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アリエルとアリル  作者: 第三者臨海


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22 この想いが報われなくとも君の力になりたい





 アリエルは、隣国コスモクラウンに入国して、どうにか石碑を壊さなければならない。


 アリルにずっと命を狙われたり、嫌がらせをされるのは嫌だったからだ。


 逆を考えれば、アリルは誰かに石碑を壊されたくないから、隣国コスモクラウンに渡ったのだとアリエルは考えた。




 そんなアリエルにとって、渡りに船の出来事が起きた。


 それは、国の王子が屋敷を訪問してきた事だ。


 文字を覚えて、今度は乗馬のスキルに興味を持ったチータのために、彼女のためにシャナが牧場から引き取ってきた馬と引き合わせていたら、屋敷が騒がしくなった。


 建物の中に戻ると、そこに王族がいたため、アリエルはまったくの偽りもなく驚いた。


 普段あまり心を動かす事のないアリエルだが、さすがに王族が自分の家に来たら驚くのだった。


 しかし、相手が一応の学友であるダイアだった点はまだましだった。


「当家に何か御用でしょうか?」


 アリエルが応接室に入室した際には、ちょうど少し早く到着したシャナがダイアに向かって、そう口にした時だった。


 ダイアは真剣な表情で「あなた方に頼みたい事がある」と部屋にきたばかりのアリエルの顔も見ていった。






 ダイアは、隣国にいるアリルを捕えて、どうやら裁きたいらしかった。


 聞けば、隣国での好戦的な組織をたきつけて、こちらの国と開戦させようとしているという。


 その話を聞いたアリエルは、開いた口がふさがらない。


 シャナも同じように口を開けていたため、形だけとは言え夫婦は似るものなのかと、状況に合わず思った。


 ダイアはアリエル達の反応にかまわず説明する。


「バルバトスが国境付近の兵士たちと共に証拠を見たそうだ」


 卒業後のバルバトスは国の兵士として国境付近を巡回していた。


 実力が評価され、とんとん拍子に出世しているとアリエルはたまに聞くのだが、当人はまさか自分が好いていた女性の反逆の証拠をつかむとは思わなかったらしい。


 気落ちしているという話だが、アリエルはその話には興味がなかった。


「それで、ジョシュアが隣国の動きを調べたところ、武器になりそうな品物の取引が盛んになっていてな」


 もちろんそれだけで決めつけるには危険だが、火の無いところに煙は立たぬということわざもある。


 だからダイアは念のために、信頼できる人間に協力を仰いでいるのだった。


 アリエルは意外な気持ちだった。


「あなたは私の事、信じられるの?」


 その疑問は当然の事だった。


 アリエルはダイアとは親しくしていた記憶がまったくないのだから。

 恨まれたり憎まれる覚えこそそれ、信頼を預けられるような関係とはまったく思えなかったのだ。


 アリルの取り巻きだったダイアが、どうして自分に声をかけたのかとアリエルは首を傾げる。


「お前には分からない事かもしれないが、私はずっと前から、アリエルの事を信頼していたよ」


 そこで、少しだけ悲しそうにしたダイアの本心など、アリエルには分からなかった。


 だが、触れられるような状況でないのと、王族の話を断るという選択肢は実質的に不可能であるため、アリエルは何も言わずに頷いた。


「私は別にいいけど、今はここの家の人間だから」


 個人的には渡りに船だが、決定権はシャナにある。


 自分の行動をしばるような男の意志を尊重するつもりはないが、シャナはアリエルによくしてくれた。


 そのため、彼に不都合な行動はとりたくなかったのだ。


 するとシャナはアリエルに向かって微笑む。


「アリエルがしたいようにすればいい。妻のやりたい事があるのなら、それを応援してやるのが夫というものだろう」


 その後、こまかな話をしてから、連絡用の魔道具を渡され、ダイアを見送った。


 ダイアは別れ際に王宮や王都で起きている細かな事情をまとめた用紙をアリエルに渡してきた。


 左手にあったその用紙を手にしたアリエルは、そう言えばと思い出す。


 授業中にエイガスが手を怪我したことがあり、アリエルが手当てをしたことがあった。


 腕に小さな傷がついていたが、ダイアの腕にも似たようなものがある。


「それは? 怪我?」


 アリエルは尋ねるとダイアは首を振る。


「いいや、ただの痣だ。生まれつきのものでな。普段は特殊な化粧で隠しているんだが、今はちょっと忙しくて」」

「そう」 


 ダイアの去り際になぜか、学園で一番仲が良かった男子生徒のエイガスの顔が浮かんだが、それはなぜか分からない事だった。


 彼は今、どうしているだろうかと一瞬アリエルの頭をよぎった。






 夜の時間。


 私室で休むアリエルは、チータの勉強具合を見ていた。


 チータは、難しい文字の読み書きで詰まっているところだった。


 アリエルがこうしてチータにつきあう事は珍しくはない。


 最近の事だが、頑張っている人間を応援する事は、意外と好きなのだとアリエルは自覚したのだった。


 チータが考えすぎて目をまわしはじめたため、アリエルは自分がつくった、特性のハーブティーをいれる。


 チータは少しだけすっきりした顔で、お茶を楽しんだのだった。


「私も、アリエル様のような特技がほしいです」

「私の特技なんてあまり人に役に立たない地味なものよ」

「そんな事ないです。私はとっても嬉しいですから。この間レシピを教えてくださったらしいじゃないですか。私達使用人たちの間ではちょっとしたブームなんですよ」

「それは良かったわ」


 チータの言葉にアリエルは微笑む。


 自分が生きていくために身に着けたスキルだったが、誰かの役に立つ事が嬉しかった。





 リムスターの王都付近にて、白い服を来た怪しい集団が移動していた。


 夜闇にまぎれるようにして移動する彼らは、黒い服を来た集団と戦闘になる。


 白い服の集団は魔法を使い、黒い服の集団は銃を使っていた。


 しかし、そんな戦闘は囮だった。


 数名の白い服の集団は、黒い服の集団の視界から外れて移動していく。


 彼等が向かったのは、裕福な家の数々だ。


 そんな一人が向かったのは、スレイアの家だった。

 

 家の中で、遅れていた時間を取り戻すために、家族から英才教育を受けていた受けていたスレイアは、再び体調を崩していた。


 卒業式の前、たまに保健室に来ていた女生徒ーーアリエルからもらっていた薬を服用する事で、何とかしのいでいたが、そのままでは以前に逆戻りするのは時間の問題だった。


 そんなスレイアは、とある猫たちを保護していた。


 アリエルの家に一度向かった事があるスレイアは、彼女が嫁いでいる事を知って、両親に挨拶をしただけでその場を去った。


 しかし、付近で弱っていた猫たちを見つけたため保護していたのだ。


 前日に酷い嵐が来ていたため、風邪を引いており、スレイアの目には助けを必要としているように見えた。


 それで連れ帰った後、家族に内緒で看護をしたスレイアの努力のかいもあり、猫たちは徐々に回復している所だった。


 そんな猫たちが、警戒の声をあげる。


「どうしたの?」


 スレイアが声をかけると同時に、怪しげな白服の集団が彼女の部屋の窓を割って入ってきた。


 屋敷の3階にあるスレイアの私室に、無遠慮に入ってきた、彼らは怯えるスレイアを気絶させ、どこかへと連れ去っていくのだった。


 数日遅れて国境で仕事をしていたスレイアの兄ドライアが、手紙でその知らせを受け取り、心配で頭を抱える事になる。








 それから数日後。


 ホムラン領でちょっとした事件が起こった。


 爆発事故が起きてけが人が数十名と出たのだ。


 原因は火薬の取り扱いを間違えた事だ。


 それは、隣国から格安で誰かに売りつけられた火薬で、その誰かこと騙された商人がさらに領民を騙して、別の商品と偽り売りつけていったものだ。


 調理用の調味料だと偽られて、想定より3倍の粗悪の火薬をりつけられた料理人は三日三晩嘆いていたそうだ。


 その件を聞きつけたアリエルは、シャナに申し出て、病院に向かった。


 更に、邸宅で働いていた元学園の教師カイラスも共に付き添う事になった。


「けが人の症状は酷いものですね」


 病院につくなり、施設の職員と連携をとりはじめた彼を見つめながらアリエルは、シャナにメモを渡す。


「独自に開発していたこのレシピ通りに薬草を作れば、それなりに役に立つと思います」


 それは、この領地に来てから研究していたものだった。


 ホムラン領には珍しい草花が大量に生えていたため、色々と試したのだ。


「君の提案はできるだけ聞き入れたいが、この目で効果を見てみない事には……」


 アリエルはその問いに、自分の腕で証明してみせる。


 この時にアリエルは知らない事だが、離れたところで護衛していたザイードが口を開けて、驚愕していたのだった。


 アリエルは、持ち歩いていた護身用の刃物で傷つけた怪我に薬草をあてた。


「害にはなりませんとしか、この場では証明できませんが。どうでしょうか?」

「アリエル……」


 渋い顔をしたシャナが、アリエルの腕に持ち運んでいた魔道具を使って、怪我をの

手当てする。


「少しは自分の体を大切にしてほしい」


 自分の事のように痛そうな表情をしたシャナを見て、アリエルは少しだけ罪悪感を覚えた。


 ちなみにアリエルのレシピはきちんと活用された。


 けが人の回復は予定よりも大幅に早くなったのだった。







 護衛をザイードに任せているとはあっても、アリエルは自分の身を守るための労力は惜しまない。


 猟銃を持って、森の中で狩りをしたり、魔法の鍛錬もかかさずに行っていた。


 そんな日常の中、ホムラン領に害獣が増える事件があった。


 それは気候の問題で、昨年は雨が多い年であり、その影響で害獣の食べ物となる植物が異常に増えたためだった。


 害獣となるのは、大きなイノシシで木の実や植物を食べるが、なぜかホムラン領に生えているキノコばかり食べるという、その土地特有の変わった種だった。


 ある日、夕飯を共にした際に、突発的な大発生で領民たちは駆除に苦労していると、シャナが告げた。


「今まで同じような事はなかったんですか?」


 疑問に思ったアリエルが問えば、「ここ十数年はなかった」と言う。


 シャナの両親の代までさかのぼらなければならないため、技能を持った人間がいなくなったり、腕が衰えたりしているのが問題だった。


 アリエルは「それなら、少しだけ考えがあります」と告げた。


 それは、獣にだけ聞く匂いを森の中にこすりつけ、害獣の行動をコントロールするものだった。


 罠のある場所に誘導するというものだ。


 元から狩りをする際に、そういった方法をとっていたが、この屋敷に来てからも時々改良方法を試していた。


 それで、カイラス達と協力して、薬を開発していたのだった。


 完成品ができた際、


「効果はお墨付きですよ! それにしてもお互いにこんな事をしているなんて、似たような夫婦なんですね」


 と言っていた。


 アリエルがそれがどういう意味かと問いかけたら、言葉を濁されたが、彼女はそれ以上深く尋ねなかった。


 そんな一幕があったものの、アリエルの薬の効果はしっかりと発揮され、害獣の駆除は成功。


 肥えたイノシシの肉や毛皮などが扱われ、領地の資金元となった。


 領民たちの困りごとを解決し、ホムラン領の発展に貢献したのだった。



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