四十戒 標的
ドン――
ドン――
重い音と空気の振動を肌で感じれるほどの戦いを宙で繰り広げ、お互いは1歩も妥協しない。身体が自分のものでは無い使千と、記憶は無いが身体が覚えている片割れの空中戦はほぼ互角だった。
「さっさと落ちろ! 火炎弾」
先に変化球をつけたのは使千だった。当たっては旋回しまた当たる、の繰り返しだった空の戦いを一変、使千は指を鳴らし頭と同じサイズの火炎を片割れに放つ。
片割れは綺麗に火炎弾を避けていく。それどこか、向こうも火炎弾を飛ばしてきた。使千はその場にとどまらず、片割れのように動きながら火炎弾を飛ばしあっている。
しかし、そんな牽制にも終わりが来た。片割れは半透明の紅い翼に火炎弾が当たってしまい地面へ落下していく。そこに使千は容赦無く攻撃をする。
「ふん、ようやく落ちたか。」
使千は片割れの落下位置に降り立ち片割れを見下す。
「ま、まだだぁ……。」
「諦めろ。」
使千はもう一撃片割れにぶち込んだ。
「あー、おい、やりすぎじゃないか?」
「黙っててくれ。これは俺の身体だ。そんなに弱くない。」
完全に沈黙した片割れをげしげし蹴る使千。おそらく、片割れは今気絶の状態になっている。使千器の死の定義は分からないが、死んではいない。
「決着は着いたな。」
使千は片割れに触る。
その時だった。
幻獣が出てきた時と同じ、何かの文字が書いてある輪が空に伸びる。しかし今回はだいぶ違った。放たれる光の色は赤く、半透明の赤い羽根がどこからともなく降ってくる。
「こ、虎閃、気を付けて! これは幻獣じゃない!」
俺と使千は上を見上げた。
直後、近くにいるだけでも溶けそうなぐらい熱い灼熱の体、赤と橙に燃え上がる大きな翼、碧の炎が右眼を焼いている鳥が現れた。
「ほう、まさか私が1番先に呼び出されるとは。」
明らかな言葉を発している鳥を見て、その場にいた人間がもれなく驚く。
「なんだお前?」
「私は『酉朱雀』。あなたの主ですよ、使千。」
スザクと名乗る鳥は使千の主だと言う。十二支と戒盾に宿ってる幻獣が俺らの本体だって、いつだかかっちゃんが言ってた気がするが、やっぱり四聖獣は違うのか?
「何わけわかんねぇこと言ってんだ!」
使千はスザクに殴りかかる。
が、殴った所とは別の所から拳が飛んでくる。使千は脇腹に拳を喰らって片膝を着いた。
「どういう事だ!?」
「あなたは私です。それは幻獣でも同じです。自分で自分の幻獣は傷つけられないのです。一つだけ例外はありますがね。」
スザクは羽を広げると、ひとつの羽根が片割れに落ちる。
ガクッ――
意識が無いながらも、片割れから感じていた生気が今消えた。その異変にいち早く気づいたのは使千だった。
「何しやがった?」
「私を傷つける方法は、使千器または獣器本来の能力を失った状態で私を傷つける、です。」
後ろの闇犬もクロートーさんも首を傾げている。
「つまり、使千、あなたは使千器そのものの力によって意識が芽生えている特別な存在。そんな使千器の能力を切ればどうなるか……、分かりますよね?」
スザクは片割れを見た。
あまり介入しないでおこうと思ったが、話が変わってきた。俺はスザクの顔の前までジャンプし、左手でぶん殴った。
「痛っ! んな!? どういう事ですか!?」
淡々と話していたスザクか目を見開いて驚いている。
「あー、使千が殴れねぇなら俺が殴るって事だ。」
何も言わずに、使千と俺の身体の支配権は交代していた。




