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花姫恋奇譚~敵国皇帝の后になりたくない紅き鬼姫は、漆黒の魔王に溺愛される  作者: いか墨ドルチェ
第一章 鬼姫の花嫁道中

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第51話 恋愛相談

 剣護(ジェンフー)蓮音(リェンイン)も黙っているとなると、この一行はかなり静かだった。周りにも気を使わせているというのが蓮音にもひしひしと伝わってきたが、だからといって元気に振舞う気にはなれなかった。


 一行はまた小さな村に寄り、そこの有力者に一泊させてほしいと頼んだ。村長は快く応じてくれたが何分大きな村ではないため、全員が同じ場所に滞在するわけにはいかず、女性たちと二手に分けたた男性たちの三集団(グループ)でそれぞれ村人の家に泊めてもらうことになった。今の状態で剣護と一緒にいなくて済むのは少し気が楽だった。


(ずっと一緒にいたいと願いながらも、一緒にいるのが気まずいなんて……李公子とは、ずっとこのままなのかな……)


 とりあえず旧帝都・黄倉(ファンツァン)が近づいてきたため、その件で魔王に助力をお願いしたいと思い、蓮音は魔道具を使って魔王に連絡を取った。「相談したいことがあります」と伝えると、魔王は「では、直接話を聞こう」と言っていつものように迎えに来て、自分の宮殿に蓮音を連れて行ってくれた。


 いつ訪れても、彼の宮殿は花々が咲き乱れ、この世の楽園のようだった。ここにいるだけでも、蓮音の気持ちは随分と軽くなるような気がする。蓮音は咲き誇る花々にしばし見とれていた。


「それで、相談というのは……?」


 魔王は少し緊張した様子で尋ねてきた。蓮音から相談があると言われ、それは豪毅(ハオイー)のことだと思っていたからだ。


「獅子将軍のことを好きになってしまったのですが、どうしたらいいでしょうか?」


 そんなこと、蓮音の口から言われたら、なんて答えたらいいのだろうかと頭を抱えたい気分だった。


 魔王に声をかけられ、蓮音は目の前の茶に一口口をつけると、真剣な眼差しで答えた。


「実は、黄倉で瘴気を浄化する儀式を行いたいのだけど、さすがに今のわたしたちでは戦力不足だと思うの。その件で、小虎(シャオフー)に助力をお願いしたくて。どうか獅子将軍の隊を派遣してもらえないでしょうか?」


 蓮音が獅子将軍を指名したことに、深い意味はない。きっと彼ならばこの近くにいるだろうからという程度だったのだが、もちろん魔王はそう受け取らない。


(それだけ姫はあいつと一緒にいたいということか……)


 瘴気を浄化するには、まずはそこにいる魔物をある程度倒さないといけない。そのうえで、蓮音と契約している炎の最上位精霊である不死鳥フェニックスを呼び出して高温の炎で瘴気やその発生源そのもの――つまりは古戦場全体――を昇華させるのだ。


 最上位精霊の召喚には膨大な魔力とある程度の時間が必要になる。呪文を完成させるまでの間の蓮音の護衛も必要だし、邪魔が入らないように予め近くの魔物を倒す必要がある。


「黄倉の浄化にはもちろん協力する。あなたも魔力を温存したほうがいいだろうから、俺も黄倉へ赴こう」


 魔王は、協力はするが、獅子将軍を派遣するかどうかは曖昧にした回答をした。


「本当? ありがとう! 小虎が来てくれるなんてすごく心強い。百人力、ううん、一騎当千の魔王様だもんね。ああ、これで悩んでいたことが一つ解決した、よかったぁ」


 蓮音は心底ほっとしたようで、嬉しそうに笑顔をみせた。目の前には給仕によって運ばれてきた小籠包があった。少し気が軽くなった蓮音は、好物の小籠包に箸をつけた。


 魔王も、豪毅の名は出さず自分が行くと言ったことで、蓮音にがっかりされなくてよかったと、ひとまず安堵した。


「……悩みが一つ解決ということは、他にも悩みが? もしよかったら、何でも話してみて。俺にできることならば協力する」


 魔王はそう言葉にしてから後悔する。今度こそ、豪毅が好きになったと言われるかもしれないのに、俺はなんてことを言ってしまったのだと。蓮音の想い人が誰なのか、知りたくない、だが知らなければならない。そんな気持ちだったのだ。


「あ、それじゃあ、お言葉に甘えて」


 言って蓮音はあの三人のことを相談した。帝国の間者らしきあの三人を魔王との共同作戦となる黄倉まで連れていくわけにはいかない。適当なところで追い払いたいが、それはそれでまた別の刺客が送られてくるかもしれないと思うと二の足を踏んでしまう。それも目下の悩みの一つであった。


 魔王は、今度こそ豪毅のことを相談されると思っていたので、再び胸をなでおろした。


「あいつらのことは、俺に任せて。あなたは何も心配しなくてもいい」


 頼りになる魔王にそう言われると素直に任せようと思えた。


「じゃあ、すべてあなたにお任せするね。小虎に相談して本当によかった。あなたともっと早く出会えていればよかったなぁ。あ、でも、皇帝に結婚を申し込まれたから、それがきっかけで出会えたのか。そう思うと、昇昊(シォンハオ)にも感謝しないといけないのかも」


 蓮音は苦笑いをする。


「残りの悩みは、昇昊のこと?」

「あ、うん、そうかな……」

「それとも、まだそれ以外に何かある?」

「えっと……」


 蓮音は李公子のことを魔王に聞いてもらいたい気がしていた。


 きっとこの人は「うんうん、そうか、それはつらいな」と慰めてくれる気がする。そうしたら、少し気持ちが晴れるかもしれない。


 でも、そこまで魔王の優しさに甘えていいのだろうか。友達なんだから、悩みを話すぐらいいいだろうという気もする。だけど友達と言いつつも、現状では蓮音が一方的に魔王を頼って甘えているようなものだ。これは友達としてどうなのだろうかとも悩む。


 それに、今、自分は他の男が気になると思いながらも、目の前にいる男にも、確実に惹かれ始めているのだ。恋の悩みを聞いてもらっている間に、真摯な相談相手に惚れてしまうのはよくある話ではあるが、こんなことに魔王様を利用してもよいのだろうか。でも、そうであってもいいのではないか……。


「俺に助けられることなのかはわからないけど、悩みは話すと軽くなるというし、まずは話してみて」


 そう魔王に促されて、蓮音は意を決するとゆっくりと思いの丈を話し出した。


「その、わたし、実は気になる人がいて……。でも、相手はもうほかに好きな人がいるの。それにわたしも別の人の妻になるのだし、だからこのままでいいと思っていたの。誰にも知られずに、ただわたしが好きなだけで。皇帝だってお妃がたくさんいるのだから、別にわたしが一人ぐらい心の中で別の人を好いていてもいいだろうって」


「そうか……」


 他に好きな人がいるということは、やはり豪毅か、あいつは英姫(インヂェン)と一緒になりたいと思っているからなと魔王は思う。よくよく考えてみると英姫と蓮音は女性としてはかなり真反対の存在だ。それを思うと、蓮音の想いに豪毅が答えることがあるだろうか、少し難しい気がする。


「その、でも、帝国に行くまでの残された時間、少しでもその人と楽しく過ごせたらなって。それくらいは許されるんじゃないかなと思っていて……」


(つまりは、次の黄倉での作戦に豪毅を参加させてほしいということか……)


 剣護は、当初、自分の彼女への想いは封印し、蓮音の助けになりたいと思っているだけだった。それが彼女に救ってもらった恩を返すことにもなり、そうすることが自分の使命だと考えていたからだ。


 だが、愛する人と一緒にいるうちに欲が芽生えてくる。もっと一緒にいたいし、自分よりも実力の劣る男に彼女を任せられるかと思うようになり、今では彼女が自分を選んでくれたらとさえ望んでしまっている。


(俺はバカな男だな……)


 自嘲しながらも自らを叱咤激励する。


(初心に帰れ。蓮音姫を全力で支えるんだ。それが今の俺の使命だろ?)


「わかった。それも俺に任せてほしい」


「えっ? そんな、そういうつもりで話したわけじゃなくて、ただ聞いてほしかっただけで、その、あなたに何かしてもらいたいとかじゃなくて……」


 蓮音は少し戸惑った。


(任せろって、魔王はわたしが誰のことを好きかも知っているってこと? 魔王が、「蓮音姫にやさしくしてやれ!」なんて、李公子を脅したりしないといいのだけど……)


「俺はあなたに幸せになってもらいたいんだ」


 常に自分を全面的に肯定し、精一杯力になろうとしてくれるこの人は、なんて優しい人だろうかと心底感動した。このままでは本当に好きになってしまいそうだ。


「あなたは本当に優しい人ね。でも、どうしてこんなにもわたしを助けてくれるの?」


(あなたを愛しているからに決まっている)


 そう答えたかったが、そんな気持ちを今ここで伝えることは、彼女には重荷でしかないだろう。


「……昔、そう教えてくれた人がいたんだ。困っている人は助けなさいと。それがいつかは自分のためになるからと。だから、俺はそれを実践しているだけだ。別に優しいわけではない」


 その言葉を聞いた蓮音はパッと明るい表情をすると、目を輝かせた。


「そうなの!? 実はわたしも父や先生にそう教えられてきたの! あなたの先生とわたしの先生は同門なのかもしれないね」


 思わぬところで魔王とつながっていたとは、こういうのを人の縁というのだろうか、なんだかとても嬉しくなる。


「それは……そうかもしれないね」


 自分を見て愛嬌たっぷりに笑う愛しい人の姿に、魔王は曖昧な答えを返すことしかできなかった。

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