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血の継承【改訂版】  作者: Salhi smail
第一章 アルマザ学院編

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小さな旗

その夜、学院は静かには眠らなかった。


教師たちにとっては、小さな大会だった。


入学したばかりの三班による、ただの試験。


だが翌朝、訓練場に立つ者たちにとっては――


旗は、ただの布ではなかった。


それぞれが、自分の中に抱く姿を証明する最初の機会。


あるいは――


その姿が正しくなかったと知る機会だった。


     ◆


シグランは、誰もいない訓練場に一人で立っていた。


炎は出していない。


標的を殴ることもなかった。


石柱の前に立ち、観覧台で起きたことを思い返していた。


ライド・オーラセン。


その静けさ。


攻撃の前に挟んだ、一度の呼吸。


爆発しなくても、確かな跡を残した炎。


そして、ヤザンの声が蘇る。


ライドは、勝ちたいように戦っていない。


その後に続いた、ラカンの声。


今までで最も正確な観察だ。


シグランの手が握られる。


ラカンがライドの強さを認めたことが気に入らなかったわけではない。


ヤザンが、自分には見えなかったものを見たことが気に入らなかった。


自分に一撃さえ当てられなかった少年が、突然、戦士について語り、教師がその言葉の中に意味を見つけた。


シグランは石柱を見る。


「証明する必要がない、か」


指の周囲に、小さな火花が生まれる。


「確かめてやる」


だが、炎になる前に消した。


石柱を相手に訓練したいのではなかった。


目の前に、ライドが欲しかった。


     ◆


宿舎の反対側。


アナスは窓のそばに座っていた。


月明かりが顔の半分を照らす。


残りの半分は、影の中にあった。


明日の大会について考えていた。


落とすよう命じられた旗。


そして、第三班の三人。


シグランは分かりやすい。


目に入った中で最も強い相手へ、正面から向かう。


マヤは訓練場全体を見て、彼が残す混乱を立て直そうとする。


だが、ヤザンは――


分かりにくかった。


食堂で、床からパンを拾っていた姿を思い出す。


食べ物は恵みだから。


粗末にしちゃいけない。


誰かに認められるために言ったのではない。


声を上げることさえなかった。


ほかの考え方など存在しない。


そう信じているように行動していた。


そして、観覧台での言葉。


アナスは、扉から入らない。


自分について、誰も言ったことのない部分を言い当てていた。


ほかの者たちは影を見る。


静けさを見る。


謎めいた部分を見る。


だが、ヤザンは道を見た。


アナスは一瞬、目を閉じた。


明日。


あの観察が偶然だったのか、分かるだろう。


     ◆


学院内にある、オーラセン氏族の小さな訓練場。


ライドは一人で訓練していた。


拳の周囲に、弱い炎を集める。


その半分を消す。


石柱を殴る。


黒い跡が残った。


だが、深さが足りない。


もう一度。


力を減らす。


集中を増やす。


今度は周囲を砕くことなく、跡だけが石の奥へ刻まれた。


ライドは、それを見つめる。


シグランのことは考えていなかった。


少なくとも、考えたくはなかった。


だが明日、シグランが自分のもとへ来ることは分かっていた。


旗のためではない。


自分自身のために。


ライドは小さく言った。


「来るなら、止める」


少し間を置く。


「だが、旗が先だ」


     ◆


ワイルは寝台の上に座り、身体の半分まで毛布をかぶっていた。


夜は寒くなかった。


両手を見ている。


入学試験では、恐怖を感じた瞬間、氷が激しく飛び出した。


それ以来、力が存在したことを喜べばいいのか。


自分が制御を失った時にしか応えてくれないことを恐れればいいのか。


分からなかった。


「どうして大会が明日なんだよ……」


隣の部屋で物音がした。


誰かが入ってきたのかと思い、急いで毛布を引き上げる。


だが、誰も来なかった。


扉を見つめたまま言う。


「勝たなくていい」


息を吸う。


「怪我さえしなければ」


止まる。


「アルダ先生に嫌われなければ」


さらに考える。


「死ななければ」


学院内の大会で、誰かが死ぬはずはない。


分かっていた。


だが恐怖は、理屈など気にしなかった。


     ◆


ナダは鏡の前で髪を整えていた。


一度、結ぶ。


ほどく。


もう一度、今度は少し速く結び直す。


手が止まる。


マヤがシグランの近くに立ち、彼を恐れる様子もなく話していた姿が蘇った。


食堂で、ヤザンの向かいに座っていた姿も。


ナダは自分に言い聞かせる。


「あの二人と、どういう関係なの?」


そして、アドナンの注意を思い出す。


視線が目の前を離れれば、足も遅れる。


鏡から顔を逸らす。


明日は、シグランを見ない。


誰が隣に立っているのかも気にしない。


訓練場へ入り、旗を取り、終わらせる。


だが眠る前。


最後にもう一度、鏡の前へ戻った。


     ◆


アミールは、何も心配していなかった。


大会は、自分の思い通りに終わると確信している。


アナスの部屋の前を通った時、言った。


「ラカンの旗は俺たちのものだ」


アナスは顔を上げなかった。


「たぶん」


アミールの足が止まる。


「たぶん?」


「お前が作戦を壊さなければ」


指先に火花が生まれた。


「道を開くのは俺だ」


「だから心配している」


アミールは、楽しさのない笑みを浮かべる。


「お前は旗へ忍び込め。俺がマヤを止める」


そして続けた。


「ファドゥースが近づいたら、俺に任せろ」


アナスが顔を上げる。


「なぜ?」


「退かない相手の前で、あの訓練袋がどう立つのか見たい」


アナスは答えなかった。


再び窓へ目を向ける。


だが、その言葉の何かが気に入らなかった。


     ◆


ヤザンは寝台の端に座っていた。


訓練はしなかった。


繰り返せる技はない。


磨ける炎も。


操れる水もない。


両手を膝に置く。


これまでの数日間に見たものを思い返した。


攻撃の前に動いた、ライドの足。


進路を変える前に動いた、アナスの視線。


踏まれる前の、シグランの足元にあった石。


すべてが静かになった後なら、それらを見ることができた。


だが明日。


訓練場は、自分が理解するまで待ってくれない。


全員が同時に動く。


衣服につけられたアルマザの徽章を見る。


自分に問いかけた。


どうすれば役に立てる?


シグランは道を開く。


マヤは旗を守り、訓練場を制御できる。


だが、自分は――


誰かを守る力を持たない。


それでも。


危険が届く前に、見ることはできた。


力ではないのかもしれない。


だが。


何もないわけではない。


横になる。


目を閉じた後も、その問いだけは眠らなかった。


     ◆


翌朝。


大会が始まる前に、三人の教師は訓練場のそばに集まった。


アルダは腕を組んでいる。


アドナンは、旗と通路の配置を確認していた。


ラカンは、三方向の旗の間に置かれた障害物を見る。


アルダが言った。


「試合中は口を出すな」


ラカンが彼を見る。


「俺が背中に乗せて運ぶとでも思ったか?」


「失敗を見れば、話すだろう」


「訓練だ。代償を払う前に失敗を教えれば、何も学ばない」


アドナンが言った。


「では、意見は一致しているな」


訓練場の境界を指す。


「開始の合図後、指示は禁止」


「力の出力が安全範囲を超えた場合、または生徒が自分を守れなくなった場合にのみ介入する」


アルダが言う。


「得点は審判が数える」


ラカンが尋ねる。


「皮肉は?」


アルダが冷たい目を向けた。


アドナンが答える。


「それも禁止だ」


ラカンは息を吐く。


「規則が厳しくなってきたな」


誰も笑わなかった。


アドナンが言う。


「新入生だということを忘れるな」


ラカンは訓練場の入口を見る。


第三班が姿を現し始めていた。


先頭にシグラン。


後ろにマヤ。


最後にヤザン。


シャミルの言葉が蘇る。


壊すな。


ラカンは心の中で言った。


今日は、壊れるかどうかを知る日ではない。


周囲が崩れ始めた時、どこに立つのかを見るだけだ。


     ◆


中央訓練場は、試験用の戦場へ変わっていた。


互いに離れた三方向に、三本の旗が置かれている。


アルダ班の赤い旗。


アドナン班の青い旗。


ラカン班の灰色の旗。


その間には石柱。


低い木の障害物。


狭い通路。


生徒たちが姿をさらすか、進路を変えざるを得ないように配置されていた。


それぞれの旗の周囲には、防衛区域がある。


攻撃側の生徒が手で触れなければ、旗が落とされたとは認められない。


アルダ班は、赤い旗の近くに立っていた。


前にライド。


左にアスマー。


ワイルは後方。


必要以上に旗に近かった。


教師からの指示が禁じられる前に、アルダが言う。


「目的を忘れるな」


ライドを見る。


ライドは意味を理解した。


シグランは、自分のところへ来る。


だが、彼らの本当の目標は青い旗だ。


反対側には、アドナン班。


前にアミール。


興奮のあまり、指の周囲に雷が走っている。


左端にはナダ。


アナスは二人より少し後ろ。


進む方向を見せていなかった。


アドナンが言う。


「目の前の相手に、背後の旗を忘れさせられるな」


アミールはヤザンを見て笑った。


アナスの目は、障害物の配置を追っていた。


灰色の旗の前には、第三班。


一直線には並んでいない。


シグランは赤い旗へ続く道に最も近い。


マヤは、彼と旗の間。


ヤザンは防衛区域のそばに残った。


マヤが言う。


「一つの流れで動ける。シグランが道を開いて、私が側面を守る。ヤザンはアドナン班が回り込んでくる動きを見る」


シグランが答える。


「旗は俺が取る」


「私たちで、って言ったの」


「二人を後ろへ連れていく必要はない」


マヤが言う。


「でも、こっちの旗を守る人が必要よ」


シグランは灰色の旗を見る。


次に、ライドを見る。


「二人で守れ」


マヤには、何が起きるか分かった。


「シグラン。一人で始めないで」


教師が指示を出せる、最後の時間。


ラカンが境界の外から言う。


「目標は前にある。だが、危険は後ろから来る」


シグランを見る。


「目標と言っても、お前の自尊心のことではない」


シグランが言う。


「分かっている」


ラカンが答える。


「その言葉は知っている。いつも災難の少し前に出てくる」


審判が言った。


「教師の指示は、ここまでとする」


ラカンが下がる。


訓練場が静まった。


審判が白い旗を上げる。


ヤザンの呼吸が速くなる。


三つの班を見る。


ライドは、自分の位置を定めるまで動かない。


アナスは、道を見せない。


アミールは、ヤザンが怯える姿を見たがっている。


マヤが小さな声で言った。


「相手が向かう方向を見るまで、動かないで」


白い旗が下りた。


「始め!」


シグランが飛び出した。


     ◆


取り決めなど存在しなかったように、赤い旗へ突進する。


「シグラン!」


マヤを振り返ることもない。


訓練場の外で、ラカンは一瞬目を閉じた。


アルダが言う。


「何も言うな」


ラカンが答える。


「何も言っていない」


「顔が言った」


シグランは数秒で道の中央へ到達した。


赤い旗の側では、ライドが一歩だけ動く。


そして、正面に立った。


アスマーは、二人の勝負の結果を待たなかった。


青い旗へ続く道へ向きを変える。


「ワイル、後ろにいて」


ワイルも動く。


だが、炎をまといながらライドへ迫るシグランを見る。


半瞬、止まった。


アスマーが強い声で呼ぶ。


「ワイル!」


すぐに後を追った。


開始の瞬間から本当の目標へ動いたのは、アルダ班だけだった。


     ◆


青い側では、アミールがマヤへ向かっていた。


足元に雷が走り、距離を一気に詰める。


「お前の班の炎は逃げたようだな」


マヤは手を上げた。


訓練場の端に置かれた壺から水が動く。


彼女の前に集まり、弧を描いた。


「あなたの声は、本人より早く着いたみたい」


アミールが火花を放つ。


水が受け止めた。


光が内部で枝分かれし、一部が地面へ逃げる。


マヤは一歩下がった。


アミールの狙いは、彼女を倒すことだけではない。


旗から離れた場所に固定し、アナスとナダのために道を開こうとしていた。


ナダが左側から動くのが見えた。


速い。


だが、進路は見えている。


マヤが叫ぶ。


「ヤザン! ナダを見て!」


声が届く。


ヤザンは指された方向に半歩動いた。


だが、目は別の人物を探していた。


アナス。


アミールのそばにはいない。


ナダの後ろにもいない。


石柱の間へ消えていた。


     ◆


シグランがライドのもとへ到達する。


拳の周囲に炎が集まった。


「どけ」


ライドが答える。


「旗は俺の後ろだ」


「分かっている」


シグランが踏み込む。


速く、強い一撃。


だが、真っすぐだった。


ライドは、拳が動くより先に肩の向きを読んだ。


半歩だけ傾く。


炎が顔のそばを通る。


横からシグランの手首を打つ。


そして、短い動きで肩を押した。


シグランが均衡を失う。


膝が地面に触れた。


土煙が上がる。


訓練場にいた者たちの視線が止まった。


誰も拍手はしなかった。


だが、沈黙のほうが厳しかった。


ライドは笑わずに、彼の前に立つ。


「速いな」


シグランが立ち上がる。


ライドが続けた。


「だが、動く前に何をするか相手に教えている」


今度は、シグランの両腕に炎が現れた。


「二度は言わせない」


ライドが答える。


「動き方を変えるなら、言う必要はない」


     ◆


アスマーとワイルは、青い区域へ近づいていた。


ナダがその動きに気づく。


足が止まりかけた。


灰色の旗へ進み続けなければならない。


だが青い旗の守りに戻らなければ、アスマーが到達する。


マヤと戦いながら、アミールが叫んだ。


「ナダ! アスマーを止めろ!」


ナダは止まる。


灰色の旗を見る。


そして、自分たちの区域へ戻った。


アスマーが右から迫る。


風が足元で回っていた。


ナダが道を塞ぐ。


光が両脚を包んだ。


アスマーが言う。


「遅かったわね」


ナダが答える。


「まだ、あなたの前にいる」


二人が動く。


光は速い。


風は、その進路を曲げ、道から押し出そうとする。


ワイルはアスマーの後ろに残った。


青い旗を見る。


間には、短い通路しかない。


だが、アミールが見えた。


雷。


飛び散る水。


身体が固まる。


アスマーがナダを避けながら叫ぶ。


「ワイル! 進んで!」


一歩。


次に、もう一歩。


恐怖に反応し、指先に氷が現れた。


     ◆


ヤザンは灰色の旗の近くに残っていた。


ナダが自分たちの区域へ戻るのが見える。


マヤはアミールに足止めされている。


シグランは遠くでライドに集中していた。


だが、アナスが見えない。


アナスは、扉から入らない。


正面の道を見る。


空いている。


障害物の間にある、後方の狭い通路。


何もない。


影を見る。


朝の光は明るい。


だが石柱と木の障害物が、細い暗がりを作っていた。


一つの影だけが、太陽の方向と合わない動きをした。


大きくはない。


近くの石柱の根元で、わずかに形が変わっただけ。


ヤザンの心臓が大きく脈打つ。


間違っているかもしれない。


縄の影かもしれない。


反対側で動いた生徒の影かもしれない。


だが、アナスは皆が待つ場所からは来ない。


ヤザンは旗の正面から離れた。


真正面には立たない。


影が伸びる石柱の近くへ、横から移動する。


外から見れば、道を開けたように見えた。


ラカンは、その動きを見ていた。


最初は、なぜ位置を変えたのか分からなかった。


そして、影に気づく。


訓練場に届かない小さな声で言った。


「見つけたか」


     ◆


中央では、アミールがマヤへ圧力をかけていた。


二つの火花を続けて放つ。


一つ目は水の壁で防いだ。


二つ目は横から曲がり、足元の地面に落ちる。


マヤが下がった。


アミールが言う。


「二つは守れない」


マヤには、その意味が分かっていた。


シグランは遠い。


ヤザンは旗の前で一人。


アミールの後ろを見る。


アナスはいない。


「ヤザン!」


叫ぶ。


だが、雷の音が声を呑み込んだ。


     ◆


アナスが石柱の影から離れた。


姿勢を低くし、速く動く。


ヤザンが空けたように見えた方向を選んだ。


アナスの手と旗の距離は、二歩もない。


腕を伸ばす。


そして、止まった。


横からヤザンが現れ、自分の身体で道を塞いでいた。


視線がぶつかった。


初めて、アナスの目にはっきりとした驚きが浮かんだ。


ヤザンのほうが速かったわけではない。


足音を聞いたわけでもない。


アナス自身が選んだ場所で、待っていた。


ヤザンは緊張した声で言う。


「分かった」


アナスは彼を見る。


食堂での姿を思い出す。


食べ物は恵みだから。


そして観覧台。


扉から入らない。


アナスが尋ねる。


「ここにいると分かっていたのか?」


ヤザンは素早く首を振った。


「違う」


言葉を探して、続ける。


「どこから来るかが、分かった」


アナスの目が細くなる。


強い戦士の答えではなかった。


道を読む者の答えだった。


アナスは右へ動く。


ヤザンも遅れて動いた。


アナスのほうが、はるかに速い。


だが、アナスは攻撃するつもりではなかった。


横を抜けるだけでいい。


ヤザンは旗の前に身体を投げた。


アナスの肩が胸に衝突する。


肋骨に痛みが戻った。


ヤザンは片膝をつく。


息がうまく吸えない。


アナスは旗に手を伸ばす。


ヤザンも腕を上げ、下から布をつかむ。


アナスなら、簡単に押しのけられるはずだった。


だが、半瞬だけ止まった。


ヤザンの手を見る。


震える身体。


そして、顔ではなく、肩と足を見続ける目。


アナスが静かに言う。


「戦い方を知らないな」


ヤザンは顔を上げる。


「知ってる」


「それでも、ここに立った」


ヤザンは答えられなかった。


遠くから、アミールが叫ぶ。


「アナス! 旗を取れ!」


わずかな迷いが消えた。


アナスが動く。


     ◆


赤い側では、炎と炎がぶつかっていた。


シグランの攻撃のほうが激しい。


だがライドは、攻撃のたびに位置を変える。


旗から遠ざかるよう、シグランを回らせていた。


シグランが言う。


「逃げるな」


ライドが答える。


「目標から離れているのは、お前だ」


シグランは、ライドの後ろにある赤い旗を見る。


そして再び相手に向き直る。


横へ誘導されていたことを理解する。


怒りが燃え上がる。


「俺を操っているつもりか?」


ライドが言う。


「違う」


足を固定する。


「自分でそうしている」


シグランの炎が、一瞬、これまで以上に強く爆発した。


ラカンが気づく。


アルダも。


まだ安全範囲は超えていない。


アルダが言う。


「介入するな」


ラカンが答える。


「動いていない」


だが、シグランから目を離さなかった。


     ◆


ワイルは、青い旗の防衛区域へ到達した。


手が震えている。


あと少し。


飛び込めば、触れられるかもしれない。


だが、アミールがその動きを見た。


マヤとの戦いを続けたまま、横へ火花を放つ。


ワイルが息を呑む。


反射的に両手を上げた。


目の前で氷が爆発する。


自分が意図したよりも大きな壁になった。


火花が衝突する。


氷はひび割れた。


だが、耐えた。


ワイルは驚いたように壁を見る。


ナダと戦いながら、アスマーが叫ぶ。


「止まらないで!」


ワイルが動く。


もう一歩。


だがナダが風の圧力から抜け、彼に向かった。


下がるしかない。


機会が消える。


アミールが言った。


「惜しかったな、臆病者」


ワイルの表情が揺らぐ。


その言葉が自分を凍らせるのか。


それとも。


別の何かを解き放つのか、分からなかった。


     ◆


灰色の旗の前。


アナスは肩を動かし、ヤザンを惑わせようとした。


左へ傾く。


ヤザンは、右足が反対方向へ踏み出す準備をしていることに気づく。


偽りの動きが完成する前に、自分から動いた。


その場所に立つ。


アナスは再び止まった。


今度は、偶然ではない。


「足を見ているのか」


ヤザンは苦しそうに呼吸していた。


「時々」


「動く前に?」


答える時間はない。


中央から、アミールの声が届く。


水と雷のぶつかり合いも、旗の区域へ近づいている。


アナスは、先ほどより真剣に動いた。


短い動きでヤザンの手を弾く。


そのまま、身体の横を回った。


ヤザンは掌を地面につく。


旗はアナスの前。


腕が伸びる。


ヤザンは後ろから脚にしがみついた。


アナスが止まる。


強い力ではない。


すぐに外せる。


だがヤザンは、残ったすべてを使い、手が届くまでの時間を、もう半瞬だけ延ばしていた。


訓練場の外で、ラカンは黙っている。


指示はない。


助けもしない。


だが、目つきが変わっていた。


ヤザンは力で旗を守っているのではない。


一瞬ずつ、時間を稼いでいた。


     ◆


マヤの声が届く。


「ヤザン!」


アミールの腕の周囲に水を巻きつけ、横へ押そうとする。


だが、アミールは水の弧に雷を流した。


感電を避けるため、マヤは水を解くしかなかった。


アミールが言う。


「間に合わない」


マヤは旗を見る。


アナスは、ほとんど旗に手が届く位置にいる。


ヤザンは脚にしがみついていた。


シグランは遠い。


班は分断されている。


選ばなければならない。


アミールを止め続けるか。


彼を離し、旗へ戻るか。


戻れば、アミールも追ってくる。


残れば、アナスが旗を取る。


決断した。


アミールの足元に水を放つ。


地面に滑りやすい膜を作る。


そして向きを変え、ヤザンのもとへ走った。


アミールが笑う。


「ようやくか」


後を追う。


     ◆


赤い側。


シグランは、マヤが旗へ走っていることに気づいた。


アナスが旗の近くにいることも。


戻ることはできる。


距離はある。


だが、彼は全員の中でも特に速い。


それでも、目の前にいるライドを見る。


ライドが言った。


「お前の旗が危ない」


シグランは動かなかった。


「仲間の声が聞こえないのか?」


炎が強くなる。


「あいつらを使って、俺の気を散らすな」


「何も使っていない」


ライドは灰色の旗を見る。


「忘れたのは、お前だ」


シグランは一瞬、黙った。


戻るべきだと分かっている。


だが、今戻れば、ライドに止められたことになる。


突破できなかった。


この勝負を捨てさせられた。


そう感じた。


「先に、お前を終わらせる」


ライドの目が変わる。


怒っている競争相手だけではない。


試験よりも自分を優先し始めた者が見えた。


「なら、お前は旗のために戦っていない」


シグランが身体を低くする。


突進の構え。


ライドが言う。


「誰かに止められたことを認めたくないだけだ」


炎が、さらに激しく燃え上がった。


     ◆


訓練場は、完全に三つの戦線へ分かれていた。


ライドはシグランを目標から遠ざけながら止めている。


二人の周囲の炎は、危険なほど強くなっていた。


アスマーはワイルのために青い旗への道を開こうとする。


ナダは二人を止めるために戦い、アミールはマヤを追っていた。


灰色の旗の前ではアナス。


そしてヤザンは、追いつける力もない身体で、まだ道を塞いでいた。


アナスは足を少し上げる。


ヤザンの手から抜けた。


旗へ向かう。


ヤザンは片膝のまま身体を起こす。


もう一度、自分を投げ出した。


二人がぶつかる。


ヤザンは背中から倒れた。


だが、手は旗の根元をつかんだ。


アナスが腕を伸ばす。


指が布に近づく。


マヤは、あと少しの距離まで来ている。


後ろにはアミール。


シグランは訓練場の反対側。


炎に包まれ、旗も班も存在しないかのようだった。


アナスが言う。


「長くは止められない」


ヤザンは顔を上げる。


痛みが胸を押していた。


視界も揺れている。


それでも、旗との間に残った。


「長くは……要らない」


アナスの視線が止まる。


意味を理解した。


ヤザンは、アナスに勝とうとしていない。


旗が落ちる前に、誰かが到着する時間だけを稼ごうとしている。


訓練場の外から、ラカンが小さな声で言った。


「今度は、自分の役目が分かったな」


ヤザンの後ろで、灰色の旗が揺れる。


だが、まだ落ちていない。


遠くでは、シグランがライドへ向かって踏み込んだ。


その拳を包む炎は、大会が始まってから最も激しかった。


ライドが腕を上げる。


そして――


二つの炎がぶつかった。

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