生きたまま求められた者
「さあ……誰が俺を連れていく?」
すぐに答える者はいなかった。
シグランは炎の中心に立っていた。
赤い炎が第二の皮膚のように両腕へ絡みつき、その閃きの中に青い糸が一瞬だけ現れる。
だが、目が捉えるより先に消えた。
砕かれた木々の向こう。
ライの姿は霧の中へ消えていた。
その場に残っているのは、ハルとキオだけ。
マヤは木の幹へ身体を預けていた。
胸が激しく上下している。
指先が震えていても、上げた手だけは下ろさなかった。
イザンは彼女の近くに立ち、自分が目にしたものが勝利だったのか……
それとも、さらに悪い何かの始まりだったのか分からずにいた。
キオは焼けた肩を拭った。
皮膚に残る炎の跡を見る。
そして笑った。
「やっとだ」
恐怖に怯える男の声ではなかった。
殴る価値のあるものを、ようやく見つけた男の声だった。
ハルはライが消えた方向を見た後、再びシグランへ目を戻した。
「ライを吹き飛ばした……」
わずかに首を傾げる。
「それだけで十分だ」
キオは負傷した肩を回した。
「名前だけが大きい奴だったらどうしようかと思ってた」
ハルが言う。
「違う」
赤い炎の内側で現れては消える青を見つめる。
「だから、生きたまま連れてこいと命じられた」
シグランはすぐには答えなかった。
マヤを見る。
次にイザン。
低く、だが有無を言わせない声で言った。
「マヤ……イザンを連れて、ここから出ろ」
マヤが顔を上げる。
「何を言っているの?」
「狙いは俺だ」
腕の周囲で炎が強まる。
「お前たちが離れれば、奴らは俺を追う」
イザンがすぐに言った。
「置いていかない」
シグランは目を細めて彼を見る。
「お前の意見は聞いていない」
マヤは、まともに支えてくれない脚で半歩前へ出た。
「私たちは同じ隊よ」
「標語を口にしている場合じゃない」
マヤは真っすぐ彼を見た。
「標語を言ったつもりはないわ」
ハルが笑った。
「感動的だ」
キオは指を鳴らす。
「なら、二人を目の前で壊してやれば、一人でついてくるだろ」
シグランは答えなかった。
だが、炎が高く立ち上がった。
霧の向こうから、先ほどよりも遠いライの冷たい声が届く。
「殺すな」
短い沈黙。
そして続けた。
「二人から引き離せ」
そこで声は途切れた。
木々が、再びその存在を呑み込んだ。
シグランが言う。
「口数が多い」
そして踏み込んだ。
先ほどまでの突進とは違う。
足元の地面が焼け、熱で正面の空気が歪んだ。
腕を振り上げる。
幅の広い槍のような炎が、キオへ向かって放たれた。
キオは笑った。
肩で正面から受け止める。
木々が揺れた。
炎に押されて身体が後退する。
それでも倒れない。
両足を土へ食い込ませ、首に血管を浮かべながら、苦痛と歓喜の入り混じった咆哮を上げた。
「いいぞ!」
ハルがシグランの横へ現れる。
「力は高い……」
シグランは振り向き、横薙ぎの炎を放った。
だがハルは、炎の軌道が完成する前に角度を変えていた。
「でも、お前の足音は届く前から叫んでいる」
正面からキオが飛び込む。
シグランは腕を上げた。
炎が拳を受け止める。
一歩押し戻される。
直後、短い炎の波を放ち、キオを後退させた。
シグランは弱くない。
相手が試験に参加する生徒だったなら、最初の一撃で戦いは終わっていた。
だが、この二人は生徒ではなかった。
放つ攻撃は、どれも必要以上に大きい。
動くたびに肩が開く。
怒るたびに、次の一歩が読まれる。
シグランの周囲を回りながら、ハルが言った。
「壊しすぎるなよ、キオ」
キオが豪快に笑う。
「生きていれば、無傷である必要はない」
シグランは再び攻めた。
炎で弧を描き、ハルを跳ばせる。
その足が地面へ着くより先に、炎の向きをキオへ変えた。
一瞬だけ、二人を同時に押し込んだように見えた。
イザンが叫ぶ。
「シグラン! それ以上離れるな!」
振り向かない。
マヤが疲れた声で言った。
「聞こえていない」
立ち上がろうとする。
身体が震えた。
イザンが腕を掴む。
「動くな」
マヤは、その手を優しく外した。
「彼が倒れたら……」
ハルとキオを見る。
「あなたと二人の間には、何も残らない」
掌を上げる。
根の下から水が染み出した。
初めはわずかに。
やがてイザンの足元へ集まり、細い円を描く。
攻撃ではない。
境界だった。
イザンが言う。
「マヤ……」
「その中にいて」
そして、一歩前へ出た。
◇
森の別の場所で、アナスが突然足を止めた。
前を歩くアミールの手には、まだ七番の札がある。
後ろのナダは、負傷した肩へ掌を置いていた。
アミールが聞く。
「今度は何だ?」
アナスはすぐに答えなかった。
ハルの指の跡がまだ残る首へ手を当てる。
静かに言った。
「同じ感覚だ」
ナダが森の奥を見る。
遠くから届いた圧力は、普通の戦闘音とは違っていた。
巨大な何かが、空気そのものへ衝突したようだった。
アミールが言う。
「ラカン隊か?」
「おそらく」
アミールは札を握る手へ力を込めた。
「この試験が嫌いになった」
ナダが言う。
「私たちの任務は終わったわ」
彼女を見る。
次に道を見る。
「ああ」
しばらく、誰も動かなかった。
アナスが言う。
「向こうは、まだ何も終わっていない」
最初に動いたのはアミールだった。
◇
ビスカラ隊は隊形を崩さず走っていた。
ヌーリヤは、木々の高い位置に残された傷を追う。
サーレムは後ろで幹の隙間を監視し、ジャラルは荒い息を吐きながら二人へ続いていた。
ジャラルが言う。
「音は前からだ」
ヌーリヤが答える。
「偽の跡も、ここで終わっている」
折れた木の前で止まった。
幹には、隊全体の足跡とは思えない奇妙な圧力の跡がある。
サーレムが近づき、傷へ指を触れた。
「五番はここを通った……」
言葉を切る。
「あるいは、そう信じさせようとした」
ジャラルが聞く。
「なら、どこへ行った?」
サーレムが答える前に、木々の間で遠い光が瞬いた。
すぐに消える。
ヌーリヤが言った。
「戦っている」
サーレムが答える。
「札を奪うための戦いじゃない」
ジャラルが見る。
「番号は?」
サーレムは歩き続けた。
「規則に従わない者は……」
木々の間へ入る。
「その賞品を長く持っていられない」
◇
湿った石に覆われた斜面で、セイラが止まった。
ユーバは、地面に残る歪んだ跡のそばへ膝をつく。
完全な足跡ではない。
関節の位置へ残された強い圧力。
動いた後で身体が裂けても構わないとでもいうような跡だった。
マシンが言う。
「同じものか?」
セイラが答える。
「もっと激しい」
森の奥へ顔を上げる。
「それに、別のものもある」
一瞬だけ目を閉じた。
「高く燃える炎……」
そして続ける。
「それを抑えようとする水」
ユーバが言った。
「三番隊だ」
マシンが聞く。
「進むのか?」
ユーバはすぐには答えなかった。
彼らは正式に試験から敗退している。
もう待っている札はない。
それでも、ティゾラの技術を知りすぎているあの痕跡が残っていた。
やがて答える。
「ああ」
立ち上がる。
「だが、理解する前には入らない」
三人は再び動き出した。
◇
別の方向では、エヴリン・ストロムが木々の間を進んでいた。
先頭のクララ・テフィールドは幹へ触れ、動きの痕跡を読み取っている。
ルーカス・ヴァイルは、忍耐よりも重い足取りで二人の後ろを歩いていた。
「塔から、さらに離れている」
エヴリンは振り向かない。
「分かっている」
ルーカスが続ける。
「俺たちに関係のない問題を見つけたからといって、時間は止まらない」
クララは幹に残る深い傷へ指を置いた。
「もう遠くない」
ルーカスが聞く。
「戦いが?」
クララは首を振る。
「三人が」
それから、土に残る薄い焦げ跡を見る。
「でも、炎のほうが先へ行った」
エヴリンが止まった。
枝の向こうで一瞬だけ現れ、消えた赤い光を見る。
ルーカスが聞く。
「着いたか?」
クララが答える。
「まだ」
入り組んだ道へ目を向ける。
「森が道を断っている」
ルーカスが苛立った声で言う。
「真っすぐ開ける」
エヴリンが言った。
「森中へ私たちの位置を知らせることになる」
「そのほうが速い」
「賢くはない」
再び歩き始める。
クララが静かに言った。
「この圧力が続けば、私たちが着く前に戦いが終わる」
ルーカスの顔から皮肉が消えた。
返事をせず、速度を上げる。
だが距離は、見えていたほど短くなかった。
◇
森の中心へ、再び怒りが戻った。
シグランは重い呼吸を繰り返していた。
炎はまだ高い。
だが、もう安定してはいない。
ハルがマヤへ近づくたび。
キオがイザンへ目を向けるたび。
炎はさらに燃え上がった。
そして燃え上がるほど、シグランの動きは分かりやすくなる。
そばを通りながら、ハルが言う。
「お前は強い」
シグランが声の方向へ攻撃する。
ハルは、もうそこにいない。
「でも、一度にすべてと戦おうとしている」
ハルがマヤの前へ現れた。
気づいた時には、すでに近い。
マヤは二人の間へ水を立ち上げる。
ハルは壁を殴らなかった。
指で端へ触れ、角度を変える。
水が横へ流れた。
小さな隙間が生まれる。
それで十分だった。
開いた掌で、マヤの肋骨の下を打つ。
息が途切れた。
反対の手を上げようとする。
だがハルは、すでに背後へ回っていた。
肩の後ろへ短い一撃を入れる。
マヤが倒れる前に手首を掴んだ。
低い声で言う。
「お前は強い……」
イザンを見る。
「でも、自分を倒そうとする相手より、守りたい相手を見すぎている」
手を放した。
マヤが地面へ倒れる。
「マヤ!」
イザンの声が壊れた。
彼女へ向かう。
足元の水の円は、外へ出るより先に消えていた。
マヤは答えない。
目を閉じたままだった。
シグランが彼女の倒れる姿を見る。
一瞬、動きが止まった。
次の瞬間、炎が大きく広がる。
さらに高く。
さらに荒く。
さらに不安定に。
振り向いたハルが言う。
「そうだ」
シグランは地面を踏みつけた。
傾いた壁のような炎が、ハルへ向かって走る。
ハルは後方へ跳んだ。
炎が足元を通り、靴の先を黒く焦がす。
初めて、笑みが完全に消えた。
恐怖ではない。
警戒だった。
キオはシグランの怒りを利用した。
横へ動く。
シグランへではない。
イザンへ。
イザンが気づいた時には遅かった。
キオの身体は、木々の間を突き進む塊のようだった。
振り上げられた拳は、ケメンがなくても人を殺せる。
イザンは下がろうとする。
折れた根へ足を取られた。
背中から倒れる。
キオが拳を上げる。
「なぜお前たちが、この弱い奴を気にするのか見せてもらおう」
シグランが動いた。
届くような体勢ではなかった。
胸は開いている。
右足は遅れている。
炎は反対方向へ放った直後。
それでも――
届いた。
思考より先に、身体が動いたかのように。
拳とイザンの間へ立つ。
キオの一撃が胸へ直撃した。
周囲の炎が、一瞬ですべて消えた。
空気に呑み込まれたかのように。
イザンの目が見開かれる。
シグランの息が、音もなく抜けた。
身体が前へ折れる。
キオは肩を掴み、そのまま地面へ押し落とした。
シグランは膝をつく。
そしてイザンの前へ、横向きに倒れた。
イザンが這い寄る。
「シグラン!」
息をしようとしている。
胸が苦しげに上がる。
目は半分だけ開いていた。
イザンが震える声で聞く。
「どうして……どうして、そんなことを……」
シグランの唇が、かすかに動いた。
「分からない……」
咳き込む。
消え入りそうな声で続けた。
「身体が……勝手に動いた」
頭が土へ落ちる。
それきり動かなかった。
イザンは固まったまま動けない。
根のそばに倒れるマヤ。
目の前に倒れるシグラン。
二人の上へ立つキオ。
少し離れた場所から見ているハル。
ライの姿は、まだ木々の向こうから戻らない。
森が、一つの呼吸よりも狭くなった。
キオはシグランを殴った手を振った。
「面倒な奴だ」
倒れた身体を見る。
「最後だけは、よく動いた」
イザンには聞こえていなかった。
地面に投げ出されたシグランの手だけを見ていた。
自分より先に伸ばされた手。
マルワンの手と同じだった。
焼けた土が消える。
古い果樹園が戻ってくる。
煙の匂い。
走る音。
自分を守るために倒れる身体。
間に合ううちに呼べなかった名前。
イザンの指が震えた。
そして――
森が沈黙した。
最初から、イザンの中から何かが出てきたわけではない。
代わりに、森から何かが消えた。
音。
動き。
枝の間を通っていた風さえ、突然止まった。
枯れ葉が一枚、空中に留まった。
やがて土へ落ちる。
だが、音はしなかった。
虫の声も止まった。
地面に残る小さな炎が弱まる。
消えたのではない。
まるで、動くことさえ恐れているかのように。
ハルには、自分の呼吸が聞こえた。
キオには、普段より重く響く自分の鼓動が聞こえた。
ケメンの爆発はない。
熱も上がらない。
知っている圧力が降りてきたわけでもない。
それでも――
思考が理解するより先に、二人の身体は何かが変わったことを悟っていた。
さらに遠く。
幾重にも重なる影の中に、誰にも気づかれず立つ男がいた。
見えているのは、顔の一部だけ。
シャミル。
異変を追ってここまで来た。
だが、自らの存在は完全に隠している。
沈黙が森を呑み込んだ瞬間――
その目が見開かれた。
動かない。
目の前のものを、言葉で呼ぶこともしない。
ただ一つだけ理解した。
イザンの中で目覚めたものは――
今、目覚めてはならなかった。
イザンが顔を伏せる。
肩から、薄い黒煙が漏れ始めた。
上へは昇らない。
地面を這うように、ゆっくりと周囲へ広がる。
長い間埋められていた影が、ようやく外へ続く亀裂を見つけたかのように、身体へ絡みついた。
ハルが言う。
「キオ」
キオは振り向かない。
「何だ?」
ハルがもう一度言った。
「キオ……止まれ」
今度の声に嘲笑はない。
低く。
警戒していた。
キオの笑いが止まる。
何が変わったのか理解できない。
ケメンが爆発したわけではない。
熱も感じない。
圧力もない。
それでも、身体が前へ進むことを拒んだ。
一瞬、脚が固まる。
指先が冷えた。
そして初めて感じた。
今持ち上げようとしている拳が、自分のもとへ戻ってこないかもしれない。
ハルはイザンを見る。
足元。
肩。
黒い煙。
動きに先行する道を探す。
身体のわずかな傾き。
攻撃を放つ前に必ず現れる合図。
何一つ、見つからない。
消えそうな声で言う。
「何だ……これは……?」
イザンが顔を上げた。
両目が白く染まっていた。
怒りはない。
痛みもない。
恐怖もない。
意識さえない。
イザンにはハルもキオも見えていなかった。
自分が森に立っていることすら知らない。
自分の中から何かが出てきたことにも気づいていない。
立っているのは、身体だけだった。
イザン自身は――
声の届かない場所へ沈んでいた。
ハルは、自分でも気づかないまま半歩下がった。
炎を前に笑っていたキオでさえ、もう一度拳を上げることができなかった。
イザンは何も言わない。
何が起きているのか、知らないのだから。
それでも――
彼は立ち上がった。




