンの身体が固まった。


「僕の姓?」


「ああ」


「どうして?」


シャーミルは言った。


「扉を開かない姓もある」


少し黙り、続ける。


「その向こうに埋められたものを、目覚めさせる姓もある」


イザンには理解できなかった。


そしてシャーミルが、それ以上説明する気がないことも分かった。


男は袋から布を取り出した。


道の埃に汚れたイザンの顔と黒髪を拭う。


優しい仕草ではなかった。


ただ実用的だった。


弱々しい姿を許さない場所へ入る子供から、旅の痕跡を拭い去っているようだった。


「名は、イザンのままだ」


少年は黙って彼を見た。


「それは、自分の中に持っておけ。自分の名を覚えている限り、誰にも奪われない」


そして、都市を指す。


「だがアルマザでは、別の姓を使う」


「何ていう姓?」


「ファドゥース」


イザンはゆっくり繰り返した。


「ファドゥース……」


「名を尋ねられたら、イザンと答えろ。姓を尋ねられたら、ファドゥースと答える」


シャーミルは真っすぐに少年を見る。


「それ以上のことを聞かれたら、黙れ」


イザンは反論しなかった。


ここ数日で、名前より大切なものをあまりにも多く失った。


姓を隠すことさえ、世界から新たに差し出された要求の一つにしか思えなかった。


それでも、心の中で言った。


僕はイザンだ。


その時、小さな何かが抵抗するのを感じた。


誰にも聞こえなかった。


だが、それはまだ生きていた。


     ◆


門の前には長い列ができていた。


商人。


隊商。


荷車。


背中に袋を担いだ男たち。


そして、兵士たちが荷物を調べ、名前や行き先を尋ねる間、日差しの下で待つ女たち。


一般の人々は、曲がりくねった列に並んでいた。


遅く。


ほとんど進まない列。


その反対側には、もっと狭く、整った通路があった。


そこを守る兵士たちは、より静かだった。


豪華な服をまとった男女が、そこを通り過ぎていく。


胸や肩に金属の徽章をつけた者もいた。


彼らは荷物を開けなかった。


長く話すこともない。


門のほうが、彼らを知っているかのように開いていった。


イザンはそれを見つめ、尋ねた。


「どうして、あの人たちはあっちから入れるの?」


シャーミルが答える。


「名前が扉を開けるからだ」


イザンは一般の列を見た。


「大きな名前を持っていない人は?」


シャーミルは言った。


「待つ」


単純な言葉だった。


だがイザンは、それまでとは違う目で都市を見た。


アルマザは、ただ偉大なだけではない。


誰をすぐに中へ入れるのかを知っている。


そして、誰を日差しの下に立たせておくのかも。


シャーミルは脇の通路へ向かった。


一人の兵士が前へ出て、剣の柄に手を置いた。


「この通路は、一般人のためのものではありません」


シャーミルは声を上げなかった。


外套の内側から、暗い色の金属製の徽章を取り出す。


小さなものだった。


だが、それを見た瞬間、兵士の顔つきが変わった。


縁は黒く、中央にはアルマザの紋章。


その端には、金属の一部として刻み込まれたような、精巧な黒い月があった。


兵士は徽章を見る。


それから、シャーミルを見上げた。


顔から厳しさが消えた。


列に並ぶ者たちの注意を引かぬ程度に、わずかに頭を下げる。


だが、それだけでイザンには分かった。


自分と旅をしている男は、ただの旅人ではない。


兵士は低い声で言った。


「お戻りになるとは、存じませんでした」


シャーミルが答える。


「そのほうがいい」


兵士は口にしかけた言葉を飲み込んだ。


そしてほかの兵士たちへ合図を送る。


道が開いた。


シャーミルは振り返らずに進んだ。


イザンも、その後を追った。


     ◆


門をくぐった瞬間。


イザンは、別の世界へ足を踏み入れたように感じた。


アルマザは、ただの都市ではなかった。


一つの巨大な騒音だった。


あらゆる方向から音が押し寄せてくる。


石畳を進む荷車の車輪。


商人たちの呼び声。


馬の蹄。


開かれる窓。


人々の足音。


子供たちの笑い声。


そして、道を空けるよう叫ぶ兵士たち。


匂いもまた、見知らぬものが混ざり合っていた。


焼きたてのパン。


香辛料。


焼いた肉。


海水。


馬の汗。


新しい布。


イザンは首が痛くなるほど顔を上げた。


周囲には高い建物が並んでいた。


白いもの。


灰色のもの。


見たことのない彫刻で飾られたもの。


木の張り出し。


大きな扉。


道のそばを流れる水路。


そして、いくつかの公的な建物には、それぞれ異なる紋章を掲げた旗が下がっていた。


炎。


波。


羽。


岩。


雷。


氷の結晶。


影。


そして、輝く太陽。


まだ、その名を知らなかった。


だが都市のすべてが、それらの紋章の上に築かれているように感じられた。


二人の横を、豪華な馬車が通り過ぎた。


窓は青い幕で隠され、銀色の糸で刺繍が施されている。


人々はすぐに道を空けた。


誰かに命じられたわけではない。


自らそうした。


イザンが尋ねる。


「中にいるのは誰?」


「氏族の者だ」


「どうして、みんな離れたの?」


シャーミルは言った。


「この都市の歩き方を知っているからだ」


イザンはその答えが気に入らなかった。


市場の角で、小さな籠を抱えた子供を見た。


その子は、清潔な服を着た若者たちが水を飲んでいる石の噴水へ近づいた。


だが兵士が、迷いのない手つきで遠ざけた。


「ここは、お前のための噴水ではない」


子供は言い返すこともなく下がった。


イザンは、その姿を見つめ続けた。


シャーミルが言う。


「立ち止まるな」


「でも、あの子は喉が渇いてる」


「分かっている」


「どうして飲ませないの?」


シャーミルは噴水を見た。


「アルマザは、すべての者に水を与える」


そして続ける。


「だが、誰が先に飲むのかは選ぶ」


イザンは、この都市のすべてを理解したわけではない。


だがその美しさの奥に、アイン・アルワールに似た何かがあると感じた。


アイン・アルワールでは、呪われた女の息子だからという理由で、人々は彼から離れた。


ここでは、名前が平等ではないという理由で、人々は互いに距離を置いていた。


     ◆


二人は市場を抜けた。


イザンは驚きのあまり口を開けないよう、必死だった。


名前も知らない果物。


木の板の上に並べられた大きな魚。


石窯から取り出される丸いパン。


蜂蜜が光る菓子。


砂漠にはない色をした布。


静かな火で小さな肉を焼いている店の前で、イザンは思わず足を止めた。


その匂いはあまりにも強く。


一瞬、疲れも恐怖も忘れさせた。


シャーミルは少年を見る。


そして、薄いパンで肉を包んだものを一つ買い、差し出した。


イザンはためらいながら受け取る。


「僕に?」


シャーミルは言った。


「違う。壁にだ」


イザンは本当に壁を見た。


少ししてから、シャーミルが自分をからかっているのだと気づいた。


食べ始める。


辛く。


塩気があり。


アイン・アルワールで口にしたものとは、何もかもが違った。


香辛料で少し涙が浮かんだ。


それでも、勢いよく食べ続けた。


シャーミルが言う。


「ゆっくり食べろ」


イザンは、ほんの少しだけ速度を落とした。


     ◆


市場を抜けると、二人はさらに狭い路地へ入った。


人は少なかった。


だが匂いは、より濃い。


薬草。


油。


煙。


乾いた根。


シャーミルは、扉の半分を茶色い布で覆われた小さな店の前で止まった。


許可を求めることもなく、中へ入る。


店内の棚には、ガラス瓶や薬草の袋、小さな骨、砕かれた石、巻かれた布が隙間なく並んでいた。


机の向こうには、短い髭と鋭い目を持つ、痩せた禿頭の男が座っていた。


男は苛立ったように顔を上げた。


「関節の薬を、つけでは売らないと何度言えば――」


途中で止まった。


シャーミルを見た。


門の兵士と同じように顔つきが変わった。


だが、その変化は少し違っていた。


頭を下げることも。


笑うこともない。


ただ、古い年月が突然店へ入り込み、棚の間に立ったような顔だった。


男はゆっくり言った。


「死んだと思っていた」


シャーミルが答える。


「お前の予想は、相変わらず外れる」


男の目がイザンへ移った。


そして、まだ完全には治っていない傷を見る。


「その少年は、お前の連れか?」


シャーミルは言った。


「薬草が必要だ」


「そんなことは聞いていない」


「俺も、答えるために来たわけではない」


男はしばらくシャーミルを見つめた。


それから短く息を吐く。


「変わらないな」


シャーミルが言った。


「お前は変わった」


男の頭を見る。


「禿げた」


男の目が細くなった。


イザンは疲れていたにもかかわらず、思わず笑いそうになった。


店主は棚の間を歩き、いくつかの薬草を布の中へ集めた。


暗い色の油が入った瓶。


灰色の粉。


それらも加え、シャーミルの前へ置く。


声を低くした。


「傷は深いのか?」


「治せないほどではない」


男は再びイザンを見た。


「お前が連れて歩く子供は、いつも長生きしない」


シャーミルの顔が変わった。


声は上げない。


身体も動かさない。


ただ言った。


「言葉を選べ」


男はすぐに黙った。


その瞬間。


シャーミルは、誰かを恐れさせるために叫ぶ必要がないのだと、イザンは理解した。


シャーミルは代金を払い、薬草を受け取った。


そして店を出る。


路地をしばらく進んだ後、イザンが尋ねた。


「あの人、友達?」


「違う」


「でも、あなたを知ってる」


「俺を知っている者は多い」


「みんな、あなたを怖がるの?」


シャーミルが答える。


「頭のいい者はな」


今度こそ、イザンは小さな笑みを隠せなかった。


誰かに見つかることを恐れるように、その笑みはすぐに消えた。


だが、シャーミルは見ていた。


何も言わなかった。


     ◆


夕暮れが近づく頃。


二人は、都市の広い範囲を見渡せる高い石の道を登った。


そこから見たアルマザは、通りを歩いていた時とは違って見えた。


人であふれる一般区画。


装飾された門に守られた、より静かな区画。


監視塔。


水路。


遠くに見える巨大な広場。


そして、それらすべての上に――


宮殿があった。


高く。


冷たく。


見る者を、自分が思っていたよりも小さな存在だと感じさせるほど美しかった。


だがシャーミルは、宮殿を見ていなかった。


視線の先には、内側の丘の近くに建つ巨大な建物があった。


一般区画のものより整った城壁。


訓練場。


監視塔。


門の上にはアルマザの旗が掲げられ、その周囲を八つの氏族の紋章が囲んでいた。


イザンは足を止めた。


「あれは何?」


シャーミルが答える。


「アルマザ・カマン学院だ」


イザンは建物を見つめた。


「そこで、何をするの?」


シャーミルは言った。


「力の継承者を育てる」


その言い方を、イザンは好きになれなかった。


「僕は?」


シャーミルが少年を見る。


「明日、お前もその中へ入る」


イザンは唾を飲み込んだ。


「ファドゥースの名で?」


「ああ」


イザンは学院を見た。


本当の名は、胸の内に残されていた。


シャーミルが隠した姓は、口にするには重すぎた。


シャーミルは高い道を下り始めた。


「これから言うことを覚えておけ。尋ねられた以上のことは話すな。必要でなければ、アイン・アルワールのことも口にするな。マルワンの名もだ」


少し間を置く。


「レイスについても、尋ねるな」


その名を聞いた瞬間、イザンの身体が固まった。


「どうして?」


シャーミルは振り返らなかった。


「アルマザには――」


そして歩きながら続ける。


「まだ、十分に死んでいない死者がいる」


イザンはしばらく、その場に立っていた。


学院を見る。


旗を。


城壁を。


そして、自分が知らない姓で入った都市を。


イザンという名は、胸の中に残っていた。


だが明日、学院の門が開く時。


シャーミルが恐れる名のために開くのではない。


門が迎えるのは、一人の少年。


イザン・ファドゥース。


アイン・アルワールでは、人々が彼についての嘘を知っていたからこそ、拒絶された。


だがアルマザでは、まだ誰も彼を知らない。


そのことのほうが、恐ろしかった。


本当の名を知らない都市は――


一人の人間を殺したことにさえ気づかず、呑み込んでしまうかもしれない。


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