閉ざされた扉
イザンは、医療棟へ運ばれている間も目を覚まさなかった。
警備員たちの腕の中で、彼の身体は驚くほど軽かった。
だが、熱は下がらない。
森が終わった後も、身体の奥で何かが燃え続けているかのようだった。
頭が横へ傾く。
急いで巻かれた白い布の外へ、片方の手が力なく垂れていた。
マヤは部屋の扉まで彼らを追った。
中へ入ろうとした瞬間、一人の看護師が前へ立つ。
「ここで待っていてください」
マヤは掠れた声で言った。
「私も一緒です」
反論する声ではなかった。
懇願だった。
看護師は、肩に巻かれた包帯を見る。
次に、服の裾へこびりついた乾いた血へ目を向けた。
「あなたも負傷しています」
マヤは答えなかった。
扉の前から離れようとしない。
一歩でも遠ざかれば、部屋がイザンを連れ去ってしまうかのように。
廊下の反対側では、シグランが壁へ背を預けていた。
肩には応急処置の包帯が巻かれている。
顔は青白い。
両脚も、立っているのがやっとだった。
それでも、座ることを拒んだ。
木の扉を睨み続ける。
中で起きていることから自分を隔てている、その扉そのものを憎んでいるようだった。
◇
部屋の中では、ラカンが寝台のそばに立っていた。
医師はイザンの身体へ身を屈め、胸、首、両腕の上へ淡い医療用ケメンの糸を滑らせていく。
光は薄い青。
最初は静かだった。
だが、胸の中心へ近づくほど、細かく震え始めた。
医師の手が止まる。
何も言わない。
もう一度調べる。
そして三度目。
三度目には、もはや普通の傷を探す者の顔ではなかった。
自分が学んできたものに反する現象を見ている者の顔だった。
ラカンが低く尋ねる。
「何だ?」
医師は答えない。
イザンの身体の上で指を動かす。
青い糸が再び震えた。
一瞬途切れ――
また戻る。
医師は、ラカンの存在を忘れたように呟いた。
「あり得ない……」
ラカンが顎へ力を込める。
「医師」
医師は顔を上げた。
「この少年は、アルマザのいずれかの一族に属しているのですか?」
ラカンは一瞬黙った。
「確認された所属はない」
医師の目が細くなる。
「訓練を担当したのは?」
「シャミル・ガスカンだ」
医師の指の間で、医療用の糸が止まった。
ラカンをしばらく見つめる。
それから、もう一度イザンへ視線を戻した。
「訓練だけでは説明できません」
ラカンが言う。
「何が見えている?」
医師は再び、光の糸を胸へ近づけた。
光が揺れる。
そして、目には見えない一点で止まった。
「内部で、極めて大きな力が噴き出した痕跡があります」
「ケメンか?」
医師はゆっくりと首を振った。
「私が知る、どのケメンの流れとも違います」
さらに身を寄せる。
「それ以上に奇妙なのは、身体が医療用の力を受け入れないことです」
「なぜだ?」
「内部経路が、完全に閉じているからです」
一度言葉を切る。
そして続けた。
「耐えられる限界を超えた何かに晒され、さらに大きな崩壊を防ぐため、一度にすべてを閉じたように見えます」
ラカンの手が強く握られた。
「命は?」
医師はすぐには答えなかった。
それだけで、部屋の空気が重くなる。
やがて答える。
「心臓は安定しています」
そして続けた。
「呼吸も……今のところは」
ラカンは、その言葉を気に入らなかった。
「今のところ?」
医師はイザンを見る。
「内部で何が噴き出したのか、私には分かりません」
「それが再び動こうとした時、何が起こるのかも分からない」
ラカンが一歩近づく。
「目を覚ますのか?」
「おそらくは」
「確率の話を聞いたのではない」
医師は彼を見た。
目に浮かぶ疲労は本物だった。
「これ以上正確な答えを持っていません」
そして、厳しい声で続ける。
「無理に起こそうとしないでください」
「私の許可なしに、外部のケメンを身体へ触れさせないこと」
「経路を調べる試みも禁止します」
「身体が閉じたものを、理由も分からないまま開こうとすれば、この少年を殺すかもしれません」
ラカンはイザンの顔を見続けた。
動かない。
穏やかだった。
その内側で起きていることとは、あまりにも不釣り合いなほどに。
扉が叩かれた。
一人の運営員が半歩だけ中へ入る。
「ラカン教官……叙任式が始まります」
ラカンは振り返らなかった。
運営員は慎重に続ける。
「学園長から、教官たちも出席するようにと」
「三番は、合格隊の一つです」
ラカンはその場を動かなかった。
医師が言う。
「私が残ります」
それでも動かない。
医師は少し声を落とした。
「今、あなたがここにいても、検査の結果は変わりません」
長い沈黙が流れた。
やがて、ラカンはうなずいた。
そして部屋を出た。
◇
ラカンの姿を見た瞬間、マヤが立ち上がった。
「無事なんですか?」
ラカンは、どう答えるべきか分からなかった。
だから言った。
「状態は安定している」
マヤは彼の顔を見上げた。
その言葉がすべてではないと、すぐに気づいた。
シグランが壁から身体を離す。
「何を言わなかった?」
ラカンが彼を見る。
「医師も、何が起きたのか理解できていない」
シグランの顎が強くなる。
「それは答えじゃない」
「分かっている」
重い沈黙が落ちた。
やがてラカンが言う。
「叙任式が始まる」
マヤは扉を見る。
「今?」
「試験は終わった」
「制度は誰も待たない」
声に納得はなかった。
シグランが苦々しく言う。
「素晴らしいな」
三人は広場へ向かった。
だが、マヤは扉から離れる前に振り返った。
しばらく、その場に立ち止まる。
イザンを置いていくことを謝っているかのように。
そして、ラカンの後を追った。
◇
塔の広場では、合格した隊が不揃いな列を作っていた。
完全な祝賀の場ではなかった。
生徒たちは、大声で喜べるほど元気ではない。
包帯を巻かれた者。
地面を見つめ続ける者。
これから受け取る徽章を、震える手で待つ者。
震えの理由は誇りだけではない。
身体が、森へ入った時と同じ姿では戻ってこなかったからだ。
各国の使節団は、それぞれの場所に立っていた。
教官たちは、自分の隊の後ろへ並ぶ。
上級監督が石の壇上へ進んだ。
声を上げる。
「これより、正式に合格を記録された隊への叙任を開始する」
記録を開いた。
「四番――ハガリス、前へ」
エヴリン・ストロムが進み出る。
その後ろに、クララ・テフィールドとルーカス・ヴァイル。
最初にエヴリンが徽章を受け取った。
監督が告げる。
「初級騎士」
次にクララ。
「初級騎士」
そしてルーカス。
彼は掌の中の小さな徽章を見た。
「これだけやって、『初級』か?」
クララは彼を見ずに答えた。
「まず始めなさい。それから名前に文句を言えばいいわ」
エヴリンは笑わなかった。
視線は広場の端を動いている。
運営員たち。
そして、五番を示していた暗い盤。
消えた隊のことを忘れてはいなかった。
監督が言う。
「一番――アルマザ、前へ」
ラーイド・オラセンが進み出る。
次にアスマー・ザファラン。
そしてワーイル・イヴェルセン。
ラーイドは落ち着いて徽章を受け取った。
アスマーは短く微笑みながら受け取る。
ワーイルは、監督が小さな金属片を掌へ置いた後も、それを見つめ続けた。
消えてしまうのを恐れているかのように。
監督が告げる。
「初級騎士」
ワーイルは動かない。
背後からアルダの声がした。
「顔を上げろ、ワーイル」
ワーイルはゆっくりと目を上げた。
アルダは続ける。
「お前は、二人の後ろから到着したんじゃない」
ラーイドとアスマーを見る。
「二人と一緒に到着したんだ」
徽章を握るワーイルの指が震えた。
そして、完全に顔を上げる。
初めて、隊の中にいることを謝っている者には見えなかった。
監督が言う。
「二番――アルマザ、前へ」
アミール・サーランが進み出る。
隣にはナダ・ディヤラン。
その後ろにアナス・ガスカン。
アミールは徽章を受け取った。
指の間で裏返して見る。
「これだけやって、初級騎士だけか?」
背後からアドナンの声がした。
「もっと大きな声で言ってみろ」
アミールが振り返る。
アドナンは言った。
「もっと高い位が欲しいなら、もう一度森へ戻してもらえるかもしれないぞ」
アミールはすぐに口を閉じた。
ナダが小さく笑う。
アナスでさえ、わずかに笑いかけたように見えた。
監督が言う。
「九番――ビスカラ、前へ」
サーレム。
ヌーリヤ。
そしてジャラルが進み出る。
三人は静かに徽章を受け取った。
だが、サーレムは最初に徽章を見なかった。
ラカンの近くにある、不完全な列を見る。
ヌーリヤも同じ場所へ目を向けた。
ジャラルはしばらく黙っていた。
そして、仲間にしか聞こえない声で言う。
「ここにいるべきだった」
ヌーリヤが答える。
「目を覚ませば、受け取れる」
最後の呼び出しが響いた。
「三番――アルマザ、前へ」
広場が少し静まる。
マヤが進み出た。
背筋は伸びている。
だが、一歩進むたびに支払っている痛みを、顔が隠しきれていなかった。
監督は徽章を掌へ置いた。
「初級騎士」
マヤは指を閉じた。
次にシグランが進み出る。
手を伸ばす。
徽章を受け取った。
「初級騎士」
返事はしない。
自分の位置へ戻った。
三人目の場所だけが空いたままだった。
監督が記録を開く。
「イザン・ファドゥス」
誰も前へ出なかった。
今度の沈黙は、儀式のためのものではない。
痛みのある沈黙だった。
マヤは、自分とシグランの間にある空白を見る。
シグランは正面だけを見つめ続けた。
空いた場所へ目を向ければ、皆の前で何かを認めることになるかのように。
ラカンが前へ出た。
手を伸ばす。
監督は、その掌へ徽章を置いた。
「生徒が回復するまで、ラカン教官へ預ける」
ラカンは指を閉じた。
小さい。
軽い。
それでも、その掌の中ではどんな武器より重かった。
イザンが初めて手にした階級。
制度が彼を騎士として認めたその瞬間――
彼の身体は、閉ざされた扉の向こうで生き残るために戦っていた。
シグランはラカンの手を見る。
そして、すぐに視線を逸らした。
マヤは顔を伏せる。
呼び出しは終わった。
だが、三番――アルマザの誰一人として、何かが終わったとは感じていなかった。
◇
ラカンは徽章を手に、医療棟へ戻った。
静かに扉を開ける。
イザンは、まだ意識を失ったままだった。
医師は寝台のそばで記録を確認している。
看護師が、額の上の濡れた布を取り替えていた。
医師が言う。
「熱は、少し下がり始めています」
喜べるほどの知らせではない。
ラカンは寝台へ近づいた。
手を開く。
徽章を見る。
磨かれた金属。
最初の階級を示す印。
縁には、アルマザの細い紋様が刻まれている。
それをイザンの枕元へ置いた。
低い声で言う。
「合格したぞ、イザン」
一度黙る。
そして続けた。
「お前の道の最初の一歩だけを、先に行かせるな」
寝台のそばへ座った。
時間が流れる。
窓の外の光が、夕方へ傾き始めた。
マヤは外にいた。
治療を受けながらも、許される以上に遠く離れようとしない。
シグランは一度座った。
すぐに立つ。
そして、また壁へ戻る。
待つという行為を知らないかのようだった。
イザンの指が動いた。
ラカンはすぐに気づく。
「イザン?」
イザンは苦しみながら目を開いた。
最初に見えたのは天井。
次にラカンの顔。
そして、枕元に置かれた徽章。
手を伸ばそうとした。
だが、腕の痛みが止めた。
乾いた声で尋ねる。
「これは……?」
ラカンはそばへ座った。
「お前の階級だ」
理解が追いつくまで、少し時間がかかった。
「じゃあ……」
唾を飲み込む。
「合格したの?」
「ああ」
イザンは目を閉じた。
胸から短い息が漏れる。
森が、その結果さえ奪ってしまったのではないかと恐れていたかのように。
再び目を開く。
「マヤは?」
そして続ける。
「シグランは?」
ラカンが答える。
「無事だ」
「負傷しているが、生きている」
イザンは黙った。
自分の身体を見る。
「どうして、僕は無事だと感じないんだろう」
ラカンは答えなかった。
医師が近づく。
イザンが尋ねる。
「僕に、何が起きたんですか?」
「それを調べているところです」
イザンはその言葉を気に入らなかった。
「安心できる答えには聞こえません」
医師が答える。
「安心できる状況ではありません」
正直さは残酷だった。
だが、慰めのための嘘より清潔だった。
医師は再び医療用ケメンの糸を通す。
今度はイザンも、胸の上で光が震える様子を見ることができた。
医師が言う。
「訓練は禁止です」
イザンが見つめる。
「何ですって?」
「戦闘も禁止」
「身体へ負荷をかけることも」
「力や反響を試すことも」
「内部にある何かを開こうとすることも禁止します」
イザンが言う。
「でも、僕はケメンを持っていません」
医師は彼を見る。
「それが、私にも説明できない部分です」
イザンは黙る。
医師が続ける。
「身体が完全に閉じた内部経路があります」
「何がそこを通ったのかは分かりません」
「なぜ開いたのかも」
「ただ、今それを無理に動かせば、さらにひどい崩壊を起こす可能性があります」
イザンが尋ねる。
「普通の訓練も?」
医師が答える。
「身体が何を閉じ込めようとしているのか分かるまでは……はい」
「どれくらい続きますか?」
医師は答えなかった。
イザンの目がラカンへ動く。
そして、医師へ戻る。
「どれくらい?」
「分かりません」
その言葉は、ゆっくりと彼の中へ入っていった。
持っていたケメンを失ったのではない。
知っていた力を奪われたのでもない。
だが、自分の身体だけで築いてきた唯一の道を失うかもしれない。
動くこと。
訓練すること。
倒れること。
そして、立ち上がること。
扉が叩かれた。
マヤが入ってくる。
病棟でもらった、小さな白い花束を抱えていた。
顔は疲れている。
目元も少し腫れていた。
笑おうとする。
「こんにちは」
イザンが彼女を見る。
同じように笑おうとした。
「マヤ……」
近づいて、花をそばへ置く。
「これ、あなたに」
「ありがとう」
マヤは徽章を見る。
次に、イザンの顔を見る。
笑みが消えた。
「私が、立っていなければいけなかった」
イザンは驚いたように見る。
「ハルの前で?」
マヤは顔を伏せた。
「もっと、二人を守るべきだった」
イザンが言う。
「マヤがいなかったら、僕たちは塔へ着けなかった」
マヤは顔を上げる。
一粒の涙が落ちた。
すぐに拭う。
だが、次の涙が続いた。
扉のところにシグランが現れた。
ノックはしない。
少し足を引きずりながら入ってくる。
肩には、まだ包帯が巻かれていた。
最初に医師を見る。
「もう一度調べろ」
医師が答える。
「調べました」
「なら、もっとよく調べろ」
ラカンが言う。
「シグラン」
シグランは歯を食いしばった。
誰かへ怒りを向けたかった。
医師へ。
森へ。
自分へ。
倒れたイザンへ。
だが、怒りをぶつけるべき者が、誰も正しい場所に立っていなかった。
医師が言う。
「怒っても、検査結果は変わりません」
シグランが一歩進む。
そして止まった。
ようやくイザンを見る。
硬い声で言った。
その奥に、もっと弱い何かを隠しながら。
「動くな」
「訓練もするな」
「自分が平気だと証明しようとするな」
イザンはしばらく彼を見た。
そして、小さく笑う。
「君から聞いた言葉の中で、一番心配しているように聞こえる」
シグランの顔がわずかに赤くなる。
「黙れ」
「病人だろ」
マヤは涙の中で笑った。
その言葉の下にあるものを理解したからだ。
医師が記録板を閉じた。
「朝まで監視下に置きます」
「訓練は禁止」
「戦闘も禁止」
「新しい検査も禁止です」
そして、イザンをまっすぐ見る。
「いつか騎士であり続けたいなら、まず最も難しい訓練から始めなさい」
一度黙る。
「生きていることです」
「自分の身体と戦わないこと」
医師は部屋を出た。
言葉だけが、彼の後にも残った。
ラカンはイザンを見る。
少年は耐えようとしている。
そして、静かに失敗していた。
穏やかに言う。
「休ませてやれ」
マヤは動かなかった。
「先生……」
ラカンは優しく、それでも断固として言った。
「マヤ」
マヤはゆっくりと出ていった。
涙を拭う。
シグランは扉のところに、もう少し長く残った。
イザンを見る。
次に徽章を見る。
何も言わず、外へ出た。
ラカンは静かに扉を閉めた。
イザンは一人になった。
徽章を見る。
初級騎士。
道の最初の段階。
手を伸ばす。
指が途中で止まった。
震える。
もう一度試す。
届かない。
訓練場にいる自分が見えた。
目の前に立つラカン。
声が聞こえる。
もう一度。
倒れる自分。
そして立ち上がる自分。
ずっと胸の奥で繰り返してきた、小さな夢。
騎士になる。
もっと強くなる。
僕は――
景色が壊れた。
騎士になったその日に、足元の道が閉ざされた。
一つの言葉が漏れた。
最初は小さく。
そして、部屋を切り裂いた。
「嫌だ!」
廊下で、マヤが口元へ手を当てた。
シグランは、指の関節が白くなるほど拳を握った。
ラカンは目を閉じた。
そして振り返る。
遠ざかっていった。
◇
ラカンが足を止めたのは、医療棟の外壁に着いてからだった。
誰もいない。
冷たい。
生徒たちの目から遠い場所。
拳を上げる。
壁へ叩きつけた。
石がひび割れる。
「くそ……」
低い声だった。
だが、何かが壊れた音のように響いた。
背後から静かな声がした。
「壁に何の罪がある、ラカン?」
ラカンの身体が固まる。
ゆっくり振り返った。
シャミルが影の中に立っていた。
最初からそこにいたかのように。
あるいは、影そのものが人の姿を選んだかのように。
口元には薄い笑み。
だが、目は笑っていなかった。
ラカンの声が自然と低くなる。
「シャミル殿……」
シャミルは、ひび割れた壁を見る。
「答えが見つからない時、まだ拳を使うのか」
ラカンは、足元へ絡みつく影を見る。
「あなたも、誰にも気づかれずに現れる」
「影は、自分の到着を知らせたがらない」
ラカンは一度顔を伏せた。
そして医療棟を見る。
「生徒として森へ入れた」
拳が強く握られる。
「血を流して手に入れた徽章に、触れることさえできない姿で帰してしまった」
シャミルが言う。
「生きて帰した」
ラカンが顔を上げる。
「それが慰めですか?」
「違う」
シャミルは一度黙る。
「事実だ」
ラカンが尋ねる。
「あの少年の秘密は何です?」
シャミルはすぐには答えなかった。
部屋の窓を見る。
次に、地面へ伸びる影を見る。
「答えを恐れるには、十分すぎるほど知っている」
ラカンが顔を上げる。
シャミルは続けた。
「だが、その代償を防ぐには、何も知らなさすぎる」
「それでも、あなたは話している以上のことを隠している」
シャミルは、楽しさのない短い笑みを浮かべた。
「隠してきたからこそ、今まで生きていられた」
ラカンは拳を握った。
「森で、何が起きたんです?」
シャミルは黙る。
その沈黙は、ラカンが知る彼のものより長かった。
やがて答える。
「身体が受け入れる準備のできていないものが動いた」
「何です?」
シャミルは彼を見る。
「その扉は、今はまだ開けない」
ラカンが言う。
「医師は、内部経路が閉じていると言いました」
「医師は扉が閉じているのを見て、家が崩れかけていると思った」
「どういう意味です?」
シャミルの視線が、医療棟へ向く。
「起きたのは、普通のケメンの流れではない」
「身体が耐えられるものより、はるかに大きかった」
「だから、さらに深い場所へ被害が届かないよう、通った経路を閉じた」
ラカンが尋ねる。
「開けられるんですか?」
「開けられる」
ラカンは安心できなかった。
シャミルの声には、約束がなかった。
「生き残るために身体が閉じた扉を開くことは、代償のない治療ではない」
「方法があるんですか?」
シャミルが背を向ける。
「ついて来い」
「どこへ?」
シャミルは影の中へ動いた。
「可能性を与えられる、唯一のもののところへ」
◇
一時間も経たないうちに、二人は学園の外れにある古い薬草街へ来ていた。
塔の騒がしさから離れた場所。
細い路地。
古びた石壁。
ニガヨモギ。
ローズマリー。
乾燥した根。
長く寝かせた油。
それらの匂いが満ちていた。
シャミルは、小さな店の前で足を止める。
間口は狭い。
木製の看板は、ひどく擦り減っていた。
ノックもせず中へ入る。
店台の向こうにいた老人が顔を上げた。
シャミルを見た瞬間、表情が変わる。
「シャミル様」
シャミルが言う。
「マスティックの小瓶を」
老人がためらう。
「どのマスティックを?」
シャミルが見る。
「棚には置いていないものだ」
老人の顔から疑問が消えた。
店台の下へ身を屈める。
黒い布で包まれた、小さな木箱を取り出した。
慎重にシャミルの前へ置く。
「こんなに早く必要になるとは思いませんでした」
「私もだ」
ラカンが近づく。
「何です?」
シャミルは箱を開いた。
中には、小さな瓶が収められている。
指よりも細い。
底には、一滴の濃い油が溜まっていた。
深い緑色。
わずかに青みを帯びている。
周囲を照らしてはいない。
だが、光が触れた時、その中へ沈み込み、完全には戻ってこないように見えた。
ラカンが言う。
「マスティック油?」
シャミルが答える。
「お前の知るものは、傷を閉じる」
瓶を二本の指で持ち上げる。
「これは、生き残るために身体が閉じたものを開く助けになる」
ラカンは瓶を見続けた。
「名前は?」
老人が低い声で答える。
「青いマスティックの涙」
ラカンが尋ねる。
「治せるんですか?」
シャミルは瓶を箱へ戻した。
「身体が治るための機会を与える」
「その後に起きることへ、身体が耐えられるかどうかは――」
箱を半分閉じる。
「別の話だ」
老人へ言う。
「一滴だけだ」
「熱を下げるために、白いニガヨモギ」
「呼吸と身体を支えるために、ローズマリー」
「神経を鎮めるために、カモミール」
ラカンが尋ねる。
「一滴より多ければ?」
シャミルが答える。
「準備ができる前に経路が開くかもしれない」
「内側から裂ける可能性もある」
「少なければ?」
「何にも届かない」
ラカンが言う。
「なら、この治療で死ぬ可能性もある」
シャミルは答えた。
「唯一の機会である可能性もある」
ラカンは黙った。
そして尋ねる。
「元に戻れますか?」
シャミルは箱を見る。
「身体が自分自身から持ち主を救わなければならなかった後、元のまま戻れる者はいない」
ラカンが言う。
「何と伝えれば?」
シャミルは完全に箱を閉じた。
それでも、青い油は木の小さな隙間から光を拾っていた。
「嘘をつくな」
ラカンを見る。
「だが、お前の恐怖で、身体が機会を与える前に希望を埋めるな」
ラカンは箱を見つめ続けた。
村人たちが傷を治す油として知っていたもの。
それが今、死なないために自ら扉を閉じた身体を開く鍵として、その手の中にある。
イザンが倒れてから初めて――
ラカンには、自分が手にしているものが治療なのか分からなかった。
それとも――
開けるべきではない、もう一つの扉なのか。




