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森の魔女の灯火  作者: lled
喪失の夜
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4/11

黒角

轟音


黒角の爪が岩壁を抉り飛ばした。


砕けた岩片が、暗闇の中を散る。


「右だ!!」


ヴァンデルの怒声。

ベルネルは反射的に転がる。


直後、黒い巨体が目の前を通り過ぎた。


風圧だけで息が詰まる。


速い。


暗闇の中で、黒角の輪郭がぶれる。

巨大なはずなのに、まるで影そのものが動いているみたいだった。


「火を戻せ!」


隊員の一人が叫ぶ。


だが消えた松明は、何度擦っても火がつかない。

火打石の音だけが虚しく響く。


まるで洞窟そのものが、炎を拒んでいる。


黒角が低く唸る。


その声が響くたび、胸の奥がざわつく。

嫌な感覚だった。恐怖だけじゃない。

何かを思い出しかけるみたいな、不快な圧迫感。


ベルネルは剣を構える。


呼吸を整える。


見えないなら、音を聞け。

ヴァンデルに叩き込まれた基本だった。

暗闇の中で目を凝らす。


滴る水音。


鎧の擦れる音。


誰かの荒い息。


そして、



ベルネルは反射的に踏み込んだ。


金属音


火花


黒角の爪が剣へ激突する。


重い。


腕が痺れる。


普通の獣じゃない。

衝撃が骨まで直接響いてくる。

ベルネルは歯を食いしばり、剣を押し返した。


その瞬間。

赤い眼が、すぐ目の前で光る。


近い。


黒角の息が顔へかかる。


腐臭



それに混じって、鉄が焼けるみたいな匂い。

黒角が口を開く。

闇の奥で牙が鈍く光った。


「ベルネル!!」


ヴァンデルが叫ぶ。


だが間に合わない。


黒角が飛びかかる。


ベルネルは半ば反射で、剣を横へ振り抜いた。


斬撃。


硬い感触。


だが次の瞬間。


黒角の動きが、わずかに止まった。


暗闇の中で、獣が低く唸る。

ベルネルは息を呑む。


斬れた。


浅い。


だが確かに、黒角の肩口を斬っていた。

黒い液体が滴る。

じゅう、と音を立て、床の岩が溶けた。


ヴァンデルが目を見開く。


「……通るのか」


普通の刃では、まともに傷つかなかった。

だがベルネルの剣は、わずかに黒角を裂いた。

黒角の赤い眼が、再びベルネルを見る。


今度ははっきりと。


敵として。

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