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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第一章 アルマザ学院編

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16/22

炎のあとに残ったもの


訓練場に残ったシグランの炎は、石の上の黒い跡だけだった。


だが。


熱は、完全には消えていない。


人々の目の中に。


そして。


まだ誰も口にしていない言葉の中に残っていた。


     ◆


イザンは治療棟の石造りの寝台へ座っていた。


治療師が肋骨の包帯を巻き直している。


ラカンは扉のそばで腕を組んでいた。


治療師が言う。


「動きすぎないようにと言ったはずよ」


イザンが答える。


「大会だったから」


「私は昨日も、別の大会でできた傷を治療したのよ」


治療師が包帯を強く締める。


イザンは痛みに顔をこわばらせた。


だが声は出さなかった。


治療師が彼を見る。


「それで、あなたが平気だとは思わないわ」


ラカンが言う。


「無理だ。こいつは沈黙を治療法だと思っている」


イザンが顔を上げた。


「先生は、皮肉を治療法だと思ってるの?」


治療師の手が止まった。


ラカンは一瞬、イザンを見る。


それから言った。


「明確な進歩だな」


言い返したことが間違いだったのか、イザンには分からなかった。


だが、ラカンの口元がわずかに動いた。


治療師が言う。


「終わり。少なくとも二日間、激しい訓練は禁止」


ラカンが答える。


「一日だ」


治療師が厳しい目を向けた。


「二日」


「一日半」


「二日」


ラカンが言う。


「交渉というものを理解していないな」


「あなたは身体というものを理解していない」


扉を指す。


「出て」


ラカンは両手を上げ、降参するように部屋を出た。


イザンだけが寝台へ残る。


     ◆


部屋の外では、マヤが待っていた。


イザンが出ると、すぐに近づく。


「大丈夫?」


「うん」


新しく巻かれた包帯を見る。


「治療師は、そう思っていないみたい」


二人は並んで廊下を歩き始めた。


ラカンの姿は近くにない。


マヤが言う。


「あなたが正しかった」


イザンは彼女を見る。


「何が?」


「旗は班そのものじゃないって言ったこと」


イザンは目を伏せた。


「うまく言えなかった」


「分かったから」


しばらく、黙って歩いた。


近くを通る生徒たちは、大会について話している。


シグランの攻撃を真似する者。


アルダの石壁について語る者。


班の順位について議論する者。


イザンは、そちらを見なかった。


マヤが言う。


「あなたがアナスやナダやアミールの動きを見つけなかったら、第一ラウンドで旗は落ちていた」


「止めたのはマヤだよ」


「どこを見ればいいか、あなたが教えたから」


イザンは少し足を止めた。


成功の一部を、自分の手へ置かれることに慣れていなかった。


「でも、負けた」


マヤは前を見る。


「うん」


事実を飾ろうとはしなかった。


そして続けた。


「でも、あなたが弱かったから負けたわけじゃない」


その言葉は。


イザンの内側の、痛みやすい場所へ届いた。


「負けたのは、シグランが――」


そこで止まる。


責任を彼へ押しつけているように聞こえたくなかった。


マヤが言う。


「最後に、私たちの声を聞かなかったから」


少し黙った。


「そして私は、あそこまで行く前に止める方法が分からなかった」


イザンは彼女を見る。


まるで全員の失敗を、自分の責任として抱えているようだった。


「マヤのせいじゃない」


「怒ってるのは分かってた」


「皆、分かってた」


「でも、私は一番近くにいた」


イザンが言う。


「近くにいるからって、一人で抱えられるとは限らない」


マヤが止まった。


イザンは彼女を見る。


言い方がきつかったのではないかと不安になった。


だが、彼女は怒らなかった。


「ラカン先生も、似たようなことを言ってた」


「じゃあ、たまには正しいんだ」


マヤの顔に薄い笑みが浮かぶ。


「本人には言わないで」


再び歩き始める。


廊下の先に、外の訓練場へ続く扉が見えた。


マヤはそれを見る。


「戻ってくると思う?」


シグランのことだと分かった。


去っていった時の姿を思い出す。


「うん」


「どうして分かるの?」


完全な答えはなかった。


「まだ、終わってないから」


マヤはイザンを見る。


そして、シグランが消えた廊下へ目を向けた。


安心できる言葉ではなかった。


だが。


嘘ではないように聞こえた。


     ◆


西側の訓練場。


ライドは、前夜に訓練していた石柱の前へ立っていた。


炎は出していない。


表面に残った黒い跡を、ただ見ている。


背後からアルダが近づいた。


「見続けても、石は答えないぞ」


ライドが言う。


「シグランを、限界まで追い込みました」


アルダは隣へ立った。


「ああ」


否定しなかった。


ライドが言う。


「誰かを傷つけたかもしれない」


「お前が殺されていたかもしれない」


ライドは彼を見る。


アルダが続ける。


「挑発は武器だ」


「武器を使う者は、自分の選択の結果を負う」


ライドは目を伏せた。


「退くと思っていました」


「違う」


アルダは言った。


「間違いを認めるところを見たかったんだ」


ライドは黙った。


教師の言う通りだった。


旗から遠ざけるだけでは満足しなかった。


その自尊心を折りたかった。


「最後の言葉を言う前に止めていれば――」


アルダが遮った。


「このことから学べ」


「だが、シグランが選んだすべてを、自分の背中へ載せるな」


ライドが目を上げる。


アルダが言う。


「揺るがないというのは、すべてが爆発するまで一人で立ち続けることではない」


石柱を見る。


「お前は力を抑える方法を知っている」


「次は、相手をそれ以上押さず、自分自身と向き合わせるべき時を学べ」


ライドが言う。


「俺は、あの戦いを制御していると思っていました」


「制御していたのは、距離だけだ」


アルダは真っすぐ彼を見る。


「目の前の人間までは、制御していなかった」


その言葉が二人の間に残る。


やがてアルダが言った。


「明日から、通常訓練へ戻る」


ライドが眉を上げる。


「大会の翌日でも?」


「勝利は休暇にはならない」


アルダが離れていく。


ライドが背後から呼ぶ。


「ワイルは?」


アルダが止まる。


「何だ?」


「恐怖を感じながらも、二度、旗の区域へ届きました」


「知っている」


「本人に言いますか?」


アルダは肩越しに振り返った。


「お前が言え」


そのまま歩き去った。


ライドは一人残された。


だが今回は。


すべてを一人で背負うよう求められているとは感じなかった。


     ◆


ライドは、宿舎の廊下でワイルを見つけた。


ワイルは掌の上にある、小さな氷の塊を見つめている。


氷は震えていた。


固定しようとするたびに、亀裂が入る。


ライドに気づくと、慌てて手を閉じた。


「廊下で訓練していたわけじゃない」


ライドが答える。


「聞いていない」


「なら、よかった」


ライドは横を通り過ぎた。


だが、足を止める。


「旗へ届いたな」


ワイルが見る。


「触れてない」


「だが、届いた」


「その後、アミールに倒された」


「雷を二度防いだ後にな」


ワイルは黙った。


皮肉のない言葉へ、どう答えればいいのか分からなかった。


ライドが続ける。


「第一ラウンドでは、アスマーに叫ばれたから動いた」


ワイルの手を指す。


「最終ラウンドでは、叫ばれる前に動いていた」


ワイルは掌を見る。


「どちらも、怖かった」


「怖がるなとは、誰も言っていない」


ライドは歩き出す。


ワイルが背後から尋ねる。


「それ、褒めてる?」


ライドは一瞬止まった。


「慣れるな」


そして去った。


ワイルはその場に残る。


ゆっくり手を開いた。


再び氷が現れる。


今度は。


少しだけ震えが小さかった。


     ◆


アミールはアドナン班の訓練場へ座り。


小石を壁へ投げては、跳ね返ったものを受け止めていた。


「俺たちが一位になるべきだった」


ナダは水瓶のそばで、手についた土を洗っている。


「一本も旗を落とせなかった」


「アナスがファドゥースの前で二度も止まったからだ」


アナスは壁の近くの影へ座っていた。


目を上げる。


アミールが言う。


「あいつを見ていないで攻撃していれば、終わっていた」


アナスが答える。


「お前が少し黙っていれば、ワイルは俺たちの旗へ届かなかった」


アミールの指に火花が走る。


「話を変えるな」


「変えていない」


ナダが口を挟む。


「大会は終わったのよ」


アミールが彼女を見る。


「お前はずいぶん簡単に言うな。ずっとマヤと戦っていたわけじゃないから」


「彼女を相手に選んだのは、あなたよ」


「道を開くためだ」


アナスが言う。


「第三班より強いと証明したかっただけだ」


アミールは顔を上げる。


「俺はファドゥースより強い」


アナスが答える。


「ああ」


アミールは止まった。


肯定されるとは思っていなかった。


アナスが続ける。


「だが、弱者として俺の前へ立ったわけではない」


訓練場が静まる。


アミールが尋ねる。


「どういう意味だ?」


アナスは、灰色の旗があった場所を見る。


「自分の弱さを知る弱者は、勝てない戦いから逃げる」


アミールが言う。


「なら、あいつは馬鹿だ」


「そうかもしれない」


アナスは続ける。


「だが、俺に勝とうとはしていなかった」


アミールを見る。


「マヤが到着するまで、俺を遅らせればいいと分かっていた」


アミールは黙った。


「自分の役目を見つけ、やり遂げた」


アミールは、その言葉が気に入らなかった。


「それでも、力はない」


アナスが答える。


「違うとは言っていない」


再び影へ身体を戻す。


ナダは、旗の前に立っていたイザンを思い出していた。


あの日。


弱い少年として見たわけではない。


ただ。


班が必要とした場所へ立っていた者として見ていた。


     ◆


シグランは訓練棟の裏にある、古い訓練場にいた。


そこにいると知っていたのは、ラカンだけだった。


石壁の前へ立つ。


手は血で汚れている。


カマンを使わず、何度も殴っていた。


拳の皮膚が裂けている。


だが壁には何も起きていない。


背後からラカンが言った。


「新しい力の証明方法か?」


シグランは振り返らない。


「出ていけ」


「学院の訓練場だ」


「なら、ここで一人にしろ」


ラカンが近づく。


「一人にしておく時間は終わった」


シグランは拳を上げ。


もう一度、壁へ振り下ろす。


衝突する前に、ラカンが手首をつかんだ。


シグランが激しく振り向く。


「離せ」


「断る」


「それが癖なのか?」


「生徒が頭の代わりに自分の手を壊そうとする時はな」


シグランは腕を引く。


血を見る。


それから言った。


「俺は制御を失っていない」


ラカンは即座に答える。


「失った」


「攻撃の強さは分かっていた」


「どこまで届くかは分かっていなかった」


「壁が止めた」


「壁が出たのは、アルダが介入した後だ」


シグランの目が鋭くなる。


ラカンが続ける。


「マヤは攻撃の線上にいた」


「イザンはその後ろ」


「ライドは正面」


「ほかの生徒たちは両側にいた」


「当てるつもりはなかった」


「俺が手をつかんだからだ」


シグランの指の周囲に、炎が一瞬現れた。


だがラカンは姿勢を変えない。


「消せ」


「命令するな」


「俺はお前の教師だ」


「もう俺の教師じゃない」


ラカンは一瞬、黙った。


「決めるのは学院長だ。お前ではない」


シグランは侮蔑するように見る。


「罰を与えるのか?」


「ああ」


「自分では制御できないほど、俺が強かったからか?」


ラカンは笑わなかった。


皮肉も、すべて消えていた。


「訓練を、本物の危険へ変えたからだ」


一歩近づく。


「お前は、もうライドと戦っていなかった」


「自分が思っているほど強くないと見られる恐怖と戦っていた」


シグランの顔が変わる。


「俺の何が分かる」


「十分見た」


「見たのは、俺が止められたところだけだ」


「旗のすぐ近くまで行きながら、一言で自尊心を傷つけられ、旗を捨てたところを見た」


炎が手へ集まる。


ラカンが言う。


「今も同じだ」


シグランは自分の炎を見る。


しばらく残った。


そして。


消した。


ラカンが言う。


「よし」


シグランは顔を上げる。


「褒めるな」


「褒めていない」


「訓練場で失敗したことを、今回はできたと言っただけだ」


シグランは背を向ける。


「出ていけ」


ラカンが言った。


「明日、訓練へ来い」


「行かない」


「来る」


「なぜ?」


ラカンが答える。


「班から離れることはできる」


「だが、班が負けた原因からは逃げられない」


シグランが止まる。


「負けたのは規則のせいだ」


「お前が、自分を班より上へ置いたからだ」


シグランが振り返る。


目の中の炎は。


点けなかった炎より危険だった。


ラカンが言う。


「それを学ぶことになる」


「気に入るかどうかは関係ない」


そして訓練場を出た。


シグランは一人残る。


血のついた手。


目の前の壁。


再び拳を上げた。


だが。


殴らなかった。


     ◆


ラカンは自室へは戻らなかった。


そのまま学院長室へ向かう。


学院の上へ夜が下り始めていた。


だが、扉の向こうにはまだ明かりがある。


一度だけ叩き。


そのまま入った。


ナーデル・ジャルガルン学院長は、机の後ろで大会の報告書を読んでいた。


顔を上げる。


「来ると思っていた」


ラカンが答える。


「なら、話を早くしよう」


扉を閉める。


「俺の班を、騎士試験から外してほしい」


学院長は動かなかった。


「却下する」


「理由を聞いていない」


「分かっているからだ」


ラカンは大会の報告書を机の上へ押した。


「一言に耐えられず、訓練場の半分を焼きかけた者がいる」


「止めただろう」


「制御を失った後にな」


ナーデルが言う。


「その欠点を、実地へ出る前に直すための学院だ」


「国際騎士試験は学院の訓練場ではない」


「分かっている」


「シグランは準備できていない」


学院長が尋ねる。


「マヤは?」


「全員を一人で支えようとする」


「イザンは?」


ラカンは止まった。


それから言う。


「目に見えるカマンを持たない」


「身体も、本物の戦闘へ耐えられる段階ではない」


「それでも、何度も旗が落ちるのを防いだ」


「頭を使ってだ。力ではない」


「知性は試験へ持ち込めないのか?」


ラカンが言う。


「使うまで生き残れる身体があるならな」


ナーデルは立ち上がった。


「班の編成は決まっている」


「変えろ」


「俺だけで決められることではない」


「学院長だろう」


「試験は評議会と最高司令部の管轄だ」


ラカンの表情が変わった。


「最高司令部?」


「今朝、命令が届いた」


引き出しを開く。


封印された文書を取り出した。


机の上へ置く。


アルマザの公式印が押されている。


「今期の合格班は、すべて試験の準備段階へ参加する」


「恒久的な負傷、または最高司令官の命令がない限り、個別の免除は認められない」


ラカンは印を見る。


「ハーマンか」


ナーデルが答える。


「ああ」


ラカンは顎へ力を込めた。


「班の詳細を知っているのか?」


「最高司令官が、生徒の名前を一人ずつ確認しているとは思えない」


ラカンが言う。


「だが、シグランの名は知っている」


ナーデルは答えなかった。


必要もなかった。


「なら、準備ができているから参加するわけではない」


「そうは言っていない」


「ザランの息子を、試験へ出さなければならないからだ」


学院長が厳しく言う。


「言葉に気をつけろ」


ラカンは机へ近づく。


「俺は、送り出す者へ気をつけろと言っている」


ナーデルが言う。


「お前に免除する権限はない」


「なら、戦争へ行くつもりで鍛える」


「それが、お前の役目だ」


二人の視線がぶつかる。


ラカンは文書を手に取った。


最後の行を読む。


各国代表の集合日。


選別段階。


開始後の外部介入は禁止。


文書を机へ戻す。


「何か起きたら――」


ナーデルが遮る。


「すべての教師が、その恐怖を抱えている」


ラカンが答える。


「違う」


「恐れる理由があると知っている者だけだ」


背を向け、部屋を出た。


学院長は立ったまま。


シグランの報告書を見る。


次に、イザン・ファドゥースの名。


彼も安心してはいなかった。


だが。


ラカンの前に開けられる扉は持っていなかった。


     ◆


アルマザから遠く離れた場所。


密集した木々に囲まれた、廃墟の建物。


三人の男が、低い机を囲んでいた。


机の上には。


地図。


移動経路。


各国代表の名簿。


中央にはライが座っている。


落ち着いた様子で。


急ぐことなく、書類へ目を走らせていた。


ハルは窓の近くへ立つ。


キョウは金属製の徽章を指の間で回していた。


ハルが尋ねる。


「招待状が届いたことは確認できたか?」


ライが答える。


「ああ」


参加国の一つを指す。


「この徽章を持つ班は、アルマザへ到着しない」


キョウが笑う。


「誰も違いに気づかないのか?」


「名前と詳細を間違えなければな」


二人の前へ、三枚の紙を押し出す。


外国人学生の身分証明だった。


ハルが尋ねる。


「教師は?」


「試験段階へ入るのは、生徒だけだ」


キョウが言う。


「目標は?」


ライが目を上げた。


「シグラン・ザラン」


キョウの口元に薄い笑みが浮かぶ。


「生きたまま?」


「生きたままだ」


ハルが尋ねる。


「同じ班の者は?」


「どうでもいい」


ライは一度、言葉を止めた。


「だが、目標へ着く前に騒ぎを起こすな」


キョウが言う。


「道を塞ぐ者がいたら?」


ライは声を変えずに答える。


「消せ」


ハルは地図を見る。


「アルマザの班は強いと聞く」


ライが言う。


「奴らの試験に勝つために入るわけではない」


シグランの名へ指を置く。


「中から、欲しいものを取り出すためだ」


キョウは徽章を光へかざした。


そこには。


自分たちが属していない国の紋章が刻まれていた。


「なら、一日だけ騎士になるわけだ」


ライが答える。


「違う」


地図を閉じる。


「到着できなかった死者の顔になる」


沈黙が落ちた。


外では、木々の間を風が通っていた。


だが。


学院の誰も知らなかった。


試験の始まりを待たずに、すでに動き出した者たちがいることを。


小さな旗は、ただの訓練にすぎなかった。


本当の危険は。


すでに、自分が狙う名を選び始めていた。

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