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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第二章 騎士試験編

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番号を追わない者


森が最後の隊を飲み込んだ瞬間、広場の喧騒は最初から存在しなかったかのように消えた。


観客はいない。


観覧席もない。


教師たちの声も、耳の奥に残った遠い記憶にすぎなかった。


各隊の前には、生きた壁のように木々が広がっていた。


高く伸びる幹。


土を裂く根。


草の間を這う薄い霧。


そして、いくつもの方向へ枝分かれする細い道。


まるで森そのものが、入り込んだ者へ真っすぐな道を与えることを拒んでいるかのようだった。


三番隊は、一度足を止めた。


最初に奥を見たのはシグランだった。


苛立った声で言う。


「八番だ」


マヤは、小さな紙を手の中で折り畳みながら答えた。


「サティラン」


シグランが指を握り込む。


「なら、探しに行く」


マヤは動かなかった。


木々。


地面。


正面に伸びる広い道。


順に視線を移す。


「そんなに単純なら、試験にはならないわ」


シグランが不機嫌そうに振り向く。


「どういう意味だ?」


「サティランも、私たちを追っていると知っている」


一度言葉を切る。


「私たちが痕跡を追っていると分かれば、相手が望む場所へ誘導されるかもしれない」


シグランは鼻で笑った。


「好都合だ」


指の間に小さな火花が散る。


「探す手間を省いてやれる」


イザンは二人より少し後ろに立ち、広い道と、左側に垂れた低い枝の間へ視線を動かしていた。


静かに言う。


「道が分かりやすすぎる」


シグランが横目で見る。


「道が分かりやすいのは問題か?」


イザンはすぐに答えなかった。


近くの幹へ寄り、樹皮に刻まれた細い傷へ手を伸ばす。


武器の跡ではない。


獣の爪でもない。


道を通る者なら誰でも見つけられる高さに置かれた、小さな印。


イザンが言う。


「見せようとしてくる道は……道じゃないことがある」


マヤは傷を見る。


それから、根の間を曲がる細い脇道へ目を向けた。


イザンが正しいとは言わなかった。


ただ言う。


「脇を行く」


シグランがため息をつく。


「素晴らしいな。標的が離れていく間に、俺たちは木の間を這うのか」


マヤが先に動いた。


「周りを見ずに相手を追う者は、相手より先に罠へ着くわ」


イザンが後を追う。


シグランは半歩遅れた。


それから、無言で二人の後ろへ続いた。


納得はしていない。


だが、ラカンの声がまだ頭に残っていた。


番号を追って、後ろにいる者を忘れるな。


別の道では、一番隊が慎重な速度で進んでいた。


先頭にラーイド。


後ろにアスマー。


最後尾にワーイル。


アスマーは空気の中へ指先を滑らせていた。


耳には届かない揺れを聞いているかのように。


ワーイルは何度も振り返る。


右。


左。


そして後ろ。


ラーイドが前を向いたまま言った。


「そんなに振り返るな」


ワーイルが慌てる。


「俺はただ……確かめているだけで」


アスマーが言った。


「いいえ。そのままで」


ラーイドが止まる。


アスマーは地面近くで折れた枝を指した。


「彼は、あなたより先に気づいた」


ラーイドが枝を見る。


次にワーイル。


ワーイルは顔を伏せた。


「重要じゃないと思った」


アスマーは跡のそばへ屈む。


「折れたのは最近。でも、直接踏まれたわけじゃない。痕跡を残さないよう、土ではなく根を踏んだ者がいる」


ラーイドが目を細める。


「カスナラか?」


「たぶん」


ワーイルが唾を飲む。


「別の隊かもしれない?」


誰も笑わなかった。


ラーイドは再び跡を見る。


狙う番号は六番。


カスナラは、支配できる場所を持たずには動かないことで知られている。


少しして言った。


「今は番号を追わない」


前方の高い地面を見る。


「先に場所を理解する」


そしてワーイルへ振り返る。


「お前は……見えたものを全部言え」


一瞬迷う。


さらに続けた。


「くだらないと思ってもだ」


ワーイルがゆっくり顔を上げた。


褒め言葉ではない。


それでも、自分の恐怖が完全な欠点ではないと感じたのは初めてだった。


六番隊は、三つの大岩に囲まれた高所を選んでいた。


中央にカシム。


右にマリアム。


左にヤーメン。


走らない。


跡も追わない。


封筒を開き直すこともなかった。


ヤーメンが言う。


「遅れれば、一番に位置を完成させる前に見つかる」


カシムが答える。


「だから、今のまま見つけさせない」


マリアムが背後の岩へ手を置いた。


「ここから二つの道が見える」


カシムが言う。


「傾いた木の後ろに、三つ目もある」


ヤーメンが聞く。


「待つのか?」


「カスナラは、匂いを追って走る犬のように森へ入らない」


土へ足を固定する。


「場所を築く」


道へ目を上げる。


「そして、一番をこちらへ来させる」


三人は呼吸のリズムを揃え始めた。


吸う。


止める。


吐く。


呼吸を重ねるたび、三人の間の空気が重くなっていった。


ケメンの爆発ではない。


三つの身体の間に形作られる、見えない壁のような静かな層だった。


八番隊は、それとは正反対に動いていた。


先頭にファリス。


横にリアン。


後方にムラド。


歩みは軽い。


だが幅がある。


一本の線を残さず移動する方法を知る隊商のようだった。


リアンが太い根を飛び越えながら言う。


「森って嫌い」


ムラドが答える。


「好きなように走れないからか?」


リアンは笑う。


「地面が嘘をつくから」


ファリスが言った。


「地面は嘘をつかない」


足を止め、木の幹へ手を置く。


「ただ、いつも俺たちの言葉で話すとは限らない」


リアンが聞く。


「何が分かった?」


「後ろに隊がいる」


ムラドが拳を握る。


「三番か?」


ファリスは痕跡を見る。


「おそらく」


ムラドが言う。


「今、戦うか?」


ファリスは首を振る。


「いや」


靴先で土を軽く擦り、根元へ薄い跡を残す。


見ようとする者には、十分見える形で。


「近づいていると思わせる」


リアンが先に走り出す。


ムラドが続いた。


ファリスは、自分が残した跡を最後にもう一度見た。


三番が自分たちを追っていることを知っている。


そして、自分たちも三番を追っている。


だが戦う場所を選んだ者は、敵が姿を見せる前から戦いを始めている。


九番隊は、怯えた者の遅さとは違う速度で進んでいた。


先頭にサーレム。


隣にヌーリヤ。


後ろではジャラルが低く不満を漏らす。


「このままだと、五番は姿を見る前に森の端まで行くぞ」


サーレムは振り向かなかった。


「先に追いつけば、相手を理解したことになると誰が言った?」


ヌーリヤが地面へ屈む。


枯れ葉を退け、指で土に触れた。


「ここを通った」


ジャラルが近づく。


「ティルマラか?」


「ええ……」


だが、そこで止まる。


「あるいは、ティルマラに見せたい誰か」


サーレムが彼女を見る。


「説明してくれ」


ヌーリヤは薄い足跡を指す。


「歩みが綺麗すぎる」


ジャラルが言った。


「手練れってことだろ?」


ヌーリヤが彼を見る。


「それか、誰かに追われると知っていて、綺麗すぎる跡を残した」


サーレムが小さく笑った。


「砂漠は一つ教えてくれたな、ジャラル」


跡を見る。


「厳しい土地で簡単な道を見つけても、道に礼を言うな」


森の奥へ目を上げる。


「誰がそこへ置いたのかを聞け」


ジャラルの笑みが消えた。


五番はどこか前方にいる。


そして、自分たちに追われていることを知っている。


だが、その足跡は、札を失うことを恐れる隊のものには見えなかった。


四番隊は、ほかの隊のようには動かなかった。


直接の相手はいない。


奪うべき標的札もない。


エヴリン・ストロムは、苔の色、葉の傾き、虫が消えた場所を観察していた。


クララ・テフィールドは地面へ掌を当て、目を閉じる。


ルーカス・ヴァイルは二人の後ろに立っていた。


人間の身体を着た壁のように、広く、静かに。


ルーカスが言う。


「真っすぐ塔へ行けば、すぐ終わる」


エヴリンは振り返らない。


「ええ」


ルーカスが眉を寄せる。


「今のは提案だ」


目を閉じたままクララが言う。


「不満でしょう」


ルーカスは息を吐く。


「敵はいない。奪う札もない。歩くだけが任務だ」


クララがゆっくり目を開く。


「四番を守るのが任務」


ルーカスはエヴリンの胸の札を見る。


「公式には誰も追ってこない」


エヴリンが言った。


「公式が唯一とは限らない」


ルーカスは少し黙る。


「何か見つけたか?」


クララは、土に深く残った跡へ指を置いた。


「多くの人が通っている」


エヴリンが言う。


「皆、違う恐れを残している」


ルーカスが見る。


「恐れ?」


「負けることを恐れる者」


遠い道へ目を移す。


「相手に先に見つけられることを恐れる者」


一度止まる。


そして言う。


「試験そのものを恐れていない者もいる」


ルーカスが目を細めた。


クララが低く言う。


「番号を追っていない跡がある」


三人の間に沈黙が落ちた。


エヴリンが跡のそばへ屈む。


短い一歩。


途切れる。


そして、自然な動きでは届かない距離に新しい跡。


ルーカスが言う。


「改造経路か?」


クララが答える。


「ええ」


そして付け加える。


「でも塔へ向かっていない」


エヴリンが森の奥へ目を上げる。


「公式の相手へも」


立ち上がる。


少し進路を変える。


ルーカスが言った。


「塔は逆だ」


「知っている」


「時間は?」


エヴリンが静かに答える。


「足りる」


そして歩き始めた。


ハガリスには、追う番号がない。


だが森の中には、別の何かを追う者がいる。


どの札よりも重要な何かを。


高い道では、七番隊が足を止めていた。


ユーバは傾いた木の前に立ち、セイラは片膝をついて根の上の傷を調べている。


マシンは無言で後方を見ていた。


ユーバが聞く。


「何だ?」


セイラが指で跡をなぞる。


「武器の跡じゃない」


マシンが言う。


「足か?」


彼女は首を振る。


「経路」


ユーバが近づく。


「ケメン経路か?」


「改造されている」


表情はほとんど変わらない。


「俺たちも改造経路を使う」


セイラが目を上げる。


「だから怖い」


押し潰された小さな土の点を指す。


「ここを通った者は、関節へ一瞬だけエネルギーを押し込み、自然な経路へ戻る前に切断している」


マシンが言った。


「身体が裂ける」


「ええ」


セイラはもう一度傷をなぞる。


「でも、消えたように見える速度を得られる」


ユーバは森の奥を見る。


「ティゾラの者か?」


彼女は迷った。


「分からない」


さらに低い声で言う。


「ただ、私たちの技術を知っている。そして動いた後に身体へ何が残るかを気にしない者の使い方をしている」


三人は黙った。


マシンが後ろを見る。


「二番は?」


ユーバが答える。


「速く動いている」


「追うか?」


ユーバはアミールたちの跡を見る。


分かりやすい。


分かりやすすぎる。


「いや」


マシンが驚く。


「なぜ?」


「こんな跡を残す者は、自分が追いつかれないと思っているか――」


歪んだ経路の跡を見る。


「誰かに動かされている」


セイラが聞く。


「どちらを追う?」


ユーバはしばらく動かなかった。


正式な標的は二番。


だが改造経路は、アルマザ隊のものではない。


やがて言う。


「二番の近くにいる」


脇道を指す。


「この跡からも離れない」


マシンが聞く。


「二つの道を?」


ユーバが答えた。


「交わるなら、どこで交わるかを知る必要がある」


ティゾラ隊は再び動き出した。


標的を追う。


同時に、対戦へ属さない何かを監視しながら。


二番隊は、ほかの隊より速く動いていた。


先頭のアミールは、ティゾラへつながる跡を探している。


声を抑えようとしていたが、焦りは隠せなかった。


「奴らが態勢を整える前に見つければ、すぐ終わる」


ナダが道の両側を見ながら言う。


「七番も、私たちに追われていると分かっている」


アミールが答える。


「皆それを偉大な教訓みたいに言うな。後ろばかり考えていたら、誰も狩れない」


アナスは二人の後ろを歩いていた。


静かに。


「速く動く者は、追う者へ長い道を残す」


アミールが止まり、不機嫌そうに振り返る。


「一歩ごとに謎めいた言葉を持っているのか?」


アナスは地面を見る。


「いや」


少しだけ顔を上げる。


「だが、しばらく前から後ろに跡がある」


ナダが固まった。


「ティゾラ?」


アナスは答えなかった。


木々の間を何かが通ったからだ。


はっきりした音ではない。


空白そのものが場所を移したような、軽い空気の滑り。


アミールが素早く振り返り、指の周りに薄い雷が灯る。


「誰だ!」


近くの低い枝から、短い笑い声が落ちた。


「怒るのが早いな」


三人が顔を上げる。


ハルが低い枝へ座り、片脚を宙へ垂らしていた。


笑みは大きい。


戦う準備をしているようには見えない。


新しい玩具を見つけた者のようだった。


アミールが言う。


「ティルマラの奴だな」


ハルが首を傾げる。


「今日はな」


アミールの手の雷が強まる。


「お前は俺たちの標的じゃない」


ハルが答える。


「俺も、お前たちが標的だとは言っていない」


そして跳んだ。


本当に消えたわけではない。


関節へ一気にエネルギーを押し込み、二つの影の間を走る閃光のように身体を変えた。


アミールは振り返り、雷を腕へ流す。


背後へ打つ。


そこにハルはいない。


彼は肩の死角の下にいた。


指先でアミールの膝の側面へ触れる。


小さな一撃。


だが、身体の重心が片脚へ移った瞬間だった。


均衡が崩れる。


雷は完成する前に消えた。


アミールは激しく地面へ落ちた。


「アミール!」


ナダが飛び出す。


足元へ光のケメンを集め、横へ走る。


ハルが一瞬、正面に現れた。


それから半歩だけ動く。


彼女を殴らない。


通るはずだった角度だけを変えた。


ナダの肩が木の幹へぶつかる。


胸から空気が抜け、片膝をついた。


アミールが苦しげに顔を上げる。


「ナダ!」


ハルが言う。


「心配するな」


呼吸しようとする彼女を見る。


「大事なものは壊していない」


そして振り向く。


アナスが消えていた。


ハルの顔に混乱は出なかった。


むしろ――


笑みが一瞬薄くなった。


背後の木陰が動く。


アナスが音もなく現れた。


右手を伸ばす。


掌へ集まった闇が、前へ伸びる。


黒い刃。


安定し。


濃密で。


煙でも幻でもない。


夜そのものが刃になったようだった。


影の剣。


ハルが気づいた時には、肩の近くまで迫っていた。


目が見開かれる。


半歩下がる。


刃は外套の脇を通り、布の端を切り裂いた。


ハルは落ちた切れ端を見る。


次にアナス。


笑みが完全に止まった。


ただ一瞬だけ。


本心から感心した声で言う。


「すごい……」


アナスは根の影へ滑り込む。


反対側から現れる。


二撃目。


さらに速い。


ハルは最後の瞬間に肩を落とし、剣は首のそばを通った。


二歩後ろへ下がる。


もう同じようには遊んでいなかった。


「これが、一族の純粋なケメンか」


アナスは答えない。


足を固定する。


そして再び影へ入る。


今度、ハルは現れるのを待たなかった。


脚の経路へ一瞬だけ力を押し込む。


関節ごと投げ出されたように、身体が激しく動く。


アナスが影から出た瞬間、背後へ現れた。


手を首へ置く。


アナスの身体が止まった。


動きは見えなかった。


喉の空気が途切れた後に、ようやく感じた。


ハルが顔を寄せる。


笑みは戻っていた。


だが今度は嘲りではない。


飢えた好奇心。


「きれいだ」


指に少し力を入れる。


「本当に、きれいだ」


アナスは影の剣を持ち上げようとする。


ハルが首を締める。


集中が揺らぐ。


剣の縁へ亀裂が走り、崩れ始めた。


ハルが言う。


「二人より、お前のほうがいい」


アナスは腕を動かそうとする。


だが、木々の間から声が届いた。


「ハル」


冷たく。


静かに。


ハルが止まる。


数歩先にライが現れた。


後ろには、退屈そうに両手をポケットへ入れたキオ。


ライが言う。


「離せ」


ハルは振り返らない。


「でも、こいつは面白い」


「標的ではない」


アミールが苦しげに目を開く。


二番の札は、まだ胸にある。


ハルが言う。


「あと一分だけ」


ライが一歩進む。


声は大きくない。


だが空気が重くなった。


「ハル」


ハルがため息をつく。


「分かった」


アナスを放す。


そして横へ押した。


アナスは木へぶつかり、喉を押さえながら咳き込み、地面へ落ちる。


キオが言う。


「全部、何のためだ?」


ハルは外套の小さな裂け目を見る。


「無駄じゃない」


アナスへ目を戻す。


「純粋な影は珍しい」


ライが言った。


「遊びは終わりだ」


森の奥へ顔を向ける。


アミールは手を持ち上げようとした。


身体が動かない。


ナダもまだ立ち上がろうとしている。


アナスは苦しげに顔を上げた。


ハルではなく――


アミールの胸の番号を見ていた。


取られていない。


アミールが途切れた息で言う。


「奴ら……強すぎる」


ナダが囁く。


「どうして番号を取らなかったの?」


アミールは黙る。


「見えなかったんだろ」


アナスが低く言った。


「見ていた」


アミールが彼を見る。


アナスは首を擦り、三人が消えた道から目を離さない。


「俺たちが標的なら……取っていた」


ナダの手が震える。


「じゃあ、何が目的だったの?」


アナスは答えなかった。


頭に届いた考えは、その問いより悪かった。


あいつらは、勝つために森へ入っていない。


そして近くでは、七番隊が、まだ到着していない戦いの跡を見つめていた。


別の道で、マヤが突然足を止めた。


シグランが眉を上げる。


「今度は何だ?」


彼女は答えない。


後ろでは、イザンが木へ手を置き、遠い方向を見つめていた。


マヤが呼ぶ。


「イザン?」


振り返らない。


「何かが変わった」


シグランが周囲を見る。


「何も聞こえない」


イザンが言う。


「だから、変わったと言った」


沈黙。


草の間で鳴いていた虫の音まで、一瞬消えた。


シグランが拳を握る。


「サティランか?」


イザンは首を振る。


「分からない」


そして続ける。


「でも、番号を追う者みたいじゃない」


マヤはラカンの言葉を思い出した。


自分自身に見えないものを見たら、口にしろ。


真剣に言う。


「道を変える」


シグランがすぐ反対する。


「標的はあっちだ」


「危険はこっち」


シグランが近づく。


目に苛立ち。


「正体も分からない影から逃げる気はない」


イザンが彼を見る。


「影は、逃げてほしくないのかもしれない」


シグランは黙った。


ほんの短い間だけ。


返す皮肉が見つからなかった。


さらに深い木々の間を、ライは急がず進んでいた。


後ろでは、ハルがまだアナスのケメンを指に感じているように手を動かしている。


笑いながら言う。


「あの影、本当にきれいだったな」


キオが言う。


「弱かった」


ハルが答える。


「弱さは、美しさを消さない」


キオがうんざりした声を出す。


「お前は変だ」


ライは振り返らない。


「次から、命令なしに誰にも触れるな」


ハルは笑う。


「面白くても?」


ライが止まる。


冷たく見る。


「面白いなら、なおさらだ」


ハルが黙る。


キオは少し笑った。


「九番は?」


ライは前を見る。


光が霧の上で砕け、道は巨大な罠のように枝分かれしていた。


「五番を追い続ける」


ハルが聞く。


「俺たちは?」


ライは森の奥へ視線を向けた。


「九番を置いていく」


ハルの目が光る。


「どこへ?」


ライが言う。


「三番」


シグランの名は口にしなかった。


必要がなかった。


森の奥では、全員が札を追っていた。


正式な標的を与えられなかったハガリスでさえ、何かの跡を追い始めている。


だが黒の帳が追っていたのは――


血だった。

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