24 アリエルとアリルの決着
アリルは爪を噛みながら、アリエルを睨む。
「アリエル、本当に忌々しいわね。どうして大人しく虐げられていてくれないのかしら。邪魔くさくてしょうがないわ」
「私もあなたに同じことを思うわ」
姉妹はこうなる運命だったのかもしれない、とアリエルは思う。
今までに何度か和解する可能性も考えたが、まるでそんな未来など想像できなかった。
子供の頃、仲の良かったアリルはどこにもいないのだと、アリエルは悟る。
「いらないから、さっさと死んで!」
アリルは、いきなり四つの魔法を使い、こちらにたたきつけた。
飄々としていたザイードもこれには驚き、軽口をたたく余裕をなくしたのだった。
アリエルはシャナによって、魔法で転移し、ザイードが自前の反射神経でよける。
だが、それでは終わらない。
荒れ狂う炎を避け、うねる水の攻撃をさばき、雷撃を勘でよけ、揺れる大地を走りとかなり忙しい。
シャナがいるため、アリエルに戦闘の余波が飛び火する事はない。
危険な兆候があれば、魔法でその場から離れたからだ。
アリエルは無傷のままこの戦いに勝利できると、この場にいるアリエルの味方達は予測していたが、間接的に発生する災害までは予測できなかった。
どこかに火薬が詰まったものが落ちていたらしい。
アリルに魔法で爆発したそれらが、アリエルたちに危害を加えた。
「爆発物!」
ザイードが慌てるが、戦闘中である彼にはどうする事もできない。
シャナは吹き飛ばされたアリエルをかばったが、二人とも怪我をしていた。
「大丈夫かアリエル」
「はい、シャナ様。すみません。私をかばったせいで」
「なに、夫婦とは助け合うものだ。気に病む必要などない」
二人とも動く事自体に支障はなかった。
問題があったのは、アリエルは血を見る事にトラウマがあった事だ。
「こんな時に……」
アリエルは手の震えを抑えようとするが、なかなかうまくいかない。
ザイードとアリエルの戦いは、五分五分。
アリエルが手を貸せば、アリルに勝てる可能性は大きかった。
しかし、アリエルの手の震えは止まらない。
「アリエル。落ち着きたまえ。君が頑張らなくても、私が何とかしよう」
「何とかってどうするつもりですか?」
シャナは魔法にも優れているが、それでもアリル程ではない。
この戦いに割るこめるとは思えなかった。
だが、シャナは断言する。
「カイラスたちに、肌がとけて苦しむ薬品をもらってきた。劇物だし、本人確認が難しくなるから、使うのに躊躇いがあったが、窮地であれば使うのもやぶさかではない。透明人間になって近くでアリルの頭からかぶせてやろう」
「そんなものが本当にあるんですか?」
アリエルは、短い付き合いの中でも、シャナの事情をある程度把握している。
子供の頃の事を知っていたため、そんな肌に作用する劇物を持ち歩けているとは思えなかった。
シャナは気取った口調で、普段はまったく言わない事柄を喋った。
「子供の頃の事だ。愛と勇気と正義感があれば、大した事などないさ」
またたきをしたアリエルは、ふっと口元に弧を描く。
「シャナ様にはあまりに合わない言葉ですね」
ともあれ、それでアリエルの動揺は少しだけ薄れた。
それを見て、もう大丈夫だろうと言うように、シャナが頷く。
「私の助けは必要かな? それとも自分の手で幕を引く事をお望みか?」
「私の手で決着をつけさせてください」
「了解した」
アリエルは、魔法の行使のために意識を集中させる。
これまでの人生の中で、それなりの回数で危機に陥った事はあるが、今ほど集中しようと思った事は少ない。
視線の先では、何度も視線を潜り抜けていたザイードが、アリルの魔法を避けているところだった。
「お疲れの様だな。お嬢ちゃん」
「くっ、レオンもダイアも、あんな奴らに出会わなければ」
時間が立つにつれ、感情的になり焦りをみせるアリエルの攻撃は荒っぽくなる一方だった。
焦れたアリエルは、巨大な氷の塊を作って、ザイードを押し潰そうとする。
圧倒的な力の影響か、周囲の空気が一瞬で冷えて、冷たい風が吹き荒れる。
空気を押し出し出現した氷の塊は、その質量で人間を押しつぶそうと徐々に下へ。
浮かんでいたそれが、重力にひかれて落下してくと、みるみるうちにスピードが上がっていく。
上空からせまったそれだが、アリエルが銃弾を撃ち込んでいく。
小さな銃弾のたまにありったけの力をこめて。
通常なら巨大な氷の塊を粉砕する事はできなかっただろうが、その銃弾の球は氷の表面から内部にいたるまで、細かな破片に変化して内部をことごとくこわしていく。
一つの銃弾から100の欠片が生み出されるそれを、何発か。
アリエルの花ったそれは、巨大な氷塊が落下しきる前に、粉々にしていった。
降り注ぐ冷たい氷の粒は、キラキラと輝く。
アリルに生み出されたものとは思えない、綺麗な輝きだった。
氷の塊を全て壊したアリエルは呆然とした顔のアリルを見つめる。
「アリル、これで全部あなたの企みは終わりよ」
静かに宣言するアリエル。
それに対して、アリルは表情を歪ませながら、声を張り上げた。
「アリエル!! まさか、あんた!」
アリエルの能力を把握していなかったアリルは、何が起こったのか分からずに硬直してしまう。
それなりの時間、同じ屋根の下で一緒に暮らしていたが、アリルはアリエルの事を表面的にしか見ていなかったのだ。
そのツケを今ここで払うことになった。
アリルにできたその隙を見逃すザイードではなかった。
彼は忍び足で、アリルの背後にまわる。
「おねんねしていな」
ザイードの手刀がアリルの首筋に落とされる。
危機を感じて背後を振り返ろうとしたアリルだが、その行動は遅い。
彼女は、糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
非公式で活動していたアリエル達が、長くとどまるわけにはいかない。
そういったわけで、アリエルとシャナは魔法でさっさとホムラン領に移動した。
アリルの身柄は、現地で控えていたダイアや彼の部下、ゼイ―ドらに回収させてから、リムスターの中心部へ運ばれた。
屋敷、戻ってきたアリエル達は砂埃まみれで、少しの怪我もあった。
そんな彼らをの姿を見たマーカスとチータは、心配そうな顔をして、しばらく小言が尽きなかったのだった。
チータは何も知らされていなかったが、マーカスには必要な情報を伝えていたため、彼が一番屋敷にいる者達の中で、無事に戻ってきた事にほっとしていたのだった。
「アリエル様、大丈夫ですか? なんだか疲れた顔してます」
不安そうに出迎えたチータに、アリエルは安心させるように微笑みかけた。
「心配かけてごめんなさい。そしてありがとう。どうしても、やらなくちゃいけない事があったから」
申し訳なく思ったアリエルとシャナは後日、マーカスのために紳士服をプレゼントし、チータには美味しいお菓子を作ってあげたのだった。
それから一か月後。
アリルが加担した犯罪が明らかになり、彼女は広場で処刑される事になった。
彼女に惑わされ犯罪を犯した者は多く、不正に手を染めたものは少なくないが、彼らの処分は後回しにされている。
アリルに手にかかった者達が予想以上に多く、調査に時間がかかることと、国の中心にいる人物もいるため、そう簡単にさばく事ができないという理由がある。
それ以外の人たちにとって、アリルは国の中をひっかきまわされた恨みがある。
そのため、彼女だけは速やかに処刑されることが決まったのだ。
しかし、そのまま命を絶っては、彼女という存在を滅ぼす事はできない。
石碑を使えば、女神は何度も転生するといのだから。
そのために、一部の者達は苦労して石碑を回収しようとあれこれ動いていたようだ。
回収するのにかなり手間取ったようだが、ダイアの尽力もあって何とかなったらしい。
アリルが魔道具で石碑を小さくしていたと把握するのに、ずいぶん時間をかけたが、そこからは迅速だった。
石碑を奪われたアリルは大層血相をかえて、慌てたのだった。
その石碑も処刑を行う広場に運ばれる手はずが整えられた。
ホムラン領に作られた、新しい薬草園で仕事をしていたアリエルは、新聞を読みながら一息ついていた。
家からもってきた薬草茶を水筒で口に含んだあと新聞をたたむ。
この場所は、実験的な場所だ。
アリエルの能力をどんな事に活かせるか、領地や領民に貢献できるか、まだまだ考えなければならない事は多い。
それに以前は出来なかった事や、できるだけ新しい事にも挑戦したいと思っているので、同時に手をつけていることは多かった。
広い薬草園を見渡すと、様々な植物が植えられているのが分かる。
基本緑色が多いが、中には華やかな花を咲かせるものもあって、チータをつれてくると喜んでもらえる。
今日も幼い彼女は、興味深そうな顔で、薬草園の一画に視線をむけているのだった。
「一休憩を終えたアリエルは、チータに近付く」
「何か気になるものでもあった?」
「はい、このお花がとってもかわいくて、花瓶にいれてお屋敷にかざったりしてら綺麗だなって思ったんです」
「確かに綺麗な花ね」
彼女が気になっている花は、様々な色の花弁を身に纏う花だ。
一輪で色彩豊かである、欲張りな花なのだが、その花びらには猛毒がこめられていた。
花弁一枚口に入れようものなら、即座にあの世に行けるだろう。
薬草園に入るまえに、そこで育っている植物にはさわらないという約束をしているので、チータが毒におかされる心配はないだろう。
だが、念のために口にしておく。
「この花には毒があるから、気を付けて」
「そうなんですか。こんなに綺麗なのに」
「綺麗なものほど毒があるということは珍しくないのよ」
脳裏に思い浮かべるのはアリルの姿だ。
アリルも愛らしく、その場にいるだけで人の目を引き付ける養子をしていた。
彼女がいるだけで、雰囲気ががらっと変わるのを、何度も見てきた。
けれど、彼女の体の中には、心にはたくさんの毒がつまっていた。
体内に毒があるだけならば、誰も被害がでなかっただろうが。
可憐な見た目に騙されて、彼女と触れ合えば、その毒に侵されて死んでしまう。
毒に耐性のある人間がいれば、などという想像すら起きない猛毒で。
「ちょっと可哀想です。こんなに綺麗なのに怖がられてしまうなんて。毒がなかったら飾ったり、摘んだりできるのに」
物騒な想像をしていたが、子供らしい言葉を聞いて、口元がほころぶ。
アリルと決着をつけた後も、その前も彼女のその無邪気な性格に何度救われただろう。
「帰ったら一緒にお茶をしましょう。昨日焼いた焼き菓子が余ってるから、食べて感想をきかせて」
薬草を練り込んだものだが、味は保証できる。
厨房で働いている者達からも太鼓判を押してもらえた。
「いいんですか!?」
目を輝かせたチータを見て、アリエルはくすくすと笑い頷いた。
「ええ、一人で食べるより、皆で食べたほうがおいしいから」
処刑当日。
アリエルはシャナと共に王都の広場へ。
アリエルは処刑台から少し離れた場所に立ったが、シャナはそれよりも近い場所にいた。
警戒するならできるだけアリルの近くにいたほうがいいのだが、できるだけ最後の場面は冷静な気持ちで見届けたかったため、離れた場所にいることにしたのだ。
広場にはダイアモンドで飾り立てられた、赤竜討伐の功労者の像があった。
像は、長い年月を感じさせる風化具合だったが、宝石の輝きは今もきらめきを放っている。
そんな王都の市民広場には市民にまじって、アリルの知り合いが多く集まっているた。
彼等は一様に信じられないという顔でアリルの話をしていた。
しかし、アリルに味方しようというものはいなかった。
魅了は常にかけ続けなければ次第に効果がきれるという情報あったため、そのせいだった。
「魅了の効果がかからない人間って、そういえばどうしてなのかしら」
処刑の時刻を待つアリエルは、人混みに紛れて疑問を口にする。
隣で立つシャナは、アリエルが他の人にぶつからないように気を配りながらも答える。
「レオンや、あの王子に、それに俺か……あとは猫もそうだったか。なるほど、ある条件が見えてくるな」
「何か分かったんですか?」
「ああ、だが恋敵を応援するようで気が引けるので、今は少し黙っておくとしよう」
シャナは答えにたどりついたと言ったが、個人の事情によって口をとざしたのだった。
そんな中、遠くの時計塔が音を鳴らす。
時間がやってきた。
連れてこられたアリルは、忌々し気な表情をその場に集まったものたちへ向ける。
やがて、処刑時間がせまったが、ダイアの恩情でバルバトスとジョシュアが話をする事ができた。
彼等は、同じような顔でアリルに問いかける。
「本当に俺達を騙していたのか、アリル」
「愚かなバルバトス。あなたはとても騙しやすい男だったわ。単純だったもの」
バルバトスは悲しい顔をしたが、それでもアリルの処刑には反対しなかった。
「私はあなたの事を信じたかったのですよ」
「悲しいほど聡明なジョシュア、なのに人を信じるなんて愚かなことをするのね」
沈痛な面持ちのジョシュアは、ダイアに何か言葉を掛けたが、最後には諦めたような顔でその場を去った。
バルバトスとは違って、最後まで見届けはしないらしかった。
アリルに否定の言葉を投げかけられて憔悴しだが、二人にとっては必要な事だった。
最後にダイアが声をかける。
「アリル、何か言う事は?」
「何も」
アリルはダイアとは会話をしなかった。
問いかけに対する返事をしたのみで、彼を哀れなものを見るような視線を向けていたのだ。
「あなたは報われないわね。その地位を使って奪ってしまえば良いのに」
アリルは最後にそれだけを言った。
「愛は見返りを求めるものではないからな」
二人は根っこから分かり合えない者同士だと言う事が明らかになった。
やがて処刑の時間が来る。
すると、処刑人がその場にアリルとアリエルの両親をつれてきた。
アリルの身内であるため、最後に会話させようという事だろう。
彼等は性格には難があるが、悪事には加担していなかった。
アリルは彼等の能力を見て、悪事に加担させても使えないと判断した。
贅沢な暮らしをしたり、おねだりをすることはあっても、それ以上は求めず、貴台はしなかった。
その場につれてこられた両親は、複雑な表情でアリルを見つめる。
彼らは、アリエルを、娘を評判の悪い人間のもとに嫁がせたりはしているが、それは法律に反する事ではない。
出来の悪い身内を虐げる事なども、世の中にはありふれた事だったからだ。
だから、アリエルは彼等に何かの罰を求めようとは思わなかった。
ただ、アリルの終わりに対する彼らの反応を眺めるだけだ。
声をかけるつもりも、何らかの感情を分かち合うつもりも、微塵もない。
両親たちは、よろよろとした足取りでアリルの元へ近づいていく。
「アリル、どうして」
「なんでなんだ。嘘だよな」
二人は可愛がっていた娘に裏切られた現実を飲み込めていないようだった。
二人は血の気のない蒼白な顔で、体を震わせながら、アリルの反応を待つ。
しかし、そんな彼らにアリルは嘲笑を返す。
「馬鹿な人達。あなたは今まであった人達の中で一番扱いやすかったわ。家族なんて利用できるだけの、便利な道具じゃない。どうしてそんな風に一生懸命可愛がるのかしら」
その言葉を聞いた母親は崩れ落ち、父親は愕然とした様子で立ち尽くした。
アリルの嘲笑が響き渡る。
アリエルはその姿を見て可哀想だとは思わなかったが、哀れだとは思った。
いよいよその時がやってくる。
やがて、処刑人が断頭台の装置を動かし、アリルの命が断たれる。
はずだった。
しかし、その寸前にアリルは、最後の悪足掻きをみせた。
魔力をありったけ使って、魔法を発動させた。
おかしな真似をすれば即座に処刑が実行される、と言われていたにも関わらず。
処刑人はアリルの処刑を実行しようとしたが、すぐにそれどころでない事に気づいて、狼狽した。
魔法を封じる魔道具が、手錠としてアリルにかけられていたが、そんな魔道具も向こうになるほどの魔力が爆発するように解放されたのだ。
それは、莫大な魔力をもっているものしかなしえない事柄だ。
氷の魔法が発動し、処刑台を俊二に凍てつかせる。
ガラス細工のようになった処刑台が、ひび割れ、そこにアリルが雷を落として、それを下した。
雷はまだ続く。
近くから、平衡感覚を失わせるほどの強い光が地へと同じ、轟音が鳴り響き、皆混乱に陥った。
処刑台の周囲では、見物人たちが凍りつけになっていたままで、とける事もなく雷の衝撃を受けて、命を落としていた。
「この期に及んでまだ人に迷惑をかけるのね」
アリエルは、魔法を使ってアリルを止めようとする。
銃弾を放ち、アリルを狙った。
しかしアリルは、自分の周囲に氷の盾をいくつも作って、全方位から守ろうとする。
手錠をも壊して、彼女は自由になった。
そして処刑台から逃げるアリルは、腰を抜かしていたり、逃げ惑う男たちを魅了し、「私を助けなさい」と命令する。
その結果、男たちはその場で暴れまわり、アリルを捕まえようとしていた兵士を妨害する。
連れ合いであろう家族や恋人が止めるのも眼中にないようすで。
広場から逃げ出したアリルを追いかけるアリエルとシャナ。
「シャナ様」
「ああ、早く捕まえなければ。これ以上犠牲を出すわけにはいかない」
ザイードがこの場にいない事を二人は悔やんでいた。
アリエル達の目の前でアリルはそのまま走って逃走していく。
周囲を男たちで固めて、氷の盾と同様に肉の盾にするように。
そんなアリエルの向かう先にには小さな子供がいた。
逃げる時に置いていかれたか、転んだのだろう。
女の子だ。
尻もちをついた姿勢で固まっていた。
大人でも冷静になるのは難しい状況なのに、ただの子供にできる事はすくない。
控えていた兵士達などが動こうとするが、それは難しかった。
バルバトスやレオンたちも距離的に無理だろう。
「邪魔よ!」
アリルが、子供に向かってどなるが、女の子は体をうごかぜず硬直したまま。
見覚えがあると思っていたら、アリエルが以前訪れていた孤児院の子供だ。
女の子がアリエルの姿を見つけて、助けを求めるような視線を向ける。
「お姉ちゃん」
動揺しそうになる心をおさえつけ、アリエルは唇を噛んで、頭を回転させる。
銃をかまえるが、人質がいるため、アリエルに当てられないと悟る。
そうこうしているうちにアリルは、瞬時にその小さな命を自分の進路から排除しようとした。
「邪魔よ!」
「きゃあああ!」
風の魔法で女の子の小さな体が吹き飛んでいく。
しかし、寸前で赤いイヌがかけつけて、女の子が落下した場所に体をすべりこませ、衝撃から身を守ったのだった。
「シャナ様、ありがとうございます」
ほっとしたアリエルは、シャナにお願いをする。
「広場の銅像からダイアモンドの宝石をとってきてください」
シャナは、聞き返す事はせず、転移魔法で移動し、また戻ってきた。
人間の方のダイアまで一緒についてきた事は、アリエルにとって予想外だったが、それは銅像から宝石をとるために許可が必要だったからだろうと検討をつける。
それを受け取ったアリエルは、ちょうど良かったと思いながら「何とか、これをアリルの周りにばらまけませんか?」とダイアに頼む。
ダイアはその言葉を聞き、風の魔法でダイヤモンドをアリルの周囲にちりばめる。
氷の盾で身を守りながら逃げるアリルは、宝石に気づく。
「なに、なんなの?」
アリエルは、十を構えて、彼女を狙い定める。
男たちにあたらないように、氷の盾の隙間もかいくぐれるように。
困惑したアリルが頭上を見上げて、立ち止まる。
その時にできた隙を、見逃さなかった。
アリルは直後、ダイヤモンドにはね買ったいくつもの魔法の銃弾で打ち抜かれて、その場に倒れ伏したのだった。
追いついたアリエルは、アリルを見下ろす。
アリルは頭部から血を流していたが、即死ではなかった。
しかし出血の量が多い。
首筋や頭部など、急所近くもやられていたため、すぐに事切れるのが目に分かった。
「しばらく二人きりにしてもらえませんか」
アリエルがそういえば、ダイアは石碑を壊してくる、と言ってシャナと共にその場から移動していく。
ダイアもシャナもアリエルを心配そうに見つけていたが、何も言わずに去ったのだった。
「アリエル! 絶対に、ゆ……るさな…。いつも、いつ…も」
最後に言いたい事は恨み節で、それ以外の事は頭にないようだった。
意外としぶとかったなと思うアリエルは、顔面蒼白になっていくアリルを見て、別れの言葉を口にする。
「さよならアリル」
鬼のような形相で恨み言を吐くアリルだが、彼女はすぐに血をはいて、絶命した。
それと同時に石碑も壊されて、彼女の復活も妨げられた。
これで、アリルとアリエルの因縁はここで終わりとなった。
その後、日常に戻ったアリエルは、変わらずシャナの婚約者として日々を過ごしている。
協力してもらったシャナのために、社交界に出る事もするし、趣味のために乗馬をしたりもする。
薬草の知識を使って、領地の発展に協力する事もあった。
それらの日々は穏やかで、脅かされる事などないものだ。
これまでは一人でいる時間がほとんどだったが、誰かといるようになることが多くなった。
誰かと一緒に何かを考えたり、することなどすくなかったが、それも驚くほど増えた。
誰かと同じ思い出を共有し、過去の事について語る時間が来るとは、アリエルは思わなかった。
ティアホープの人間として生きていた頃には得られないものばかりがあった。
使用人のチータは様々な事を覚え、少しだけ頼もしくなり、ゼイ―ドも続投で気安い使用人としてアリエルと親しい関係になった。
近くに移住してきたレオンとたまに交流したり、スレイアのために薬草を煎じたりすることもある。
領民たちも、町に出かければアリエルに声をかけてきた。
アリエルの人間関係は、学生だった頃と比べて少しずつ広がりを見せていた。
アリエルは、そんな日々がこれからもずっと続けば良いと願ったのだった。
アリルと決着をつけてからしばらくした後、たまに薬草園で過ごす日に、シャナがやってくる事が多くなった。
彼はアリエルがやっていることに興味をしめし、同じ目線でアドバイスをしたり、疑問を口にしたりする。
同じ分野で語り合えるような存在が身の回りには少なかったため、彼の存在は貴重だとアリエルは考えた。
シャナはアリエルと何気ない会話をするたびに楽しそうにして、色々な事を喋るようになった。
出会ったときは何を考えているのか分からない事が多かったが、今ではそれなりに理解が及ぶようになった。
相手の好きなものや好きな事、しぐさや癖など。
それら一つ一つを発見する度に、シャナといる時間を心地よく思うようになった。
愛のない関係から始まったものだが、アリエルは今ではシャナと過ごす時間を悪くないと思っている。
これからも、彼と、そしてホムラン領の者達と一緒に過ごせていけたらと、彼女は望むようになっていた。




