五四戒 丑と未②
「痛ッ…!?」
羊子不気味な笑みを浮かべ、虎閃をじっとりと眺めている。虎閃は痛みを堪えて小さなナイフを引き抜き捨てる。
「ごめんねぇ。痛かったよね?」
羊子の口角はどんどん上がっていく。不気味な笑みは、もはや笑みとは呼べないものになり、その優しそうな顔からは想像も出来ない顔になっていた。
「そこの牛さん達は勝手に死んでくれるでしょう。問題はあなたよ虎閃。私が止めないと世界が終わらないもの。」
羊子はハープを拾い上げ、1番外側の弦を弾く。辺りに不快な音が響きわたり、牛騎、牛丸、虎閃の3人の耳から血が出る。
「あにおいた(なにをした)!」
言葉にならない声で虎閃が叫ぶ。
「おえん(虎閃)! あぶんおまうがあうれあ(多分鼓膜が破れた)! っえ、いっえおわあなあいか(って、言っても分からないか)。」
横から牛騎が叫ぶ。しかし彼らの鼓膜は破れていてお互いの声は聞こえてない。
「よおいおつるな(よそ見をするな)!!」
牛丸は一心不乱に手斧とメイスを振る。しかしどれも牛騎には当たらず、牛丸は体力を消耗する一方だった。
「うふふ、いい感じにカオスになってきたわ。このまま世界が終わればもっと良いのだけれど。」
羊子は5つあるハープの弦のうち、外側から2番目の弦を弾く。
「あんあ(なんだ)!?」
次は音を聞いた3人がウロウロし始める。いち早く状況を飲み込んだ牛騎がしゃがんで地面に手を付け、極力動かないようにした。
「ましぃあおれ(まじぃなこれ)…。」
「何も見えないね! 何も聞こえないね!」
羊子が3番目の弦を弾こうとした時、部屋の外から聞こえてくる足音があった。
「相変わらず汚いやり方だね、姉さん。」
現れた女の子は、ホットパンツに白いTシャツを着ていて、その上にはオレンジのパーカー、首元にはヘッドホンをつけている。右手には切れ味の悪そうなナイフを持ち、羊子を睨みつけていた。
「羊香……。」
「あたしが使ってやるから渡しなよ、『媒他流』」
羊香はハープをゆびさす。すると、羊子はにんまりと笑い羊香のナイフをゆびさす。
「あなたには『空刈刃』があるじゃない。」
羊子はそのまま『媒他流』の1番外側の弦に指をかける。
「やらせないよ!」
羊香は羊子に飛びつくように近づき『空刈刃』を振りかざす。羊子は攻撃を避けながら弦を弾こうとするが、羊香は上手く攻撃を繰り出し阻止する。
「しえぇぇぇ!!!」
がむしゃらに動いていた牛丸が、羊子と羊香の2人へ偶然攻撃を仕掛けた。




