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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第二章 騎士試験編

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19/72

奪われた名前

アルマザは、容易には眠らない。


学院の大門が閉じられ、外国の代表たちがそれぞれの宿舎へ入った後も、石造りの建物の皮膚の下では、動きが絶えることなく流れ続けていた。


門に立つ衛兵。


塔の上に配置された騎士。


記録室で働く書記官。


そして、通路を一瞬たりとも無防備にしない交代制の巡回隊。


アルマザは、世界最強の国だった。


壁を信じていたから、その地位を守れたのではない。


壁を決して信じなかったからこそ、最強であり続けたのだ。


その夜、学院は国際騎士試験に備えていた。


ティルマラ代表の宿舎にも、三人がいた。


ナドラン。


サリム。


ユーヌス。


少なくとも、学院の記録にはそう記されている。


だが、その名をまとっていたのは、ライ、ハル、キョウだった。


彼らが三つの名前を奪ったのは、学院の内側ではない。


時間は、ハガリスの馬車が学院へ到着する前夜まで遡る。


     ◆


学院から半日ほど離れた、外国代表用の中継宿。


各国の代表はそこで最初の確認を受け、翌朝、許可された順に学院へ向かうことになっていた。


ただの街道宿ではない。


門にはアルマザの衛兵が立ち、見張り台には騎士が配置されている。


記録係は書類の封印と番号を照合し、巡回隊は宿泊棟と荷物倉庫の間を絶えず往復していた。


夜になっても、入口が無人になることはない。


中継宿を見下ろす低い倉庫の屋根。


灯りが直接届かない場所に、三人の影が立っていた。


ライは微動だにしなかった。


不自然なほどに。


彼の目が追っていたのは、衛兵そのものではない。


彼らの歩みと歩みの間だった。


あの衛兵は、いつ振り返るのか。


あちらの衛兵は、いつ足を止めるのか。


次の巡回隊が通るまで、通路が空くのは何呼吸分か。


後ろでは、キョウが落ち着かなげに指を押し鳴らしていた。


まるで、手の関節が本人より先に任務を始めたがっているかのように。


ハルは屋根の縁に腰を下ろし、足を宙で揺らしながら、宿泊棟の上に掲げられた旗を面白い見世物でも眺めるように見ていた。


キョウが低い声で言った。


「三人のガキのために、ここまで待つのか?」


ライは振り向かなかった。


ハルが答える。


「ただのガキじゃない。きれいな徽章を持ったガキだ」


キョウの顔が険しくなった。


「徽章くらい、一呼吸で奪える」


ハルは笑った。


「それで半呼吸のうちに、アルマザの半分を起こせるな」


キョウが睨む。


「怖いのか?」


ハルの笑みは消えなかった。


「退屈は怖い。死に方はたくさんあるが、その中には面倒なものも多い」


キョウが言った。


「今すぐ入る。扉を壊して、徽章を奪って、終わりだ」


初めて、ライがわずかに顔を向けた。


怒ってはいない。


だが、その声だけで、キョウは次の皮肉を口にする前に黙った。


「首領の言葉を忘れたのか?」


キョウが奥歯を噛みしめる。


ライは続けた。


「アルマザの騎士は、隊商の護衛でも、ビスカラの辺境にいる盗賊でもない。何が起きたか理解する前に黙らせられるような国境兵でもない」


ハルが軽い口調で付け加えた。


「それに、領内でアルマザの騎士を目覚めさせた奴は、死ぬ前に失敗の説明をさせられるとも言ってた」


彼は首を傾げる。


「俺は長い説明が嫌いなんだ」


キョウは黙った。


ライは再び通路へ目を戻した。


「俺たちは戦争を始めるために来たわけでも、アルマザの力を試すために来たわけでもない。学院へ入る前に気づかれれば、任務は始まる前に終わる」


そして、ティルマラ代表が滞在する棟を指さした。


「アルマザでは、扉を壊さない」


一拍置く。


「内側から開くのを待つ」


下では、二人の衛兵が西側の入口を横切った。


歩きに怠慢はない。


目にも眠気はなかった。


一人が石柱のそばで足を止め、長い通路の影を確かめる。


すべてが所定の位置にあると確認してから、再び歩き始めた。


キョウが小さく呟く。


「面倒な連中だ」


ライが答えた。


「だから、まだ生きている」


向かいの通路の奥に、別の衛兵が現れた。


アルマザの濃灰色の鎧。


肩には、小さな青い雷の紋章が刻まれた徽章。


サーラン。


その衛兵は屋根を見なかった。


顔も上げない。


鎧の縁で、二本の指をわずかに動かしただけだった。


徽章の上に、青い糸のような光が瞬く。


そして消えた。


次の瞬間、交差路にいた巡回隊が足を止めた。


誰にも聞こえない短い命令を受ける。


進路を変え、東側の荷捌き場へ向かった。


さらに、受付棟の脇にある小さな表示板が裏返された。


ティルマラ代表の最終確認時刻が、一つ前の刻限へ移される。


わずかな変更だった。


だが、それによって生まれた空白は、ライが必要としていたものと寸分違わなかった。


ライが謎の衛兵へ目を向ける。


だが、そこにはもう誰もいなかった。


まるで通路そのものに飲み込まれたかのように、石柱の向こうへ消えていた。


ハルが囁く。


「お前の友達は、別れの挨拶が嫌いらしい」


ライが答えた。


「友達ではない」


キョウが聞く。


「何者だ?」


ライは、衛兵が残した空白から目を離さずに言った。


「扉の中には、鍵では開かないものがあると知っている人間だ」


キョウは、それ以上聞かなかった。


反対側から、受付の書記官の制服を着た男が現れた。


黒の帳の一員ではない。


顔は青ざめ、動きは落ち着かなかった。


手には、公印の押された小箱を抱えている。


男は通路の交差点で立ち止まった。


道に迷ったふりをするかのように。


そして、外国代表用の通用口の脇に箱を置いた。


屋根は見ない。


ハルが言った。


「鍵が届いた」


キョウが嘲る。


「鼠みたいに震えている」


ライが答えた。


「鼠は隠れる場所を知っているから長く生きる」


三人は音もなく屋根から降りた。


中継宿の中央へ飛び降りたわけではない。


衛兵にも近づかない。


代表用の宿泊棟と荷物倉庫の間を通る、細い通用路へ入った。


二人並んで歩くことさえできないほど狭い。


木材、湿気、古い革の匂いが混ざっていた。


通用口の前で、ライが箱を開ける。


中には、臨時業務用の徽章が三つ。


封印の施された確認書。


そして、必要事項だけが空欄になった、正式な印章付きの巻物が三本。


印章は偽物ではなかった。


だからこそ、危険だった。


ハルが巻物の一つを持ち上げた。


「安い値段で命を売る奴もいるんだな」


ライが言った。


「命を売ったわけじゃない」


「じゃあ、何を売った?」


ライは箱を閉じる。


「恐怖だ」


そして歩き出した。


     ◆


その瞬間、東側の荷捌き場で遠い音が響いた。


爆発ではない。


大きな箱が倒れる音。


驚いた馬のいななき。


続いて、使用人の叫び声。


二人の衛兵が、主通路から騒ぎの方向へ動いた。


混乱して走ったわけではない。


明確な隊形を保っている。


一人が先行し、もう一人は半歩後ろで側面を警戒する。


西側入口の衛兵は動かなかった。


腰に下げた鉄の柄へ手を伸ばし、通路を見張り続ける。


キョウが息の下で言った。


「入口を空けなかった」


ライが答える。


「予想していた」


しばらくして、記録係の制服を着た男が通用口から出てきた。


封印された書類と、平たい箱を持っている。


ライだった。


だが肩は少し落ち、歩みはわずかに速い。


顔には、警戒されることよりも書類の遅れを恐れている役人らしい苛立ちが浮かんでいた。


衛兵へ近づく。


書類を差し出す。


「ティルマラ代表の出発前確認です。受付から、今夜のうちに照合を終えるよう命じられました」


衛兵は書類を受け取った。


印章を見るだけでは終わらない。


指で縁をなぞる。


裏返す。


番号を確認する。


そして、ライを見た。


「予定より早い」


ライは、叱られることに慣れた役人の声で答えた。


「代表の荷箱に番号違いがありました。朝の出立を遅らせないため、今夜中に書類を照合するよう指示されています」


衛兵は視線を外さなかった。


正式な封印は扉を開けた。


だが、衛兵の疑いまで消したわけではない。


「同行者は?」


ライは後ろを指した。


ハルは別の箱を抱え、小さな笑みを浮かべている。


キョウはその後ろで、無表情に立っていた。


ライが答える。


「記録係の補助が二名。照合だけです。奥の部屋には入りません」


衛兵はキョウを見る。


気に入らなかった。


キョウは動かなかった。


荒く息をすることもない。


何も言わない。


それが彼にできる最善の演技だった。


衛兵は書類を返した。


「四分だ」


ライが答える。


「十分です」


衛兵が言う。


「扉は開けたままにしろ」


ライは一瞬だけ彼を見た。


そして頷く。


「仰せの通りに」


反論しなかった。


衛兵に言い返す者は、痕跡を残す。


三人はティルマラ代表の待機室へ向かった。


内扉は半分開いていた。


暖かな光が通路へ漏れている。


室内では、ナドランが机の前に立ち、学院へ提出する巻物を確認していた。


サリムは近くの椅子の端へ腰掛け、短剣を手の届く位置に置いている。


ユーヌスは扉ではなく、窓のそばに立っていた。


それだけで、ライには分かった。


守る者の考え方をする少年だ。


ナドランが顔を上げる。


「また確認ですか?」


ライは薄く笑った。


「アルマザは、書類を三度見なければ信用しないようです」


サリムが言う。


「あるいは、ティルマラを信用していないか」


ハルが、口を挟む前に自制できず言った。


「笑いすぎるからじゃないか?」


サリムが彼を見る。


そして短く笑った。


「侮辱か、褒め言葉か?」


ハルが答える。


「明日、誰が生き残るかによる」


ナドランの顔を、わずかな影が横切った。


その返答を気に入らなかった。


ユーヌスが一歩動く。


「書類を見せろ」


ライが差し出す。


ナドランは自ら受け取った。


印章を調べる。


署名を指でなぞる。


そして、紙の下部にある記録番号を見る。


「印章は本物だ」


ライが答える。


「だから、ここにいる」


サリムが眉を上げた。


「妙な言い方だな」


ナドランは扉を見る。


隙間の向こうに衛兵が見えた。


それで、少し安心した。


間違いだった。


ナドランが言う。


「分かった。急いでくれ」


三つの徽章を机の上へ置いた。


ナドラン。


サリム。


ユーヌス。


その隣には、ティルマラとアルマザ、双方の印章が押された入場用の巻物。


ライが最初の徽章へ手を伸ばす。


その瞬間、通路で小さなものが落ちた。


かすかな金属音。


衛兵が振り返る。


半分だけ。


それで十分だった。


最初に動いたのはハルだった。


ナドランを襲ったのではない。


足で扉を閉じる。


同時にキョウが、黒い小片を木枠へ押し当てた。


閉まる音が、布に吸い込まれたように消える。


ユーヌスが即座に振り返った。


「机から離れろ」


今度、ライは笑わなかった。


「遅い」


サリムが短剣へ手を伸ばす。


だが、ハルはすでに隣にいた。


つまずいたように見えた。


次の瞬間、その指がサリムの首筋を押さえる。


掌に隠した短い柄で、鳩尾を打つ。


肺から空気が一気に抜ける。


サリムは膝をついた。


短剣を抜こうとする。


ハルが鞘を足で踏みつけた。


「せっかくの上品な格好を台無しにするな」


ユーヌスは待たなかった。


キョウへ突進する。


肩をぶつけて壁へ押し込み、腕を固めようとした。


キョウが笑う。


「いいな」


衝突で机が揺れた。


ナドランは巻物へ手を伸ばした。


徽章ではない。


賢い。


書類を持つ者が、名前を持つ。


彼の指が、自分たちの巻物へ届いた。


そこで止まる。


ライの手が、すでに手首を掴んでいた。


静かに。


冷たく。


ライが言う。


「だから、お前を選んだ」


ナドランは腕を引こうとした。


動かない。


「何者だ?」


ライが答える。


「今夜は?」


手首へ少し力を加える。


ナドランは否応なく片膝をついた。


「お前たちだ」


反対側では、ユーヌスがキョウの最初の一撃を防いだ。


二撃目も。


三撃目では、キョウを一歩後退させる。


キョウの表情が変わった。


ただ楽しんでいるだけではない。


壊したくなった。


低い声で言う。


「悪くない」


ユーヌスは答えない。


足で床を踏みつける。


木の床がキョウの下で揺れ、肘が顎へ向かって突き出された。


キョウは、届く前にその肘を掴む。


二人の動きが一瞬止まった。


次の瞬間、キョウの短い拳がユーヌスの肋骨へ入る。


身体がくの字に折れた。


二発目。


三発目。


四発目の前に、ハルが背後へ現れ、細い針を首筋へ刺した。


ユーヌスの身体が硬直する。


キョウが怒ってハルを見る。


「俺の獲物だった」


ハルが答える。


「任務は俺たち全員のものだ」


ユーヌスは横倒しになった。


目は開いたまま。


だが身体は言うことを聞かない。


サリムは扉へ向かって這おうとした。


ライが唇へ人差し指を当てるのを見て、止まる。


大声の脅しではない。


だが、閉ざされた部屋の囁きは、叫びより危険だった。


ナドランが声を保とうとしながら言った。


「衛兵が外にいる」


ライが答える。


「ああ」


「気づくぞ」


ハルが言った。


「だから長居はしない」


ナドランが続ける。


「俺たちを殺せば、アルマザは知る」


ライは彼を見た。


「だから、ここでは殺さない」


沈黙。


そして加える。


「死者は捜査を早める。だが行方不明者は……夜に時間を与える」


初めて、サリムの目に恐怖が現れた。


ナドランは理解した。


殺しに来たのではない。


彼らになるために来たのだ。


ハルが平たい箱を開ける。


中から、薄い暗色の布を取り出した。


内側には、黒い血管のような糸が走っている。


明らかなケメンの気配はない。


だが、普通の布でもなかった。


ハルが言った。


「安心しろ。呼吸はできる」


キョウが言う。


「残念ながらな」


ライが口にする。


「キョウ」


それだけで、彼は黙った。


ライはナドランの徽章を取り、細い器具を表面に滑らせた。


光が一瞬薄れる。


そして戻る。


新しい嘘を受け入れたかのように。


サリムの徽章にも同じことをする。


そしてユーヌスのものにも。


ナドランが掠れた声で言った。


「門を通れたとしても……ほかの隊は昨日、俺たちを見ている」


ハルがサリムの徽章を胸につける。


「遠くから見ただけだ。笑顔、礼、きれいな服」


顔を寄せる。


「恐怖の中でどう呼吸するかまでは、誰も知らない」


ライは部屋の長い鏡の前へ立つ。


ナドランの徽章を胸につける。


肩の位置を変える。


目の鋭さを落とす。


顎を、計算された角度だけ上げる。


ナドランそのものにはならない。


だが、一度だけ遠くから見た者を欺くには十分だった。


変装は、顔だけで行うものではない。


距離。


光。


そして徽章が与える信頼。


ハルは椅子の端に座ったサリムの姿勢を真似しながら聞いた。


「俺は?」


ライが答える。


「笑う回数を減らせ」


キョウが言う。


「無理だ」


ハルが小さく笑った。


キョウは不満そうにユーヌスの徽章をつける。


「護衛役は嫌いだ」


ハルが言った。


「演技はあまり要らない。天気を聞かれても、殺さなければいい」


「二度聞かれたら?」


ライが答えた。


「見るだけにしろ」


キョウは黙る。


そして、その解決法が気に入ったように頷いた。


三人は素早く動いた。


本物のティルマラ隊から、外見の特徴となる上着を脱がせ、自分たちの服の上へ重ねる。


ハルは髪を整えた。


ライは、観察した通りにナドランの襟を締める。


キョウは、ユーヌスと同じように窓のそばへ立った。


本物の三人は、音を吸う布と身体の動きを封じる糸で縛られた。


だが、待機室に残してはいない。


巡回隊が進路を変えた短い空白の間に、三人を荷運び用の台車へ移す。


上から旅具を重ね、通用路を抜けた。


向かったのは、中継宿の外れにある古い石造りの貯蔵庫だった。


今は使われておらず、街道からも宿泊棟からも見えない。


生きるには十分な空気がある。


だが、自力で学院へ向かうには、あまりにも遠く、扉はあまりにも重かった。


扉を閉める前、ライは床に横たわるナドランを見た。


その目は命乞いをしていなかった。


覚えていた。


ライが言う。


「無理をするな。扉が開く頃には、森がお前たちの名前を飲み込んでいる」


扉を閉めた。


記録係の制服と箱は、貯蔵庫の奥へ隠す。


ナドランは拘束の中で指を動かそうとしていた。


サリムは苦しげに息をする。


ユーヌスは闇を睨み続けていた。


身体では実行できない怒りを、目だけが抱いている。


三人は生きていた。


だが、本来の持ち主がその名を名乗り、アルマザの門をくぐることはなかった。


     ◆


翌朝。


外国代表の馬車が、順番にアルマザ学院へ到着した。


ティルマラの馬車が門前で止まる。


最初に降りたのは、ナドランの徽章をつけたライだった。


その後ろに、サリムとして立つハル。


最後に、ユーヌスの硬い表情をまとったキョウ。


門の衛兵は、道を空けなかった。


まず書類を受け取る。


封印を確かめる。


番号を照合する。


巻物の縁に残された細かな印まで調べる。


次に、三人の徽章の位置と、そこへ刻まれた登録番号を確認した。


「名前を」


ライが穏やかに答える。


「ナドラン」


ハルが続く。


「サリム」


キョウが短く言った。


「ユーヌス」


衛兵の視線が、三人の顔を順に通る。


「中継宿で確認を受けた時刻は?」


ライは即座に答えた。


「昨夜、第二巡回が東の荷捌き場へ移った直後です」


答えが速すぎることもない。


思い出すふりをするほど遅くもない。


衛兵は記録簿を開いた。


そこには、ティルマラ代表の確認を済ませた時刻と、三人の名がある。


本来なら記録されるはずのない刻限だった。


だが、サーランの徽章をつけた何者かが、すでに正しい欄へ書き加えていた。


衛兵はライを見る。


まだ完全には納得していない。


「旅程を」


ライは、ティルマラを出てから中継宿へ着くまでの道を答えた。


立ち寄った井戸。


前夜に越えた橋。


ほかの代表しか知らないはずの、街道の崩れた場所。


すべて正しかった。


ハルは笑いすぎなかった。


キョウは苛立ちを見せず、護衛役らしく二人の周囲を見ている。


それでも衛兵は、さらに何呼吸分か、三人を門前に立たせた。


欺きが成功したのは、衛兵が愚かだったからではない。


本物の書類。


本物の徽章。


持ち主しか知らないはずの情報。


そして、内側から開かれた一つの亀裂。


疑いを確信へ変えるには、理由が足りなかった。


やがて衛兵が書類を返す。


「代表資格の最終確認までは、指定された宿舎を離れるな」


ライはナドランの微笑を浮かべ、小さく頭を下げた。


「承知しました」


門が開いた。


三人はティルマラの旗の下を歩き、学院へ入った。


     ◆


時間は、再び現在へ戻る。


夜の学院。


ティルマラ代表の宿舎には、他人の名前をまとった三人が座っていた。


窓の外では、巡回隊の足音が一定の間隔で通り過ぎる。


キョウが低い声で言った。


「中継宿の連中は、いつまで黙っている?」


ライが答える。


「自力で出られる場所には置いていない」


ハルが窓辺で笑う。


「誰かが見つける頃には、俺たちは森の中か」


「見つけられればな」


ライの声に、楽観はなかった。


成功したからといって、警戒を解く理由にはならない。


その時、通路に足音が近づいた。


三人の声が止まる。


アマル・ディヤーランが、小さな記録簿を抱えて通路を歩いていた。


ティルマラの宿舎の前で足を止める。


扉を見る。


異常はない。


それでも、必要以上に長く立っていた。


記録簿を開く。


ティルマラの欄へ指を滑らせる。


ナドランの署名で止まった。


中継宿から送られた確認書の署名と、学院で書かれた署名。


形は似ている。


だが、最後の線がわずかに違っていた。


偽造と断じるには、小さすぎる違い。


旅の疲れでも説明できる程度の揺れ。


アマルは記録簿を閉じた。


自分へ言う。


「明日、もう一度署名を確認しましょう」


そのまま去った。


室内で、ハルが囁く。


「あの女、面倒だな」


ライが答える。


「だから明日は、必要な時以外は会わない」


キョウが聞いた。


「気づいたら?」


ライは胸のナドランの徽章を見る。


「その頃には、俺たちは森の中だ」


夜がアルマザを覆った。


遠く離れた中継宿の外れでは、本物のナドラン、サリム、ユーヌスが、石造りの貯蔵庫の闇に閉じ込められている。


学院の宿舎では、三人の異邦人が、彼らの名前をまとって座っていた。


サーランの徽章をつけた衛兵の痕跡は、どの記録にも残っていない。


名前もない。


署名もない。


中継宿の者たちの中に、彼がいつ現れ、いつ去ったのかを証言できる者はいなかった。


アルマザの門は破られていない。


衛兵も殺されていない。


誰も簡単に騙されたわけではない。


それでも、三つの偽りの名前は門をくぐった。


ライの策が、アルマザの力を正面から打ち破ったのではない。


内部の誰かが開いた、ほんのわずかな亀裂をすり抜けたのだ。


その夜、学院へ入り込んでいた最も危険なものは、剣の姿をしていなかった。


名前の姿をしていた。

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