氏族の子供たち
翌朝。
三つの班が集められたのは、訓練場ではなく、学院の大広間だった。
生徒たちは前列に座り、教師たちはその両側に立っている。
大広間の壇上には、アルマザの旗が掲げられていた。
その下には、八氏族の紋章が並んでいる。
大会の痕は、まだ生徒たちの身体に残っていた。
ワイルの肩には包帯。
アスマーの腕には傷。
ヤザンの顔には青い痣。
シグランはラカン班の列の端に座っていた。
マヤとヤザンから、わずかに距離を置いていた。
戻ってきた。
だが、訓練場を去ってから二人とは一言も話していなかった。
ナーデル・ジャルガルン学院長が壇上に立つ。
「入学試験の第一段階は終了した」
広間が静まった。
「本日より、国際騎士試験へ向けた準備段階を開始する」
すぐに、ざわめきが広がった。
ワイルは、殴られたように背筋を伸ばした。
アミールは笑みを浮かべる。
学院長が続けた。
「参加各国の代表団は、今後数日間にわたって順次到着する」
「今期の全班は、最終選抜前の集中訓練課程へ入る」
一人の生徒が手を上げた。
「試験への参加は、もう決まっているのですか?」
ナーデルが答える。
「準備段階への参加は確定している」
「正式な参加は、検査および国際登録の完了後に決定される」
ラカンは学院長を見る。
答え方が変わっても、事実は変わらないと知っていた。
命令は、すでに出ている。
学院長が言う。
「本日は、それぞれの氏族本部、または学院に登録された後見人のもとへ戻ってもらう」
「同意書と正式な印を受け取るためだ」
一度、言葉を止めた。
「認定された印を持たない者は、正式に登録されない」
ヤザンは顔を上げた。
昨日の言葉が蘇る。
家族。
印。
同意。
胸にあるアルマザの徽章を見る。
誰が自分のために署名するのか。
誰からも聞いていない。
学院長が言った。
「集会後、すぐに出発すること」
「帰還期限は、明日の日没前だ」
生徒たちが動き始める。
ラカンが自分の班へ言った。
「お前たちは残れ」
扉へ向かっていたシグランの足が止まる。
だが、振り返らない。
ほかの生徒たちが退出するまで待った。
広間に残ったのは、ラカン、マヤ、ヤザン、シグランの四人だけだった。
マヤが尋ねた。
「私たちも氏族へ戻るのですか?」
「お前とシグランはな」
ラカンはヤザンを見る。
「お前は、ここで待て」
ヤザンが尋ねる。
「誰が印を押すの?」
すぐには答えなかった。
「俺の問題だ」
シグランが冷たく言う。
「また、こいつだけ特別扱いか」
マヤが振り向く。
だが、ラカンのほうが先に答えた。
「自分の名で署名してくれる家族がいないことを特権だと思うなら、交換してやってもいい」
シグランは答えなかった。
ラカンが言う。
「行け」
マヤが広間を出る。
シグランは、ヤザンを見ずに横を通った。
扉へ着いた時、ラカンが呼ぶ。
「シグラン」
足が止まる。
「明日は訓練へ来い」
シグランが言う。
「どうだろうな」
ラカンが答えた。
「俺には、もう見えている」
シグランは出ていった。
ヤザンだけが残る。
「先生の印では駄目なの?」
「駄目だ」
「なら、どうやって――」
ラカンが遮る。
「俺の問題だと言った」
そして続けた。
「部屋へ戻れ」
「お前の名で何か届けば、知らせてもらえる」
その言葉で、ラカンにもまだ解決策がないことが分かった。
ヤザンは頷き、広間を出た。
◆
学院の門前には、氏族の馬車が並んでいた。
炎。
水。
風。
大地。
雷。
氷。
闇。
光。
各氏族の紋章は、馬車の扉に描かれ、護衛や使用人たちの衣服に刺繍されている。
ほかの生徒たちは皆、自分の進む場所を知っていた。
ライドはオーラセンの馬車へ向かう。
ワイルは動揺を隠そうとしながら、イヴェルセンの使者へ近づいた。
ナダは、白いディヤーランの衣を着た女性のもとへ駆けていく。
ヤザンだけは、門の近くに立っていた。
生徒たちが、一人ずつ去っていく。
一台の馬車が、一つの名を乗せていく。
その名が帰るべき場所へ。
ヤザンの胸にあるのは、一つの徽章だけ。
ファドゥースの名を掲げる馬車は来ない。
彼のことを尋ねる者も現れなかった。
マヤが近くを通る。
タラインの馬車が待っていた。
足を止めた。
「行かないの?」
「ここに残る」
彼女は馬車を見る。
そして理解した。
「ラカン先生なら、方法を見つける」
ヤザンは頷いた。
確信はなかった。
マヤが言う。
「明日、戻ってくるから」
分かっていると言うこともできた。
だが、「うん」とだけ答えた。
マヤは馬車へ乗る。
中にはオースが待っていた。
すぐに手を振り、彼女に大会のことを尋ね始める。
馬車が動いた。
ヤザンは、門の外へ消えるまで見ていた。
そして、一人で学院の中へ戻った。
◆
オーラセンの本部。
ライドは、肩幅の広い男の前に立っていた。
男の外套には、炎の紋章が刺繍されていた。
大会の報告書が机の上に置かれていた。
男は最後の数行を読む。
「第一位か」
「はい」
「だが、旗は落とせなかった」
「誰も落としていません」
男が目を上げる。
「オーラセンの子は、他者を基準に自分を測らない」
ライドは黙った。
男が言う。
「シグラン・ザランを挑発し、制御を失わせたと聞いた」
「はい」
「良い」
ライドの目が、わずかに変わる。
男が続けた。
「弱点を見つけ、使った」
「ほかの生徒を傷つけるところでした」
「だが、傷つけなかった」
「教師たちが介入したからです」
男は報告書を閉じた。
「敵の恐れを、自分の背中へ載せるな」
「騎士試験では、相手の感情を気遣うまで待ってくれる者はいない」
男は印を手に取り、文書の上にかざした。
だが、押す直前に言った。
「オーラセンの名も、お前と共に試験へ入る」
赤い印が押された。
「その名を貶めるな」
しばらくして、ライドは文書を持って部屋を出た。
だが、アルダの言葉が蘇る。
シグランの選択を、すべて背負うな。
ここでは、氏族の名そのものが、彼の肩に載せられていた。
◆
イヴェルセンの区画。
ワイルは、白髪を編んだ老女の前に座っていた。
老女は報告書を膝の上に置いている。
ワイルは早口で言った。
「一人で勝ったわけじゃありません。ほとんどはライドとアスマーがやりました。俺は旗にも触れなかったし、二回、たぶん数え方によっては三回倒れて――」
老女が手を上げる。
ワイルは黙った。
「怖かったかい?」
頷く。
「とても」
「それでも進んだ?」
「少しだけ」
「戻ってきた?」
ワイルは彼女を見る。
「どこから?」
「訓練場から」
「はい」
老女が言う。
「なら、今はそれで十分だよ」
印を手に取る。
ワイルが尋ねた。
「勝ってほしくはないの?」
老女はしばらく彼を見つめた。
「戻ってきてほしい」
イヴェルセンの印を文書に押した。
「勝てとは言わない」
紙を彼に差し出す。
「ただ、帰ってきなさい」
ワイルは受け取った。
恐怖は消えなかった。
だが、少しだけ軽くなった。
◆
ナダは、広いディヤーランの広間に立っていた。
ガラス張りの天井から光が差し込み、白い壁に反射している。
彼女を迎えた女性は、報告書を最後まで読んでいた。
「訓練中、シグランを見たそうね」
ナダの顔が赤くなる。
「一度だけです」
「一度でも、足が遅れるには十分よ」
ナダは顔を伏せた。
女性が言う。
「光は、炎の後ろでは生きられない」
ナダが顔を上げる。
「どういう意味ですか?」
「他人の炎を追うことに時間を使えば、自分の光が消えた時に気づけなくなる」
文書を押し出す。
「ディヤーランの名で試験へ入るのよ」
「ザランの少年に見てもらいたい少女としてではない」
ナダの指に力が入る。
反論はしなかった。
金色の印が押される。
「試験では、自分の道を見なさい」
ナダは文書を受け取った。
初めて、シグランを見ることは、自分の心だけの問題ではないと感じた。
命に関わる失敗になるかもしれない。
◆
サーランの本部では、数人の氏族員がアミールを迎えた。
壁の至るところに、雷の意匠が刻まれている。
一人の男が大会の結果を読む。
「第二位」
アミールが答える。
「アナスの失敗です」
男が目を上げる。
「なら、自分の望む動きを班にさせられなかったということだ」
「あいつは理由もなく、ファドゥースの前で止まりました」
「お前が班長だったのか?」
アミールは止まる。
「違います」
「なら、全員がお前の道具であるように話すな」
アミールが不満そうに言う。
「俺が一番強かった」
男が答える。
「他者を共に動かせない力では、誰も導けない」
サーランの印を押した。
「試験では、最初に到着するだけでは足りない」
「背後の仲間に危険が及ぶならな」
アミールは文書を持つ。
言葉は気に入らなかった。
だが、マヤに集中している間に、ワイルが自分たちの旗へ近づいたことを思い出した。
すぐに考えを振り払う。
まだ認める気はなかった。
◆
日が沈む頃。
アナスはガスカンの区画へ戻った。
扉で待つ家族はいなかった。
古い闇の紋章が並ぶ、狭い部屋。
そこで、老人が彼を迎えた。
報告書を読む。
「旗を取れなかった」
「はい」
「ケメンを持たない少年に、道を読まれたからか」
「はい」
老人はゆっくり目を上げた。
「腹が立ったか?」
アナスは考える。
「いいえ」
「恐ろしかったか?」
「いいえ」
アナスは一度言葉を止める。
「考えが変わりました」
老人が言う。
「それが最も危険だ」
アナスは黙った。
老人はガスカンの印を押した。
そして言う。
「騎士試験では、人が何をするかだけを見るな」
アナスを見つめる。
「なぜ、そうするのかを見ろ」
アナスは紙を受け取る。
「彼は、勝つために動いていません」
「では、何のためだ?」
旗をつかんでいた姿。
脚へしがみついた姿。
倒れても、再び同じ場所へ戻った姿。
「後ろにあるものを、倒させないためです」
老人が言う。
「なら、手を見るな」
アナスは顔を上げる。
「彼が前に立っているものを見ろ」
アナスは、その言葉を持って部屋を出た。
◆
タラインの馬車は、昼前に本部へ到着した。
マヤはオースと共に、中央広間に入る。
アリアン・タラインが、静かな屋内の水場のそばで待っていた。
マヤはその前に立つ。
「お父様」
オースがすぐに言った。
「入学試験にも勝ったし、大会では――」
アリアンが手を上げる。
オースは黙った。
マヤを見る。
「お前の言葉で話せ」
マヤは大会について話した。
旗。
シグラン。
ヤザン。
敗北の言い訳をせず、起きたことをそのまま伝えた。
話し終えると、アリアンが言った。
「班全体を、一人で背負おうとしたな」
マヤは目を伏せる。
「はい」
「なぜだ?」
「シグランは話を聞きません。ヤザンは、彼のようには戦えないからです」
「それは二人の説明だ」
「お前の選択の説明ではない」
マヤは考える。
「私がやらなければ、班が崩れると思いました」
アリアンは水のそばに座る。
「すべてを抱えようとする水は、最後には自分が沈む」
マヤは黙って立っていた。
「試験へ入るのは、マヤとしてだ」
マヤが顔を上げる。
「全員を救わなければならないタラインとしてではない」
文書を取り出す。
「氏族の名は、扉を開く」
「だが、お前の代わりに動くことはない」
青い印を押した。
そして尋ねる。
「ファドゥースという少年を、信じているか?」
マヤは質問を予想していなかった。
「彼の見るものは信じています」
「目のことを聞いたのではない」
マヤは迷う。
そして答えた。
「はい」
アリアンは水を見る。
何も言わなかった。
だがオースが尋ねた。
「旗を守ったんだろ?」
マヤが答える。
「守るのを手伝ってくれた」
オースが言う。
「なら、強いんだ」
「あなたが知っている強さとは違う」
アリアンは動かなかった。
まだよく知らないその名が、遠い記憶に触れたかのようだった。
だが、何も口にはしなかった。
◆
シグランを迎えるための馬車は来なかった。
届いた命令は、一つだけ。
来い。
シグランは一人でザランの本部へ入った。
広く、冷たい広間だった。
支配者の家の紋章が、上から見下ろしている。
奥の扉には、二人の衛兵が立っていた。
衛兵の一人に案内され、長い机と文書だけが置かれた部屋へ入る。
ハーマンはいない。
ノールもいない。
待っていたのは、正式な衣を着たザラン家の重役の男だった。
「報告は悪い」
シグランがその前に立つ。
「班は第三位だった」
「班の話はしていない」
報告書を押し出す。
「入学試験では、自分から退いた」
「そして最初の大会で、制御を失った」
シグランが言う。
「失っていない」
男は目を上げた。
「この家の中で、同じ嘘を繰り返すな」
シグランの手が握られる。
男が言う。
「ザランの名を持っている」
「分かっている」
「そうは見えない」
シグランの目に何かが燃え上がった。
だが、炎は出さなかった。
男がそれに気づく。
「少なくとも、侮辱から一つは学んだようだな」
文書へ印を押した。
「騎士試験へ出る」
本人の意思は尋ねなかった。
「もう一度、名を辱めるな」
シグランは紙を取る。
印を見る。
「最高司令官は、ここにいるのか?」
男が止まる。
「いない」
「報告書は読んだのか?」
「もっと重要な仕事がある」
言葉が胸に落ちる。
だが、顔には出さなかった。
文書を封筒へ戻す。
そして部屋を出る。
手の傷を尋ねる者はいない。
帰ってこいと言う者もいない。
ザランの名は、すべての壁に掲げられ、彼を待っていた。
だが、扉でシグランを待つ者はいなかった。
◆
学院では、ヤザンが窓を見続けていた。
朝が過ぎ、昼が過ぎ、光が夕暮れへ傾き始める。
アマルが廊下へ姿を現すたびに、顔を上げた。
部屋の前を通り過ぎるたびに、また下げた。
手紙は来ない。
印も届かない。
シャミルも現れない。
ほかの生徒たちは、氏族の家へ戻っている。
自分だけは、学院から与えられた部屋に残っていた。
まるで、外へ出るためには、自分が持たない名が必要であるかのように。
夕方。
小さく扉が叩かれた。
急いで立つ。
扉を開く。
そこにいたのはラカンだった。
背後を見る。
誰もいない。
ラカンが言う。
「手紙は届かなかった」
ヤザンは目を伏せる。
「分かってる」
ラカンが部屋へ入り、文書を机の上に置く。
同意欄は空白だった。
「学院長は、俺の署名を認めない」
「家族じゃないから」
「初めて正しい判断をしたな」
ヤザンは座る。
「なら、試験には出られない」
ラカンは、すぐには答えなかった。
部屋を見る。
整えられた寝台。
少ない衣服。
誰かが迎えに来ることを示すものは、何もない。
「そうは言っていない」
ヤザンは顔を上げる。
「シャミルが来る?」
「分からない」
正直な答えだった。
だからこそ、さらに怖かった。
「学院へ入れたのは、シャミルだ」
「知っている」
「それから、置いていった」
ラカンが言う。
「道ではなく、学院の中へ置いた」
「いつ戻るかも、言わなかった」
ラカンには、返せる皮肉が見つからなかった。
「時々」
「守ろうとしている相手に、何から守っているのかを話せない者もいる」
ヤザンは彼を見る。
「先生は知ってる?」
「知らない」
そして続けた。
「それが、あいつについて最も腹の立つところだ」
立ち上がる。
「眠れ」
「もう一度、学院長のところへ行く」
「また、駄目って言われる」
「断られるのには慣れている」
「だが、俺が何度聞けるかは知らない」
ラカンは出ていった。
ヤザンは、空白の文書の前に残された。
印を押す手はない。
そこに書ける家族の名もない。
同意欄に触れる。
そして、紙を遠ざけた。
◆
シャミルは、アルマザの古い塔の上に立っていた。
そこから、遠くにある学院の灯りが見える。
背後には、カーヒル・ガスカンがいた。
「少年は学院へ入った」
「知っている」
「騎士試験へ送られる」
シャミルは動かない。
カーヒルが尋ねる。
「許すのか?」
「俺はもう、評議会で決定する立場ではない」
「それでも、影の将軍だ」
シャミルは彼を見る。
「地位が、すべての扉を開くわけではない」
カーヒルが言う。
「閉じることはできる」
シャミルは、再び学院を見る。
「今、この扉を閉じれば」
「なぜ閉じたのかを問われる」
「試験へ入れば?」
「危険へさらされる」
カーヒルが言う。
「なら、学院から出せ」
「どこへ?」
沈黙が落ちた。
シャミルが言う。
「永遠に隠れ続けることはできない」
旅の途中、何度倒れても立ち上がった姿を思い出す。
彼を読み取れず、沈黙した水の器。
まだ本人が知らない名を運んでいる血。
「生き残る方法は教えた」
カーヒルがシャミルを見る。
「それでは足りないのか?」
「足りない」
重い言葉だった。
「生き残ることだけを学べば」
「死から逃げる者になる」
シャミルは一瞬、目を閉じる。
「死の前に立つ理由を、学ぶ時だ」
カーヒルが尋ねる。
「自分で鍛えるのか?」
「今は、まだだ」
「なら、誰が?」
シャミルは学院の中にある、一つの明かりを見る。
ラカンの部屋。
「あいつを託された男だ」
「信じているのか?」
「壊さないことは信じている」
シャミルは学院へ背を向けた。
だが、足を止める。
「夜明け前に、印を送れ」
カーヒルが尋ねる。
「誰の名で?」
シャミルは彼を見る。
「俺の名だ」
「お前が後見人だと知られるぞ」
「俺の甥だとは、知られている」
カーヒルの目に、わずかな色が浮かぶ。
「存在しなかった姉の息子か?」
シャミルが冷たく答える。
「ずっと前に死んだ」
「反論はしない」
カーヒルは去った。
シャミルだけが残る。
ヤザンを試験へ送りたくはなかった。
だが、彼を恐れる気持ちが、新しい檻になってはならないことも知っていた。
誰にも聞こえない声で言う。
「生き残るだけでいいとは、もう思わない」
そして、影の中へ消えた。
◆
夜明け前。
アマルは学院長室へ戻った。
机の上に文書を置く。
ナーデルが顔を上げる。
黒い印が見えた。
ガスカンの正式な紋章。
その下にある署名。
シャミル・ガスカン。
「本人が来たのか?」
「いいえ」
「誰が持ってきた?」
「誰も見ませんでした」
学院長は印を見る。
次に、ヤザン・ファドゥースの名。
「当然か」
書類を閉じる。
「登録しろ」
◆
日の出とともに、ヤザンは扉を叩く音で目を覚ました。
アマルが立っている。
文書を差し出した。
ヤザンは印を見る。
闇の紋章だと分かった。
「シャミル?」
「試験の登録上、正式な後見人として認められた」
ヤザンは紙を受け取る。
完全な安堵は訪れなかった。
それでも、署名のない者ではなくなった。
アマルが言う。
「制服を着て」
「最初の代表団が到着した」
◆
生徒たちは中央広場の近くに集まった。
氏族の馬車が、一台ずつ戻ってくる。
ライドはオーラセンの印を持っている。
ワイルは、離せばなくなるもののように文書を握っていた。
ナダは、以前より落ち着いている。
アミールは顔を上げ、アナスは静かなまま立っていた。
マヤはオースと共に到着し、自分の班へ向かった。
ヤザンに気づく。
手にある文書を見る。
「ラカン先生が方法を見つけたの?」
「シャミルが署名した」
マヤの顔に安堵が浮かぶ。
「よかった」
最後に、シグランが到着する。
ザランの正式な封筒を持っていた。
二人の近くに立つ。
だが、挨拶はしない。
班がそろうと、ラカンが言った。
「全員戻ってくるとは思わなかった」
シグランが答える。
「戻らないことを願えばよかっただろう」
「願っている。だが、人生はしぶとい」
シグランが何かを返す前に、学院の門から角笛の音が響いた。
衛兵たちが動く。
教師たちが整列する。
巨大な門が開いた。
長く、暗い色の馬車が入ってくる。
馬車の周囲を進む騎士たちの衣服は、アルマザのものとは異なっていた。
薄い金属板が肩を覆う。
胸の上では、銀色の線が交差している。
まるで、身体の中へつながる管のように。
一人の生徒が言った。
「ハガリスだ」
馬車から、三人の生徒が降りる。
最初に降りたのは、淡い髪と鋭い目を持つ少女だった。
言葉を必要としない自信が、立ち姿に表れていた。
案内役が名を告げる。
「イヴリン・ストロム」
次に降りたのは、落ち着いた顔立ちの背の高い少年だった。
腕には、皮膚の下まで続く奇妙な金属の痕があった。
「ルーカス・ヴェイル」
最後に、後ろで束ねた黒い髪と、場所を見るだけでなく測るような目を持つ少女が降りた。
「クララ・テフィールド」
クララは、最後の段で足を止めた。
並んだ生徒たちを見る。
徽章。
教師たち。
そして、一瞬だけヤザンに視線が止まった。
理由は分からない。
胸にアルマザの徽章しかつけていないからか。
あるいは、異邦人は、ほかの異邦人を誰より早く見つけるからか。
ラカンが小さく言う。
「到着し始めたな」
マヤが、班の仲間の近くに立つ。
シグランは、まるで世界が新しい相手を自分のために送り込んだかのように、ハガリスの代表団を見ていた。
ヤザンは、異国の衣服を見る。
知らない徽章。
見たことのない国から来た顔。
学院が、突然広くなった。
八つの氏族だけが、世界ではなかった。
アルマザの門の向こうには、ほかの国がある。
別の力の体系がある。
そして、それぞれの名と秘密を携えた騎士候補たちがいる。
案内役が宣言した。
「ハガリス代表団を、アルマザへ歓迎する!」
旗が上がる。
二つの国の紋章の間を、風が通った。
ラカン班は、同じ場所に立っていた。
タラインの印を持つマヤ。
ザランの名を持つシグラン。
そしてヤザンは、姿を消した男の署名と、生まれた時からのものではない姓を持っている。
ラカンは心の中で思う。
まだ、班にはなっていない。
二人との距離を残したままのシグラン。
どう縮めればいいのか分からず、それでも距離を埋めようとするマヤ。
自分が理解するより速く広がる世界を見ているヤザン。
誰一人、準備はできていない。
だが、代表団は到着し始めた。
試験は、彼らが準備できるまで待ってはくれない。
クララ・テフィールドは、学院の塔へ目を上げた。
そして、遠く離れた場所では、別の班が持つはずだった徽章が、すでに本来の持ち主ではない者の手に渡っていた。
小さな旗の時代は終わった。
世界が、アルマザへ入り始めた。




