三九戒 決戦
決戦前夜
「行けそうだな。」
「あー。」
「お前の身体傷つけるかも。」
「あー、今更気にしてねぇよ。」
珍しく少し弱気な使千を見てると、なんだかこっちまで弱気になりそうだった。
「なぁ、もし俺が負けたら…。」
「うるせぇ。もう寝ろ。」
俺と使千は同時に眠った。
翌日、俺は使千に身体を預け、闇犬と一緒に白い家に向かった。クロートーさんが出迎えてくれて、「思いっきり暴れていいから!」って言ってくれた。
「来るぜ。」
左から伸びた紅い翼の使千の片割れが現れた。
「覚えててくれたんだね。」
「当たり前だ。俺は俺の身体を取り戻す。」
闇犬とクロートーは少し下がった場所で見守ってくれている。
バギィ――
誰が開戦の合図をする訳でもなく戦闘が開始された。互いの紅い拳がぶつかり、2人の威圧が辺りを包む。今まで感じたことの無い敵意と覚悟が乗った拳は、戦ってない俺でも分かるほどだった。
「ふっ――」
使千は片割れに拳を連打する。片割れは左腕で必死にガードしているが、やはり腕の本数が1本違うだけで戦いやすさが大きく変わる。
「くあっ……!」
身体にも何発か喰らい始め、片割れが苦痛の声を漏らし始める。
「くたばれ!」
連打を辞めない使千。すると、片割れが使千の拳を一度跳ね除ける。
「擬装・鷲爪!」
片割れの全身が鋭い爪のような形の刃に覆われる。そんなことはお構い無しに、使千は拳をうちつける。
「痛い! 灼熱波!」
使千が熊に使っていた熱波を片割れは全身から発する。羽織っていた紺のマントが焼け落ち、使千は右の背から青い翼を出し大きく後ろへ下がる。
さすがの使千も、俺の身体に気にして戦ってくれているようだった。
「厄介だな、あれじゃ近づけねぇ。おい虎閃。」
使千は小さい声で策を話した。俺は了解し、使千は片割れに向けて手を出す。
使千は片割れに向けて右腕を飛ばした。使千は片割れの首を掴み、片割れがたじろいで熱波が収まる。俺はすぐさま片割れに走っていき、無い腕を使千にはめるような動きをした。そこで身体は使千に切り替わり、熱発を封じた。
「まだまだだよなぁ!?」
使千は片割れの爪の無い部分を上手く蹴り、片割れは大きく仰け反る。
「なら! 擬装・孔雀羽!」
片割れは腰の辺りから数え切れないほど大量の羽を広げる。赤や翠、青といった鮮やかな色の羽が大きく広がり、その姿はまるで孔雀のように綺麗だった。
片割れは空高く舞い、背の無数の羽を雨のように降らせてくる。
「僕の乱雨羽はどう!?」
鋭く降り注ぐ羽を、使千は動体視力だけで叩き落としている。
「お前が知ってるかどうか知らねぇけどな、俺は昔から空中戦が得意なんだぜ!」
使千は右肩から青い翼を広げて飛び上がる。
「同じ土俵だね!」
アニメの中の登場人物しかしないような戦いだった。空中で衝撃波のようなものが出るバトル漫画の人達は、こんな感じに戦ってるんだなと、まるで他人事のように思っていた。




