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花姫恋奇譚~敵国皇帝の后になりたくない紅き鬼姫は、漆黒の魔王に溺愛される  作者: いか墨ドルチェ
第一章 鬼姫の花嫁道中

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第60話 外交の行方

 食事会が終わると、蒼迅(ツァンシュン)たちは各自、担当する国に向かった。


 馬に乗れる蒼迅、万梅(ワンメイ)海遠(ハイユェン)は少し離れた国を担当し、エリックと明鈴(ミンリン)は近隣の国を馬車で回ることになった。


 彼らは、自らが担う責任の重さと、これから訪れる未知の世界に対して、胸が高鳴っていた。もっとも、エリックだけは責任云々は置いといて、未知の魔道具との出会いのことしか頭にない感じではあったが……。


 一方、蓮音(リェンイン)剣護(ジェンフー)は、二人で開国の北東に位置する広大な草原地帯で馬を走らせていた。ここを活動範囲としているいくつかの遊牧部族を訪ねて回ることにしたのだ。


「うわ、すごい広い! こんな広い場所で遊牧民を見つけるのは至難の業ね」


 だが、その口調に悲壮感はまるでなかった。見渡す限り一面の草原を見て、蓮音は高揚感に包まれていた。


「確かにね。ただ、彼らを取り込むのは非常に有意義だと思うんだ」

「そうね、ここは帝国にとって、西に進出するさいのう回路のようなものだものね」

「いくつかの部族は、すでに帝国に服従されてしまっていてね。これ以上、帝国の好きにさせるわけにもいかないからな」


 そうでない部族も帝国の手から逃れるべく、いつも以上に草原地帯を頻繁に移動していたため、接触することさえかなり難しかった。


 が、剣護は迷うことなく馬を進めた。


 剣護は、この作戦を考える以前から、彼らの動向には常に注意を払っていたのだ。


 まずは、遊牧部族の中でも規模が大きく、発言力がある部族の元を訪れた。


「開国の使者である。部族長に伝えろ」


 野営地の入り口にいた、とうに壮年を過ぎた兵士たちに来訪を伝えた。兵士は「しばしまたれよ」と言って奥に走っていくとすぐさま戻ってきて、二人を族長のテントに案内した。


 蓮音はこの集落の中の様子を目にして、ものすごい違和感を感じていた。


 圧倒的に若い男女が少ないのだ。先ほどの兵士もそうだが、そのあたりで小さな子どもたちに武術の指導しているのも皆年寄りばかりだった。


 蓮音の違和感に気が付いた剣護が、尋ねる前に教えてくれる。


「若者は帝国に捕虜として連れていかれてしまったんだ」


 族長のムンバトは歴戦の戦士だったことをうかがわせる風貌の老人だった。一目で二人がただの使者ではないと感じたムンバトは、蓮音と剣護をまるで王をもてなすかのように振舞った。


 彼の話では、さきほど剣護から聞いたように、部族の半数近くの若者がすでに帝国に連れ去られてしまったとのことだった。男は兵士にするために、女は未来の兵士を産む嫁にするために連れていかれたのだ。


 このままでは、部族滅亡の危機であり、今は帝国から隠れるように慎ましやかに生活しているとのこと。そして、それはこの部族に限ったことではなく、他の部族も同じ状況とのことだった。


 帝国は彼らに、良馬・兵士・嫁の供給と引き換えに、今まで通りの部族の存続を許諾しているとのことだった。


 帝国に逆らってすでに滅亡した部族も二つあり、女子どもから老人まで含めて、全員が帝国の領土に連れていかれた部族もあるという。


「許せない……」


 蓮音は、怒りに体を震わせながらつぶやいた。


 蓮音たちはムンバトに同盟の条件を伝えた。


「といっても、帝国に攻め入るわけではないの。帝国がこの地に攻め入った際には、降伏するのではなく、わたしたちと共に立ち上がってもらいたいの。もちろん、部族の事情は承知しているので、あなたたちを矢面に立たせたりもしない」


 すなわち、帝国との「共闘」である。それ以外のもの――人質や貢物――は求めない。


 代わりに同盟国として部族の名を掲げ、同盟諸国との軍事・政治・経済・文化的な交流を行うという、帝国を明らかに敵に回すことを除けば、ある意味部族にとっては利点しかないような条件であった。


「我らとて、帝国は憎い。だが、儂も長として、この部族を最後まで守る義務がある。そこをご理解いただけると幸いだ」


 それでも、ムンバトは帝国を恐れるあまり、すぐに承諾の返事はできずにいた。


「できることならば、他の部族と再び連携を取り、彼らも同盟に了承すること、それから、これ以上民が帝国に連れ去られないように、部族の存続に協力もしていただけないだろうか。厚かましい申し出とはわかっているが……」


 蓮音は力強く頷いた。


「もちろんです。できれば今まで帝国に連れ去られた人も、一人でも多く戻ってくることができるように、力を尽くします」


 剣護はすぐに本国に連絡を取り、転移魔法で護衛の兵士と連絡役の魔術師を派遣した。代わりに部族の代表数名が剣護たちに同行し、他部族の説得にあたることになった。


 帝国によって部族間の連携が断ち切られていたが、剣護が集めさせていた情報でほかの部族の野営地も意外と簡単に見つけることができた。


 蓮音たちはその都度、ムンバトにしたのと同じ話をした。どの部族の返答も好感触だった。剣護は護衛の兵士と連絡役の魔術師を手配し、代わりに部族の代表を同行させるようにした。その日は大小合わせて四つの部族を訪問することができた。


 日も暮れる頃、最後に訪問した部族では食事で歓待した後、二人が泊まれるようにゲルを一つ空けてくれた。小さいが小奇麗なゲルの中に入ると、それほど大きくはない寝台が一つあり、枕が二つ並べてあった。


 蓮音はチラッと周りを見て、長椅子をみつけると「掛け布団もう一枚借りてこようか、あそこでも寝られるね」とちょっと焦ったような口調で言った。


「俺と一緒に寝るのは嫌?」

「……嫌じゃない」


 剣護は蓮音を抱き上げて寝台に寝かせた。


「じゃあ、今夜は一緒に寝よう。あなたが嫌だと言うことは絶対にしない」


 剣護は、優しいが決意の籠った口調で言った。蓮音は守護を見つめた後、顔をそらしてつぶやく。


「……あなたにされて嫌なことなんて、何もない」

「本当に? そんなことを言ってもいいの?」


 蓮音は小さく頷く。


 剣護は蓮音に覆いかぶさるようにしていつものように唇を合わせたかと思うと、次第に口づけを深くしていった。蓮音はいつもとは違う刺激に驚いたのと、何とも言えない心地よさに体を震わせ、吐息を漏らした。


「好きだ。愛している……あなたにこんな風に触れられるなんて、夢のようだ」


 剣護はささやきながら、耳に口づけをし、首筋に口づけをし、蓮音の体を優しくなぞり、帯をほどきながら体中に口づけをした。


 何をされても構わないと言ったのは自分なのに。頭で考えていたのとは次元の違う感覚に、蓮音は自分がどうにかなってしまうのではないかと思った。


(だけど、全然嫌じゃない……)


 蓮音は、自分の身に何が起こっているのか、よくわからないまま、愛する男にただ身を任せた。


 気が付いたら朝の光が差し込み、蓮音は剣護の逞しい胸の上で目が覚めた。


「おはよう、娘々。愛してる」


 剣護は片腕で腕枕をし、もう片方の腕で蓮音を愛撫しながら、愛おしそうな目で見つめると、朝の挨拶をしてくる。


「あっ、おはよう……」


 蓮音は挨拶を返した後で、昨夜のことを思い出し、顔の半分まで布団をかぶった。


「ん? どうしたの?」


 相変わらず剣護は蓮音の体を撫でながらちょっと意地悪そうな目でこちらを見ている。


「あの、昨日のは……なんかすごかったんだけど……あれって……あ、赤ちゃんができちゃうんだよね?」


 そう質問されて、一瞬蓮音の体を撫でる手が止まる。剣護は体の向きを変えて、蓮音をじっとみつめた。


「できないよ。最後まではしてない。明鈴たちと勉強したんじゃなかったの?」


 最後は茶化すように言った。


「えっ!? うそ……」


 思わず本心を漏らす。あんなにめちゃくちゃなことをされて、自分もものすごくはしたなかったと思うのに、あれが最終的な到達点ではないと!? 更にあの先があると言うの!?


「本当だよ。最後まではしていないし、今はするつもりもない」


 そこまでいうと、剣護は蓮音の手を取って口元にもっていくと口づけしながら話す。


「あなたのことを大切にしたい。だから、あなたを完全に手に入れるまでは最後まではしない。これは、俺自身に課した制約だ。今、あなたを抱いてしまったら、きっと手放せなくなる。この件も全部解決して、大勢に祝福されながら結婚式も挙げて、誰にもあなたとの関係を邪魔されない時が来たら、その時は覚悟して、あなたの全部を奪うから」


 最後の一言はささやくように言うと、剣護はその決意を示すように熱い口づけをした。

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