五三戒 丑と未①
龍に後押しされ、虎閃は見慣れた会議室へ向かう。帝の間へは会議室を経由しないと辿り着けないからだ。
「オラァ!!」
覇気のある声が会議室の外まで聞こえる。虎閃は勢いよく扉を蹴破ると、そこには二人の男がいた。
「おお、虎閃じゃねぇか!」
斧槍を振りましている牛騎と、それをかすりながら躱す牛丸がいた。
「虎閃だと!? あの日以来消えてしまったが、十二支になっていたのか!」
「よそ見すんなよ!」
牛騎の手痛い一撃が牛丸にはいる。肩を深く斬られ、牛丸は地面に転がる。それでも、力なく立ち上がろうとする牛丸。
「じじぃはお呼びじゃないんだよ!」
牛騎は牛丸の傷口をつま先で蹴り上げる。牛丸は苦痛の声を上げ、抉られた肉からドロっとした血が地面に落ちる。
「早く行けよ。」
虎閃は静かに頷き、苦しむ牛丸を横目に帝の間へ続く扉まで歩く。
「行かせないわ!」
虎閃が扉に手をかけた時、蹴破った扉から女の叫び声が聞こえる。
「羊子さん……。」
羊子はハープを握りしめ、震える体で男二人に立ち向かおうとしていた。それを見兼ねた牛騎は羊子を睨みつけて言う。
「遊び場じゃねぇんだ。失せな。」
羊子は怯えた表情を見せるも、それでも怯まずハープに手をかける。
「音色は癒しとなり、癒しは活力となる。」
綺麗な手で音を奏で、透き通った歌声で辺りを包み込む。
「ぐっ……!」
よろよろになっていた牛丸は力を振り絞って牛騎に体当たりをする。よろけた牛騎は武器を落とし、震える手で牛丸がそれを拾う。
「このままじゃワシは使えんな。」
そう呟くと、牛丸は斧槍を縦に振る。すると、牛丸が握っていた斧槍がメイスに変わり、床には手斧が突き刺さっている。
「1本ずつならワシも使える。」
「チッ。」
羊子の歌声を聞いた牛丸は、傷を気にせず武器を振る。味方に活力を与える羊子のハープは、いまの牛丸に効果てきめんだった。
「虎閃…! もうやめて!」
ハープを床に置き、羊子は虎閃の袖を掴んでうつむく。虎閃は腕を振り払おうとするも、羊子の消え入りそうな声を聞くと無理矢理引き剥がす事は出来なかった。
「お願い……。」
「あー羊子さん、ごめん。でも大切な事なんだ。何となく政府に従ってちゃ…――」
「知ってるの。」
羊子は虎閃の袖からゆっくりと手を離すと弱々しく言い始める。
「十二支が神から分かれたのも、政府が神を作って世界を壊そうとしてるのも、それをあなた達が止めようとしてくれてるのも。全部知ってるの。」
羊子は泣き崩れる。その姿を見て、虎閃はグッと拳を握る。
「ならなんで…――」
グリッ―――
羊子は小さなナイフで虎閃の足を突き刺した。




