第523話 四面楚歌
「おつかれさまでした!」
「おつかれさまなのです!」
試合を終え、会場に転移したボク達は互いに労い合った。そして【ストレージ】から猫姫さんお手製の【りんご】を取り出し、もぐもぐと頬張った。
新しいフォルダさんも猫ですさんも、かなり厄介な相手でしたね。武器を共有したり、使い捨ての強力なアイテムを活用したりと、その戦い方は【アイテムマスター】としての模範解答そのもので、最先端でした。
ボクは【アイテムマスター】をサブに設定していますが、使い方は【オートユーザー】での回復や【パーティストレージ】による連携がメインなので、見習いたいところですね。
それはさておき、これで2回戦も無事に突破できた。あと3回勝てば【ダブル杯】を勝ち抜ける。
しかし、次の相手も2試合を勝ち抜いてきた猛者だろう。前回や前々回以上に気を引き締めて臨まなければならない。
「それにしても、なかなかに良いテクニックを教えてもらったのです。〈武器正拳〉……なるほどです」
ボクと同じようにメグさんにとっても先ほどの戦いは参考になったようだ。【ニュートラルヴァリアント】は通常攻撃をすべてスキルに変える。高い優先度であらゆる動作を実行できる【マクロ】とは間違いなく相性がいい。
そんな考察を巡らせながらトーナメント表を開くと、すでに次の対戦相手が決まっていた。
次の相手はモモさんとアクエリアスさんですか。会場で見かけた気がしますね。たしか……。
「『Welcome to Underground』のおふたりが相手なのです?」
「おや、メグさん。ご存知なんですか?」
ボクは今日知ったばかりなのだが、どうやらかなり有名なアイドルユニットのようですね。
「当然なのです!というか卍さん、知らないのです?代表曲の『アンチ爆☆殺』は再生数を2億超え!劇場版『クエストオンライン』の主題歌も担当しているほどの有名人なのです!」
どうやらメグさんは彼女たちのファンみたいですね。『アンチ爆☆殺』は知らないが、『クエストオンライン』なら知っている。大人気アニメですからね。その劇場版の主題歌まで担当しているとなると、確かに有名人であることは疑いようがない。
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>卍さん、マジでWtU知らんの?嘘だよな……?
>反逆者が出たぞ!吊せ!
>卍さんには悪いけど俺はWtUを応援するわ
>アクエリアスちゃん頑張れー!!
>地下民が集まってきたな
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普段からボクにとってアウェイな論調が目立つ配信だったが、今回は本格的に敵に回るらしい。
とはいえ、もとから逆境には慣れっこだ。むしろ逆境に陥ったときのほうが勝率が高い節すらある。
「WtUを敵に回すというのなら、卍さんであっても許さないのです!」
「味方が完全にいなくなった!?」
「冗談なのです」と舌を出して笑うメグさんを戦々恐々と見つめていると、当のメグさんは「本当に冗談なのです!信じてなのです!」と冷や汗の感情表現を出しながら弁明し始めた。
そんなふうにメグさんと戯れていると、猫ですさんと新しいフォルダさんが目の前に«テレポート»してきた。
「おつかれさま。良い試合だったね」
「まったく。新しいフォルダさんは2回も倒されて不甲斐なかったですにゃん」
爽やかに健闘を称える新しいフォルダさんとは対照的に、猫ですさんが毒づく。まあ、そこだけを切り取れば不甲斐なく見えるかもしれませんが、妨害無効の高耐久を押し付けてくる戦い方は非常に厄介でした。
「お疲れ様です!武器を共有するという戦い方は新しかったですね!負の炎属性の砲弾も圧があって怖かったですし」
「あれは【ジョーカー】付きの装備を共有するというアイデアから生まれた副産物だけどね。【ガンナー】としてはなかなかの戦い方だろう?」
そう言って新しいフォルダさんが【ストレージ】から取り出したのは白黒の小銃だった。やっぱり【ジョーカー】付きの装備は白黒になるんですね。同じようなデザインの水着姿の彼とも統一感がある。
「ちなみに【ジョーカー】の付与数は……」
「これには2個付いているよ。欲を言えば3個は欲しいところだけど、共有する装備としては及第点だね」
2個どころか1個でもかなりのレアスキルなんですけどね。
「それより――卍さん、メグさん。俺たちに勝ったからには、次の試合も当然のように勝ってくれるよな?」
新しいフォルダさんの問いかけに、ボクは即答する。
「当たり前ですよ」
「当然なのです!」
「それなら良い。WtUだかなんだか知らないが――」
「いや、WtUが勝ちますにゃん!絶対ですにゃん!」
新しいフォルダさんの粋な応援を猫ですさんが見事に台無しにしてしまい、思わず笑った。
「やっぱり人気ですねー、WtU。勝っても負けてもボクのアンチが増えそうです」
「どうせ卍さんにはもとからアンチしかいないから安心するのです。卍さんに限ってはファンとアンチが同義語なのです」
そんなほのぼのとしたやり取りをしているうちに、時間になったらしい。視界が暗転し、競技エリアへと転移していく――。




