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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第二章 騎士試験編

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26/32

支え合って帰還した隊


三番――アルマザは、塔へ向かって進み続けた。


その後方では、九番――ビスカラが、イザンの地面へ置いた札の前に残っていた。


イザンは振り返らなかった。


振り返るだけの力がなかった。


自分自身にも理解できていないことを、説明する気力もなかった。


マヤは先頭を歩いていた。


傷ついた身体からは想像できないほど、足取りは安定している。


だが、それは強さではなかった。


必要だっただけだ。


自分が止まれば、後ろの二人も止まる。


イザンとシグランは、ひどく苦しみながら歩いていた。


肩を並べて。


互いに支え合いながら、何もしていないように装っている。


しばらく進んだ後、マヤは振り返らないまま少し速度を落とした。


「札は、どこで見つけたの?」


イザンは空になった自分の手を見た。


本当に札を置いてきたことを、まだ信じられないかのように。


「目を覚ました場所の近く」


マヤはしばらく黙った。


木々が、ゆっくりと周囲を流れていく。


塔はまだ見えない。


やがて言った。


「渡したタイミングはよかった」


後ろからシグランの声がした。


「タイミング? 俺たちは立つことさえ難しいのに、もう一隊と戦うところだったんだぞ」


「だから、よかったと言ったの」


マヤは半分だけ振り返り、イザンを見た。


「持ち続けていたり、何が起きたのか説明しようとしたりしていたら、私たちには耐えられない戦いが始まっていたかもしれない」


イザンは視線を落とした。


「大したことはしていないよ」


笑おうとした。


だが、その笑みは完成しなかった。


突然、世界が回った。


目の中で木々が一瞬止まり――


すべて同じ方向へ傾いた。


自分が倒れているのではなく、地面のほうから迫ってくるように感じた。


足が崩れる。


シグランが素早く手を伸ばし、肩を掴んだ。


「イザン!」


マヤが足を止め、振り返る。


シグランは自分も痛みに顔を歪めながら、イザンの肩を強く支えていた。


「大丈夫か?」


イザンは短く息を吸う。


どうにか姿勢を戻した。


「大丈夫」


その声には、まるで説得力がなかった。


シグランはしばらく顔を見つめた。


「そうは見えない」


イザンは彼の手をそっと外しながら言った。


「君も、僕よりよくは見えないよ」


シグランは一瞬黙った。


そして、苛立ったように言う。


「だから倒れるな。お前を担ぐ余裕はない」


イザンは苦しげに笑った。


「じゃあ、重荷にならないようにする」


マヤは笑わなかった。


イザンの青白い顔を見る。


次に、立っているだけで精いっぱいのシグランへ目を向けた。


「ここからは、どちらも一人で歩かないで」


イザンは反論しなかった。


シグランも反論しない。


二人は再び、ゆっくりと歩き始めた。


肩を並べて。


マヤは前へ戻った。


「後ろで倒れないで。二人まとめて運ぶ力なんてないから」


シグランが言う。


「誰も頼んでいない」


「よかった。頼まれても断っていたから」


声は落ち着いていた。


だが、その目は必要以上に長く道を見つめていた。


マヤは、何が起きたのかをもう尋ねなかった。


イザンも、あの侵入者たちがどこへ消えたのかを尋ねなかった。


シグランも、同じ疑問を口にしなかった。


あれをやったのは、本当に自分だったのか。


問いは三人とともに歩いていた。


だが、彼らの痛みより速く歩ける足を持ってはいなかった。



塔の周囲を包む空気は、森とは違っていた。


森の静寂とは似ても似つかない。


交差する足音。


短い命令。


記録係たちの声。


もはや試験とは呼べないものから帰ってきた生徒たちの荒い呼吸。


広い石造りの入口付近には、教官や各国の使節が集まっていた。


枝が一つ揺れるたび、すべての目が森へ続く道へ向けられる。


記録係たちは、低い石造りの台の後ろに座っていた。


頭上では、重い風を受けて各国の旗が揺れている。


塔の側面には、小さなケメン盤が幾つも灯っていた。


それぞれが、森の中に設置された監視地点とつながっている。


入口付近には、一部の運営員が待機していた。


残りは森の中に留まり、制限時間が終わるまで監視するだけで介入しない。


石畳の道が動いた。


最初の隊が木々の間から姿を現す。


先頭はエヴリン・ストロム。


その後ろに、クララ・テフィールドとルーカス・ヴァイルが続いていた。


誰も声を上げない。


派手な誇りも見せない。


それでも、その静かな帰還は、どの隊の歓声より重かった。


総監督が前へ出た。


エヴリンの胸に残る四番の札を見る。


次に、経路盤に刻まれた印を確認した。


声を上げる。


「四番――ハガリス」


記録係が印を記すまで待つ。


「元の札を保持。塔への経路も完了している」


記録係が盤面へ印章を打った。


「合格を記録する」


エヴリンは笑わなかった。


ルーカスが長い息を吐く。


「やっと退屈な任務が終わった」


クララが答える。


「退屈ではなかったわ」


ルーカスが彼女を見る。


クララは森へ視線を戻した。


「ただ、あそこで何が起きたのか分からなかっただけ」


エヴリンも一度立ち止まった。


同じ方向を見る。


そして言った。


「私たちの役目は終わった」


三人はハガリス使節団の待機場所へ向かった。


だが、クララだけはもう一度森を振り返った。


追っていた痕跡は、終点も残さず消えていた。


それが気に入らなかった。


しばらくして、再び枝が揺れる。


ラーイド・オラセンが姿を現した。


手には一枚の札を持っている。


その後ろにはアスマー・ザファラン。


風を使った影響で、髪が乱れていた。


ワーイル・イヴェルセンは半歩遅れてついてくる。


視線は地面へ向けられたまま。


仕掛けられた罠が、まだ外まで追ってきていないか確かめているようだった。


三人は登録台へ進んだ。


ラーイドが札を差し出す。


監督が受け取った。


番号を確認し、宣言する。


「一番――アルマザ」


記録係たちに見えるよう札を掲げる。


「六番――カスナラの札。真正であることを確認」


運営員が結果を書き込んだ。


「合格を記録する」


アルダが落ち着いた足取りで近づいた。


顔には、はっきりとした笑みがある。


「よくやった」


ラーイドを見る。


次にアスマー。


そして、視線がワーイルの上で止まった。


「三人ともだ」


ワーイルは戸惑った。


どこへ目を向ければいいのか分からない。


アスマーが微笑む。


ラーイドは満足を隠すように、腰帯の上で拳を握った。


アルダはワーイルを見ながら言った。


「罠が閉じてから壊すより、閉じる前に気づくほうが重要だ」


ワーイルは少しだけ顔を上げた。


だが、返す言葉は見つからない。


アルダも答えを求めてはいなかった。


言葉が届いたことを理解していた。


さらに少し時間が過ぎる。


別の隊が現れた。


先頭はアミール・サーラン。


成功した散歩から帰ってきたような顔で歩いている。


だが、傷ついた肩と肋骨は、その演技に同意していなかった。


隣を歩くナダ・ディヤランは、負傷した肩へ手を当てている。


アナス・ガスカンは、二人の後ろを無言で歩いていた。


首には、普通の戦闘ではつかない指の跡が残っている。


アミールが監督へ札を差し出した。


男が受け取る。


「二番――アルマザ」


札を確認する。


「七番――ティゾラの札。真正であることを確認」


盤面へ印章が打ちつけられた。


「合格を記録する」


アドナンがアミールの肩へ手を置いた。


「よくやった」


次に、ナダとアナスを見る。


「さあ、息をしていいぞ」


アミールは本当に息を吐いた。


それからハガリス隊を見て、次にラーイドへ目を向ける。


「くそ……先を越された」


ラーイドは冷たく答えた。


「生きて着いた。それで十分だ」


「俺より先に着いた奴が言う台詞だな」


ラーイドは答えなかった。


だが、アスマーが小さな笑いを隠した。


入口に近い一角では、ラカンが無言で立っていた。


背筋はまっすぐ。


表情は静か。


両手は背中の後ろ。


一見すれば、ほかの教官と同じように待っているだけに見える。


だが、最初の隊が到着してからずっと、視線は森へ続く道に固定されていた。


アルダが近づく。


「お前の生徒たちは遅れている」


ラカンは彼を見なかった。


「分かっている」


アドナンも近づき、二人のそばに立った。


「時間がない」


ラカンが答える。


「分かっている」


同じ言葉だった。


だが、二度目はさらに重かった。


塔の側面で、一つのケメン盤の光が弱まる。


運営員の一人が総監督へ近づき、耳元で報告した。


「六番を西側の通路で確認。中程度の負傷。ゆっくり移動しています」


監督が尋ねる。


「札は持っているか?」


「いいえ」


監督は静かに答えた。


「制限時間が終わるまで介入するな」


運営員が離れる。


少しして、別の盤が光った。


新しい報告が届く。


「七番は、まだ東側区域にいます」


「状態は?」


「移動しています。ただし、塔へは向かっていません」


監督は一度目を上げた。


「監視だけ続けろ」


三つ目の報告が届く。


「八番を南側通路付近で確認。一名が負傷しています」


「札は?」


「ありません」


監督はうなずいた。


まだ、敗北は宣告されない。


時間が終わっていないからだ。


試験が続く限り、森は彼らのために閉ざされたままだった。


敗者たちは、成功者の広場へ戻ってこない。


負傷している者もいる。


道を探している者もいる。


札を失った後でさえ、解決策を探し続けている者もいた。


再び、森へ続く道が動いた。


先頭に現れたのはサーレム。


その後ろにヌーリヤ。


ジャラルは、サーレムの手にある札を見つめながら歩いていた。


まだ、自分たちが本当にそれを持っていることを信じられないようだった。


三人は登録台へ近づく。


サーレムが札を差し出した。


監督が受け取る。


番号を見た瞬間、ラカンの目が細くなった。


五番。


監督が声を上げる。


「九番――ビスカラ」


記録係たちへ札を見せた。


「五番――ティルマラの札。真正であることを確認」


印章の音が響く。


「合格を記録する」


ラカンは動かなかった。


だが、胸の内側で何かが強く縮んだ。


五番の札は、森の奥から持ち出された。


ビスカラの三人の表情を見れば、普通の経緯で手に入れたのではないことだけは分かる。


サーレムは何も言わず、ラカンの前を通り過ぎた。


顔は落ち着いていたが、消えきらない緊張が残っている。


ジャラルはラカンと目を合わせようとしなかった。


ヌーリヤだけが、彼の近くで足を止める。


最初は直接見ようとしなかった。


低い声で言う。


「彼らを待っているようですね」


ラカンは背中の後ろで指を強く握った。


答えない。


ヌーリヤは森を見る。


「あの隊は、不思議な心を持っています」


ラカンが彼女へ目を向ける。


ヌーリヤは続けた。


「何も持っていない時でさえ……」


一度言葉を止める。


「何かを残していく」


ラカンは黙って見つめていた。


「別れた時、三番――アルマザは塔へ向かっていました」


完全な安心を与える言葉ではなかった。


だが、胸にあった最悪の可能性だけは遠ざけた。


生きていた。


少なくとも、ヌーリヤが見た時には。


ヌーリヤは歩き出す。


振り返らないまま言った。


「ただ、ひどく疲れていました」


自分の隊へ戻っていった。


ラカンはその場に残る。


彼女の言葉は、絶望より少しだけ優しい恐怖を胸へ残した。


アルダが彼を見る。


「何があった?」


ラカンは答えた。


「何もない」


今度の言葉は嘘だった。


総監督が宣言する。


「制限時間の終了まで、残り数分」


広場が静まり返る。


木々の動き一つ一つが重要になった。


すべての影が可能性となる。


どんな音も、最後の足音かもしれない。


別の運営員が塔の側面から現れた。


低い声で報告する。


「五番から反応がありません」


監督が顔を上げた。


「すべての監視地点でか?」


「すべてです」


「最後の位置は?」


「中央区域へ入った後です。それから痕跡が途絶えました」


監督はケメン盤を見る。


五番の盤は暗い。


「時間が終わるまで捜索を続けろ」


運営員が離れる。


ラカンにも、その言葉は聞こえていた。


だが、振り返らない。


今、五番は彼の関心ではなかった。


目は道だけを見ていた。


ただ、道だけを。


時間は遅く流れた。


試験が始まってからのどの日よりも遅く。


アドナンが呼ぶ。


「ラカン」


返事はない。


もう一度。


「ラカン」


ラカンは静かに言った。


「来る」


それが確信なのか――


祈りなのか、自分でも分からなかった。


監督の声が響く。


「残り、わずか」


沈黙がさらに厳しくなった。


誰も動かない。


アミールさえ口を閉ざした。


ラーイドも森から目を離さない。


マヤは現れない。


シグランも。


イザンも。


塔の上にある時間の印が、わずかに暗くなった。


制限時間が終わろうとしていた。


その時――


枝が揺れた。


大きな音ではない。


遠くの葉が、かすかに触れ合っただけ。


ラカンが顔を上げる。


木々の間に、一つの影が現れた。


そして輪郭が明らかになる。


マヤ。


最初に森から出てきた。


先頭を歩いている。


顔は青白い。


服には土と焼け跡が残っていた。


片手を肋骨の近くへ添えている。


それでも、背筋は伸びていた。


一歩一歩が語っていた。


後ろの二人を送り届けるまで、自分は倒れない。


続いて、二つ目の影。


そして三つ目。


イザンとシグラン。


どちらかが一方を運んでいるのではない。


どちらかが先導しているのでもない。


互いに寄りかかっていた。


片側にイザン。


もう片側にシグラン。


二人とも、自分の弱さを相手への助けに見せようとしていた。


イザンの足が崩れるたび、シグランが引き戻す。


シグランが痛みに身体を折るたび、イザンが寄り添う。


まるで、最初からそうするつもりだったかのように。


広場が静まり返った。


ラーイドが彼らを見る。


アミール。


アスマー。


アナス。


ほかの使節たちも。


ハガリスの三人さえ振り返った。


ルーカスの目がわずかに見開かれる。


クララは、三人の破れた服に残る焼け跡へ視線を固定した。


エヴリンは何も言わなかった。


だが、自分たちが間に合わなかった戦いが、そこにあったのだと理解した。


ラカンは息を呑んだ。


一瞬、三番――アルマザを見てはいなかった。


制限時間までに札を届けるべき隊を見てはいなかった。


森へ入った時、それぞれが一人で歩いていた三人の生徒を見ていた。


誰にも手を差し出さないシグラン。


隊のすべてを一人で背負おうとするマヤ。


死ぬことより、誰かの重荷になることを恐れるイザン。


そして今。


マヤは先頭で、道そのものを肩に担いでいる。


倒れた者へ目も向けなかったシグランは、イザンの足が崩れるたび支えていた。


人の重荷になることを恐れ続けてきたイザンは、疲れ果てた身体でシグランを支えている。


傷だらけで帰ってきた。


だが、隊として帰ってきた。


ラカンの目に熱が込み上げた。


瞬きはしなかった。


彼らの前で、何かを落とすことを許さなかった。


アドナンが近づき、隣に立つ。


低い声で言った。


「美しい光景だな」


ラカンは答えない。


アドナンが続ける。


「お前が羨ましい」


ラカンの顔に、小さな笑みが浮かんだ。


本当に小さな笑み。


三人が到着する前に隠した。


目の前で見るまで安心しないと、自分に言い聞かせていた。


そして、ついに彼らを見た今――


どれほど心配していたのかを、どう隠せばいいか分からなかった。


マヤが顔を上げる。


ラカンと目が合った。


言葉はなかった。


それでも、その目は明確に伝えていた。


帰ってきた。


誰も置いてこなかった。


でも、私たちは無事ではない。


三人は登録台へ進んだ。


歩みのすべてが遅かった。


時間だけを除いて。


監督が尋ねる。


「番号は?」


マヤは痛みをこらえながら息を吸った。


疲れていても、はっきりとした声で答える。


「三番――アルマザ」


シグランが服の中へ手を入れた。


指が震えている。


八番の札を取り出し、監督の前へ置いた。


男が受け取る。


番号を確認する。


次に三人を見る。


声を上げた。


「三番――アルマザ」


記録係たちへ札を掲げる。


「八番――サティランの札。真正であることを確認」


盤面へ印章を打った。


「合格を記録する」


その瞬間――


塔の上から、深い音が鳴った。


一度。


そして二度。


長い響きが、広場と森の上へ広がる。


時間を示す印が消えた。


総監督が片手を上げる。


「国際騎士試験の制限時間は終了した」


声が広場へ響く。


さらにケメン盤を通じて、森の中の運営員たちにも届けられた。


すべてが止まった。


もう時間はない。


次の試みもない。


これ以降、奪える札もない。


監督が結果記録を開いた。


はっきりとした声で読み上げる。


「一番――アルマザの合格を正式に承認する」


続ける。


「二番――アルマザ」


「三番――アルマザ」


「四番――ハガリス」


「九番――ビスカラ」


記録係たちが最終結果を書き込む。


監督は続けた。


「六番――カスナラ。札を喪失。敗北を記録」


「七番――ティゾラ。札を喪失。敗北を記録」


「八番――サティラン。札を喪失。敗北を記録」


一人の運営員が、塔の側面から急いで近づいた。


監督の耳元で何かを囁く。


男の表情がわずかに変わった。


暗くなった盤を見る。


そして顔を上げた。


「五番――ティルマラは……」


広場が静まる。


「塔へ到着しなかった」


もう一度運営員を見る。


そして続けた。


「既知の経路内では、監視地点のいずれも構成員を発見できていない」


使節たちの間にざわめきが走る。


監督が声を強めた。


「五番――ティルマラを敗北として記録する」


一度、言葉を止めた。


「同時に、試験区域内での行方不明隊として扱う」


何人かの教官の顔色が変わった。


クララがエヴリンを見る。


ルーカスが低く言った。


「あの三人か」


エヴリンは答えなかった。


ただ、もう一度森へ視線を戻した。


総監督が命じる。


「試験は終了した。救助隊は直ちに介入せよ」


入口付近の警備員たちが動き出す。


「負傷者の救助を最優先。次に六番、七番、八番の位置を確定する」


暗い盤を見る。


「五番――ティルマラについては、区域全体を捜索せよ」


運営員の隊が森へ走り込んでいった。


合格した隊は、塔の近くへ残った。


イザンは一瞬、目を閉じた。


成功した。


到着した。


時間も終わった。


笑うべきだった。


笑おうとした。


だが、再び世界が回った。


今度は、一瞬のめまいではない。


足元から地面そのものを一気に引き抜かれたようだった。


隣でシグランが動くのを感じた。


「イザン?」


イザンは口を開いた。


言おうとした。


大丈夫。


だが、言葉は出なかった。


音が消えた。


顔が遠ざかる。


マヤが振り返るのが見えた。


ラカンが動く。


シグランの手が伸びてくる。


そして、指から力が抜けた。


倒れた。


「イザン!」


マヤの叫びが広場を切り裂いた。


ラカンは考えるより先に動いていた。


笑みが消える。


待ち続ける間、恐怖を隠していた冷静な教官も消えた。


そこにいたのは――


ようやく帰ってきた教え子の一人が倒れるのを見た、一人の男だけだった。


頭が地面へぶつかる前に追いついた。


両肩を掴む。


そっと地面へ横たえた。


額へ手を置く。


ラカンの顔が凍りついた。


熱い。


異常なほどに。


シグランが、かすかな声で言った。


「さっきまで……立っていた」


声には説得力がなかった。


顔にも。


マヤはイザンのそばへ膝をついた。


「道の途中から、めまいがしていたの……」


ラカンを見る。


「でも、大丈夫だと言っていた」


ラカンは歯を食いしばった。


監督たちへ顔を上げる。


「医師を」


近くにいた者たちは、突然の崩落に一瞬だけ動きを止めた。


ラカンが声を張り上げる。


「医師を、今すぐ!」


一人の警備員が医療棟へ走る。


アルダとアドナンも近づいた。


だが、少し離れた場所で足を止める。


ラーイドもアミールも、ほかの生徒たちも黙った。


ハガリスの三人も、その場を見守っている。


クララはイザンを見ながら目を細めた。


ラカンは彼へ身を屈める。


「聞こえるか、イザン」


返事はない。


呼吸はある。


だが、顔色があまりにも白かった。


シグランは片手で胸を押さえ、もう一方の手を地面へついていた。


誰にも聞かせるつもりのない声で呟く。


「今、倒れるな……」


顔を伏せた。


「馬鹿」


マヤには聞こえた。


だが、彼のほうを見なかった。


医師が到着するまでのわずかな時間は、森で過ごしたすべてより長く感じられた。


医師がイザンのそばへ膝をつく。


脈を確認する。


次に、胸元へ掌をかざした。


淡い医療用ケメンの糸が、イザンの身体を包む。


光は肩の近くへ入り込んだ。


そこで止まった。


医師の表情が変わる。


ラカンが聞いた。


「何だ?」


医師はすぐに答えない。


もう一度調べる。


光がイザンの胸へ進む。


そして、再び途切れた。


医師が言う。


「医療棟へ運んでください」


ラカンは彼の腕を掴んだ。


「何が起きている」


医師はイザンを見る。


それからラカンへ視線を戻す。


「体温が異常に高い」


言葉を止めた。


「それに、体内の経路が、私にも理解できない乱れ方をしています」


ラカンの身体が固まる。


「経路?」


イザンへ視線を落とす。


もう一度医師を見る。


「こいつにはケメンがない」


医師は低い声で答えた。


「だからこそ、私にも分からないのです」


ラカンの握力が強くなる。


「命に関わるのか?」


医師は一瞬ためらった。


「今の段階では……」


イザンの胸元で途切れる光を見る。


「分かりません」


明確な答えよりも、はるかに恐ろしい言葉だった。


警備員たちが到着した。


慎重にイザンを持ち上げる。


マヤも立ち上がって追おうとした。


だが、身体がよろめく。


倒れる前に、アドナンが肩を支えた。


「お前も治療が必要だ」


マヤは答える。


「私は大丈夫です」


シグランの荒い声が割って入った。


「誰も大丈夫じゃない」


マヤが彼を見る。


シグランは同じ言葉を繰り返さなかった。


運ばれていくイザンだけを見つめていた。


医師がマヤとシグランを指す。


「二人も医療棟へ」


シグランは反論しようとした。


だが、立ち上がろうとした瞬間、身体が彼を裏切った。


ラカンが近づく。


腕を差し出した。


シグランは、その腕をしばらく見た。


そして何も言わず、助けを受け入れた。


彼らは医療棟へ向かった。


背後には、結果盤が残されていた。


五つの合格。


三つの確定した敗北。


そして、一つの行方不明隊。


だが、三番――アルマザの誰一人として、もうそれを見てはいなかった。


札も。


到着順位も。


誇りも。


すべて、どうでもよくなっていた。


三番――アルマザは森から帰ってきた。


だが、森から戻ってきたのは――


彼らだけではなかった。

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