23 各地で動く状況
隣国コスモクラウンの大きな都市の中。
アリルは、歯ぎしりをしながら、文書を読んでいた。
そこには、ホムラン領の人間から寄こされた情報がある。
「アリエルが活躍だなんて。そんな。しかもシャナ・ホムランとも仲がよさそうになっている?」
苛立つアリルは、近くに生えていた草花を踏みつぶす。
現在のアリルは、また別の人間の家に転がり込んでいた。
魅了の力で我儘を通し、贅沢な暮らしをしていたが、アリエルの状況がふと気になって調べていたのだ。
そしたら、予想外の情報が入ってきた。
憤怒の感情を宿すアリルに、身内への情はかけらもない。
さらに悪い知らせは続く。
別の人間から届いた文書には石碑が危険であることが伝えられる。
「こうしちゃいられないわ。石碑をもっと安全なところに運ばなくちゃ」
しかし、石碑はアリルやアリエルのような存在には触れられなかった。
ただの人間にしか触れないのだ。
そのため、移動させるには誰かに任せる必要があった。
誰かを信用することはアリルにとっては虫唾の走る事だったが、背に腹は代えられなかった。
アリルは何人かの顔を思い浮かべて、その場から去っていく。
事態が動いたのは、ダイアの突発的な訪問から半年後の事だ。
準備が整ったため、隣国に向かう手続きを進めていた時の事。
どうやらどこかの誰かが、メロメロにされて馬鹿になったらしい。
隣国の要人の一人が暴走しているのだという。
名前は国政を担当しているジルサルトという男性らしい。
ジルサルトは有名な学校を首席で卒業した、切れ者で多くの人から尊敬されている人間だった。
性格も悪くなく、権力を振りかざすような人間ではなかったが、アリルと関わってから全て変わってしまった。
40代である彼は、所帯を持っていたが、妻と離婚し、子供とも会わなくなった。
それだけでなく、違法な事業に手をそめて、金もうけをしたり、法律の穴をついて悪事を行う事もある。
その結果、国の王から厳しい罰を言いわたされたらしいが、それでも自分の行動を改めなかった。
アリルの言いなりになって、他の人間に無理難題を押し付け、要求を繰り返し、税金を引き上げたり、おかしな法律を作り上げたりしているのだった。
翻弄される国民はたまったものではなく、かなり国の雰囲気が荒れている。
コスモクラウンで生きてはいけないと考えて始めた国民たちは、段々とリムスターへ脱出する計画を立て始めていた。
これまでアリルの嫌がらせはすべてアリエルに向けていたが、ここにきてそれが他の人間にも及ぶようになってきている。
それはアリルの心境の変化が原因だった。
アリエルがシャナの元で不自由なく暮らしているという情報が彼女の元に入り、なおかつ暗殺も失敗しつづけている。
そのため、アリルのストレスが別の方向に牙をむいているのだった。
アリルは自分の心の安寧のためなら、どれだけの人間がふりまわされても、かまわない人間だった。
それが可能であるのならば、虫の居所が悪いという理由だけで大量虐殺もするし、欲しいものがあればどんな立場の人間でも篭絡し、色目をつかって手に入れた。
アリルは自分の通った道にどれだけの犠牲が出たとしても、それを顧みる事のできない人間だったのだ。
旅立ちの準備を進めたアリル達は、国境に向かい。
協力者の協力を経て、隣国の内部へ入った。
コスモクラウンの町や村、歳はどことなく暗い雰囲気が漂っている。
広大な大地が特徴で、大地の恵みの恩恵にあずかっている彼らは、飢えも知らず豊かに暮らしているはずだった。
しかし、町の雰囲気は遊み、人々の顔には陰りが見える。
そんな国の中、辺境の町に立ち寄ったアリエル達は小競り合いを目撃。
それはアリルに騙されて左遷されたという兵士と、町の不良の喧嘩だった。
「お前らが因縁つけてきたんだろうが!」
「ふざけんな。そっちだろうが」
血まみれになって拳を振るう彼らに関わる事で得られる事などないが、彼らが口にしていた言葉には驚く点があった。
それは、リムスターから用心を攫って、見張っているという言葉だ。
「アリル様のために、人質にも飯をくわせなきゃならねぇんだよ。いざという時に使い物にならないからな!」
「そんなの知るか! うちの弟分の店から巻き上げたもん返しやがれ!」
アリエルはシャナにこのことを報告。
情報を集めて、人質を救出しようとしたが、一歩遅かった。
人質たちは移動させらてしまっていた。
彼らの会話から他にも様々な情報を経たアリエル達は、さらに移動し、町を3っつほど移動した。
そこにはアリルがいて、そして石碑もあるとみられているからだ。
移動しているうちに再び国境に近づく形になったアリエル達は、明らかな変化を感じ取る。
兵士たちの数が多くなり、かなりしっかりと武装した集団が増えてきたのだ。
情報収集を行ったところ、彼らは、これから国境を無断で超えて、アリエル達の領地を襲う予定だった。
どうにも彼等はアリルの力の影響をかなり強く受けているらしく。
まともならば鵜呑みにしないような情報を口にしていた。
リムスターは鬼の国だとか、悪魔の国だとか。
はたまた、その国を倒す事が世界平和につながるだとか。
一部では純粋に争う事で、利益を得ようと考えているものもいて、アリエル達は頭の痛い思いをしていた。
これを看過するわけにはいかにと思ったアリエル達は、目的を変えて、彼等の行動を監視するのだった。
しかしここで幸運だったのは、別方面で潜入していたジョシュアと出会った事だろう。
思うところはあるものの、故郷に害を成すものたちを放っておくわけにはいかないと結論付けたジョシュアと協力する事になった。
「久しぶりですね。まさかこんな形であなたと再会する事になるとは」
小さな宿屋で話をするジョシュアはすっかり頬がこけていた。
アリルが隣国で暴れているという話は彼も耳にしていたため、思うところがあるのだった。
「私は、アリルにとってただ利用されていただけなのでしょうか」
関係の薄かったアリエルの前で、ふとした時にそんな言葉を呟くくらいには、精神にダメージを受けている。
アリエルには、彼に手を差し伸べるほどの恩も義理もない。
しかしこれからの行動に支障が出てはまずいと思ったため、口を開いた。
「アリルがどう思っていたかどうかなんて、私でさえ分からないわ。けれど、立ち止まっていては、何も分からないまま。前に進まなければ、何を解決する事も、良くする事もできないのだから」
ジョシュアはアリエルの言葉を受けて、驚いた後、小さく感謝の言葉を告げるのだった。
その流れでジョシュアがアリエルに握手しようとしたが、シャナに阻まれてしまう。
「何やら妙な雰囲気になりそうだったので、予防線を張るためにな。私は彼女の夫だ。理解してくれるだろう?」
「それはそうですね。すみません」
二人の男が静かにやりとりをしている間、アリエルはそちらを見つめず、これからの行動に思いをはせていた。
ひと時の交流でジョシュアから情報を得たアリエルとシャナはさらに国境近くへ。
遠くからコスモクラウンの兵士達の様子が見える岩陰に立っていた。
数キロメートル先にいる兵士たちは、野営のためのテントを張って、国境超えの準備をしている所だった。
「どうする?」
「我が国に立ち入らないでください。といって聞き入れるようならそもそも見える所まで近づいてこない気がしますね」
アリエルとシャナは、相手の本気具合を見て頭痛を何度覚えたか分からない。
見なかったことにしたかったが、そうした先にあるのは蹂躙だけ。
アリエル達はこの状況を二人で何とかするしかなかったのだ。
一応ダイアの話では、国の暗部や表ざたにできない事を担う組織がいるらしいが、その者達はコスモクラウンの特殊部隊と交戦して、負傷。
本部らしき場所も襲撃を受けて、使い物にならない状態だという。
こんな事をアリエルに頼むのは心苦しいが、と告げたダイアは、自分が頭を下げている相手の能力を正確に把握していた。
アリエルはそのことを不思議に思ったが、すぐに頭から追い出した。
兵士の様子を見ているとシャナが首を傾げる。
「だが、連中少し様子がおかしくはないか?」
「そうですね、まるで……熱に浮かされているみたい」
アリエルは、以前も様子のおかしい者達を見ていた。
アリルの影響で、我を失っている者達や自暴自棄になっている者を。
しかし、目の前の兵士はそれよりもひどかった。
幸いと言って良いのか分からないが。
国境にいるのは、暴走している兵士たちだったため、事が終わった後もアリル一人に責任を押し付ければ、最悪の事は免れる可能性がある。
わだかまりは完全にはなくならないだろうが。
個人的な敵意や背後に国の思惑が見られないのは幸いであった。
「あそこで大声で苛ついている兵士、かなり興奮しているようだが。あれでまともに活動できるのだろうか」
「今にも卒倒しそうですね」
それは遠くから見ているアリエル達を若干恐怖させるものだ。
目が血走った筋骨隆々とした集団が、大声でアリルへの愛を呟きながら仕事を行っているのだから、当然だった。
彼等は明らかに魅了の力がかかっていた。
「これってただ恋愛的に骨抜きにされてるだけじゃなくて、洗脳に近いんじゃないでしょうか」
「君が学園にいたころはどうだった?」
「ここまでの事はありませんでしたよ。力が強くなったのか、それともあの頃は手加減していたのか」
「いずれにしても、人とを操るというのは恐ろしいものだな。気を引き締めていかなければ。アリエル、無茶をしないでほしい」
シャナがアリエルの瞳を見つめて、真面目な表情で訴えかける。
「分かっています」
「だと良いのだが」
アリエルも真面目に答えたのだが、いまいち信用されていないのだった。
それから数時間後。
アリエル達は時間を稼ぐために、野営のテントを強襲。
兵士たちを無力化していく。
武器が暴発したのを装い、火をつけ、テントを燃やしていった。
兵士が混乱して、慌てるさまを見て、必要な人間を遠距離から気絶させていく。
銃弾を想像し、安全地帯から狙撃していくため、こちらの被害はゼロだ。
「疲れたか? 休憩したらどうだ?」
「いいえ、大丈夫ですから。もう少しーー」
シャナはたまに気遣ってくれたが、アリエルは全ての仕事をやり終える事に専念した。
数十分かけて、やるべきことを終えた後。
額の汗をぬぐってしばらく休憩していたアリエルは、遠くで異変が起こったのを知る。
コスモクラウンの兵士が、リムスターの者達を人質にとっていたのだ。
その中には、顔見しりの女生徒もいた。
「うちの学園の生徒ばかりね。彼女達に手を出していたなんて。アリルからの情報で、人質として扱いやすい人間に手をつけていたのね」
「心配か?」
シャナの問いかけに、アリエルは少しだけためらってから「少しだけ」と答える。
以前であれば、手助けはするものの、自分の心の内を人に明かす事などなかったが、シャナの性格はよく知れている。
アリエルは少しだけ素直になる事を選んだ。
時を同じくして、国境付近で活動していたバルバトスたちの方にも兵士たちが押し寄せていた。
バルバトスも、アリルの行動にずっと心を痛め、悩み続けていた。
しかし、彼は良くも悪くも、気持ちへの折り合いの付け方が人より早い。
どんな理由があるにしろ、本人に直接聞く事にして、目の前の事に集中していた。
精神をおかしくした兵士の集団が放浪していると聞いていたバルバトスは、戦意を高めて戦線に参加すると、そこにはアリルへの想いを呟く資料のような集団がいた。
「アリルの居場所を知っているのか! おい、お前達、何か言ったらどうだ!」
バルバトスは会話を試みるが、それは一方通行。
彼等はうわ言を繰り返すばかりで、まともな会話は成り立たない。
そういった事に詳しくないバルバドスでも、それは洗脳されていると一目で分かる状態だった。
バルバトスはそこでアリルの所業が、かなり罪の深いものだと知るが、それでも戦い続ける。
再度うちのめされた彼だったが、その立ち上がりも早かった。
辛いのは自分だけではないと思い、国境から侵入してこようとする兵士たちを押しとどめる事に尽力していくのだった。
それとは別に、バルバトスとは別の場所で兵士達と戦っていた者がいた。
スレイアの兄、ドライアだ。
ドライアも隣国の兵士と相対し、必死に侵入を押しとどめようとしていた。
「我が国には一歩たりとも入らせん! ここで朽ちるがいい!」
守るべきもののため、帰りを待つ妹のため、彼は一騎当千の活躍をする。
だが、彼の行動はふいに止まる事になる。
それは、人質の存在がいたからだ。
隣国の兵士が、王都で攫われたスレイアを連れていた。
「スレイア! 攫われたと聞いていたがなぜここに!?」
「こっちには人質がいる。大人しくするんだな!」
スレイアを見たドライアはそれで、手が出せなくなってしまっていた。
兵士達に囲まれ、身動きが取れなくなる。
同じような状況は各地で起こっていた。
王都で攫われた身内を人質にとられ、リムスターの兵士は劣勢に立たされつつあった。
しかし、そんな状況を変えたのは、不可視の一撃だ。
どこかから飛んできた何か、としかドライアにとっては視認できなかったが、目に見えない一撃が人質を連れている兵士を打倒した。
その隙をついて、攻撃したドライアはスレイアを助け出し、再び戦闘に集中するのだった。
さらに、アリエルは、自分で調合した眠り薬を使い、コスモクラウンの兵士達を眠らせてかかる。
銃弾に括り付けた袋から、匂いの強い薬がまき散らされて、兵士達をたちまち眠らせていったのだった。
それで、コスモクラウンの指揮所は混乱していった。
結論として、彼がそれと出会ったのは偶然ではなかった。
アリエルの負担を減らすために、コスモクラウンの被害を少しでも軽くするために、レオンは最前線に近い場所をうろついていた。
アリエルの知らない所で、レオンがアリルと対峙していたのだった。
それは、国境を挟んだゴタゴタが起こる前の事だ。
フードで顔を隠したアリルが、町の裏路地を歩いている所、レオンが声をかけた。
「少しいいかな、お嬢さん」
はっとしたアリルがその場から逃げようとするものの、レオンがそれを取り押さえる。
アリルは、相手を睨みつけたが、それが同じ学校に通っていた生徒だと知って、わずかに驚く。
「あ、レオン? あなたどうしてここに?」
「へぇ、驚いたな。俺の事知ってたんだ」
「あなたは変わりものだったから」
アリルは警戒した様子でレオンの顔を見る。
魅了にかからない生徒達の事をアリルは細かく覚えていた。
それはアリルにとってとても屈辱的な事だったからだ。
「まあ、そんな事はどうでもいい。君には色々聞きたい事があるんだ。国に戻って来てくれるよね? リムスターの方に」
「そんなの困るわ。私には居場所があるんだもの」
アリルは涙を浮かべて、悲しそうな顔をするがレオンには通用しなかった。
「そういう演技やめなって。俺には聞かないから」
レオンが冷めた顔でそう言うと、アリルはさっと表情を無にする。
懐柔できないと分かったからか、彼女は躊躇いもなく魔法を放った。
炎の魔法をレオンにぶつけようとするが、それは阻まれる。
なぜなら、クレメンテのメンバー達が彼を守ったからだ。
「持つべきものは情報って事で」
アリルは水の魔法と炎の魔法を同時に使って、爆発を起こそうとする。
水を一気に熱する事によって、反応を起こそうとしたのだ。
しかし、クレメンテのメンバーが風の魔法で、水も炎を蹴散らしてしまった。
それが駄目だと悟ると、今度はアリルは雷の魔法を使う。
感電させようとしたが、それも失敗。
水の魔法にかけたメンバーが、純粋な水を作り出して、雷からの感電を防いだのだった。
しかも、アリルの足元にも水を出現させ、そちらには不純物のまざったものだったため、彼女は感電してしまう。
倒れたアリルは執念で動き、氷の魔法で鋭い刃物を作り出したが、彼女の握ったそれをレオンがもぎとった。
「しばらく眠ってろ。すぐにお家に返してやるよ」
アリルはレオン達に捕まる事になった。
これで、コスモクラウンの暴走は未然に防がれた、と思ったが、しかし、アリルの方が一枚上手だった。
クレメンテのメンバーが裏切り、アリルを連れて逃げ出した。
彼女達はとった手段は大胆で、国境の一番危ない個所を通るという方法だった。
「やられた。くっ……ごめんよ、アリエル」
レオンはこの日の油断を一生悔いる事になる。
だが、それでも、それは最悪の状況ではなかった。
アリルにとって不運は、重なってしまう。
狭い道をすすむアリル達は、ダイアと相対していた。
信用のおける数名の兵士を連れて、彼は最前線になるかもしれない場所に赴いていたのだった。
ダイアを見たアリルは、彼に話しかける。
「ダイア。どうしてここに?」
レオンの事もあり、慎重に問いかけるアリル。
「お前を止めるためにだ」
ダイアは冷たい声で答えた。
懐柔する隙などないと判断したアリルは、即座にダイアを切り捨てる。
「好きなら、最後まで信用してくれてばいいのに。こんな時に面倒な」
「訂正するが、最初からお前には惚れていなかった」
「はっ、ありえないわ」
アリルは魔法で、ダイア達と激突した。
ダイア率いる者達は、専用の改造銃を使って攻撃していく。
しかし、アリルはそれらを風の魔法で防いだ。
だが、疲労や直前の先頭のダメージで、彼女の意識は朦朧とする。
そのままアリルが一人で戦っていたなら、ダイア達の勝利は確実だっただろう。
けれど、その場にはアリルを守るものがいた。
クレメンテの裏切り者としてアリルについた、エレジアという男だ。
エレジアはアリルの本性を知っていて彼女に味方をしている人間だ。
アリルの気まぐれで、命を助けてもらった事があり、恩を返すために行動している。
性格も行動理念も好いてはいなかったが、彼は恩を大切にする人間だった。
「アリル、下がっていろ」
「ちょっと、大丈夫なんでしょうね?」
文句の多いアリルに苦笑する彼は、自慢の獲物である剣を構える。
銃と剣、それに複数の敵となると、不利に思える状況だ。
しかしエレジアは剣の天才だった。
国の暗部を担う集団であっても、すばやい立ち回りで彼らを出し抜いて見せた。
ダイア達はすぐにその場に倒れ伏す。
怪我を負ったダイアは、他の仲間達の手によってその場から逃がされたが、しばらくは安静にせざるを得なかった。
アリルは、また騒動に巻き込まれてはたまらないと思い、その場から離れる。
「早く移動するわよ
「はいはい」
お礼の言葉もなく急かすアリルに頭をかくエレジアは「悪く思うな」と言って、その場を離れる。
そんなアリル達は、アリエル達が行動していたルートへと近づいていく。
怒号が響き。
戦闘音に支配された区域。
コスモクラウンと、リムスターの国境。
その境目で、アリルとアリエルは相対する。
アリルと再会したアリエルは、同じ場所にやってきたザイードに声をかけた。
今まで別の場所で行動していたザイードは、アリルを止めるために、彼女の行方を探っていた。
その最中、ダイアを見つけて保護した後、アリルを追いかけてアリエルに合流したのだった。
「まったくうちの雇い主様は、俺を使う場面がおかしいって。戦争しようっていう兵士には自分達でぶつかって、小娘一人相手に俺をあてがうんだから」
「しょうがないでしょ。妹の方が、何十人の兵士よりも強いんだから」
「まあ、確かに戦闘の痕跡がすごかったから、さぞ力の強い魔法使いなんだろうなとは思うが」
本来アリルは、学園に侵入してきた不審者などに後れを取るような力量ではないのだ。
けれど、学園では猫をかぶっていたから、それが明らかにはならなかっただけだった。
「お金使ってるんだからきちんと働いてちょうだい」
「やれやれ。分かった。でも不測の事態もありえるから、下がっててくれよ。アリエル、ホムランの旦那」
声を掛けられたシャナが分かっている、と答えアリエルを守るように彼女を下げて、自らが前に出た。
「そうだな妻ならこの状況でも勢いよく飛び出して、妹君を血まみれにしかねない。アリルが命を落としても別にかまわないが、妻が怪我してしまわないか心配だ」
「何言ってるんですか、さすがに冗談ですよね」
「……」
アリエルは「私の事なんだと思ってるんですか」と不満げに呟いたが、誰もそれをフォローしなかった事で遠まわしにじゃじゃ馬だという事を肯定されたのだった。




