王国騎士団
黒角が唸る。
低い。
腹の底へ響くような音だった。
洞窟の空気が震える。
ベルネルは剣を構え直した。
腕が痺れている。
さっきの一撃だけで、握力が削られていた。
なのに黒角は、ほとんど傷ついた様子を見せない。
肩口から黒い液体を垂らしながら、静かにベルネルを見ている。
赤い眼。
暗闇の中で、そこだけが炭火みたいに燻っていた。
「ベルネル!! 下がれ!!」
ヴァンデルが叫ぶ。
その瞬間。黒角が動いた。
地面が爆ぜる。
巨体が一直線に突っ込んでくる。
速い。
ベルネルは咄嗟に横へ飛ぶ。
直後、黒角の角が岩壁へ突き刺さった。
轟音
岩盤が砕け散る。
破片が雨みたいに降り注いだ。
ベルネルは転がりながら立ち上がる。
呼吸が乱れる。
暗闇
粉塵
まともに視界が通らない。
その中で。赤い眼だけが、こちらを見ていた。
次は避けられない。
本能がそう告げる。
だが、
「囲め!!」
ヴァンデルの怒声が響いた。
直後、左右から騎士たちが飛び込む。
槍
剣
盾
大鷲隊の騎士たちが、一斉に黒角へ襲いかかった。
金属音が響く。
黒角の爪が槍を砕く。
尾が騎士を吹き飛ばす。
それでも隊は崩れない。
誰かが前へ出れば、別の誰かが支える。
盾が爪を受け、その隙へ剣が入る。
泥臭いほど真正面からの戦いだった。
ベルネルは息を呑む。
強い。
大鷲隊は、本当に王国最強の騎士団なのだ。
ヴァンデルが踏み込む。
重い斬撃。
黒角の首筋へ剣が叩き込まれる。
黒い血飛沫。
獣が咆哮した。
「今だ!! 脚を潰せ!!」
隊員たちが一斉に下へ潜る。
剣が脚を裂く。
槍が突き刺さる。
黒角が暴れる。
洞窟が震える。
だが騎士たちは止まらない。
血まみれになりながら、押し返されながら、それでも前へ出る。
ベルネルは剣を握り直した。
恐怖はまだある。
だが、
隊長も。
仲間たちも。
誰一人、退いていない。
なら、
「――ッ!!」
ベルネルは地面を蹴った。
黒角が吠える。
振り下ろされる爪。
ベルネルは盾を滑らせるように受け流し、その懐へ飛び込む。
近い。
黒い毛並み
熱い体温
腐臭
心臓の鼓動みたいな低音。
ベルネルは叫びながら、剣を振り抜いた。
狙うのは角。
リシェルが求めた、黒い角だった。




