表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花姫恋奇譚~敵国皇帝の后になりたくない紅き鬼姫は、漆黒の魔王に溺愛される  作者: いか墨ドルチェ
第一章 鬼姫の花嫁道中

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/65

第53話 あの日のあの子

 気が付いたら朝になっていた。昨日の夜のことをぼんやりと思い出してみる。魔王があの三人をなんとかしてくれたのは覚えている。でも、眠くてあの後、魔王と何を話したんだっけ? 何か失礼なことやおかしなことをしていないといいんだけど……。


 そんなことを考えていると、明鈴(ミンリン)が「姫様、おはようございます。申し訳ございません。わたくし油断しましたわ」と謝りながら入ってきた。


「油断したのはたぶんみんな同じだから。でも、おかげでぐっすり眠れちゃったね」


 蓮音(リェンイン)はそう返した。


 あの後、魔王は晴詩(チンシー)を起こして事の仔細を説明した後、蓮音の部屋に結界を張って、三人の間者を自分の城に連れ帰ったらしい。男たちも朝までぐっすりだったようだが、晴詩から説明を受けて今は部屋で待機しているとのことだった。


 蓮音を見て蒼迅(ツァンシュン)が「面目ねえ、姫さん。あいつらが間者だったとは気が付かなかったぜ。危険にさらしちまってすまねえ」と謝ってきた。


「まさか、全員の食事に睡眠薬を入れるとはね。黄倉(ファンツァン)に行くのを随分と拒んでいたから何か仕掛けてくるとは思っていたが、あいつらも随分と思い切った手に出たな」


 自分は少なくとも警戒はしていたと主張するように剣護(ジェンフー)が言う。


「お前、あいつらが間者だったって知ってたのかよ」

「僕だけじゃない。お前以外は皆知っている」

「はっ? なんで俺だけ!?」

「ボクもそうじゃないかと思っていたぐらいだよ。それにあいつらがいつも近くにいたから話せなくてね」


 海遠(ハイユェン)が取り繕うように、助け舟を出す。


「私は全然気が付いていませんでしたよ!」


 エリックが堂々とサムズアップの姿勢をとる。まぁ、彼が気が付かないのはいつものことではある。


「くそー、また魔王に助けられちまったな……」


 蒼迅は悔しかった。ここのところ蓮音の役に立っているのは、李公子か魔王ばかりだったからだ。このままだと、蓮音が魔王に惚れかねない、さすがにそれだけは防がねばならない。


「うん、さらにまた助けてもらうことになっているの」


 蓮音の言葉に、蒼迅が「はああ??」と驚愕する。自分が思っている以上に姫と魔王の仲がいいらしい。これは真剣にマズい。


 蓮音はこの後の計画を皆に説明した。少し危険な気がするが、この姫に言い聞かせようとしたところで、まず聞き入れてもらえない。そうとなれば、炎刃(イェンレン)隊は全力を尽くすのみだ。


 昨日の夜以来、魔王本人から特に連絡は入っていないが、きっとどこかで魔王たちが合流してくれるはず。とにかく、一行はそれを信じて先に進むことにした。


 しばらくすると遠くで馬を走らせる音と砂埃が立ち上がり、二十人ほどの集団がこちらに向かってくるのが見える。


「あっ、獅子将軍だ!」


 なんと獅子将軍とその部下たちだった。蓮音は獅子将軍の姿を見て、子どものようにはしゃいで喜んだ。蓮音が喜んでくれるのは嬉しい。その一方で、彼女を喜ばせているのが別の男である事実が口惜しい。剣護は複雑な気持ちだった。


 剣護は意を決して、豪毅(ハオイー)にとある命令を下していた。


「姫君のご指名だ。全力で姫をお守りしろ。それから、姫には優しく接しろ。姫に頼まれたことは絶対に断るな」


 豪毅はなぜそんなことを命令されたのかよくわからなかったが、「御意」とだけ答えて、手練れの部下を率いてここに駆け付けたのだ。


「獅子将軍!! お久しぶりです。助太刀感謝します!」


 蓮音が満開の笑顔で豪毅を歓迎する。


「姫様、お久しぶりでございます! われら主殿の名により、馳せ参じました。姫様の御ためにこの豪毅、存分に暴れましょうぞ! がははははっ」


 蓮音は思い描いていたような豪快な獅子将軍の姿が見られて非常に満足だった。すでにニコニコ笑顔だった蓮音は、更に破顔すると飛び跳ねんばかりに喜ぶのだった。


 それからの道中、魔物の討伐は獅子将軍たちが引き受けてくれた。


「姫君! ここはお任せあれ! 見てて下され! おりゃあああ! どうだ、目にもの見せてくれようぞ! とりゃあああ! 参ったか! がはははっ!」


 獅子将軍の豪快な立ち回りは、実に爽快だった。


「わあ、さすが、獅子将軍! 本当に頼もしいです!」


 豪毅が魔物を倒し終わるたびに、蓮音は手を打って喜んだ。


(いくらなんでも、豪毅の奴、調子に乗りすぎだ……!)


 蓮音が豪毅に夢中な様をまざまざと見せつけられたことに、腸が煮えくり返っていたが、剣護は愛する人が歓喜する姿をぐっとこらえて見守った。


 しばらく行くと打ち捨てられた茶屋があったので、一行はそこで休憩をとることにした。


 獅子奮迅の活躍を見せてくれている獅子将軍の軍を慰労しようと、蓮音は一人ひとりに声をかけて回った。魔王様の想い人にお声かけいただけるとはと、皆、恐縮したようにペコペコしていた。


 するとその中の一人が、恐縮しながらも話しかけてくる。


「あの、姫様、失礼ながら一つ質問させていただいてもよろしいでしょうか」

「もちろんよ。何かしら?」


 一体何を聞かれるのだろうかと思いながらも、蓮音はその男の横に腰を下ろした。


「あの、姫様は、ここから西に行った地にある、開王国と南黄(ナンファン)の境にあった据山(ジュシャン)郷という村に行かれたことはありますでしょうか?」


「据山郷? うーん、村の名前はよくわからないけれど、南黄から開王国には何度か行ったことはあるかな。そういえば、そのときにあのあたりのいくつかの村にちょっと滞在していたなぁ。お姉様が結婚したときだから、七年……八年ぐらい前かな? もう昔のことで、あまり良く覚えていないのだけど」


「そのとき、先生と呼ばれている物静かな男性と、料理が得意な穏やかな男性と、体格のいい男性の三人をお供に連れていましたよね?」

「ああっ、玄先生に、リーフと白将軍ね! うんうん」


 そう言われると子ども時代の記憶が少しずつ蘇ってくる。


 玄先生は、北都で隠居生活を送っている蓮音の学問の師だった玄流舟(シュエンリゥジョウ)のことだ。リーフは、魔導王国出身の母の侍従だったエルフの末裔の男性で、蓮音の面倒もよく見てくれていた。蓮音は彼のことを「二の母上」と呼んでいた。白将軍とは、西都の守りについている白覇宇(バイバーユー)将軍でのことで、蓮音の父の親友であり、蓮音が幼いころの護衛兼剣術の師でもあった。


「もしかして、あなたって、あの時村にいた子ども?」

「はい! 姫様に救っていただいた子どもの一人です。姫様たちに連れられて、開王国の益水(イーシュイ)城まで連れて行ってもらいました」

「ああ、思い出した。そういえば一人すごく腕の立つ子がいた気がする。えっと……剣護?」


 二人の会話を少し離れたところで聞いていた剣護はビクッとなった。


(まさか、俺の名前を憶えてくれているのか!?)


「あっ、俺は剣護ではないです。李 浩(リー ハオ)です。あの子どもたちの中で、年齢も体も一番デカかったんですが、覚えてないですよね? 俺は剣護ほど武術に優れていたわけじゃないんですが、体だけは結構丈夫だったので、その後、開王国で兵士になりました。帝国軍が攻めてきたときは、たまたま西の国境にいたので、運よく死なずに済んで……今は豪毅将軍の軍に配属されているんです。本当は今回の作戦に参加できるような腕ではないのですが、姫様の話を伺って、少しでも恩返しがしたいと思い、将軍に直訴いたしました」


「そうだったのね。でも、あなたが立派な人になってくれてこうして会いに来てくれて、それだけで本当にうれしい! ほかの子たちはどうなったか知っている?」


「はい、皆元気で、ほとんどが開の都で仕事していますよ。ただ、剣護とだけは連絡が取れなくなってしまって。ある時期まではあいつが一番の出世頭だったんですが……」


「そうなの。剣護も、元気でいてくれているといいのだけど」


 紅剣護、黒髪で紅い瞳をした、(つるぎ)のように鋭く美しい少年で、自分が名前をつけたんだった。熱の籠った真剣なまなざしで、「大切な人を守れる人になりたい」と剣を握っている少年の姿が目に浮かんだ。


 どういうわけか、その姿が蓮音の中で魔王と重なる。


(二人ともすごく美しい漆黒の髪だから? まさか、あの時の小さな少年があんな大きな魔王になった?)


 そう、あの時の剣護少年は、自分よりも小さいぐらいだったのだ。今、思い返してみると、きっと彼は蓮音に出会うまでは栄養が足りていなかったのだろう。それで背も低かったのかもしれない。


 魔王とは、少し前に師が同じかもしれないなどという話もしている。魔王があの時の剣護であるならば、確かに師は同じに違いない。


 でも、だとしたらどうして、彼も李浩のように、「あの時助けてもらった子どもです」と名乗り出てくれないのだろうか。魔王にとって、自分との出会いは知られたくない過去の出来事なのだろうか。それなのに、どうしてこれほどまでに協力してくれるのだろうか。


 蓮音の胸には次々と疑問が浮かび、少し混乱していた。


「李浩、今度ゆっくりみんなの話を聞かせてね」


 そう伝えると、蓮音は彼らの元を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ