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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第一章 アルマザ学院編

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制御を失う

白い旗が、最後にもう一度上がった。


生徒たちは開始位置に立っていた。


疲労は、すでに全員の身体にはっきりと刻まれている。


訓練場も、もはや朝のように整ってはいなかった。


いくつもの障害物に亀裂が走り、青い旗の近くには砕けた氷が散乱している。


赤い旗へ続く道は、焼け跡に覆われていた。


ただ、灰色の旗だけは、傾いた土台と濡れた縄に支えられながら、まだ立っていた。


第三班は、そのそばにいる。


マヤの呼吸は普段より速く、肩口の袖が破れていた。


ヤザンは脇腹を押さえ、動くたびに増す痛みを隠そうとしている。


シグランだけは、赤い旗しか見ていなかった。


マヤが言う。


「最終ラウンドは短い。三人で一気に進めば、アドナン班がこちらへ戻る前に届く」


シグランが答える。


「俺が道を開く」


「私たちは後ろにつく」


今回は、反論しなかった。


マヤはヤザンを見る。


「私たちと旗の間にいて。できる限り、正面から戦わないで」


ヤザンは頷き、それから言った。


「アナスは、道を変える」


「分かってる」


「違う……」


言葉を探す。


「旗を狙っていると思わせて、アミールを通す」


マヤは考え込んだ。


シグランが言う。


「前のラウンドでやった」


「だから、同じやり方では来ない」


シグランはヤザンを見る。


笑わなかった。


ただ、言った。


「見えたものを知らせろ」


その言葉は、どんな称賛よりも明確にヤザンへ届いた。


見えるかどうかを疑う響きはなかった。


見えた時に知らせろ。


そういう意味だった。


審判が手を上げる。


「最終ラウンド!」


合図が下りた。


三つの班が動いた。


     ◆


今回は、シグランが班から大きく離れることはなかった。


先頭を走る。


マヤは右後方。


ヤザンは、二人と退路の間に位置するよう、マヤの近くを進んだ。


三人は赤い旗へ向かう。


ライドは、迫ってくる彼らを見た。


アスマーへ告げる。


「青い旗へ行け」


アスマーはシグランを見る。


「一人で?」


「俺たちの目標は、ラカン班ではない」


アスマーはその意味を理解し、ワイルと共にアドナン班の側へ動いた。


赤い旗の前には、ライドだけが残った。


シグランが言う。


「ようやくか」


ライドが答える。


「何も変わっていない」


シグランの両腕に炎が集まる。


だが、すぐには飛び出さなかった。


横を見る。


マヤは位置についている。


その後ろには、ヤザン。


マヤが言った。


「中央から行かないで。旗から離れるように動かして」


シグランはライドを見る。


そして、左へ向かった。


ライドも動く。


反対側から、マヤの水が届く。


ライドは旗の正面から、一歩離れるしかなかった。


「今!」


シグランが飛び込んだ。


     ◆


シグランの拳とライドの腕がぶつかり、その間で炎が爆ぜた。


ライドは半歩下がる。


だがシグランは、すぐには追わなかった。


反対側へ回り込み、旗へ抜けると見せかけた。


ライドが進路を塞ぐ。


下から水が襲い、その足に巻きついた。


完全に拘束される前に、ライドは足を引き上げた。


だが、その一瞬の遅れが、シグランに通り抜ける機会を与えた。


マヤが叫ぶ。


「進んで!」


シグランが旗へ走る。


残るは数歩。


目に、満足げな光が浮かんだ。


その時。


横からライドが迫った。


殴ろうとはしない。


足元の地面に、短く炎を放つ。


シグランは後ろへ跳ぶしかなかった。


ライドが言う。


「前より良い」


シグランは足を止める。


「何だ?」


「今回は、班の声を聞いた」


静かな声だった。


シグランの成功を、悔しがってはいない。


むしろ、それを待っていたように聞こえた。


シグランの拳が強く握られる。


ライドが続ける。


「だが、まだ旗より俺を見ている」


マヤが言う。


「返事をしないで」


水が彼女の周囲でうねり、横からライドを押した。


ライドは炎でその一部を蒸発させた。


だが、さらに一歩下がる。


ヤザンが叫ぶ。


「今だ、シグラン!」


声は届いた。


道も開いている。


シグランが動く。


     ◆


青い旗の側では、アスマーとナダが再びぶつかっていた。


だが今回は、ワイルが前へ出ている。


彼女の後ろで待ってはいない。


小さな氷の壁を前方に作り、盾のように使いながら旗へ近づいていく。


アミールが気づき、雷を放つ。


火花が壁に当たり、亀裂が走る。


だが、ワイルは止まらない。


ナダが叫ぶ。


「アミール! 旗が!」


「見えている!」


アミールは青い旗の守備へ引き返し、ワイルを阻むため、その前へ回り込んだ。


アナスだけは、仲間二人の近くにはいなかった。


障害物の間へ姿を消し、灰色の旗へ向かっていた。


アドナンは黙って見ている。


ほかの二班は攻撃に集中していた。


アナスにとっては、ラカン班の旗を奪う絶好の機会だった。


だがアナスは、真っすぐには向かわなかった。


障害物の陰で一度止まる。


遠くにいるヤザンを見る。


少年はマヤとシグランと共に、赤い旗の近くにいた。


灰色の旗は、ほとんど無人。


簡単な道。


簡単すぎる。


それから、アナスは動いた。


     ◆


シグランは、赤い旗の防衛区域へ入った。


旗が目の前にある。


手を伸ばす。


背後からライドが飛び込んできた。


ヤザンが叫ぶ。


「肩!」


シグランは身体を低くした。


ライドの一撃が頭上を通る。


シグランは身体を回し、横から炎を放って押し返した。


ライドが下がる。


シグランの手と旗との距離は、あとわずか。


マヤは背後に水を広げ、ライドが戻るのを阻んだ。


成功は近い。


だが、ライドが言った。


「もっと強いと思っていた」


シグランの手が止まった。


旗から離れてはいない。


ほんのわずかに、止まっただけ。


マヤが叫ぶ。


「聞かないで! 旗を取って!」


シグランが振り返る。


ライドは水の壁の向こうに立っていた。


笑ってはいない。


だからこそ、言葉が深く刺さった。


「班全員の力がなければ、近づくこともできなかった」


シグランは歯を食いしばる。


マヤが言う。


「それが班なの!」


シグランは彼女を見ない。


ライドが続けた。


「少し前まで、全員を一人で倒すつもりだった」


ライドは声を少し低くする。


「考えを変えたのか?」


ヤザンには、ライドが何をしているのか分かった。


戦いだけで旗を守っているのではない。


言葉でシグランを旗から遠ざけようとしている。


「シグラン、旗を!」


警告は届いた。


だが、動かない。


ライドが言う。


「それとも、自分の力を信じられなくなったのか?」


シグランの視界から、訓練場が消えた。


残ったのは、一つの言葉。


自分の力を信じられなくなった。


     ◆


入学試験の闘技場が蘇った。


自ら退いたこと。


ヤザンの勝利が宣言されたこと。


本当の結果ではないと叫んだ観客。


棄権について何も語らず、ただ「歩け」と命じたハーマン。


そして観覧台。


ヤザンが、自分には見えなかったものを見たと認めるラカン。


今、目の前に立つライド。


自分を測り、足りないものを見つけたような顔。


マヤが叫ぶ。


「シグラン!」


だが、その声は遠ざかった。


炎が両拳に現れる。


これまでのラウンドで使ったものとは違う。


重い。


中心が暗い。


周囲の温度が、急速に上がった。


ライドは言葉を止めた。


挑発する表情が消える。


訓練場の外から、アルダが呼んだ。


「シグラン」


教師は指示を禁じられていた。


だが、その声には警告があった。


聞こえなかったのか。


それとも、気にしなかったのか。


炎は肩まで広がり、やがて全身を包んだ。


マヤが命じるまでもなく、水が熱気に押されて退いた。


「下げて!」


シグランは彼女を見ない。


目はライドだけを捉えていた。


「お前が言う力を、見せてやる」


ライドは足を踏ん張り、炎を前方に集めた。


だが今回は、攻撃する構えではない。


守るための構えだった。


ヤザンが言った。


「駄目だ……」


炎の集まり方とシグランの構えを見て、次に来る一撃を悟った。


熱で歪む空気が生む、皮膚を締めつけ、呼吸を浅くするほどの圧力。


次の一撃は、ライドだけでは止められない。


旗にも、マヤにも届く。


周囲の障害物も、離れた場所の生徒たちも巻き込みかねない。


ヤザンは声を張り上げた。


「シグラン、止まって!」


シグランには届かなかった。


     ◆


青い旗の側でも、突然の熱気にアミールが足を止め、振り返った。


ワイルの身体も固まる。


アスマーは顔を守るように腕を上げた。


ナダさえも、炎の進路から離れる。


障害物の後ろからアナスが姿を現し、シグランを見る。


アドナンが即座に言った。


「ラウンドを止める」


審判が宣言するより先に、すべてが動いた。


シグランが手を上げる。


炎は周囲に広がらず、掌の周囲に圧縮されていく。


炎塊は縮んでいく。


だが、光と密度は増していく。


ラカンの表情が変わった。


入学試験で使った一撃に似ている。


だが、さらに強い。


そして、制御が弱い。


ラカンとアルダが、ほぼ同時に動いた。


アルダが言った。


「今だ」


足で地面を踏む。


シグランとライドの間に、厚い石壁が立ち上がった。


同時に、ラカンも訓練場へ踏み込む。


シグランが攻撃を放ちきる前に、その手首をつかんだ。


炎が爆発した。


     ◆


訓練場全体が揺れた。


炎が石壁に衝突する。


一層目が砕ける。


続いて二層目。


熱気が両側へ流れ、土煙が空へ吹き上がった。


マヤは自分とヤザンの前に水を広げる。


だが、その一部は一瞬で蒸発した。


ヤザンは後ろへ押され、脇腹に鋭い痛みを覚えながら、手をついて倒れた。


ライドは石壁の後ろで足を踏ん張る。


凝縮した炎を前面に展開し、身を守っていた。


ラカンはシグランの手首を上に引き上げ、残った攻撃の方向を空へ逸らした。


巨大な火柱が訓練場の上空へ伸びる。


そして、少しずつ消えていった。


沈黙だけが残った。


ラカンは、シグランの手首を強くつかんでいる。


「終わりだ」


シグランは荒く息をしていた。


目は、まだライドへ向いている。


「離せ」


「断る」


「制御していた」


ラカンは、壊れた石壁を見る。


次に、マヤの近くで蒸発した水。


そして、地面に倒れたヤザン。


「もう、目の前の何も見えていなかった」


シグランが手を引こうとする。


ラカンはさらに強く固定した。


「終わりだと言った」


生徒たちは、ラカンの声に本物の厳しさを聞いた。


初めてのことだった。


皮肉はない。


気だるさもない。


ただの命令だった。


シグランはラカンを見る。


そして、周囲に視線を移した。


攻撃の跡。


石壁の後ろにいるライド。


自分から離れた場所に立つマヤ。


彼女の周囲で蒸気になっていく水。


地面に倒れたヤザン。


だが、後悔は現れなかった。


代わりに浮かんだのは怒りだった。


皆の前で止められたことへの怒り。


「当てるつもりはなかった」


ラカンが答える。


「制御を失った者は、誰に当たったかも確かめず、必ずそう言う」


     ◆


審判が訓練場に入り、手を上げた。


「ラウンド中断!」


シグランを見る。


「危険な出力の使用」


「警告の無視」


「生徒たちを危険にさらした行為」


はっきりと告げた。


「シグラン・ザランを大会から失格とする」


訓練場全体に、ざわめきが広がる。


シグランの顔が強張った。


審判が続ける。


「ラカン班から二点を減点する」


マヤが言った。


「二点?」


審判が彼女を見る。


「制御喪失で一点」


「強制的にラウンドを中断させたことで、もう一点」


マヤは反論しなかった。


ただ、シグランを見る。


彼はラカンの前に立ち、まだ手首をつかまれている。


シグランが言った。


「こんな大会は必要ない」


ラカンは手を離した。


「見れば分かる」


シグランは背を向け、訓練場を出ていった。


マヤも、ヤザンも見なかった。


触れる寸前だった赤い旗さえ見なかった。


ライドのそばを通る。


誰もが、どちらかが何かを言うと思った。


だが、言葉はなかった。


ライドも黙っている。


その顔に勝利の色はない。


シグランが外へ出るまで見送った。


それから、近くにいたアルダにしか聞こえない声で言う。


「追い込みすぎました」


アルダが答える。


「あの一撃を選んだのは、本人だ」


だが、アルダの目も壊れた石壁へ向いたままだった。


アルダは、挑発が戦いの一部であることを知っていた。


同時に、シグランを自分の内側へ落とすのに、あれほど強く押す必要はなかったことも分かっていた。


     ◆


教師たちが素早く生徒たちの状態を確かめ、大きな負傷者がいないことを確認すると、審判は大会の終了を宣言した。


三つの班が、小さな壇の前へ集められる。


シグランの姿はない。


第三班の列には、マヤとヤザンだけが立っていた。


二人の後ろには、灰色の旗が残っている。


まだ立っている。


だが、先ほどまでと同じ気持ちでは見られなかった。


審判は得点表を開く。


「第一位。アルダ・ジャルガルン班」


ライド、アスマー、ワイルが前へ出る。


組織的な防御に加え、ワイルが青い旗の攻撃区域へ到達し、誰も制御を失わなかった。


その結果、最も高い点を得た。


ワイルは周囲を見る。


誰かに間違いだと告げられるのを待っているようだった。


アスマーが、小さな声で言う。


「あなたも一緒よ」


ワイルは両足を踏みしめた。


「第二位。アドナン・オーラセン班」


アミールは不満そうな顔で立っていた。


二位では満足できない。


ナダは地面を見る。


アナスは静かなままだった。


審判が言う。


「第三位。ラカン・ディヤーラン班」


小さなざわめきが起こる。


灰色の旗は、何度も攻め込まれながら、最後まで落ちなかった。


ラカン班は、赤い旗に触れる寸前まで到達していた。


だが、二点の減点によって最下位になった。


ヤザンは旗を見る。


落ちなかった。


それでも、負けた。


最初の勝利を、逆さにしたような感覚だった。


あの時は、シグランを倒していないのに、自分が勝者とされた。


今回は、旗を落とされていないのに、敗者になった。


規則が、訓練場に残された実感と同じことを語るとは限らない。


審判が続ける。


「この大会は、個人の強さだけを測るものではない」


「自分を制御できない者がいる班は負ける」


「たとえ、その中に最も強い戦士がいたとしてもだ」


言葉は全員へ届いた。


シグランが聞こえる距離にいれば、彼にも届いただろう。


だが、そこにはいなかった。


     ◆


生徒たちが去り始める。


マヤがヤザンに近づいた。


「怪我してる?」


ヤザンは真っすぐ立とうとした。


「してない」


マヤは、脇腹を押さえる手を見る。


「下手な嘘」


最初の日に、ラカンから自分が言われた言葉を思い出す。


疲れた笑みが、マヤの顔に浮かんだ。


「治療棟まで一緒に行く」


ヤザンが言う。


「旗は?」


マヤは灰色の布を見る。


「試験は終わった」


ヤザンは、まだ見続けていた。


「落ちなかった」


「分かってる」


「でも、負けた」


マヤが答える。


「旗を守ることが、全部じゃなかったから」


ヤザンは彼女を見る。


マヤの目は、シグランが消えた通路へ向いていた。


「班も守らなければならなかった」


その声には、怒りだけでなく、悲しみがあった。


     ◆


アナスが二人の近くを通った。


ヤザンの前で足を止める。


マヤが警戒した声で尋ねる。


「何?」


アナスはヤザンを見る。


「第一ラウンドで、俺の進路を予測した」


続ける。


「第二ラウンドでは、ナダが動く前に気づいた」


「最後には、ライドがシグランを旗から遠ざけていることも見抜いた」


ヤザンは、何を言われるのか分からなかった。


アナスが言う。


「偶然ではなかった」


褒め言葉というより、事実を確認する言い方だった。


だが、そこには明確な承認が含まれていた。


「お前は、攻撃を見ていない」


ヤザンの足元に目をやる。


次に、その目を見る。


「その前の決断を見ている」


その言葉は、ヤザン自身が知る自分よりも大きく聞こえた。


「いつも見えるわけじゃない」


アナスが答える。


「いつも見える者はいない」


歩き出す。


離れる前に言った。


「次は、同じ道を選ばない」


ヤザンは顔を上げた。


脅しなのか。


次の勝負を約束しているのか。


分からない。


たぶん、その両方だった。


     ◆


ラカンは、壊れた石壁の近くに立っていた。


アルダが隣へ来る。


「介入するべきだった」


「分かっている」


「責めてはいない」


ラカンが彼を見る。


「慰めるのが下手だな」


アルダが答える。


「慰めていない」


炎の跡を指す。


「力は大きい。だが制御は、自尊心より弱い」


ラカンが言う。


「問題は、退くことを敗北の承認だと思っていることだ」


アルダはライドを見る。


「そして、ライドは傷つく場所を知っていた」


そこへライドが近づいた。


「俺が間違えました」


アルダが見る。


「何を?」


「怒りが明らかになった後も、挑発を続けました」


ラカンが言う。


「挑発は戦いの一部だ」


ライドが答える。


「でも、これは本当の戦場ではありません」


ラカンは壊れた壁を見る。


「今日、それを学んだのはお前も同じだ」


そして、マヤとヤザンのほうへ歩き出す。


背後からアルダが尋ねる。


「あいつをどうする?」


誰のことか、聞く必要はなかった。


「怒りの中でも、自分以外の声を聞けるようになるまで待つ」


     ◆


灰色の旗のそばで、マヤとヤザンを見つけた。


ラカンが言う。


「治療棟へ行くぞ」


ヤザンが答える。


「歩ける」


「背負うとは言っていない」


ヤザンが歩き始める。


マヤが尋ねた。


「シグランは?」


ラカンが止まる。


だが、振り返らなかった。


「逃げるのをやめれば、戻る」


「逃げたわけじゃ――」


ラカンが彼女を見る。


「訓練場を離れた」


「班を離れた」


「結果からも離れた」


「起きたことに耐えられなかったからだ」


少し間を置く。


「逃げ方は、一つではない」


マヤは黙った。


ラカンが言う。


「今は追うな」


「でも――」


「間違っていなかったと言えば、次に同じ間違いをしやすくする」


灰色の旗を見る。


「責めに行っても、今のあいつには聞こえない」


マヤが尋ねる。


「なら、一人にするの?」


「今は、それでいい」


三人は治療棟へ向かった。


灰色の旗が、後ろに残る。


大会の間、一度も落ちなかった。


だが、それを守った班は、ばらばらになって去っていった。


一人は怒りのまま姿を消し、一人は何度も背後を振り返る。


もう一人は、危険を見るだけでは、いつも防げるわけではないと知りながら、痛む身体で歩いていた。


風が灰色の布を揺らす。


立ったまま、何も語らない。


まるで、自分を守った者たちが、旗を失うより先に、自分自身を失ったことなど、知らないように。

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